カメラ、写真に関連した漫画を紹介するWikiです。

著者秋本治
掲載誌・連載時期週刊少年ジャンプ'76.42号〜連載中
単行本集英社 ジャンプコミックス1〜182巻発売中

 長谷川町子氏は「サザエさん」連載中に読者から細かい点がおかしいという指摘を随分受けて、
「漫画と言えどそういう点を気にして糺さずにおれない厳格な方がいる」
 と、「サザエさんうちあけ話」(朝日新聞社文庫 「似たもの一家」と共に所収)の中で告白されていました。波平さんの剪定している花が季節外れだ、サザエさんが持ってるネンネコの数が多すぎる、カレーライスなのかライスカレーなのか表現を統一するべきだ、等々。
 確かにメインテーマとなる描写以外でも、あらゆる情景にこれでもかと気合入れて描かれた漫画は往々にして高い評価を得ることが多く、あらゆる描写に気を配れるならそれに越したことはありますまい。だけど瑣末な点に拘りすぎて、それだけで評価点を下げてしまうというのも筋違いではないですか。一度でもシャーペンやミリペンを手に絵を志したなら分かりますが、作画上のミス(両手が右手になっている、太い眉毛がトレードマークのキャラが普通の細い眉毛になっている、ベタやトーンを忘れてる等)を無くすだけでも大変なことですし、なじみのない物を資料使って描くのもこれまた大変です。文章なら誤記や誤植、後で調べて間違いだと分かった記述は編集モードでキーボードを叩けば直すのは容易いことですが、絵を消しゴムや修正液で消して直す大変さは想像に余りあります。
 「けいおん!」にしても作中でヒロインが使うギターやキーボードが現物に忠実に描かれていたのも大好評を得た要因の一つではありましょう。それはバンド活動が主題の漫画ならある意味当然としても、おやつの時間に登場する食器(アニメではジノリ、ウェッジウッド等世界的に有名な名品が使われていました!)や携帯電話(これもアニメでは実際にあるモデルを忠実に再現してます)が楽器ほど丁寧に描かれていない、こりゃどういう訳だいと言われても作者のかきふらい氏としても困るはずです。ブログやTwitterで
「いや、これはおかしいんじゃないか?」
 と独り言のように控えめに書くならまだしも、それを材料に作者を攻撃することはあってはならないでしょう。いやしくもサイト管理人やブロガーという物書きの端くれ、いやそれ以前に人として。こういうサイトを運営している以上、私自身それなりの注意は払っているつもりではあります。
「好き嫌いがあるのはしょうがないけど、だからってdisるな。『我斯く思う、故に汝もそう思え』とほざくな。どうしても嫌なら黙ってろ」
 私の物書き(これも人に言ってもらう肩書きですが)としての矜持です。

 そんな訳でいよいよ本題、そしてジャンプ漫画の登場です。
 そもそもこち亀がスタートした頃のジャンプは「ど根性ガエル」、「トイレット博士」、「サーキットの狼」、「包丁人味平」を擁しており、同年に小林よしのり氏も「東大一直線」でデビューを果たしていました。イケメンがバトルで活躍する作品が多い現在のジャンプとは違い(この現状に託けてそれがいかんと現在のジャンプを糾弾している訳ではありません。念のため)、少年漫画誌のメインストリームは寧ろ子供向けギャグ漫画であった事が分かります。その頃もう終わっていたけどジャンプには「ハレンチ学園」もありましたし、先に挙げた作品で今尚作品そのものや作中のネタが語り継がれている作品のジャンルがギャグである物の方が多く、他誌においても路線を同じくする「できんボーイ」(サンデー)、「がきデカ」(チャンピオン)がブレイクしていました。「天才バカボン」もマガジン→サンデー→ぼくらマガジンと掲載誌を変えながらもリアル連載は続いてましたし。
 このこち亀も長い連載の中で作風は度々変わっているということでしたが、私が「キン肉マン」をきっかけに少年ジャンプの存在を知った時は主人公の「両さん」こと両津勘吉は既に玩具や銃器、カメラに詳しいヲタク中年として描かれていて、そんな両さんが毎回トラブルを起こしては笑いを誘うギャグ漫画、という点で子供の私は親しみは覚えました。一方で数年後の自分も(ことカメラと漫画、アニメについては)ヲタになることなど知る由もなく、いい大人がなぜラジコンやモデルガンに熱中しているのかと莫迦にしてはいましたが。それでも時とともに流行のジャンルが次々と変わっていく中で、両さんを主人公とした「子供向けギャグ漫画」というスタンスを30年間守り続けていることは素直に凄いと思ってます。
 取材のために自ら歩き回り、資料をきちんと調べて描くことをポリシーとされている作者だけに、背景や舞台の街並みは実に丁寧に描かれてます。読んでいて恰も東京の下町を歩いているが如く。今本稿の資料として49巻と63巻が手元にあるのですが、他のエピソードに登場するバービー人形、車、蛸の玩具、ダイヤル電話(黒電話よりまだ古い、送話器がラッパ型のタイプ!)等々、いずれも丁寧に描かれていました。

