最終更新: centaurus20041122 2014年08月18日(月) 22:19:31履歴
明里からの手紙を読んで、心が弾むと同時にいいようのないプレッシャーを感じた。
10月のロケット打ち上げに、明里が来る。
家族全員で。
まだ、確定したわけではないが、渡航や宿泊についてさまざまな手段を考えているようだ。
宿泊場所もいろいろ手を打っているが、最悪の場合、貴樹の家に泊まることは可能かどうか、明里は打診してきていた。そして、この打診は両親にはまだ言ってないということも。
母親はたぶん、問題ないだろう。
羽田でキスシーンを見られてしまったが、特に何も言われなかった。
問題はカタブツの父親だ。
銀行に勤めているが、なぜか地方ばかりを転々としている。
子供心に、人づきあいの下手そうな父の顔を思い出す。
小学校から転校を繰り返してきたせいか、貴樹は同年代の子供よりも身の処し方が大人だった。今回の転校でも、とくに問題もなく溶け込めていると思う。
まだ3か月だけど、経験上、転校生の「身分」は1か月程度で決まると思っていた。
九州の離島に現れた、東京からの転校生。
クラブはサッカー。
言葉は流暢な(というのもおかしいが)標準語。
運動神経は良いというほどではないが、悪くはない。
成績はトップクラス。
そして、まずまずハンサムといえる外見。
これだけの身上がそろっていれば、まずモテる。
逆にそろいすぎて、ひがみやそねみを買うほうがこわい。
だが、そのあたりは転校のプロだった貴樹だ。
適当にひょうきんなところやバカ話も繰り出して、またたくまに溶け込んでいった。
すでに一人、「好きだ」と同級生から告白されて断っている。
「つきあってる人がいる」とはっきり伝えた。その言葉がどのようにクラスや、はたまた学校全体に伝わっていくかはわからなかったけれど、ゆくゆくはわかるだろう。
銀行勤めの父親は夕飯の時間にはまず間に合わない。
だから、夕食は母親と二人でいつも取る。
その席で、明里からの話をしてみた。
「え、明里ちゃんが、ご両親と来るの?」
母親はかなり驚いていた。南の離島まで家族で来るというのはさすがにおおごとだ。
「10月のロケットの打ち上げを見にくるんだって。そのついでに、挨拶にって」
「どっちが"ついで"なんだかねえ」
苦笑しながら母親が言い、貴樹は心を見透かされたような気分になって下を向いた。
「私もお父さんも、ロケットの打ち上げのときに、この島の宿泊事情がどうなるのかわからないから、ご近所にでも聞いてみる」
「うん……、ツアーとか調べてるみたいだけど、うちは広いし泊めてあげられたらなあと思って」
それを聞いて、母がわずかに表情を曇らせる。
「……だめ、かな」
「春のこと、先方はどの程度、お父様に伝えているの?」
「あ……」
母親同士はほぼすべての情報を共有しているのだが、父親にはなかなか伝えづらいこともある。だから、そのあたりをすり合わせしておかないといけないと思ったのだ。
「明里のお父さんには、空港でのことは伝えたって……手紙には書いてた。その、明里のお母さんから。その前のことは一切言ってないって」
「そう……まあ、そんなところでしょうね」
それでいて、先方は父親も含めてこちらに出向くと言ってきている。
だとしたら、こちらも夫にある程度のことを知らせないといけない。
「お母さん、篠原さんちに電話してみるわ」
「え」
「こういうことは又聞きだとあいまいになってまずいことになるものなのよ。ちゃんと確認しておかないと。お母さんは泊まってもらうのは別にいいんだけど、父親同士で話が食い違っちゃうとまずいでしょ」
「うん……」
正直、貴樹にはわからなかった。おおごとなのは確かで、このイベントでなにか失敗をしてしまうと、二人の間に暗雲が立ちはだかることになりかねない。
しかし、母親はなんとかうまくことを進めていきたいようなので、しばらく任せることにした。
「まずは、宿泊事情ね。近所といっても……一番近くは澄田さんちになるから、明日にでも行ってくる」
母親がそう言ったのを聞いて、確か同級生の家じゃなかったかな、と貴樹は思い起こした。
