むかしなつかし「人形劇三国志」各話へのツッコミネタバレあり

あらすじ

淑玲を死なせてしまつたものの、阿斗をふところに抱いた趙雲は、敵陣の中、絶体絶命の危機に直面するが、ふしぎな光に助けられる。
玄徳軍とそれについてきてしまつた民を逃がすため、張飛は長坂橋にひとり立ち、大音聲をあげて曹操軍を退散させる。このとき、張飛が橋を壊してしまつたことで、曹操は、孔明がこの場をはなれてゐることを悟り、玄徳軍の逃げる先である広陵を急襲させる。
それと見て、玄徳は先に孔明からの指示にあつた漢津へと行く先を変へる。
江夏の劉琦と関羽のもとにあらはれた孔明もまた、漢津へ行くやう伝へ、自身は夏口へ向かふ。夏口は海賊の根城になつてをり、孔明は、海賊・呂王に援軍を頼みに行く。
孔明がゐないことを知つた曹操軍は、玄徳軍に総攻撃をしかける。そこに劉琦・関羽の援軍がやつてきて、呂王の手下を率いた孔明も到着し、玄徳軍はからくも曹操軍の猛攻をしのぐのであつた。

一言

今回の目玉はやつぱり呂王だらう。
呂王はあの呂布の弟だといふ。
呂王つて……だいたい呂布つて北方の出身ぢやないのか。なぜその弟はこんな南の方にゐるんだよ。
しかも、そんなはなればなれでゐながら、呂王は呂布が玄徳に何度も助けられ、そのくせ呂布は玄徳を裏切りまくつてゐたこととかも知つてゐる。ふしぎぢやのう。
とも思ふが、諸葛珪の息子たち(瑾を珪の息子として、だが)にしても、あちこちにちらばつてるつちやーちらばつてるのか。
いづれにしても、人形劇三国志における呂布の人気の高さをあらためてかみしめることしきり。
なんたつて、呂布最期の回では、いつもの「人形劇読み切り三国志、本日はこれまで」つていふ紳助竜介の挨拶がなかつたんだもんね。

この回は、演義でいふと、第四十一回の途中から四十二回の途中まで、だらうか。
呂王とか出てくるし、張飛と美芳の結婚式とか入れごとがあるから、演義的にはあまり進んでゐない。

さて、たぶん、第28回でも書いてしまふことと思ふが、リアルタイム放送時に一度見たきりだといふのに、長坂坡における趙雲の「淑玲さまー! 阿斗さまー!」といふ必死の叫びが忘れられない
今回、DVDの八巻を買ふにあたつて、「もしかして、あの趙雲の叫びをまた聞くことができるのだらうか」とちよつと期待したんだけど、残念ながらすでに淑玲は井戸に身を投げて死んだあとであつた。残念。

残念ではあるものの、趙雲の獅子奮迅の活躍はまだつづいてゐて、いつもはどちらかといふと「さはやかな好青年」な趙雲の、鬼神の如き荒武者つぷりが見られて満足。

しかし、そんな趙雲も単騎では如何ともしがたく、崖に追ひつめられてあはや一巻の終はりかと思はれたところ、ふしぎな光が降つてきて、趙雲と阿斗を助ける。追ひかけてきてゐた曹操軍に、「崖に落ちて死んだか」と思はせるところがまたいいやね。
ふしぎな光の正体は、死んだ淑玲。阿斗にむかつて、玄徳を頼む、といふ聲がして、趙雲も聞いたといふことになつてゐる。超常現象やね。

