エロゲの紹介と心に残った作品の感想をダラダラ書いています。

この文章は里伽子抄のネタバレを多大に含んだ読解と雑感で、一度読んでしまえば





もうやらなくていいや


と思うくらいには里伽子抄について作中引用を重ねて詳しく心情をなぞっては浸っていく(しかもそこにスクリーンショットなどはなく、只々文章が続くのみである)、気持ちの悪いオタク然としたアレを良しとする様式を取っています。閲覧の際は十分ご注意下さい。




物語はブリックモールにファミーユを出店した日から一年と数か月後から始まる。里伽子は卒業を控えた四年生、仁は大学に復帰して単位取得のため、そして里伽子の手となるため、日々を奔走する3年生。パルフェで住んでいた仁のマンションは引き払い、少し大学やブリックモールから離れた土地で里伽子と仁は同棲していた。里伽子ルートでの約束通り、仁はひたすら里伽子の身の回りの世話を焼いていた。仁と起きて、仁とご飯を食べて、仁と学校に行って、仁とお風呂に入って、仁と...省略して、仁と寝る生活。仁の想像の斜め上をいく里伽子の気持ちの強さ。仁には不思議と充実感があった。

同姓生活は上手くいっているように見えたそんな中、里伽子には二回目の手術が控えていた。里伽子は期待していないつもりだった。里伽子は期待して裏切られる辛さを知っているからだ。そんな里伽子を嘲笑うかのように、手術はあえなく失敗に終わる...。

そこからの里伽子は目も当てられないような悲壮さで、卒業を控えて大学に通う必要がなくなってしまった里伽子は部屋からほとんど動くこともせず、ただひたすら、ジッと仁の帰りを待つだけ。状況は最悪とも言えた。それでも仁は一生懸命気楽に、頑張って緩く、気楽に一生懸命ゆるゆると頑張っていた。仁が重たく一生懸命、張りつめて頑張れば頑張るほど、里伽子はより自分の存在の重さを悔やみ、仁の力になれないことを哀しみ、頼りきっている自分の弱さに絶望すると、仁には分かってたからだ。そんな中、里伽子には考えたくもないことを考えられる時間が増えてしまい精神的に弱り続けてたある日、突然以前暮らしていたマンションに誤って荷物が届いたことを電話で知らされた仁は荷物を取りに行くため、事前に伝えた時間から帰宅時間が四十分遅れてしまう。事前に遅くなる旨を留守電を入れて、誠意をもって謝罪し伝えるものの、弱りきった里伽子にとってその四十分は無限にも感じる悲しい時間だった。

「そんな簡単に破ってしまえる約束なら最初からしなければいいじゃない!余計なメッセージなんかいらない。ただ、約束の時間に帰ってきてくれればいいだけなのに...そんな簡単なことも守れないの...?」

おそらく、単に、この日のことだけを言っているわけではないこの言葉。仁が心から信じていて、心から伝えたくて、心から思っている言葉であっても、今の里伽子には半分も届かない。それが仁の罪で罰で、これまで様々なすれ違いから、知らず知らずのうちに追い込み続けて、里伽子にかけてしまった呪いでもあった。元々手術の失敗で弱った心に、卒業間近の余計で無為な時間のせいで気持ちの整理が出来ないでいた里伽子には、里伽子を思い謝罪する仁の気持ちも届かない。

「違うでしょ!仁、悪いなんて思ってないでしょ?だって...本当は、全然悪くないんだもの!」

自分が理不尽なことも、仁が悪くないことも、すべて理解してる。それでも涌き出るネガティブな感情の波は今の里伽子には押さえられるものではなかった。

「最初はさぁ...本当に、あんまり期待してなかったんだよ...手術のこと」

期待して裏切られる辛さを知りながらも、期待してしまう苦しみ。朝起きて、せめて痛みだけでも感じられたら、と左手をつねる日々。リハビリをやめてすべてを諦められたら、里伽子は楽になれるのかもしれない。そんな自分が仁の重荷になっていると思い込む里伽子、頼ってばかりで、なんの助けにもなれない弱い里伽子、二年前とは大きくかけ離れて、いつのまにか真逆の立場になってしまった現在。悲痛な声とは裏腹に、それでも仁は笑いながら、大切そうに、里伽子に声をかける。仁にとって里伽子は誰よりも大切で、何よりの宝物だから。

