新海誠監督のアニメーション「秒速5センチメートル」の二次創作についてのサイトです。

「花苗、電話よ」

テレビでお笑い番組を見ていた花苗が母親に呼び出される。

「誰?」

「サッちゃん」

珍しい。なんだろうな、と思った。

「もしもし?」

「あなた、今日サボッたでしょ」

クラスメイトのサチだった。

「なんていうか、かったるいし……その、いい波だってメール入ったのよね」

「そんなことはどうでもいいのよ……」

普段は冷静なサチがなんだか熱くなっていて、花苗は少し不思議に思った。

「明日、ガッコに行ったら……嫌でも耳に入ると思うから、教えておこうと思って」

「何? なにがあったの?」

「遠野くんのこと」

そう言われて、ずしんと嫌な予感がした。

「なに……?」

「遠野くんの彼女が来た」

「え?」

その言葉の意味が一瞬わからなかった。

とおのくんのかのじょ?

「どういう、こと?」

言葉が、震える。受話器を持つ手も、脚も。

「日食の観測隊で来た人の中に、遠野君の彼女がいたの」

そう聞いて、くじけそうになる心をなんとか正常に保ちながら、反論というか、疑問をぶつけてみる。

「どうして、それがわかったの?」

「聞いたら、かなりショック受けると思うけど」

「……どういうこと? とにかく教えて」

花苗はサチから、その日の午後にグラウンドでどのようなことがあったのか聞いた。

あの、クールな遠野が走り出して叫んだこと。
「俺が好きなのはお前だけだ」と。
そうしたら、相手の女の子が駆け寄ってきて、抱き合ったこと。

全校生徒が見ている前で。

相手の友人らしい人が「二人は初恋同士で、5年ぶりに再会した」というようなことを説明したこと。

「遠野くん自身もその人が来ることは知らなかったみたいだけど。でも、花苗がその場にいたら……」

その言葉をさえぎって花苗は言った。

「教えてくれて、ありがと。もう、いいよ」

そして、電話を切った。



私がその場にいたら、きっと頭がおかしくなってる。



目からはもう、どくどくと涙が溢れ出ていた。
だって、今だって。
心のリミッターが外れそうになってる。
大声で叫びたいのを必死にこらえる。


不意に思った。お姉ちゃん!?

遅い夕食を取っていた姉のところへいく。

「お姉ちゃん、今日のこと、」

ちょうど、たくわんをつまんで食べようとしていた姉が言う。

「あんたサボッてたでしょ」

「そんなことじゃなくてっ!!!」

仁王立ちになり、大きな瞳からとめどなく涙を流している妹に、姉は勤めて冷静に、諭すように言う。

「あんたは、遠野君の、なに?」

「え」

「つきあってるの?」

「……」

「遠野君に、なにか言われた? 好きだ、とか」

「………」

花苗には何も言えなかった。
そう、私は遠野くんの「なにものでもない」。

「好きでいるのはかまわないと思うけど。でも、私が見るかぎり……あの二人は本物だと思うな。あんたもそこそこかわいいんだから、次の恋を見つけたら?」

尊敬する姉にそう言われて、花苗は泣き崩れた。

(つづく)

このページへのコメント

なんか、かわいそうですね。
花苗ちゃん
どうしていいかわからないというのが、正直な感想です。
ただ、たぶん これくらいもてるのなら 花苗ちゃん以外にも 言えなかったけど あこがれていたとか 
実は 好きだったとか 花苗ちゃん以外にも 何人かいそうですよね。
ある意味 貴樹は 罪人ですよね。
はっきりさせないと 他の人にも迷惑がかかる。
とは、いってもなかなか 好きか嫌いかまでは わからないので むつかしいですね。

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Posted by 19のままさ 2017年04月06日(木) 08:38:19 返信

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