阿斗をつれて玄徳のもとに戻つた趙雲は、淑玲をうしなつたことを玄徳に謝る。
玄徳は、「これ阿斗、赤子とはいへ、泣くところもわきまへぬこの不心得ものめが!」と、阿斗に手をあげやうとして、まはりにとめられる。ここ、演義だと阿斗を投げ捨ててるところなんだがなあ。やはり人形劇三国志としては、玄徳にそんなことをさせられない、といつたところなのだらう。
しかし、ひどいセリフではある。赤ちやんに、泣くところをわきまへろつて、ムリだらう?
趙雲は、ふしぎな光に救はれたこと、「阿斗よ、元気に育て」といふ淑玲の聲を聞いたといふ話をその場にゐる玄徳、張飛、玄徳の母にする。
「仏となられても」つて、張飛、淑玲は仏教徒ぢやないと思ふよー。
それとも当時仏教がはやりはじめてゐたから、それでか? いやー、それはあるまいよ。
「苦労をかけてすまなかつた」と、ひざをつき、趙雲に頭をさげる玄徳。かういふところが人たらしの人たらしたる所以なのだらう。

白竜に乗り、ひとり夜空を見上げ、淑玲を思つて泣く玄徳。
「わたしは平凡な男だ。そんな立派な男ではない。淑玲、わたしがここまで来たのは、ただ人の苦しみをはふつておけないからだ。それだけだ。淑玲。そのわたしを力づけ支へてくれたのはおまへだ。わたしは、わたしはほんたうは誰よりも臆病な寂しがりやなのだ。淑玲。わたしのそばに帰つてきてくれ、淑玲」つて云ふんだけどさ。
淑玲を失つて、やつと、こー、「ああ、ほんたうに淑玲のことが好きだつたんだなあ」といふ心情の吐露つて感じかなあ。「ほんたうは臆病な寂しがりやなのだ」つて。玄徳が云ふと、ちよつと首を傾げてしまふのはなぜだらう。曹操だつたら、詩人だし、ありさうな気もするのだが。つて、曹操に対してさう思ふのはやつがれくらゐなのだらうか。

このまま長坂坡にとどまつてゐるわけにもいかない、といふので、玄徳軍とその民を広陵に送るため、張飛は自分ひとりに長坂橋をまかせてほしいと頼む。その前に、玄徳のゐない幕の中で地図を見つめ、うなづいてゐる張飛と、そんな張飛を黙つて見つめてゐる美芳といふのが、なんかいいね。
「城や領土はうしなつてもいつかは取り戻すことができる。しかし、人は一度うしなつたら二度と戻ることはないのだ」といふ玄徳のセリフが、淑玲を死なせた直後といふこともあつて、生きてゐる。
玄徳に反対されて、なほもまかせてくれと頼む張飛に、美芳がよこから「わたしからもお願ひします」と、助け舟を出す。「一度かうと決めたら、もう誰がなんと云はうとも聞きつこないんです」つて、さうだよなあ、第1回から、美芳は張飛のことをよく理解してゐるんだよね。
張飛も単純だから、「オレのことをわかつてくれるのはやつぱりおまへだけだ」つて喜ぶんだけど、美芳はいはゆるツンデレなもんだから、「また玄徳さまに叱られてヤケ酒のお相手させられるのはかなはないから云つてゐるんですよ」とか、本心ではあらうが、余分なことを口にしてしまふ。張飛と美芳はやつぱりかうなくつちやね。
そんなふたりを見た玄徳は、張飛に長坂橋をまかせる、でも、ひとつ条件があるといふ。「これから美芳と祝言をあげなさい」、と。
文句を云ふ張飛と美芳に、「淑玲がさう云つてもか」つて、それは殺し文句だよね、玄徳。

といふわけで、もともと互ひに憎からず思ひあつてゐた張飛と美芳は、結婚することになる。
いいんだけど、いいんだけどさー、ほんとは関羽もゐるときにあげてほしかつたよなあ、と思ふのは、やつがれだけだらうか。関羽のロマンスはもう終はつてしまつてゐるけど、でも、張飛のことはよろこんでくれると思ふんだよなあ。
「今日くらゐは憎まれ口はやめて」末永くよろしう、といふ美芳に、「いや、しかし、今日くらゐは、といふのは、よけいだなあ」と笑ふ張飛。いいねいいね。