 もちろんカメラについても丁寧に描かれてます……概ねは。別のエピソードで本職の写真家が持ってるカメラがコンパクトカメラだったり、ライカがいいかげんに描かれてたり、後述の監視カメラに使われていたオリンパスOM30が本体前面向かって左にあるべきはずの電池室の蓋がなくて、ペンタカバーの形もどう見てもFTLのそれで、無人撮影のためにピントが合った時にシャッターを切れとカメラからワインダーに信号を送るコードはマウント部に付けるはずなのに左肩に付いていたり(もう一つ細かいことを言えばオリンパスのOM二桁機は、本体のスイッチを切っても露出計のLED表示が点灯しなくなるだけで、シャッターを押せばその瞬間だけスイッチはオンになって普通にカメラは作動します。なので両さんの後輩の中川がやっていたようにスイッチを切っても作動は止められません。カメラの電池を抜くか、ワインダーのスイッチを切るしかないのです)だったりと時々おかしな形状に首をひねることもありますが、そこは冒頭でも触れた通り余りつっこみますまい。49巻(「両さんのカメラマン入門の巻」)では表紙のブロニカSQ+スピードグリップ、キヤノンデミ、両さんが実家から見つけてきたカロロン(ペトリ製6×4.5判スプリングカメラ)に始まり、ゲストのカメラコレクターの所蔵品としてヤルーフレックス、フジカフレックス、コンパス、フォトン、ステキー、マミヤ16、フォカツースター、アサヒフレックスIIA、レフレックスコレレ、テレカ、テッシナ35、ドリュー2、ラメラ、ペタル、エコー8、ニコン全天カメラ等コレクターの羨むカメラが登場していました(この内コンパスとテッシナは「るくるく」にも出てましたね)。その他ポラロイドカラーパック、オリンパス35ECをそれぞれ二台つなげて作った手製ステレオカメラの他、ミノルタエレクトロズームX、コニカSFといったプロトタイプもあって驚きましたが。
 その後大原部長が自慢のカメラを出し、両さんも犯罪者逮捕に貢献してもらった臨時ボーナスで新しくカメラを買うことになります。部長のカメラにはプログラムフラッシュ4000AFとブラケット、赤外線ワイヤレスストロボシンクロ装置が付いていてミノルタα-9000と推察されます。両さんのカメラも余りはっきり描かれているとは言えなかったのですが、グリップとついていた白バズ超望遠の形状からキヤノンT80ではないかと思われます。これで両さんは山へ出かける訳ですが、撮影モードがシーンプログラムだけのT80なら簡単に使いこなせましょう。