「わかんない...わかんないよ。仁の優しさが、怖いよ...わけわかんないよ...仁の本当の気持ち見えなくなっちゃったよぉ」

それでも里伽子には伝わらない。今の里伽子には自分が仁のそばにいる意味がわからなくなっているから。これまで、仁の役に立つことが仁のそばにいられる理由だと考えていた里伽子には、現状は受け入れがたく、また今の里伽子には仁に受け入れられる意味も分からなかったのだろう。

その日、里伽子は泣き疲れて眠った。ここ最近眠りの浅かった里伽子は仁が大学に行っているはずの時間に目が覚める。仁がそばにいることにホッとしたような、それでいて大学があるはずなのにどうして仁がいるのかわからない複雑な顔を浮かべる。そんな里伽子に仁はとっさに「Re:代返願い」のメールを削除して休校になったと嘘をつく。そして無理矢理明るく、まるで昨日のことなんてなかったかのように里伽子にテスト勉強の教師を頼む仁。そんな昔と変わらず頼ってくれる仁にいつものあの言葉を言いかけるが、途中でやめてしまう里伽子。けれど、二年前の立場を思い出せるような時間は里伽子から余計な時間と、不安定な精神を奪った。仁が、最近の甘えてくる里伽子が恋しくなるくらいに...。

里伽子がまた笑えるようになった、ある日仁の進級が決まった。里伽子の卒業祝いをしたがる仁の母親。相変わらずの家族仲で真っ直ぐ家族への愛情を伝える仁に羨ましいような、呆れているような、優しい表情をして話しをする里伽子。その気持ちは、家族だけでなく里伽子にも送り続けていることに気づいているのか、いないのか。

「家族とか、家族じゃないとか以前にさ...相手はさ...自分のこと、世界で一、二を争うくらい好きでいてくれる人なんだぞ?50億の母数の中でのトップだぞ? そんな、とんでもない相手なんだぞ?そんな世界一の誠意を示されてさ...それでも応えたいって思わないのって、なんか鈍くないかなぁ?だから誠意は、見える形がいいな。そうすれば、俺だって、正しく応えられるし、正しく応えれば、相手だって、俺のこと、もっと好きになってくれるだろ?」

そういって笑う仁。きっと里伽子に対する言葉でもあったのだろう。仁の気持ちが分からないと泣いた里伽子に、少しでも気持ちが届きそうな今日だから言えたこと。もしかしたらこれまでずっと伝えたかった言葉なのかもしれない。里伽子が想像の斜め上をいくほど仁のことを愛していると気づいた日からずっと、仁が里伽子のことをそれに負けないくらい愛していることを...。

入学してから二年間、ずっと世話を焼いてくれた里伽子へ。
燃え盛るファミーユ本店に入って、よくない運動神経で仁の血の繋がった父、母、兄の位牌を必死に救いだしてくれた里伽子へ。
里伽子が初めて、支えて欲しいと願ったときに支えてくれなかった仁を憎みながらも、愛情だって捨てられずにいた里伽子へ。
左手が動かないことを隠しながらも、影から支えてくれた里伽子へ。
仁の気持ちを断りきることが出来ず、付き合っても、左手が動かないことに気づいてもらえない悲しさを圧し殺して
それでも甲斐甲斐しく世話を焼いてくれた里伽子へ。
些細なきっかけで左手が動かないことに気づいて、好きで好きで大好きでも憎くて、明確に拒絶する里伽子に
死ぬほど後悔して、あしたのために頑張る仁を許してくれた里伽子へ。

