カメラ、写真に関連した漫画を紹介するWikiです。

著者あさりよしとお
掲載誌・連載時期月刊アフタヌーン'01.12〜'09.5
単行本講談社アフタヌーンコミックス全10巻

 私が文筆家の真似事を始めてすぐの頃、国産ながらレンジファインダーカメラを粋がって振り回して一廉の通人を気取っていたことがありました。それでレンジファインダーは取り回しがいいの、俺はこんな変わったレンズも持ってるんだぜと書き散らしていたものです。そういう情報を知りたがっている人なんてそういるはずもないことで悪評紛々。それでも自分の書きたいことを垂れ流し身の程も文章力も省みない(これもそういう見本でありましょうが)という時代が随分続いたものでした。
 反面マニアック的知識を芸として昇華させて、なかなか面白いじゃないかと思わせていただける人は尊敬します。それにしたってそこまでするのは一筋縄ではいかないと自分で書いてみて思うのですが。それを簡単明瞭に漫画のネタとして昇華させて尚且つ面白く描ける作家の一人として、あさりよしとお氏の名前を挙げない訳にはいきますまい。私の知人(ある小説家の作品に登場するヲタク大学生のモデルになった方で、実際専攻の理工学のみならずアニメや漫画の造詣はかなり深かったです)をして、
まんがサイエンスのマニアックさに付いていける読者もそういまい」
 と言わしめた深さを持つあさり作品。カメラにおいてもそれは例外ではなく、そのマニアック精神が遺憾なく発揮されているのが今回取り上げる「るくるく」であります。
 この漫画、アフタヌーンでは毎回掲載ページは後ろの方でした。講談社の場合、少なくともマガジンの場合は作品の人気投票順位は掲載順と無関係(この辺りの事情についてはこちら参照)という情報があったので、ジャンプにおける「ピューと吹く! ジャガー」、マガジンにおける「もう、しませんから」のような「『これが載ってると何か安心する』と思える漫画」的扱いという訳でも必ずしもなかったのでしょうが、他の人の評論を見ていると、
「設定自体はおかしなようで、その実平凡な貧乏一家の日常をダラダラ描いてるだけで面白くない」
 という意見が多いです。評価されてるのもカメラや写真部がらみのエピソードより悪魔と天使の繰り広げる(神の割にやってることがセコい)宗教戦争ですし。私は例えば「それでも町は廻っている」(石黒正数 少年画報社ヤングキングコミックス)のように要所要所でクスリと笑える要素が入っているコメディは好きですし、ゲルマニウムラジオ、シリンダー交換式オルゴール、ラテカセ(ラジカセの誤植ではありません。あれにyoutubeやニコニコ動画のウインドウよりまだ小さいテレビが付いた家電製品が一時本当にあったのです!)、胡散臭い見世物小屋等マニアックな物は毎回読む楽しみになってくれました。あとあまり大声では言えませんがアイドルマスターのパロディも。

 さていよいよ内容を解説せねばなりますまい。ロクデナシの父親と暮らしていた男子中学生、鈴木六文の家にある日悪魔の少女瑠玖羽(通称るく)がやって来る。何のために人間界に来たかと言えば、地獄が罪人でいっぱいなのでこれ以上人間を地獄送りにしないように人間を救うためだと答え、六文とるくとその手下の悪魔、そしてキリスト教における七つの大罪を犯して天国の使いに殺された後猫として生まれ変わった父親との同居生活が始まる、というのがこの漫画の大筋です。
 写真部が出てくるのは単行本4巻の28話からになります。六文は三者面談で担任に勧められて部活でもやるかと友人の南足(きたまくらと読みます)と佐池のいる写真部の門を叩いてみるのですが、これがまた春高の光画部とは別の意味でとんでもないクラブでした。撮っているのはるくの盗撮写真ばかり(犯人の南足はそれを指摘されると疚しい写真じゃないと怒るけど)でそれを売ってクラブの運営費にして、アイコラまでやっている始末。六文が「この部が嫌」と喚くのも無理からぬ話です。それでも人間界には疎いが故にこういう物にはすぐ夢中になるるくが写真に興味を持って、カメラも家にあるならと六文が物置を漁って、さて出てきたのは……

