新海誠監督のアニメーション「秒速5センチメートル」の二次創作についてのサイトです。

二人でケーキを平らげて、紅茶を味わい、プレゼントの交換と、それにまつわる新しい約束をしたあと。

「明里、お風呂、入ってきたら」

「あ、うん」

こういうとき、いつも明里が先に入ることになっている。理由は明瞭かつ簡単。髪を乾かすのに時間がかかるからだ。

30分ほどの明里の入浴時間の間に、貴樹はティーカップやケーキを載せていた皿、フォークとナイフなどのカトラリーのセット、紅茶のポットを洗い、ケーキが入っていたボックスを処分し、シンクとテーブルの掃除をしておいた。

寝室のクローゼットにしまってあるパジャマと下着を取り出したあと、ベッドの確認。
確認といっても、明里はいつも整えているので、何もすることはないのだけれど。

イブか……。

思わず貴樹はひとり言をつぶやいていた。

2年前には空想さえもしていなかった境遇だった。
思えば、このようになった物語に貴樹の力はほとんど及んでいない。あの、グラウンドの事件だけだ。そこまでのおぜん立てはすべて飯田理子がやってくれたのだから、今度改めて二人でお礼をしないといけないな、なんて思った。

そうこうしているうちに明里がお風呂から上がったようだ。
リビングに戻ると、いつもながら恥ずかしそうな表情で、「お次、どうぞ」と言う。

バスタオルを胸から巻き、髪もハンドタオルで巻いてアップの状態になっているので、なかなか普段では見られない姿だ。ほのかに上気していて色っぽい感じさえする。この姿が見られるのは俺だけなんだなあ、と貴樹はいつも思い、実は優越感も感じていた。

「ゆっくり入ってきてね」

いつもは言わない一言を明里は付けくわえたので、貴樹は「なにかあるのかな」と思った。
彼はいつもそんなに長湯はしない。
以前、明里に「一緒に入ろうか」と言ったら、猛烈な勢いで「恥ずかしいからダメ」と断られてしまった。ちなみに、愛し合うときもほとんど真っ暗な中だ。窓から入ってくる街灯や月の光だけ。

いつもよりゆっくりめに入浴し、バスルームで歯を磨き、脱衣場に出る。
体をぬぐい、髪を乾かしパジャマを着てからリビングに戻ると、もう暗くなっていた。

「?」

もう寝室なのかな。

トントンとノックしてから寝室に入ると、暖かくほのかな照明の光で満たされていた。
床にある球状の照明だ。それほど明るくはないので、寝る前に使うことが多い。
間接照明のような、ふんわりと温かみのある光だ。空調もほどよく、寒くはない。

ベッドに座って、背中を向けてる明里に「どうしたの?」と声をかける。

背中から強い緊張感を感じた。

「うん……」

ベッドからするりと降りるとこちらに向き直る。見たことのないパジャマだ。

「あれ? おニュー?」

ピンク色のシルクのパジャマ。胸元に大きなリボンがついている。

「私も、もうひとつ、プレゼント……あるの」

「え?」

ゆっくりと近寄ってきた明里が、よく状況がわかっていなくて呆然と立っている貴樹のそばに来て、右手をつかみ、リボンにあてがった。

そして、真っ赤な顔をしながら、それでもまっすぐに貴樹の目を見て「……ほどいて」と言った。

貴樹の脳裏に数時間前に聞いたヒットソングが思い浮かぶ。

「あ、ああ……」

頭の中に驚きと愛おしさと欲情のミックスした感情がないまぜになって、視界が一瞬ぐるぐると回って、貴樹はクラリとした。

タガが外れる。

するりとリボンをほどくと、細い背中に腕を回してかき抱いた。

「貴樹くん……今日は、灯りは……このままで、いいよ……」

その言葉に貴樹は軽い衝撃を受ける。
明里にとっては、それはかなり大きな判断というか、……そうか、これが「プレゼント」なのか。

ようやく気がついた貴樹が明里を脱がせていく。下着はつけていなかった。

柔らかな灯りに照らされた明里の姿は、美術品のように高貴で神々しく感じて、一瞬、これからあのような欲望にまみれたことを行ってもいいのか、貴樹は躊躇した。

「私だけなんてずるい」

貴樹が呆然として明里を見つめていたのは、あまりにも美しい姿に感動していたからだが、明里は貴樹がいたずら心を出して脱がないと勘違いして、明里が実力行使に出た。
貴樹も瞬く間に生まれたままの姿にされる。明里の洗いざらしの髪がときおり素肌に当たるのが気持ちいい。
二人は全裸のまま抱き合った。若い素肌同士はまるで吸盤のようにすいつく感じがする。

「あたたかいね……」
「うん、とてもあたたかい」

外はしんしんと冷え込み、窓の外にはシリウスやリゲルの鮮烈な輝きが南天にかかりつつあった。夜空はまるでクリスマスツリーのように輝き、二人を照らしている。

ただ、二人のそばには熱気の塊が生まれつつあった。

(おわり)

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