返しきれないほどの誠意を受けて、鈍くて気づけなかったことを死ぬほど悔やんだ仁が、本当に伝えたかった言葉なのかもしれない。誰にでも見える形で、誰よりも大きな誠意を返す宣言だったのかもしれない。

そんな温かい雰囲気の中、以前じゃ言えなかったような指輪の返還を冗談混じりに言う里伽子。
仁は慌てて「クーリングオフ期間過ぎてて違約金バカ高!」と返す。
やはりコイツ面白い。

そして、明日卒業祝いと、仁の進級祝いをトリトンホテルの最上階で二人で祝おうと提案する仁。外に出ると疲れるし、仁だけいればいいよと二人で祝おうとする里伽子。負けたふりをして、勝つ。里伽子は断っても妥協案を提案してくれるから始めに希望よりも高いことを言うテクニックを覚えたのだろう。とはいえ、普通に提案しても粘れば今の里伽子なら飲んだと思う。それくらい二人の纏う空気は以前よりも深く深く混じりあっているように感じた。しかし明日は知らされていた明日香の大学合格祝いがあることを里伽子に指摘されてから気づく。里伽子は笑ってくれてるもののまだみんなの前に出る勇気がでないのか、留守番すると提案する。その提案に渋りながらも、里伽子に負い目を感じさせないため二人分のお祝いを伝えるために行くが、八時に帰って、その後に二人で進級&卒業祝いをすることを提案した仁。そこでようやく、本当に久しぶりに仁が(勿論僕も)ずっと聞きたかった言葉。困ったように、でも嬉しそうに微笑んで「しょうがないなぁ...仁は。」と言う里伽子。めちゃくちゃ泣いた。というかむしろ鳴いた。ウオーン。明日香の合格、里伽子の卒業、仁の進級、三つのお祝いを前に、聞きたかった言葉も聞けて、仁はとても浮かれて、心を弾ませていた。

明日香のパーティーはファミーユブリックモール店メンバーが揃い、非常に盛り上がる。明日香へのプレゼントを忘れるハプニングがあったものの、仁も心安らげる時間に癒されながら笑顔で過ごしていた。しかしそれはずっと待ち続け、ようやく漕ぎ着けた後に控える、里伽子との時間があったからこそこんなにも笑っていられるというのは、まず間違いないだろう。

仁が忘れ物に気づくとほぼ同時に、里伽子も仁がプレゼントを忘れたことに気づく。仁に電話をしようとする手を止めて、往復一時間半かかる距離であることを思い出したことが、足踏みしていた里伽子のほんの少しのきっかけとなったのか、里伽子はしょうがないなぁと呟き、仁に届けにいくことにした。少しだけみんなの前に顔を出してみようと思えたのだ。長らく部屋にこもっていたことや精神的な不調のせいで、電車でふらつき、降りてからも視界が歪んで、嫌でも自分の体力が落ちていることを実感する里伽子。ベンチで休みたい気持ちも我慢して、ふらついた足取りで会場である恵麻のマンション前に到着する。しかし、マンションの前で立ち止まってしまう。仁に電話して届けるだけにしよう。そう思った里伽子は携帯にかけるも、タイミングが悪く、ちょうど明日香と買い出しから帰ってくるところだった。携帯を切り、とっさに隠れてしまう里伽子。仁はかけ直すも電波が届かないとのメッセージ。不審に思いながらも電波の関係だと推測した仁は恵麻の部屋からかけ直してみることにした。里伽子には気づかない。部屋に戻ると仁へのたくさんの感謝の言葉と仁の進級、由飛の帰国、かすりの慰労会みんなのパーティだと言い笑顔を見せる明日香。やはり天使である。そんな優しい気持ちに嬉しくなりながらも心から笑う仁。里伽子には気づけない。部屋に戻ってからもいつもの、いや、里伽子とのお祝いを控えているため飲まずに居た仁以外には酒が入ってることも踏まえればいつもよりも仲良しのファミーユがあった。仁くんたちが帰ってくるの待ってるという恵麻。仁だけじゃなくて里伽子の居場所もあるという意味なのに。里伽子は気づかない。仁は心から笑って、みんなも心から笑って、里伽子だけ、玄関の前で笑い声を聞いている。

