- 築上町(旧築城町)
むかしむかし、城井谷(きいたに)の城下に権兵衛という山番のおじいさんが住んでいました。
おじいさんはたいそう働き者で、おばあさんのこしらえた握り飯を抱えては毎日のように、
寒田(さわだ)にあるお殿さまの杉山の見回りに出かけていました。
そんなある日のこと。権兵衛じいさんはいつものように山回りを終えると、おばあさんの待つわが家へと
家路を急ぎました。ところがどうしたわけか、その日はいくら歩いても一向にわが家へたどりつきません。
おじいさんはすっかり歩き疲れてしまいました。
「しかたない。ここらでひと休みするか」
おじいさんは道端の石に腰をおろすと、一つだけ残っていた握り飯を風呂敷から取り出しました。
そのときです。
突然強い風が吹き、おじいさんは驚いた拍子に持っていた握り飯を落としてしまいました。
握り飯は坂道をコロコロと転がって、大きな洞穴へと入っていきました。
「これこれ、待たんか」
権兵衛じいさんが握り飯を追いかけて洞穴の中に入ると、そこにはお地蔵さんが立っており、
おじいさんに向かってニッコリとほほ笑みかけました。
おじいさんはうれしくなって、握り飯を拾い上げるとほこりをきれいに吹き払い、二つに割って
その片方をお地蔵さんに供えました。するとお地蔵さんが、
「台座の上に上がりなされ」
と言いました。おじいさんが
「もったいなくてとても上がれません」
と言うと、こんどは
「わたしの肩の上に座りなされ」
と言います。おじいさんはあまり断っても申し訳ないと思い、思いきって肩に上がりました。
するとお地蔵さんは
「まもなくここで、てんぐたちが賭け事を始めるから、そうしたら一番どりの鳴く真似をなされ」
と言いました。
やがて、大勢のてんぐが宝物を手に洞穴へ集まってきました。権兵衛じいさんが教えられたとおりに、
「コケコッコー」
と叫ぶと、てんぐたちは驚いて宝物を放り出し、一目散に逃げてしまいました。おじいさんはお地蔵さんから
宝物をもらうと、何度もお礼を言いながら家へと帰っていきました。
この話を聞いた隣の欲深いばあさまは、さっそく握り飯をこしらえ、じいさまと一緒に山へ出かけました。
二人は洞穴を見つけるとわざと握り飯を転がしながら中へ入り、よごれたままの握り飯を供えて、
お地蔵さんの肩にはい上がり、てんぐたちが現れるのを待ちました。
まもなくてんぐたちがやってきました。じいさまがさっそく一番どりの鳴き真似をすると、てんぐたちは大あわて。
そのうちの一人は鼻を壁にひっかけて倒れてしまったほどです。その様子を見ていたじいさまは、
あまりのおかしさに、つい吹き出してしまいました。その声に気付いたてんぐは二人を見つけ出すと、
「さてはこの間の一番どりも、お前たちの仕業だな」
と言い、散々な目に合わせたということです。
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