新海誠監督のアニメーション「秒速5センチメートル」の二次創作についてのサイトです。

プログラマという職業は貴樹にとって天職だった。
パーテーションで区切られた自分だけの区画で、朝から夕方までひたすらロジックを組み上げていく。ミーティングは当然あるが、そのほかの用件はすべて電子メールで流れてくる。日本の会社にありがちに「ノミニケーション」などの風習もない。
比較的自由だ。

貴樹のプログラミング技術はすぐに頭角を現した。
手始めに「2週間メドで仕上げて」と言われた小粒の仕事をわずか4日で完璧に仕上げた。その後も、納期をほぼ半減させるほどのスピードで仕事をこなし続けて、入社1年目にしてプロジェクトマネージャーに指名され、4か月納期の仕事の担当となった。



明里の編集者生活は、配属がそれまでのバイトの延長だったので、違和感もなく入っていけた。
企画を立案し、モデルの選択、コーディネーターとの打ち合わせで服の選択をしつつ、読者のリアクションも大切だと読者欄を拡充する提案を行った。

田村はモデル上がりで知名度の高い明里を「人気編集者」として打ち出そうと考えていたのだが、明里は「黒子に徹したい」と最初首を縦に振らなかった。
それが、「新人なのに突出しないよう」と配慮しているのが丸わかりだったため、編集会議の席上で話しあうことになった。

とはいえ、他の編集部員の総意は「部数が伸びる企画なんだったら、なんでもいい」ということで、「もし明里ちゃんが表に出て、部数が伸びるんだったら、別に気にしなくていいんだよ」という先輩編集者の一言で明里も承諾したのだった。むろん、これまでの明里の人柄と行動が編集部全員の好感を得ていたからというのが大きい。

読者欄に1/6ページのスペースではじまった明里のコラムは、なかなかユーモアにあふれており、人気企画となっていった。

貴樹も明里も社会人1年目を充実して過ごしていた。



ウィークデイは当然会えないし、明里は週末もつぶれることが多いけれど、それでもどうにかして週に一度は時間を作り、二人で食事をし、夜をともにしていた。

社会人になってからの、そういう関係も、なかなか感慨深いものがあると明里は感じていた。

貴樹の左腕にくるまれ、胸板にほおをつけて「なんだか夢みたい」とつぶやく。

「何が?」

静かに貴樹が尋ねる。

少し汗ばんだ肌を厚手のブランケットでくるんで、二人はぴっとりと寄り添っていた。
目の前のテラスへ抜けるサッシは全面開口で、正面に新宿のビル群が見える。
月明りもあいまって、透明な水色の灯りが差し込んできていた。

「社会人になって、新宿のビルの夜景を眺めながら、貴樹くんと、こんなふうにしてること」

「そうだね……俺も夢想したことがあったな。東京に戻れたら、明里とこんなことをしたいっていろいろ想像してた」

「ねえ、なんだか、ドラマみたいじゃない?」

「そうさ、俺と明里の人生ってそのままドラマになるよ」

「人生の中で、プラスとマイナスがもしも同じくらい起こるとしたら」

「俺も明里もあの5年間で十分マイナス分の貯金を貯めてるね、きっと」

「じゃあ、これからはいいことしか起こらない?」

「ああ、速く仕事で一人前になって……」

「うん?」

「この先は……そのときまで待ってて」

そういうと、貴樹がぎゅうっと覆いかぶさり口づけをする。

しばらく、感触を交換しあったあと、「もう眠る? それとも、もう一度……」と貴樹が聞いた。

(つづく)

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