山岡淳一郎 作家活動アーカイブ”時代”に”活きた人”を追い、その夢の顛末を考える政治、建築、医療、近現代史、経済、スポーツ……「21世紀の公と私」として近現代からの問題に向き合えているかエネルギー、震災、復興、メディア、医療保険などを考える



■ボラントゥイーターたちの活躍(1/4)


以下、I=石井@ishii_mit Photo Credit: Aiko Suzuki



Y=山岡@yamajun1ro Photo Credit: GOh FUJIMAKI




3月11日の震災発生後、早い段階で、ネットでさまざまな動きが始まりました。ボストンで、どのようにご覧になっていましたか。

震災発生時、米国東部は午前一時前でした。私は起きて仕事をしていて、突然ツィッターで大きな地震があった、と知った。さらに津波で大変なことになっている、と……。それは家内(ジャーナリストでメディア研究者の菅谷明子さん『メディアリテラシー 世界の現場から』『未来をつくる図書館 ニューヨークからの報告』<ともに岩波新書>の著者)が、教えてくれたのかな。で、何が起きたんだ、とツィッターに入り、多くの報道機関や情報源に接して、明け方まで情報を集めました。

まずは、どこで何が起きているか、知ろうとされたのですね。

はい。と、同時に世界中の友人、知人から、君の家族が無事であることを祈るというメールが、ものすごい数で入ってきました。安否を心配してくれる連絡です。それを見て、東北地方に私自身の家族や親戚はいないのですが、被災された方々が親きょうだいや親戚、友人、愛する人の情報を得ようと必死に電話をかけておられる姿が目に浮かびました。膨大な量の個の発信が集中する。電話会社は、個の量が多すぎるとシステムが自動的に制限をかけて発信できなくなってしまう。それによって、ますます不安とパニックが拡大するのではないかと非常に心配になりました。大変な数の人びとの情報が遮断される。そこからくる混乱を考えると、何か、自分ができることはないか、とずっと考えました。

日本電信電話公社、NTTで研究者としての土台をつくられた石井さんならではの感懐ですね。そうした思いは、ネットのなかで瞬く間に広がりました。

ツイッターの世界にはボラントゥイーター(ボランティアで情報を集め、整理編集して発信する人)という言葉があります。震災発生当初、ネット上の情報も玉石混交でゴミもいっぱいありました。ボラントゥイーターが、情報のソースを確認し、信頼できるものを自分のフォロワーたちに伝えました。私自身は、1万5000人ぐらいのフォロワーがいますが、まずニューヨーク・タイムズやウォール・ストリート・ジャーナルなどの情報をできる限り取りまとめて、オリジナルな形で日本へ届けました。震災後1週間くらい、続々とボラントゥイーターが現れました。
 橋本麻里さん@hashimoto_tokyoも、その一人。彼女は現代美術のキュレーターで、『BRUTUS』などで素晴らしい記事を書いていますが、情報をフィルタリングして一生懸命中継をしておられた。
 ジョイ伊藤@Joi(=伊藤穣一さん。2011年4月、公募でMITメディアラボ所長に就任)も,価値ある情報のネットワークづくりに参加していました。彼はドバイにいましたが、日本で起きていることを世界につないでいた。
 ボラントゥイーターは人と情報を結ぼうと不眠不休で活動していた。私も、その末端にいたのですが、Evernoteが活躍しましたね。Evernoteにニューヨーク・タイムズの解説記事とか、日本政府の記者会見などの情報ををどんどんクリッピングしてゆきました。

日本のマスメディアでも、かつてない波動が起きました。

そうそうNHKテレビがUstreamの放映を始めましたね。これは大きな効果がありました。しかも、無名の誰かが、民放を含めて四つテレビ局の放映を、一つのスクリーンでまとめて見られるインターフェースをつくった。そのURLを、確か、ジョイ伊藤が教えてくれました。それを開けておけば、四つの放送が同時に見られる。日本の地上波が届かない場所に住む私たちは大変助かりました。

今回の震災後、ネット上の情報は、一時的には大混乱するけれど、ある秩序の方向に収斂されていくのを感じました。特定の編集権をもつ人がいるわけでもないのに情報が整えられていくのは、ボラントゥイーターの存在が大きかったのですね。

既存のマスメディアにはプロの編集者がいて、中身をチェックしているわけですが、ツィッターの世界でも個人として信頼されている媒介者がいるわけです。たとえば糸井重里@itoi_shigesatoさんは40万人ぐらいのフォロワーがいて、とても影響力がある。しかも真実を簡明な言葉で表現します。そういう方々が、ソーシャルメディアでプロの編集者の実力を発揮された。ボトムアップの草の根で、起きています。だからソーシャルメディアって強烈なんです。
 それと、いわゆる全国紙や全国ネットの放送局などの大手メディアだけでなく、東北地方の地元メディアも重要な役割を果たしました。地方紙の福島民報とか、宮城の、河……。

河北新報@kahoku_shimpo

そう。福島県に私の友人がいまして、その人が、原発事故による福島のひどい状況、とくにマスメディアが伝えないことなどをツイッタースフィアで伝えてくれました。さらにグーグルのクライシスレスポンスチームの活躍により、被災地の行方不明者や避難者の名前を書いた張り紙が、携帯電話のカメラで撮影られ、それが写真共有サービスにアップされた。その映像を文字に起こして、探し人を検索できるようにするために世界中からボランティアの支援が集まりました。
 ネット上で、今、誰が何を必要としているのかを、個人個人が懸命に把握しようと試み、質のいい情報をつなぐ自発的な力が働いた。これは記憶しておきたいですね。

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『放射能を背負って』(2012/4/6 朝日新聞出版)
『震災復興の先に待ちうけているもの』(2012/2/7 洋泉社新書y)
『原発と権力』(2011/9/10 ちくま新書)
『国民皆保険が危ない』(2011/8/11 平凡社新書)
『日本を大切にする仕事』(2011/4/12 英治出版)