- 柳川市(旧山門郡)
ずっとむかしの話です。
あるところに、六兵衛と平助という二人のめくらこじきがいました。
二人は別々に分かれて、今日はこちら、明日はあちらと、つえを頼りにお金や食べ物をもらい歩いておりました。
二人とも目が見えませんから、もらい物も少なく、夜おそくまでトボトボともらい歩くのでした。
この六兵衛と平助の二人は、仲が悪いというのではありませんが、けっして一緒に同じところへはもらいに行きません。
それは、二人が一緒にもらいに行けば、一人分のもらいが少なくなるからです。
それに二人は、お互いにその日のもらいの多かったことは、相手に話しません。それは、自分のお得意を失うからです。
その日も、二人は別の道を歩きました。
六兵衛は、山の中にある村へとやってきました。その村では、親切な人が多いとみえて、いつもよりたくさんのもらいものがありました。
――いやあ、今日はよい日だ。もらいもだいぶ多い。これだけもらえば長居は無用。そろそろ帰るとするか――
六兵衛は、いそいそと山道を下り始めました。あたりの木々では、小鳥たちがいかにも楽しそうに、さえずっています。
――うん、もらいの多い日は、鳥まで喜んでくれるのか――
この楽しそうな六兵衛にひきかえ、平助の方では、山のふもとの村の物をもらって回りましたが、いっこうにもらいがありません。
――ああ、あ、今日は、またどうして、こうもらいが少ないのだろう。どこか、よその村へ行かなくては……
そうだ、あの山の中の村へ行ったら、少しはもらえよう――
と山の中へ、急な山道をつえをたよりに、トボトボと登り始めました。
ちょうど、山の中腹にさしかかったときです。大喜びで山道を下りてくる六兵衛と、バッタリ出会いました。
二人はお互いに、つえの音で相手を知ることができました。
六兵衛は、もらいの多かった山の中の村へ平助がもらいに行こうとしているのを知ると、
いやな奴に会ったものだと、顔をしかめました。
けれども、二人ともお互いの顔が見えません。すぐに、
「やあ、六兵衛どん。今日のもらいは、どうだったね。えろう早う戻って来ただな。山の中の村の景気はどうだね」
「やあ、平助どん。このごろは、どこへ行っても節約ばかりしおって、もらいは少ないのう。
どこも同じじゃから、どうしたらよいか、しれん・ごれんたい(わからない)」
と六兵衛は、たくさんもらったことは隠して、すまして答えました。
これを聞いた平助は、六兵衛がたくさんのもらいものがあったとは、少しも知りません。そこで、
「ははあ、しれん・ごれんで、これんばいなあ」
とつぶやきながら、ふもとの方へ向かったということです。
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