- 椎田町
むかし、椎田の水原(みずわら)というところにひとりの若者が住んでいました。若者はたいそう力持ちで、
すもうをとるのが大好きでした。
ある日のことです。椎田のまつりの宮ずもうに出かけての帰り、若者が船田の土手を通りかかると、どこからか、
「お願いします、お願いします」という声が聞こえてきました。立ち止まってあたりを見まわすと、すぐ下の
岩丸川の中からいっぴきのかっぱが顔を出し、若者に向かって叫んでいます。
「力自慢のあなたのうわさはいつも聞いちょります。一度でよございます。わたしとすもうをとってください」
とはいえ見たところ、かっぱの背丈は小さな子どもほどしかなく、体の大きな若者とはとても勝負になりそうも
ありません。しかし、かっぱがあまり一生けん命に頼むので若者はとうとう根負けし、
「よしよし、それじゃあ一番やるとしよう」とかまえました。
ところがいざ、組み付いてきたかっぱを抱え上げようとした若者は、二斗(約三十キロ)ほどもありそうな重さに
びっくり。それに思っていた以上の力強さです。
「こりゃあ、へたに手を抜くとこっちの方がやられるかもしれん。ようし、思いっきり投げつけてやれ」
そう考えた若者はウーッとうなり声を上げながらかっぱをつり上げると、力いっぱい投げつけました。しかし、
かっぱは投げられても投げられてもすぐに起き上がり、向かってきます。
そのうち、日もすっかり暮れ、どちらもヘトヘトに疲れきってしまいました。
かっぱは、
「このつづきはまたあしたお願いします」といって川へ戻って行きました。
次の日も朝早くから、二人の勝負が始まりました。が、かっぱはまた同じように、いくら投げつけられても
ひるまずに、何度も若者に立ち向かっていきます。ついには若者もそのしぶとさに感心し、
「かっぱよ、おまえは本当に立派なすもうとりだよ」とほめたたえました。
その後も船田の土手では、すもう好きな若者とかっぱの勝負が、しばしば見られたということです。
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