最終更新: centaurus20041122 2014年04月27日(日) 07:08:17履歴
貴樹の就職活動も、その終局に到達しようとしていた。
I社の最終面接に呼ばれたのだ。
私立出身というハンデを能力と意欲で突破し、貴樹はついにたどりついた。
「遠野貴樹さん……ほう、プログラミングが得意。情報処理一級取得済……なるほど。うちに入ってなにがしたいのですか?」
「私は種子島で中学と高校時代を過ごしました。H2Aの打ち上げも見ました。それ以前からあこがれはあったのですが、私は自分の能力をかけて日本の宇宙技術開発の一助になりたいと念願しております」
「ふむ」
面接官はうなづき、手元の紙にさらさらっと何かを書いた。
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いきなり夜に明里の部屋を訪れたので、最初なかなか扉をあけてくれなかった。
「明里!! 俺だよ!! 内々定取れたんだよ!! I社だよ!!」
玄関の扉の前、のぞき窓から見えるように立ちながら叫ぶ。
「開けても笑わない?」
インターフォンからくぐもった声が聞こえる。
なんのことかわからなかった貴樹だが、とりあえず、「笑うはずないから!」と言っておいた。
そして、扉を開けた明里の顔を見て笑ってしまった。
白い顔の。
明里はフェイスパックをしていたのだった。
「笑わないっていたのに〜〜〜」
かなり不服そうな顔をしているんだろうけど、なにせパックしているのでわからない。
「ごめんごめん。だって、そんな顔で出てくるなんて想定外だったからさ」
「あと5分で終わるから。それまではあまりしゃべれないの」
「いいよいいよ。俺から一方的に話すから」
内々定の取れたI社は日本の航空宇宙産業においてM社と双璧であること。
6月初旬の内定は、メーカーとしてはまあ普通だが、私立大卒予定者であることを考えるとかなり異例なことであること。
就職部に報告に行ったら、別室に通されて事情を聞かれ、ゼミの教授に報告したらとても喜んでくれたこと。
5分が過ぎ、洗面室から素顔に戻ってやってきた明里が、「とにかくやったね! これで私たちの計画も一つ進むかな?」と言った。
「計画?」貴樹はいぶかしげに聞く。
「あ、ひどいー。私との将来の」
「あ、それか!! そうだね。これで明里のお父さんにも胸を張って報告できる。なにせ、I社だし」
「卒業したら……一緒に住む?」
明里が大胆すぎる提案をした。
「え……」
貴樹が考え込む。
「いやなの?」
「いやなわけないよ」
貴樹が即答する。
「だけど、やっぱ、親としてはさ、段階を踏んで進んでほしいと思うんじゃないかな……。俺は将来、明里と一緒に暮らしたいって当然思ってるけど、それはどちらの親からも不満のないよう、後ろ指をさされないような完全な形で進めたいと思っているんだよね」
「貴樹くんって、妙なところで固いよね」
「あはは、それ、別の人にも言われたことある。でも、そういうところで明里のお母さんには信頼してもらってるみたいだし」
「うん、そりゃあもう。なにせ小4から知ってる男の子なんだもん」
「そっか。そうだよなあ」
こんな不景気の中、内定を勝ち取った二人にこれ以上にない幸せはなかっただろう。
しかし、貴樹はその幸せを放棄することになる。
(つづく)
I社の最終面接に呼ばれたのだ。
私立出身というハンデを能力と意欲で突破し、貴樹はついにたどりついた。
「遠野貴樹さん……ほう、プログラミングが得意。情報処理一級取得済……なるほど。うちに入ってなにがしたいのですか?」
「私は種子島で中学と高校時代を過ごしました。H2Aの打ち上げも見ました。それ以前からあこがれはあったのですが、私は自分の能力をかけて日本の宇宙技術開発の一助になりたいと念願しております」
「ふむ」
面接官はうなづき、手元の紙にさらさらっと何かを書いた。
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いきなり夜に明里の部屋を訪れたので、最初なかなか扉をあけてくれなかった。
「明里!! 俺だよ!! 内々定取れたんだよ!! I社だよ!!」
玄関の扉の前、のぞき窓から見えるように立ちながら叫ぶ。
「開けても笑わない?」
インターフォンからくぐもった声が聞こえる。
なんのことかわからなかった貴樹だが、とりあえず、「笑うはずないから!」と言っておいた。
そして、扉を開けた明里の顔を見て笑ってしまった。
白い顔の。
明里はフェイスパックをしていたのだった。
「笑わないっていたのに〜〜〜」
かなり不服そうな顔をしているんだろうけど、なにせパックしているのでわからない。
「ごめんごめん。だって、そんな顔で出てくるなんて想定外だったからさ」
「あと5分で終わるから。それまではあまりしゃべれないの」
「いいよいいよ。俺から一方的に話すから」
内々定の取れたI社は日本の航空宇宙産業においてM社と双璧であること。
6月初旬の内定は、メーカーとしてはまあ普通だが、私立大卒予定者であることを考えるとかなり異例なことであること。
就職部に報告に行ったら、別室に通されて事情を聞かれ、ゼミの教授に報告したらとても喜んでくれたこと。
5分が過ぎ、洗面室から素顔に戻ってやってきた明里が、「とにかくやったね! これで私たちの計画も一つ進むかな?」と言った。
「計画?」貴樹はいぶかしげに聞く。
「あ、ひどいー。私との将来の」
「あ、それか!! そうだね。これで明里のお父さんにも胸を張って報告できる。なにせ、I社だし」
「卒業したら……一緒に住む?」
明里が大胆すぎる提案をした。
「え……」
貴樹が考え込む。
「いやなの?」
「いやなわけないよ」
貴樹が即答する。
「だけど、やっぱ、親としてはさ、段階を踏んで進んでほしいと思うんじゃないかな……。俺は将来、明里と一緒に暮らしたいって当然思ってるけど、それはどちらの親からも不満のないよう、後ろ指をさされないような完全な形で進めたいと思っているんだよね」
「貴樹くんって、妙なところで固いよね」
「あはは、それ、別の人にも言われたことある。でも、そういうところで明里のお母さんには信頼してもらってるみたいだし」
「うん、そりゃあもう。なにせ小4から知ってる男の子なんだもん」
「そっか。そうだよなあ」
こんな不景気の中、内定を勝ち取った二人にこれ以上にない幸せはなかっただろう。
しかし、貴樹はその幸せを放棄することになる。
(つづく)
このページへのコメント
おお、ありがとうございます。アクセス解析で何人かが読んでいるのはわかるのですが、通りすがりの人ばかりなのかなと思ってたので、うれしいです。
貴樹の幸せ放棄はそういうわけで、こんな話でした。
毎回楽しみに読ませてもらってます(o^^o)
貴樹が幸せを放棄するというのは気になります(´Д` )