一方曹操は、孔明の罠がなにかあるのではないかと考へてしまひ、うかつに攻めるわけにもいかない、と、逡巡してゐる。「わしらが気がつくことを、孔明ほどの男が気づかぬはずはないぞ」とか云ふて、ちよつと孔明を過大評価しすぎなんぢやないかなあ、曹操。それで、長坂橋をおとさないのは、孔明の策略だつて云ふんだけどさ。そのくせ、「ええい、孔明ひとりの影に怯へ、百万の軍勢を抱へながら身動きもとれぬとはなんたる体たらくだ」とか苛ついてるし。まあ、気持ちはわかるけども。
曹操にさう云はれても、「不甲斐なきことながら、相手が影なればこそ、打ち払ふ手だてがないのです」と、許攸もおろおろとそんなことを云ふ。しつかりしてくれよー、許攸さんよー。
そこに李典がかけこんできて、張飛が長坂橋にひとり立つてゐることを知らせる。

そんなわけで、曹操が部下もつれて長坂橋まで出ていくと、張飛がひとり橋のまんなかに立つてゐる。
張飛は、自分ひとりなのに、なんで攻めて来ないんだらうとふしぎでならないが、そらー曹操たちは「孔明の罠」をおそれて金縛り状態だからね。この時点では張飛はそれに気がついてゐない。気がついたら張飛ぢやないし。
そんな張飛が大音声をあげると、曹操軍の馬、とくに曹操の乗つた馬が暴れだし、制御不能に。
張飛、遠隔攻撃もできるんぢやん。
で、得意になつた張飛は、長坂橋を馬鹿力で壊してしまふ。
あーあ。
と、先を知るものは思ふだらう。

髪をふりさばいて、曹操は逃げもどつてくる。
かうして見てみると、曹操のカシラつてもしかすると一番種類が多いんぢやなからうか。まだ先だけど、赤壁の戦ひの回では憤怒の表情の特殊なカシラもあつたりするしね。
曹操は張飛の聲について、「人間とも思へぬあの聲が、まだ耳の底に残つてゐるわい」とか云ふけど、どんな聲だよ。
そこに、張飛が橋を壊したといふ報が入つて、はじめて曹操は、自分が、自分たちが、ゐもせぬ孔明にふりまはされてゐたことを悟る。
「うーぬ、なんたることだ。孔明めの影に怯へてあたら時を空費してゐたとは」と怒りをあらはにする曹操にかぶせてティンパニのBGMが実に効果的。
矢継ぎ早に指示を下す曹操がなんだかかつこいいぞ。

張飛が橋を落としたことを知つた玄徳は、ひとりしづんだ表情。
趙雲は張飛と愉快さうに笑つてゐるのにー。
これで安心して広陵に行けるぞ、といふ張飛に、玄徳は、孔明の次善の策は漢津へ向かふことだつたな、と確認する。そして、行く先は漢津だ、といふ。
張飛にはさつぱりわからない。趙雲もとまどつてゐる。
をかしいなあ。趙雲は正式な先生について兵法を学んだんぢやないのー?
つて、それは云はない約束か。

すこしおくれて理解した趙雲が、教へづらいなあといふやうに口ごもるところがこれまたちよつとステキ。
趙雲から、曹操軍は張飛を恐れたわけではなく、孔明の策ありと恐れてゐたと知らされて、張飛がつくり。
趙雲の慰めも全然役に立たない。「いやいやそんなことはない。今まで長坂橋を守つただけでもたいしたものだ。だからこそ殿もひとこともおぬしを責めなかつたではないか」と、云はれても、「おのれの愚かさが我慢できんのだ」と、落ち込む張飛。
影から美芳が、「いいんだよバカでも。あんたの胸の中が青空みたいにきれいだつてことは、玄徳さまが知つてゐる。あたしも知つてるよ」とつぶやく。今回、いいセリフが多いなあ。まあ、張飛の心がほんたうに青空みたいにきれいかどうかについては、保留したいがね。
「バカだ。オレはバカだ」つて、「こころ」のKくんかね、張飛よ。

