最終更新: centaurus20041122 2014年05月09日(金) 21:46:19履歴
貴樹が気付くとリフレッシュルームの椅子に座っていた。
向かいに理紗が座り、携帯電話をいじっている。
「あれ、俺……どうしたのかな」
「お疲れみたいですね。少しの間眠ってましたよ」
少し照れた顔をして理紗が返事した。
なんだ、あれは夢か。
変な夢を見たなあ。欲求不満なのか、俺は。そんなことはないと思うけど。
目の前にはマイカップ。量からしてたぶん一口も飲んでいないコーヒー。
一口飲む。ぬるい。というか、ほとんど冷たくなっていた。
9時前になっていて他の社員が顔を見せる。やばい、1時間なにも出来なかった。
一気にコーヒーを流し込んで、ふとカップの飲み口を見ると、薄くだがオレンジ色の唇の跡がついている。
理紗が使っているルージュの色?
なぜ、こんなものが。
にぶい頭で考えてみるが、結論は一つしかなかった。
やはり。
あれは夢なんかじゃなかった。
やっぱり、理紗は俺に。
「そろそろ行きましょうか」
にっこりと笑って席を立つ理紗。背中を見せたのを確認して、指で唇をぬぐう。
指にもオレンジ色が移った。
知らないふりをしていたほうがいいんだろうな。
理紗もたぶん、そう思っている。
理紗が俺にキスをした。
もしやとは思ってはいたが、理紗はやはり俺に好意を持っているのか。
……とにかく仕事だ。まずはこの案件を終わらせないと身動きが出来ない。
理紗とのことは、理紗から何か言い出さないかぎりそのままでいい。
そう思って、胸の奥に少し痛みを感じる。
かつて、花苗にしたことをまたするのか。
しかし、それでも、自分が明里との関係を守るためには、世界を滅ぼしてもいいとさえ思っていることは自覚している。
理紗の豊かなバストの感触は、仕事の集中を邪魔するかと思ったが、逆に適度な癒しとなって仕事がはかどった。1時間の遅れを見事に取り戻して食事に出かけたが、理紗はいつもと変わらないままだ。
しかし、つい胸に目がいってしまう。
貴樹は自分を「それほどセックスにこだわりがない」、流行りの言葉でいうと草食系だと思っていたのだが、どうもその自己評価は返上すべきだった。
自分がはっきりと欲情していると気付いた貴樹は、14時になって理紗が社に戻ったのを見届けると、明里にメールした。
「今夜は早く帰るから、行っていいかな」
「私も9時には帰ってるよ」
明里から返事が来た。
貴樹が仕事を切り上げて帰る準備をしていると、行きかう同僚が驚きの目で見ている。
この半年ほど、貴樹は「不夜城」と呼ばれ、「会社に住んでるのでは」と噂されるぐらいずっと会社にいたのだ。それが、定時を少し過ぎた時間に帰ろうとしている。
食事は双方で済ませて帰ろうということにしていたので、明里の部屋に着くとまずは風呂に入った。先に入っていた明里のところに半ば強引に入り込んでいった貴樹は、「背中を流そう」と言い出した。
「いったいどうしたの?」
恥ずかしげに明里は尋ねる。裸を見られたことがないわけではないが、バスルームの照明はベッドルームより明るい。
しかも、いつもそんなことはしないサービス満点の貴樹に少し不安を覚える。
「最近、ほったらかしにしてたからお詫び」
妙にテンションの高い貴樹は、いつもなら風呂上がりに飲むビールも省略した。
「明里……明里がほしい」
やはり、いつもはそんなことを口に出す貴樹ではなかったのに。
そのままベッドに押し倒す。
「貴樹くん、ちょっと、まだ髪も濡れて……」
「かまわない、抱きたいんだ」
いつもは優しく触れる貴樹の指が、まるで別人のように強く動く。
「貴樹くん……いつもと違う……なんだか激しい……」
明里はその夜、貴樹にはまた違う一面があることを知った。
(つづく)
向かいに理紗が座り、携帯電話をいじっている。
「あれ、俺……どうしたのかな」
「お疲れみたいですね。少しの間眠ってましたよ」
少し照れた顔をして理紗が返事した。
なんだ、あれは夢か。
変な夢を見たなあ。欲求不満なのか、俺は。そんなことはないと思うけど。
目の前にはマイカップ。量からしてたぶん一口も飲んでいないコーヒー。
一口飲む。ぬるい。というか、ほとんど冷たくなっていた。
9時前になっていて他の社員が顔を見せる。やばい、1時間なにも出来なかった。
一気にコーヒーを流し込んで、ふとカップの飲み口を見ると、薄くだがオレンジ色の唇の跡がついている。
理紗が使っているルージュの色?