ライカIIIb+ピストル(引き金のついた底蓋で、引き金を引くとダイヤルをつまんでクリクリと回すよりはなんぼか速くフィルムを巻き上げられるという代物)

 レンズは分からないですが平べったい外見からして広角で、外付けファインダーはキヤノン製のようでした。このカメラが作られたのは第二次世界大戦が始まる少し前で、広角レンズはまだ珍しい存在でドイツ製だけでなく日本製でも今買えば軒並み高価です。これと同じ物を今一揃え中古カメラ屋で買うならざっと二十万円はしましょう。今でこそ貧乏暮らしですが、このお父さんは羽振りの良かった時期もあったということなのでその時に買い揃えたのでしょうか。ピストルなんてライカ欲しい病に感染してるおじさま方が喉から手が出るほど欲しがってる物の一つですよ? それと接写用のアイテムとしてミラーボックス(キルフィット社製?)も登場していれば、9巻では段ボールの中に無造作に入れられたカメラの中にライカM5(これもあると高い。ところで作中ではレンズ付けずに空撃ちしてたけどいいのかな。本体やファインダーの中に埃入りませんか? メンテナンスの専門家に言わせるとライカはその辺りデリケートだからあんまりやるなって言われますけど)が入ってましたし。
 勿論デジカメはおろか、全自動のフィルムカメラとも勝手の違うカメラですから六文は俺には使い方は分からないとボヤきます。一応お父さんからのまんサイ的解説が付きますが、いきなりそれを飲み込めと言われてもどだい無理です。せめて晴れの日にISO100のフィルム入れてSS1/250の絞りF8(これで太陽を背にして写せばまず間違いないと言われてる露出データ)で、暗かったらそれに合わせて絞りを開けてフィルム一本撮ってみろ、そこから始めた方がよかないですか。所詮露出は絞りと SSの組み合わせでしかない(身も蓋もない言い方)とは言っても実践もなしに理解もへっちゃくれもありますか。当然六文は
「もっと普通に使えるカメラはないのか!?」
 と怒り出し、六文よりもるくがこのカメラに興味を持って、日常の景色を夢中になって撮り始めます。その写真のフィニッシングのために六文は結局写真部に入ることになりますが。
 その後写真部が取り沙汰されるのは8巻で、写真部存亡の危機に部員(つっても六文、南足、佐池の三人だけですが)が必死で勧誘して備品のカメラもあることを誘い文句にしてるのですがそのカメラがまたただならぬ代物です。ライカM3で驚くのはまだ早いです。フォクトレンダーウルトラマチック+ズーマー 36-82ミリ、コンタフレックスTLR、コンパス、テッシナ35……一体そんなものごっつい物どこから仕入れてきたんですか、写真部。これらについて一々説明を加えていたらいつまでたっても話が終わらないので興味がおありなら検索をかけてください。カメラの属性を知れば幾つもの意味で吃驚仰天する事請合いです。それでなくてもデジタル時代に対応できてない写真部に人が来るはずもなく、来るとしたら私のようなカメラに淫する輩だろうと予想してたら案の定そうなった訳で。そらそーだ、世界のライカを餌にぶら下げられたら私でもぱっくんちょと釣られちゃいますよw。9巻でもお父さんは「カメラ趣味って写真撮るだけじゃないから」と堂々と言ってのけてます。そもそもカメラというかっこいい金属の塊に惚れたのが写真の道に入るキッカケであった私はそれで少しばかり救われましたw。
 ゆるーいコメディ、と捉えるなら純粋に面白いとは思うので読んでみる事をお勧めします。アフタヌーンの単行本ってよっぽど大きな本屋さんでないと置いてない事も多いので取り寄せかネット通販の方が確実ですが。
 シメに4巻にあったるくの名言を一つ。

「うつろう物を姿だけでもとどめておきたい。そんな人間の想いは美しい」

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