新海誠監督のアニメーション「秒速5センチメートル」の二次創作についてのサイトです。

それは、先週のあの雪の夜に、岩舟駅の待合室で書かれたものだった。

その手紙には「貴樹くんのことが好き」と書かれており、強くて優しい貴樹は、だから、「これからもきっと大丈夫」だと結ばれていた。



そういうことだったのか。



ようやく疑問が解けて、少し心が落ち着いた貴樹だったが、自分にも明里に伝えるべきことがあるんじゃないかと感じた。

明里は手紙の中で明確に「貴樹くんのことが好きです」と書いていた。
そのことは、あの雪の日の、桜の下でかわした口づけで十分にわかりきっていたことだけれど。

でも、貴樹自身は明里にきちんと伝えていない。
伝えようとして書いた手紙は小山駅で風に飛ばされてしまった。

口づけを交わしたことで、貴樹の気持ちはわかっていると思うのだけど。

言葉にすると気持ちが限定されてしまうのだろうか。
言葉にしないと心に残らないのではないか。
数瞬、考えたけれど、貴樹は伝えようと思った。

なにより、女の子の明里が勇気を持って伝えてくれたのに、男の自分が何も言わないなんてフェアじゃない。

「明里……、僕も好きだよ、明里のこと」

そう言われて、ようやく微笑んだ明里は泣きわらいのような表情をしていた。
そして意外なことを言った。

「私、待ってる。だから、貴樹くんも待ってて」

「え?」

明里は真っ赤な顔で、この日までずっと考えていた計画を打ち明けた。

あと2年。高校生になったらアルバイトができる。お金を貯めて種子島に行く。
旅行会社のパンフレットを集めて、調べて、安く行ける方法を研究している、と。


自分よりもはるかに具体的な方法を考えていた明里に対して、貴樹が目を見張る。
僕よりも明里のほうがはるかに「強い」じゃないか。

「中学時代はどうしようもないけど。でも、例えば、種子島でロケットの打ち上げがあるんだったら、お父さんにお願いして種子島へ行けるかもしれないし、実際にロケットの打ち上げは見たいと思うし。新聞を読んだり科学雑誌を買って、そういう情報を集めてるの」

「僕も……いろいろ考えてみる。確かに高校生になったら、年に一度は会えるかもしれない。僕のおじいちゃんは長野に住んでて、これまでにも会いに行ったことがあるから、お盆やお正月の時期に長野まで行けるかもしれない」

「長野まで来てくれるんだったら、なんとかなるかもしれないね」

「……まるで、僕と明里は織姫と彦星みたいだね」

そういうと明里はふふふっと笑った。ようやく、二人の間に笑みがこぼれる。

「手紙にはいろいろ書くけど、会うための計画も相談しよう」

「うん。たくさん考えてみる。ねえ……貴樹くん。私と貴樹くんは、こいびと?」

覗き込むようにまっすぐ貴樹をみすえて、明里が言う。

「うん、そうだよ。こいびとだよ」

「よかった」

くしゃくしゃの笑顔になった明里は、貴樹の肩にしなだれかかる。

「み、みられるよ……」

「いいの。だって、もうすぐ」

搭乗開始のコールはとっくにされていた。

しばらくくっついていた二人は、ようやく立ち上がった。
足取り重くゲートへ向かうと、こちらに来ようとしていた両親たちと視線があった。呼びに来ようとしていたようだ。貴樹と明里が自主的に来たので、安堵しているよう。

離陸予定時間の20分前になっていた。ゲートまで行く時間を考えると、セキュリティをそろそろ通らないといけない。

歩きながら流れ出す涙が止められない明里が、ぎゅっと貴樹の右腕の袖をつかんで立ち止まる。

「明里……」

(つづく)

このページへのコメント

翔さん

第1部と第2部はまったく違うお話です。

時間軸の分岐点が違うとお考えくだされば。

第一部は高校2年の時点、第二部は原作「桜花抄」の終わりの時点で分岐しています。
いわばパラレルワールドというか、アナザーストーリーです。

0
Posted by ふなはし 2014年10月15日(水) 13:56:17 返信

「渡せなかった手紙」は、第1部の19歳のイヴで初めて公開されるんじゃなかったでしたっけ?
少し矛盾が…。

0
Posted by りーる翔 2014年10月09日(木) 22:10:59 返信

コメントをかく


「http://」を含む投稿は禁止されています。

利用規約をご確認のうえご記入下さい

Menu

各話へ直結メニュー

第1シリーズ

その他

言の葉の庭

言の葉の庭、その後。

映像





食品




書籍・電子書籍

・書籍






電子書籍(Kindle)



管理人/副管理人のみ編集できます