「どこにもないあたしは、あたしは。仁ぃ...どうしてそんなに...心から笑うの...?どうしてみんな...仁を支えるの...?どうして...あいつの力になれるのよぉっ」

自分の居場所はもはやファミーユにはなく、仁が心から笑ってること、仁を心から笑わせてあげられないこと。頼ってばかりの弱い自分と、みんなに支えられながらも嬉しそうにする仁。塞がったかのように見えた心の傷は、じわりじわりと痛みを増して、決壊した。時間ギリギリまでみんなと一緒にいて、これからも頑張れるように力を蓄えた仁は、玄関を出てすぐのところに、見覚えのある丁寧に包装された箱が落ちていることに気づく。嫌な予感と、焦る気持ちを押さえて、里伽子の行きそうな場所を探す。二人の部屋、ブリックモール、昔の仁の部屋、昔の里伽子のマンションの近く、そして駅前。里伽子と付き合って、里伽子に拒絶された場所に里伽子は座っていた。

問い詰めるようなことはしない。出来る限り優しく、大切に、仁はプレゼントを届けてくれたこと。里伽子が来ていたのに気づかなかったこと。本心から感謝と謝罪の気持ちを伝える。それは自分のために頑張って外に出た里伽子に気づかなかったから、気づかずに楽しんでいて悲しませたから。という余りにも優しい謝罪。

「ありがとう、な?俺、いつも肝心なところでドジっちまって。里伽子には、いっつも迷惑かけ...」
「仁は悪くないっ!」

しかしそんな仁の言葉を遮る里伽子。

「何も悪くない...いつもあたしのこと、助けてくれる。世界で一番、大事にしてくれてる。」

仁は諦めない。ゆっくりと里伽子の絶望に触れられるように、問いかける。里伽子の絶望に触れて、拒絶された、あのときのように。あしたのために。家にも、大学にも、病院にも、仁が支えるって先回りして既成事実をつくって、卒業後、結婚しようって伝えて、支えようとするような劇薬はもう使わない。そんなものはもう、二人の間に必要ないから。

それでも里伽子は拒絶する。
自分は仁のそばにいる価値がないから。
このままでは世界で一番大切な、仁という宝物を壊してしまうから。
明日香や、かすりや、由飛や、恵麻の前では心から笑えるのに、自分では笑わせてあげることが出来ないから。

「あたしには、あんたしかいないけど、あんたには、みんながいるって、わかっちゃった...っ」

本当は里伽子にもみんながいるのに。今の里伽子には届かない。

「こんなに圧倒的な立場の差があるのに...あんたと一緒になんかいられない...」

諦念や嫉妬が混じったような、とても悲しい泣き笑いで、二人の約束の証である指輪を返す里伽子。今度は冗談ではない。3年生の授業だけでなく、4年生のゼミで忙しい中、ファミーユ店長としても頑張って、家でも里伽子の世話をして、学生兼主夫時々店長で、危うい経済状況の中捻出したお金で買った大切な指輪。一年前の別れの二番煎じ。仁は動けない。里伽子は、仁の前から姿を消した。

「あんなのは前哨戦だ...俺はまだ、お前に何も返せてない」

そこから何日か経ったある日の朝、ファミーユの床を磨いてる仁を発見するかすり。 いつものように軽口を叩きながらも里伽子とのことを心配する。里伽子が大変そうなときに楽しむのは自粛した方がよかったかなというかすりに、里伽子はそんなこと望んでないと断言する仁。一年前は根拠のない自信から、里伽子なら大丈夫、里伽子ならわかってくれると里伽子を追い詰めた仁は今度こそ間違えない。間違えてないと信じてる。

