最終更新: centaurus20041122 2014年04月19日(土) 11:51:00履歴
「A社はね、創業家と叩き上げ社員の派閥争いがあるのよ」
田村が、○○出版の会議室に参集した一同に説明を始めた。
「伊勢島家は創業家なんだけど、先代がバカでさ、会社が傾いた。そこを今の社長を筆頭にした叩き上げが盛り返してたんだけど、最近、伊勢島家が再び主導権を握ろうと暗躍してたの。常務の兄はまあ、有能なんだけど、弟のほうがアホだったというわけ」
「で、結局あのハゲチビデブはどうなったんですか?」理子が聞く。
「取締役解任、広報部長解任、職位降格、課長待遇として上海事業部へ転勤」
一同どよめく。国外追放だ。
「ちなみに兄貴も上司として管轄してた責任を取らされて、取締役常務を解任、総務統括へ降格。上海行きには最後まで抵抗したんだけど、拒否なら事実を公表して懲戒解雇だ、これは創業家嫡子への温情だと言って押し切ったの。叩き上げ派の完全勝利ね」
「それにしても、あちらによく、根回しできましたね」
貴樹が感心していう。
「あちらの総務部長さん、私が編集者になったころにとてもお世話になった人で、直接の仕事のからみがなくなった今でも飲み友達なのよ。それで社内事情はバッチリ。それで、伊勢島家をたたき落とすネタを提供してあげたわけ。ちなみに半年分の広告料10%アップの見返りつきね」
「なるほど。世界は欲望と金で動いているんですねえ」
祐一がうなづく。
「上海事業部ってどういうところなんですか? まがりなりにも海外勤務になるんでしょ?」
理子が聞いた。
「ん……世の中のメーカーは中国事業部は花形なんだろうけど、あそこは閑職だね。A社は古着回収事業をやってるんだけど、それで集めたものを一時保管してるのが上海近郊の倉庫なの。そこを管轄してるのが上海事業部。課長っていっても、部下は現地採用のバイトだけ。上は部長イコール所長だけ。もともと課長なんていなかったところだし」
「絵に描いたような左遷、というわけですか」
貴樹がいうと、「警察沙汰になってイメージダウンになるよりはと、伊勢島兄も呑んだんでしょう。とにかく、これでクズは島流しにしたから。明里ちゃん、感謝」
そう言われて明里が照れた。
「あの人よりも、会話を貴樹くんに聞かれてるってことのほうが緊張しました……」
「どういうこと?」
「だって、私は婚約者、とか将来設計、とか未来、とかいっぱい、自分の未来のこと……まだ、貴樹くんにも話していないことを言っちゃったから……勝手にこんなこと言っていいのかなと思ってたら、途中から、あの人じゃなくて、貴樹くんに話してるような気持ちになって」
「だからしっかりした口調だったの?」
理子がからかって一同湧いた。
「婚約者がいます、って言われたとき、なんだかちょっと意識かわったかも」
貴樹がいう。
「どんなふうに?」
明里より早く理子が突っ込んだので。
「恋人と婚約者って全然違う気がするから。なんとなくだけど、昔から明里とはずっと生きていくんだ、それが当たり前なんだって思ってたんだけど、それが明瞭に意識できる言葉というか」
「はあ……この二人はほんと、好きどおしなんだねえ」
ため息混じりに理子が半ば呆れつついう。
「一生の相手って、いつ出会うのかわからないから。私たちの場合、小学生の時だっただけ」
明里が照れながら、でも、力強く言った。
(つづく)
田村が、○○出版の会議室に参集した一同に説明を始めた。
「伊勢島家は創業家なんだけど、先代がバカでさ、会社が傾いた。そこを今の社長を筆頭にした叩き上げが盛り返してたんだけど、最近、伊勢島家が再び主導権を握ろうと暗躍してたの。常務の兄はまあ、有能なんだけど、弟のほうがアホだったというわけ」
「で、結局あのハゲチビデブはどうなったんですか?」理子が聞く。
「取締役解任、広報部長解任、職位降格、課長待遇として上海事業部へ転勤」
一同どよめく。国外追放だ。
「ちなみに兄貴も上司として管轄してた責任を取らされて、取締役常務を解任、総務統括へ降格。上海行きには最後まで抵抗したんだけど、拒否なら事実を公表して懲戒解雇だ、これは創業家嫡子への温情だと言って押し切ったの。叩き上げ派の完全勝利ね」
「それにしても、あちらによく、根回しできましたね」
貴樹が感心していう。
「あちらの総務部長さん、私が編集者になったころにとてもお世話になった人で、直接の仕事のからみがなくなった今でも飲み友達なのよ。それで社内事情はバッチリ。それで、伊勢島家をたたき落とすネタを提供してあげたわけ。ちなみに半年分の広告料10%アップの見返りつきね」
「なるほど。世界は欲望と金で動いているんですねえ」
祐一がうなづく。
「上海事業部ってどういうところなんですか? まがりなりにも海外勤務になるんでしょ?」
理子が聞いた。
「ん……世の中のメーカーは中国事業部は花形なんだろうけど、あそこは閑職だね。A社は古着回収事業をやってるんだけど、それで集めたものを一時保管してるのが上海近郊の倉庫なの。そこを管轄してるのが上海事業部。課長っていっても、部下は現地採用のバイトだけ。上は部長イコール所長だけ。もともと課長なんていなかったところだし」
「絵に描いたような左遷、というわけですか」
貴樹がいうと、「警察沙汰になってイメージダウンになるよりはと、伊勢島兄も呑んだんでしょう。とにかく、これでクズは島流しにしたから。明里ちゃん、感謝」
そう言われて明里が照れた。
「あの人よりも、会話を貴樹くんに聞かれてるってことのほうが緊張しました……」
「どういうこと?」
「だって、私は婚約者、とか将来設計、とか未来、とかいっぱい、自分の未来のこと……まだ、貴樹くんにも話していないことを言っちゃったから……勝手にこんなこと言っていいのかなと思ってたら、途中から、あの人じゃなくて、貴樹くんに話してるような気持ちになって」
「だからしっかりした口調だったの?」
理子がからかって一同湧いた。
「婚約者がいます、って言われたとき、なんだかちょっと意識かわったかも」
貴樹がいう。
「どんなふうに?」
明里より早く理子が突っ込んだので。
「恋人と婚約者って全然違う気がするから。なんとなくだけど、昔から明里とはずっと生きていくんだ、それが当たり前なんだって思ってたんだけど、それが明瞭に意識できる言葉というか」
「はあ……この二人はほんと、好きどおしなんだねえ」
ため息混じりに理子が半ば呆れつついう。
「一生の相手って、いつ出会うのかわからないから。私たちの場合、小学生の時だっただけ」
明里が照れながら、でも、力強く言った。
(つづく)
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