なぜ、こんなものが。
にぶい頭で考えてみるが、結論は一つしかなかった。
やはり。
あれは夢なんかじゃなかった。
やっぱり、理紗は俺に。
「そろそろ行きましょうか」
にっこりと笑って席を立つ理紗。背中を見せたのを確認して、指で唇をぬぐう。
指にもオレンジ色が移った。
知らないふりをしていたほうがいいんだろうな。
理紗もたぶん、そう思っている。
理紗が俺にキスをした。
もしやとは思ってはいたが、理紗はやはり俺に好意を持っているのか。
……とにかく仕事だ。まずはこの案件を終わらせないと身動きが出来ない。
理紗とのことは、理紗から何か言い出さないかぎりそのままでいい。
そう思って、胸の奥に少し痛みを感じる。
かつて、花苗にしたことをまたするのか。
しかし、それでも、自分が明里との関係を守るためには、世界を滅ぼしてもいいとさえ思っていることは自覚している。
理紗の豊かなバストの感触は、仕事の集中を邪魔するかと思ったが、逆に適度な癒しとなって仕事がはかどった。1時間の遅れを見事に取り戻して食事に出かけたが、理紗はいつもと変わらないままだ。
しかし、つい胸に目がいってしまう。
貴樹は自分を「それほどセックスにこだわりがない」、流行りの言葉でいうと草食系だと思っていたのだが、どうもその自己評価は返上すべきだった。
自分がはっきりと欲情していると気付いた貴樹は、14時になって理紗が社に戻ったのを見届けると、明里にメールした。
「今夜は早く帰るから、行っていいかな」
「私も9時には帰ってるよ」
明里から返事が来た。
貴樹が仕事を切り上げて帰る準備をしていると、行きかう同僚が驚きの目で見ている。
この半年ほど、貴樹は「不夜城」と呼ばれ、「会社に住んでるのでは」と噂されるぐらいずっと会社にいたのだ。それが、定時を少し過ぎた時間に帰ろうとしている。
食事は双方で済ませて帰ろうということにしていたので、明里の部屋に着くとまずは風呂に入った。先に入っていた明里のところに半ば強引に入り込んでいった貴樹は、「背中を流そう」と言い出した。
「いったいどうしたの?」
恥ずかしげに明里は尋ねる。裸を見られたことがないわけではないが、バスルームの照明はベッドルームより明るい。
しかも、いつもそんなことはしないサービス満点の貴樹に少し不安を覚える。
「最近、ほったらかしにしてたからお詫び」
妙にテンションの高い貴樹は、いつもなら風呂上がりに飲むビールも省略した。
「明里……明里がほしい」
やはり、いつもはそんなことを口に出す貴樹ではなかったのに。
そのままベッドに押し倒す。
「貴樹くん、ちょっと、まだ髪も濡れて……」
「かまわない、抱きたいんだ」
いつもは優しく触れる貴樹の指が、まるで別人のように強く動く。
「貴樹くん……いつもと違う……なんだか激しい……」
明里はその夜、貴樹にはまた違う一面があることを知った。
(つづく)
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