(つづく)
10月のロケット打ち上げに、明里が来る。
家族全員で。
まだ、確定したわけではないが、渡航や宿泊についてさまざまな手段を考えているようだ。
宿泊場所もいろいろ手を打っているが、最悪の場合、貴樹の家に泊まることは可能かどうか、明里は打診してきていた。そして、この打診は両親にはまだ言ってないということも。
母親はたぶん、問題ないだろう。
羽田でキスシーンを見られてしまったが、特に何も言われなかった。
問題はカタブツの父親だ。
銀行に勤めているが、なぜか地方ばかりを転々としている。
子供心に、人づきあいの下手そうな父の顔を思い出す。
小学校から転校を繰り返してきたせいか、貴樹は同年代の子供よりも身の処し方が大人だった。今回の転校でも、とくに問題もなく溶け込めていると思う。
まだ3か月だけど、経験上、転校生の「身分」は1か月程度で決まると思っていた。
九州の離島に現れた、東京からの転校生。
クラブはサッカー。
言葉は流暢な(というのもおかしいが)標準語。
運動神経は良いというほどではないが、悪くはない。
成績はトップクラス。
そして、まずまずハンサムといえる外見。
これだけの身上がそろっていれば、まずモテる。
逆にそろいすぎて、ひがみやそねみを買うほうがこわい。
だが、そのあたりは転校のプロだった貴樹だ。
適当にひょうきんなところやバカ話も繰り出して、またたくまに溶け込んでいった。
すでに一人、「好きだ」と同級生から告白されて断っている。
「つきあってる人がいる」とはっきり伝えた。その言葉がどのようにクラスや、はたまた学校全体に伝わっていくかはわからなかったけれど、ゆくゆくはわかるだろう。
銀行勤めの父親は夕飯の時間にはまず間に合わない。
だから、夕食は母親と二人でいつも取る。
その席で、明里からの話をしてみた。
「え、明里ちゃんが、ご両親と来るの?」
母親はかなり驚いていた。南の離島まで家族で来るというのはさすがにおおごとだ。
「10月のロケットの打ち上げを見にくるんだって。そのついでに、挨拶にって」
「どっちが"ついで"なんだかねえ」
苦笑しながら母親が言い、貴樹は心を見透かされたような気分になって下を向いた。
「私もお父さんも、ロケットの打ち上げのときに、この島の宿泊事情がどうなるのかわからないから、ご近所にでも聞いてみる」
「うん……、ツアーとか調べてるみたいだけど、うちは広いし泊めてあげられたらなあと思って」
それを聞いて、母がわずかに表情を曇らせる。
「……だめ、かな」
「春のこと、先方はどの程度、お父様に伝えているの?」
「あ……」
母親同士はほぼすべての情報を共有しているのだが、父親にはなかなか伝えづらいこともある。だから、そのあたりをすり合わせしておかないといけないと思ったのだ。
「明里のお父さんには、空港でのことは伝えたって……手紙には書いてた。その、明里のお母さんから。その前のことは一切言ってないって」
「そう……まあ、そんなところでしょうね」
それでいて、先方は父親も含めてこちらに出向くと言ってきている。
だとしたら、こちらも夫にある程度のことを知らせないといけない。
「お母さん、篠原さんちに電話してみるわ」
「え」
「こういうことは又聞きだとあいまいになってまずいことになるものなのよ。ちゃんと確認しておかないと。お母さんは泊まってもらうのは別にいいんだけど、父親同士で話が食い違っちゃうとまずいでしょ」
「うん……」
正直、貴樹にはわからなかった。おおごとなのは確かで、このイベントでなにか失敗をしてしまうと、二人の間に暗雲が立ちはだかることになりかねない。
しかし、母親はなんとかうまくことを進めていきたいようなので、しばらく任せることにした。
「まずは、宿泊事情ね。近所といっても……一番近くは澄田さんちになるから、明日にでも行ってくる」
母親がそう言ったのを聞いて、確か同級生の家じゃなかったかな、と貴樹は思い起こした。
(つづく)
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