新海誠監督のアニメーション「秒速5センチメートル」の二次創作についてのサイトです。

強くなる陽射しが生徒会室に差し込んできていた。
放課後、今年初めて招集された「学園祭実行委員会」。

委員たちは思い思いに意見を言っている。
ブレイン・ストーミングという手法だ。

「毎年、マンネリ化が激しいよね」

「何か、新しい企画を考えないと」

「大学の学園祭を参考にしてみたら?」

侃侃諤諤。
ここは栃木県のとある高校。ゴールデンウィークが終わったころだった。

「やっぱりさあ、ミスコンとかどお? 盛り上がるよぉ?」

委員長の原口が提案する。真面目そうな容姿とはうらはらにざっくばらんな提案に、他の委員たちは少し意外そうな感想を持った。しかし。

「ミスコンなんてやったら、反発とかないかなあ」

口々に懸念を表明する委員たち。数年前も、ある大学の学園祭でのミスコンをいわゆる「女性人権グループ」がやり玉に挙げて中止させたことがあった。しかし、そのような懸念を原口は粉砕する。

「女が美しさを競うというのは、ある意味競争原理であって、生物学的に矛盾なんてしてないわ。それに今どき、そんな時代遅れなことを言う人なんているかしら。わが校の学園祭に新たな次元を開くのよ!」



「ミスコンだよ? いまどき、そんな古臭い企画をやるって言い出してさ!」

飯田理子は憤慨しながら、篠原明里に意見開陳していた。
憤懣やるかたない、といった感じだ。

「別に、どうでもいいんじゃないの……私たちには関係のないことよ」
けんもほろろ、といったていで理子の勢いを受け流している。さすがにつきあいが長い。柔よく剛を制す。

「だけどさ、こんなに安易に女性をウリにした企画をやるなんて!!!」
まだまだ喰らいつく理子に、明里が矛先を変えようと言った。

「誰が言い出したことなの?」

「それが、3組の原口なのよ」

「え、原口さんが?」

説明しよう。3組の原口絵里奈と1組の飯田理子は永遠のライバル。入学してからの学年成績は1位飯田、2位原口が完璧に固定化していたのだった。
二人の間は「面識がある」という程度で親しくはないが、廊下に貼られる校内成績席次はいつも隣同士。それが3年めに入り、お互い意識しているのはわかっていた。

「学祭実行委員を引き受けるなんて、余裕あるのね」

わずかに角度がずれた感想をいう明里。

「ああ、原口は某大学の推薦確定みたいなの。あいつ、席次じゃ私に勝てないもんだから、学祭で歴史を作るとか言ってるらしい」

「なるほど……」
そういうやり方もあるのかな、とその時は少し原口に同情した明里だったけれど、夏休み前の期末試験が終わったころに、そんな会話があったことを、二人はすっかり忘れていた。



9月。

新学期が始まると同時に、学園祭実行委員会からのお知らせがあった。

わが校で初めてのミスコンテストを行うという。
学年ごとに予選を開催し、学年代表1名を選び、学園祭当日に決戦投票を行って決める、そういうことだった。

エントリーは自薦・他薦を拒まず、だが、他薦の場合は推薦人20人が必要、ということだった。

そこまでを流し読みして、明里はそのチラシをしまい、「15人め」の男の子への断り文句を考える。考えるといってもいつも同じ。
「つきあっている人がいるの。ごめんなさい」。

9月に入って1週間で3人に告白された。
これまでの「ペース」からすると、おかしい。
おかしいというのもおかしいのだけど、「なにかあったのかな」と不審な気持ちになるのも確かだ。

「なんとなく、わかったわよ」

理子が天文地学部の部室に入ってきた。
明里はバスケ部を夏休み前に引退した。5月に入部した天文地学部は、表向きは2年の4月に入部したことになっている。最近は、この部室で理子と話すことが多い。
ことが極秘な事項に関しては、なおさらだ。

「どうもね、夏休みのあと、『篠原明里がアツい』ってことになっているらしいのよ」


(つづく)

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