新海誠監督のアニメーション「秒速5センチメートル」の二次創作についてのサイトです。

私は理子に、貴樹くんのことを話した。
彼女は素直に自分の過ちを認めて、頭を下げてくれた。
私のことを親友と言ってくれた。
そして、何も相談しなかったことを「哀しい」と。
だから、私は話すことにした。

小学4年のときに知り合って3年間一緒にいたこと。一緒の私立中学に行くはずが、岩舟に転校することになったこと。文通が始まって、でも、1年後には彼が種子島へ引っ越すことになって……。

あの、雪の日のことも話した。
その……キスした以外のことは。

ひとしきり、私の話を聞くと、理子は言った。

「明里って、実はけっこう激しい子なんだね」

「え」

「なんていうか、すごい大胆。だって、中一のときに、男子と二人きりで夜を明かしたんでしょ!? 突き抜けてる。ていうか、イケてるよ。すごいよ。私の想定外だった」

理由はよくわからないけれど、絶賛されている。

「そのイケメン王子は、種子島にいるの?」

「うん」

「手紙は今も続いてる?」

「うん……」

実は、書けていなかった。

貴樹くんが書いてくる手紙には、穏やかな種子島での暮らしと自然が書かれていた。
それはなんの不満もないように感じられた。
最初の頃は好ましく思っていた。
でも、最近は、私のことはもう必要ないのかな、なんて思い始めてしまった。

とくに、手紙の中に出てくる「佐々木」と「澄田」という二人の女の子の存在。
「佐々木」さんは島には珍しく、東京の大学志望なので、同じ塾に通い、情報交換しながら勉強していると書かれていた。

「澄田」さんは、中学からの同級で家が近くだから、よく一緒に帰る、そう書かれていた。

それ以上のことは書かれていないけれど、私は今の貴樹の側にいる女の子たちに嫉妬した。私の知らない貴樹くんがどんどん広がっていくように感じていた。


私はもういらないのかな。必要ないのかな。

そう思い始めたら、筆先が鈍ってしまう。
本当のことが知りたくて、でもそれを知ってしまうのが怖くて。


彼は東京の大学に進学してくる。
私もそのつもりだ。
彼が東京に来たときに、私も東京にいられるよう、今は彼への気持ちを封印して、勉強に励むべきじゃないだろうか。

そう思っていることを、理子に話した。

「明里……好きなら、ちゃんと好きって言わなきゃ。文字で、言葉で、伝えないと、伝わらないよ」

「ん……わかっているつもりだけど」

「種子島か……」

最後に、理子がつぶやいた。

(つづく)

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