 63巻では表紙で秋本氏愛用のオリンパスOM-2N+ワインダー+35-70mmF4AFが紹介されており('10年10号掲載分でズイコーレンズが数多く登場しますがその影響でしょうか?)、本編はアイドル写真のために両さんがゼニット・フォトスナイパーを調達するところから始まります。レンズマウントはM42で高速シャッターは1/500秒が精一杯なのがつらい、ということに言及しているのが憎いです(ペンタックスZ-1に使えるように改造された方もありましたが)。その後話のメインは両さんが企画した眼鏡型レンズ付きフィルム「てめえ!! じたばたすると写すぞ」になりますが、それまでにもオリンパスOM30が監視カメラとして登場していたり、そのOM30に入っていたフィルムがポラクローム(専用の機械を使って、自分でポジを作れるポラロイド製フィルム。現在は生産停止)だったというのも濃いです。他にAF二眼レフ、マミヤCシリーズ用AF交換レンズも登場しますが果たしてこれだけデジカメの普及した今、そういうカメラが売れるかどうかは疑わしいです。ペンタックスが一度ヤルーフレックスにそっくりな二眼レフ(?)カメラを企画したことはあったという未確認情報もありますが。

 89巻ではヒロインの麗子を執拗に狙う雑誌記者が登場し、盗撮にミノックスが使われてます。しかも一番生産量が少なく、中古での相場も高めのBLでした。その後この雑誌記者はビデオ盗撮に方向転換するのでスチルカメラの出番はこれっきりですが、もし秋本氏がこのBLがミノックスの中でも戦後モデルでは希少品であったことをご存知の上で描かれたならこれまた凄いですね。石油ショックの最中に作られたモデルだけに作る余裕が余りなかったのでしょう。この数年後に、世界一のカメラ大国になったはずの日本でミランダとペトリが倒産してますし、あのライカも数年後には経営困難の果てにスイスの測量機器メーカー、ウィルド社に買収されてます。

 それから173巻では両さんがマリアのためにEOS Kissデジタルを使ってカメラについて講義する件があります。この回はオリンパスペンE-P1、パナソニックルミックスGF1、ライカM9、ローライミニデジも登場してます。解説も付いているのですがオリンパスのシフトレンズ(24mmF3.5)が「フィッシュアイ」になっていたり、センサーがライブビューに対応したLiveMOSであるはずのE-P1のセンサーがCCDと書かれていたり、中川がフルサイズのはずのM9のセンサーサイズを「フォーサーズ」と言っていたりしていたのが気になりました。単行本になってもこの辺りは訂正されていません。

 178巻でフィルム会社主催のフォトコンテストが新葛飾署で開催されることになり、フィルムカメラ12枚一本勝負に署員は挑戦することになります。主催者は貸し出し用にカメラを用意しており、キヤノンEOS Kiss5、コンタックスアリア、同TVS(レンズキャップが別になってる方)、ニコマートFT、富士フィルムNATURA、同エピオン250Z(なぜにAPS?)、リコーオートハーフ、同マイポートズームワイド、ローライ35、トプコンREスーパー、ペトリカラー35(フルサイズなのにハーフとはこれいかに?)、ライカM7、オリンパスペンEE、コニカオートレックスが登場しています。本編では出ませんでしたが(いや中川がそれらしいカメラ使ってましたか?)、扉で麗子がニコンF4を持ってます。両さんは49巻でも登場したカロロンを持ち出してますね。審査会の席上で主催者が話した一言は至言です。私自身こういう写真を目指しているからそう思うのでしょうが。ところで両さん、スプリングカメラは蓋に手を添えて静かに開けないと中のフィルムは蛇腹の空気圧で歪むし内部機構にガタが来るしで危険ですよ。この巻収録の「クリスマス機動捜査網の巻」に事件の謎を解くキーアイテムとしてカシオEX-H20Gが登場しています。
 それと182巻表紙では両さんがペンタックスQを持ってましたね。


 仔細に見ていくと細かいミスも少なからずあれど、総じてカメラの描写に関するクオリティは高い方なので、これだけのためでも単行本を読む価値はあります。これからもカメラ関係のエピソードがあれば随時加筆していく予定です。

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