新海誠監督のアニメーション「秒速5センチメートル」の二次創作についてのサイトです。

ステージの上には3人の候補者と司会者、そして委員長の原口がいる。

初代女王、その誕生の瞬間を見ようと、ほとんどの生徒がグラウンドに出て、ステージを注目していた。

「それでは、第一回ミスコンテストの優勝者を発表します。発表は学園祭実行委員長の原口さんからです」

「えー、我が校初のミスコンテスト、その優勝者を発表します1」

ドラムロールの効果音が鳴り、静かになった。

「初代女王は、2年2組の国府田久美さん!」

会場がどよめき、歓声に変わった。1年の島村と明里はそれぞれ「おめでとう」と声をかける。

「得票数を発表します。第3位は島村さん。37票。第2位は篠原さん。248票」

そこでおおおおおというどよめきが流れる。200票以上もぶちぬいた。

「そして、第1位の国府田さん。256票」

おおおおおおおおおとさらに大きな響き。それは得票数というよりも2位との僅差に対する声だった。

「わずか8票差でしたが国府田さんとなりました。でも、予選から今日までの1か月、みんな、わくわくどきどきして楽しかったでしょ?」

そう問いかけられて「おおーっ」というレスポンスを受けた原口は満足げな表情を浮かべた。



閉会式が終わり、楽屋に戻ってきた明里。

「おつかれ。私は正直、イケるかもなんて思ってたんだけど」

そう理子が言うと「私にはとくに何もないから。とりあえず終わったぁ」
さっぱりした表情で言う明里。

「先輩、おつかれさまでした」と1年の島村がやってきた。
「おつかれさま。私はお茶とかお花とかその手のものはさっぱりだから、すごいと思って見てた」

そう明里が言うと、島村は「いえいえ、私、国府田先輩みたいにダンスなんてできないし、篠原先輩のような素敵な恋もしてませんから。私も、先輩のような、みんなの前で『私は、この人が好き!』って、大きな声で言える人に出会いたいなあって思います」と照れながら言う。

「島村さん、大丈夫。世界の誰かの次があなたの順番だから。きっと、あなたを待ってる人がいるよ」

「ありがとうございます!」

島村は深々とお辞儀をした。

「先輩、お疲れさまでした」

女王になった国府田が挨拶にきた。

「おめでとう。私にはとてもじゃないけど、マネできないダンスだった」

そういうと、国府田は言った。

「私……どうしてダンスを始めたかわかりますか」

不審顔になり首を振る明里。

「私、極端な音痴なんです……。歌えないから、ダンスを極めようと思って……。でも、今日の先輩の歌、素敵でした。私、感動して泣くのをこらえてましたから」

「ありがとう……。あのうたは彼氏のための歌だから、きっとよく聞こえたのなら、彼氏のおかげね」

その瞬間、貴樹がくしゃみをしたかどうかの記録は残っていない。

「国府田さん、篠原さんを紹介してくれないかしら」

不意に、高校の学祭の楽屋に不似合いな、シックなスーツを来た女性が現れていた。

「あ、先輩、こちらは私がお世話になっている○○出版の田村さんです」

「田村と申します。国府田さんはうちの、声優やコスプレ系の雑誌でモデルをしてもらってます」

「はあ」
作法もわからず名刺を受取った明里。出版社の人が何の用だろう。

「単刀直入に言うわ。篠原さん、うちの雑誌でモデルをしてみない?」

「ええっ」
と大きな声を出したのは隣にいた理子だった。声をだして急いで両手で口をふさいで縮こまる理子を見て「珍しい光景だなあ」と場違いなことを考える明里。

「私、受験を控えていますので、今はそれ以外のことは何もできません。声をかけていただいたのはうれしいのですが…」

きっぱりと言う明里。その返答を聞いて、田村女史は「やっぱり私の見たて通り。芯の強い素敵なコだわ。それから、お願いする雑誌は国府田さんが出てる雑誌ではなくて、ファッション誌。『Vivo』っていうんだけど」

その雑誌なら、明里も何度か買ったことがある。定番系商品に強い、コンサバなファッション雑誌だ。

「ああ、私も何度か読んだことあります」

「そう! じゃあ話は早い。あなた、受験はどのあたりを考えてるの?」

「東京の四年制の文系です」

「ということは、受かったら東京に出てくる?」

「はい」

「なにかとお金がかかるわよ、東京の一人暮らしは」

「はあ……」

「何が言いたいかというと、モデルの仕事は労働効率が高いの。どのくらいご両親の仕送りがあるのかわからないけれど、大なり小なりバイトはしないといけなくなるわ。モデルの仕事は少ない労働時間で高いお給料。そしたら、空いた時間で、あなたの大好きな彼氏とデートできるでしょ?」

そういわれると悪い気はしない明里だった。

「彼氏に、聞いてみます。とにかく、大学に受かることが最優先ですから、お話はそれからでもいいですか」

「もちろん、いいわよ、勉強がんばってね」という言葉とともに田村は消えた。

ポケットに忍ばせたPHSを取り出す。普段は使わないけど、今日は直接話したいことがたくさんあるから。

登録してあるボタンを押す。すぐに出てくれる。

「あ、貴樹くん? ん、いろんなことがあったから、電話しちゃった。それでね……」

喧騒の中、恋人たちの会話が始まる。

(了)

このページへのコメント

ハッピ−エピソードに続いて読んでしまいました。
ただ、最初はMIXI版だったので、最後まで 見つけられず、途中で終わって モヤモヤしてました。
でも、ここで見つけて最後まで楽しく読ませていただきました。
感謝 感謝
とても 楽しかったです。次の章も楽しみに読んでみます。
書いていただいて ありがとうございました。

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Posted by 19のままさ 2017年03月18日(土) 21:50:51 返信

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