かすりに一年前のことをいじられながらも、お願いがあるという仁。場面は変わって玲愛と瑞奈のいるマンションへ。二人と、玲愛の姉妹である由飛に連絡を取ってお願いをするためだ。そして、明日香の合格した大学の前にいる明日香と仁。あしたのために。は最早三桁台に突入していた。仁は「一人で頑張るのは愚か者のすることだ」って、いつかの里伽子に教えるためにみんなの力を借りる。

浜辺で、海を眺めてる里伽子に恵麻が近づく。里伽子の家族が里伽子が実家に戻っていることをいつのまにか仁と高村の家に伝えたからだ。それでもまだ仁の重荷になるから、こんなにも重たい自分が仁と一緒にいたらいつか潰れてしまうからと恵麻を拒絶する里伽子に恵麻は言う。

「仁くんは、笑うよ?リカちゃんが泣いてたら、意地でも心から笑うよ?」

「そんな...こと...あるわけない...仁が...そんなに強いわけ、ない...いい加減なこと言わないでよ恵麻さん...」

里伽子の時間は、強かった里伽子に背負ってもらって、守られていた、優しくて傷つきやすくて打たれ弱い仁のまま止まっていた。沢山の数えきれないほどの誠意を貰って、ようやく少しずつ誠意を返せるようになった鈍い仁の強さを信じられずに、弱い里伽子が重荷になると信じて、耐えられないと信じて、拒絶し続ける里伽子に恵麻はある動画ファイルを見せる。それは、かすり、玲愛、瑞奈、明日香、由飛からの激励だった。今の仁は、一年前みたいに危険な賭けはしない。出来ない。里伽子を二度と手放したくないから。だから自分だけは里伽子を支えてもゆるゆる笑って頑張って、気楽に一生懸命、何があっても立ってなきゃいけない。だから仲間に手を貸してもらうことを躊躇わない。

里伽子の帰りをファミーユ一同待っていること。
里伽子の「あたしが仁をキュリオに勝たせて見せる」って言葉を信じて、戦う日を待ち望んでいること。
大好きだったお兄さんと、大好きなお姉さんが結婚して幸せになる日を楽しみにしていること。
そして、里伽子の周りの世界は里伽子が思うより、ちょっとだけ優しいこと。
里伽子に伸ばす仁の手があること。
仁の反対側の手を、ファミーユの誰かが掴んで、その繰り返しで里伽子が沈んでも絶対に引き上げること。
代わる代わる里伽子に伝えて、里伽子の傷ついた心を癒していく。ファミーユが里伽子の居場所はここだって、引き上げてくれる。

これが今の仁の勝てる戦いだった。

とはいえ、仁にとって実は凄く不安な戦いで、仁は一日中家にいて、まるで手術に失敗した直後の里伽子のように、暗い部屋で一人でいた。里伽子への気持ちが大きすぎて、失った過去が辛すぎて。そこに恵麻から電話がかかってくる。成功を告げる電話だ。浜松の名物を渡したいのと、仁の大好きなオムレツ屋に食べに行くから十分後に駅前集合と急かす恵麻。里伽子のことが頭に過るも、一人でいることが辛くて、里伽子が帰ってきたときまた笑えるように、恵麻とご飯を食べることにした仁に恵麻は言う。