場面は江夏にうつる。
劉琦、安定の憂ひ顔の貴公子つぷり。歌舞伎だつたら高砂屋の役どころ、だらうか。
兵を集めた劉琦が、関羽とともに広陵に向かはうとしたところに孔明があらはれ、援軍の行き先を漢津にかへる、と告げる。
ぢやあ漢津へ行かう、といふ関羽に、自分はひとりで夏口に行く、といふ孔明。
夏口はいつのまにか海賊の根城になつてゐるらしいのだが……しかし、待て、夏口に「海」があるか? 川賊? 水族? いづれにしても妙な感じである。
勝平の世話をやく関羽がいい。
窓から外を見る孔明の後ろ姿が一幅の絵のやうである。孔明はシルエットが三角形なところがステキなんぢやよ。

で、場面が変はると、縄でしばられた孔明が、呂布そつくりの海賊・呂王の前に引き出されるところからはじまる。
呂王、ファンキーな呂布つて感じ。しかも、なんだかこどもつぽい。孔明に、玄徳のことを知つてゐるか、と訊かれて、「兄貴の呂布が世話になつた」と答へ、それだけかと重ねて訊かれると、「もつと知つてるさ」とムキになるところとか。
呂王が玄徳を助ければ、兄の不義理をつぐなふことになり、呂王の名は天下にとどろくでせう、と、孔明に云はれて、呂王は怒つて、百万の敵に一万で立ち向かふやうなバカな奴の手助けなんぞするものか、といふやうなことを吐き散らす。

場面変はつて、漢津の玄徳軍。
地の利の説明をする張飛が賢い感じがするぞ。

地の利は玄徳軍にあるが、こつちは力で押しまくるぜ、の、曹操軍。
最初のうちは曹操軍の方が不利だが、玄徳軍は矢が尽きてしまひ、張飛みづから兵をひきつれて打つて出ることに。
もはやこれまでか、と、玄徳が観念しかけたところへ、関羽と劉琦が援軍をつれて到着する。元気な劉琦に違和感を感じるのはやつがれだけだらうか。
赤兎に勝平を乗せてゐる関羽がなんとなくまたいいんだ、これが。

馬から降ろされた勝平が、「関羽さん、死んぢややだ」とちよつと必死なやうすで云ふと、「ははは、それはわからん。それが戦といふものだ」と答へながら、なんだか自信ありげな関羽もいいねえ。
ひとり残された勝平は、「玄徳軍は二万五千、向こうは百万、勝てつこないぢやないか、これぢや」と、これまた賢げ。

玄徳軍総出で打つて出るが、余裕の曹操。
そこへ、船団があらはれる。孔明が海賊(川賊?)たちに下知して曹操軍を攻撃。
いつたい誰の仕業、といふところで、許攸が、「閣下、こんなことのできるものがひとりだけをります」といふと、「孔明。ぬー、またしても諸葛孔明か」と、無念の曹操。
水上の戦ひは未だ慣れぬ曹操軍は、しかたなく引くことになる。

呂王の援助が得られたのも、「これも殿の御人徳のたまものでございます」と云ふ孔明。
呂王が呂布の実弟と知り、「呂布将軍の裏切りにはまつたく何度か泣かされたことか」といふ張飛に、「や、しかし、弟御のこの協力で心も晴れた。すべて水に流さうではないか、のう、張飛」といふ関羽。張飛は怪我した腕を吊つてるぞ。そして、「とくに、許さう」とか、ちよつとえらさうだぞ、張飛。

「孔明、それにしてもおぬしの奇策にはあきれるばかりだ。見事な手品を見せられてゐるやうな気がするぞ」といふ玄徳に対する孔明の答へが、これ。
「しかし、手品にも限度があります。おそらくこれからはほんたうの実力を身につけないかぎり、曹操に勝つことはむづかしいでせう」つて、手品だつたんかい!
兵法からいくと、寡をもつて衆に勝つのは、手品に近いやうな曲藝が必要なんだらうけどもさ。まあでも、玄徳軍はいつもそんな感じか。

といふわけで、次回、いよいよ舞台は呉にうつるのであつた。

脚本

小川英
四十物光男

初回登録日

2013/01/05

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