「急げ仁くん!あなたの幸せは、すぐ目の前にあるわよ〜」

慌てて準備した仁が玄関を開けるとそこには、仁だけの浜松名物で、仁の幸せがそこに立っていた。


エピローグ
プロローグと同じく、浴槽で、けれど、前向きな言葉で優しく語りかける里伽子と、泣きじゃくってる仁。もう俺たちにドラマはいらないよ。つまんない恋でいいんだよ。と。本来なら仁たちは普通に出会って、何となく気があって、いつのまにか付き合ってるような関係だった。けれど、運命のいたずらとも呼ぶべき残酷な展開に翻弄され、すれ違って、沢山の絶望を経験して、それでも奇跡的に里伽子は離れずに支えてくれて、でも里伽子の絶望に気づかなくて、気づいて拒絶されても、仁は折れずに、劇薬を使って里伽子を手にいれた。でも、もうそんなドラマはいらない。運もいらない。二人の努力だけで一緒にいたい。

そういうことなんだと思う。

「俺には、昔のお前みたいに、辛さを押し隠して笑う強さはない」
「だから、俺が笑ってるときは、本当に辛くない。」
「お前が悲しいとき、どれだけ涙を流しても、吸いとって、吸いとって、涼しい顔してるから」
「だからその代わり...お前が笑ったときにだけ、思いっきり泣かせてくれよぅ...っ」

里伽子が悲しんでても、泣いてても、平気な顔して笑って、支える強さと
里伽子が笑ってるときに、泣くとても優しい弱さを。
里伽子がいなくなるんじゃないかと、不安な中で、必死に考えて、周りの力を借りて、支えようとした選択は間違いじゃなかったと
里伽子の笑顔を見て思う仁。

最後に、ファミーユに里伽子が復帰することを決意して里伽子抄は一先ず幕を閉じるのだった。

・・・・・・・・・・・・

もう放心状態でした。ぽけーと。最高に幸せなシーンで涙を流せる仁はなんていい男なんだろうと。オマエしか里伽子を幸せにできる人間はいないんだぞと。そんな清々しい敗北感とともに、やはり里伽子は仁の嫁なんだと再認識してしまいました。
さて、この里伽子抄ってパルフェの追加ストーリーな訳ですが、まずこのパルフェ自体が前作ショコラの世界観を引き継いだ二番煎じの作品なわけです。だからタイトルもパルフェ〜ショコラsecond brew(二番煎じ)〜なわけですね。そうした前提で、この里伽子抄を見ていると、この作品自体もいくつか、二番煎じ的な、仁の言葉を含みながら更にその意味を変えて里伽子が発することが何度かあったり、その逆もあったりと、仁の行動や里伽子の行動が、パルフェの里伽子ルートにおける二人の行動の二番煎じだったりして、これまた良くできてるなぁと感心するシーンがチラホラと見受けられるため、その二番煎じはどこかを気にして読むのも楽しいんじゃないかと思いました。あとは「過去の里伽子に一人で頑張るのは愚か者のすることだって教える」と言った仁が、そのしばらく後に「愚かなやつほど愛しいよ」と言うシーンがあったり、勿論先述したようにパルフェの里伽子ルートからも伏線はあるのだけど、この短い里伽子抄だけでも、ちょっとした伏線や布石が多数あるのは流石ですね。
里伽子トゥルーエンドで、子供を抱いて泣いている里伽子と仁。仁はそんな景色を、運じゃなく努力だけで切り開いていった道だと評しました。ノーマルルートとの対比とも取れるこの発言は多くの苦労を匂わせます。この幸せな日にたどり着くために、考えて考えて考え抜いて、里伽子のために、そして里伽子は仁のために、お互いが二人のために努力をした、ほんの1ページが里伽子抄です。そこには里伽子ルートのように劇薬も奇跡もありません。それは等身大の里伽子が一生懸命背伸びして頑張る仁に支えられて、本来の強さを。そして二人のあるべき関係を、取り戻していく話。奇跡的で劇的でドラマチックな里伽子ルートとは対称的だけれど、そんな里伽子ルートの二番煎じとしてだからこそ、やっと取り戻した本来の二人がするべき「つまんない恋」的で、運も劇薬も奇跡も使わない恋愛が映えるわけです。ストーリー・構成・テーマどれを取ってもFDとしては完璧で素晴らしい出来だったと思います。おしまい。

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