最終更新: centaurus20041122 2014年05月19日(月) 16:23:06履歴
1か月ほど無職状態を過ごしていた貴樹だが、そろそろ何かしたくなってきた。
蓄えの額を見れば、1年は遊んで暮らせるのだが、目的はそうではない。
プログラミング技術には人一倍自信があったし、実際、その技術でしか世の中を渡っていく術がない。
貴樹は、これまでの仕事先やサムドシステムズの細かな仕事を請け負おうと営業をかけた。そのときに、退職1か月で築いた人脈が役に立った。細かな仕事はすぐに舞い降りてきた。2-3日で終わるような仕事だ。それでは物足りなくなったので、仕様設計から出来るような仕事も募集をしていた。
そのとき、「SOS」というサブジェクトのメールが届いた。
理子からだった。
-
久しぶりに明里と理子と三人で食卓を囲む。
「明里、顔色悪い」
「ん……忙しい。けど、楽しい」
理子がそう言うと、明里はにこにこしている。
「だって、新しい雑誌を作る体験なんてなかなかできないよ?」
「遠野くんは、元気そう」
「あはは、俺、1か月休暇だったし」
「1か月!」
理子ががっくりくる。
「で、SOSって何?」
貴樹が聞く。
「私、春からJAXAに就職したのは知ってるよね?」
二人がうなづく。
理子は東京大学大学院修士卒でJAXAに就職していた。今は、「はやぶさ2」プロジェクトにいるという。
「飛翔体、つまり衛星の姿勢制御プログラムに不具合があって、そこから先に進めなくて。担当じゃどうしようもできなくて、全スタッフに『なんとかできる人材募集』っていう話が来たので、遠野くんどうかなって」」
それを聞いて貴樹は目を輝かせる。
「諸元と条件が知りたい。あと、既存のプログラムも」
なんせ、国民がこぞって称賛した「はやぶさ」の後継機の仕事なのだ。
「その仕事って、M社担当だったんじゃないの?」
貴樹が問う。
「そうだけど、なかなかうまくいかないみたいで。がんばってるみたいだけど……」
理子も丸くなったな、と貴樹も明里も思った。
つまりはM社ができなかったのだ。以前の理子なら、
「あいつら高給取ってるくせにどいつもこいつも無能!!」
とか言いそうだけど。
身分証明書類を提出したのちに、NDA(秘密保持契約)を結ぶ。
なにせ、国家機密に近いシロモノだ。
JAXAが審査してお墨付きを出した人じゃないと、安易にプログラムの開示などできない。
他に審査対象がいなかったのか、貴樹は即日審査を通り、既存プログラムや諸元と条件提示を受けた。
C社でやっていたことも役に立つ。2日で既存プログラムを読み込んで、方向性を知り、3日で諸元と条件に合うように修正をかけていく。
貴樹が5日で組んだプログラムを理子にメールで送った。
相模原オフィスにいる理子から、「稼働状況良好」という返事を5日後にもらう。
2週間後。
再び、三人でのご飯。
「面倒なのでカレーだよー」
今日は貴樹が作ったカレーだ。彼のカレーの特徴は肉がひき肉で、それがどろどろに溶けるほど煮込むところにある。
「遠野くんのカレーは絶品だねえ。カレー屋やったら?」
「ははは、プログラムが組めなくなったらそうするよ」
カレーを食べながら、貴樹が言う。
「で、今日の集会の趣旨は?」
「ん」
理子がまず、カレーを食べて、しみじみと味わったあと。
「あの、組んでもらったプログラムさ」
「あれ、なんかやばかった? うまくいかなかった?」
身を乗り出して聞く。
「いや、完ぺきに動いてる。それを見て、M社のプロジェクトリーダーが「このプログラム組んだの誰だ」って話になって、遠野くんのこと話したら……」
ごくりと貴樹が待っている。
「組んだ人がサムド出身で、フリープログラマだって言ったら、うちにこないかって」
うち?
うちって、M社?
「そう、M社」
M社はI社と並ぶ、日本の航空宇宙産業の両雄だ。
そこから、誘われている?
「一応、形ばかりの試験と面接はあるけどね」
「受ける。やる」
貴樹が言った。
(つづく)
蓄えの額を見れば、1年は遊んで暮らせるのだが、目的はそうではない。
プログラミング技術には人一倍自信があったし、実際、その技術でしか世の中を渡っていく術がない。
貴樹は、これまでの仕事先やサムドシステムズの細かな仕事を請け負おうと営業をかけた。そのときに、退職1か月で築いた人脈が役に立った。細かな仕事はすぐに舞い降りてきた。2-3日で終わるような仕事だ。それでは物足りなくなったので、仕様設計から出来るような仕事も募集をしていた。
そのとき、「SOS」というサブジェクトのメールが届いた。
理子からだった。
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久しぶりに明里と理子と三人で食卓を囲む。
「明里、顔色悪い」
「ん……忙しい。けど、楽しい」
理子がそう言うと、明里はにこにこしている。
「だって、新しい雑誌を作る体験なんてなかなかできないよ?」
「遠野くんは、元気そう」
「あはは、俺、1か月休暇だったし」
「1か月!」
理子ががっくりくる。
「で、SOSって何?」
貴樹が聞く。
「私、春からJAXAに就職したのは知ってるよね?」
二人がうなづく。
理子は東京大学大学院修士卒でJAXAに就職していた。今は、「はやぶさ2」プロジェクトにいるという。
「飛翔体、つまり衛星の姿勢制御プログラムに不具合があって、そこから先に進めなくて。担当じゃどうしようもできなくて、全スタッフに『なんとかできる人材募集』っていう話が来たので、遠野くんどうかなって」」
それを聞いて貴樹は目を輝かせる。
「諸元と条件が知りたい。あと、既存のプログラムも」
なんせ、国民がこぞって称賛した「はやぶさ」の後継機の仕事なのだ。
「その仕事って、M社担当だったんじゃないの?」
貴樹が問う。
「そうだけど、なかなかうまくいかないみたいで。がんばってるみたいだけど……」
理子も丸くなったな、と貴樹も明里も思った。
つまりはM社ができなかったのだ。以前の理子なら、
「あいつら高給取ってるくせにどいつもこいつも無能!!」
とか言いそうだけど。
身分証明書類を提出したのちに、NDA(秘密保持契約)を結ぶ。
なにせ、国家機密に近いシロモノだ。
JAXAが審査してお墨付きを出した人じゃないと、安易にプログラムの開示などできない。
他に審査対象がいなかったのか、貴樹は即日審査を通り、既存プログラムや諸元と条件提示を受けた。
C社でやっていたことも役に立つ。2日で既存プログラムを読み込んで、方向性を知り、3日で諸元と条件に合うように修正をかけていく。
貴樹が5日で組んだプログラムを理子にメールで送った。
相模原オフィスにいる理子から、「稼働状況良好」という返事を5日後にもらう。
2週間後。
再び、三人でのご飯。
「面倒なのでカレーだよー」
今日は貴樹が作ったカレーだ。彼のカレーの特徴は肉がひき肉で、それがどろどろに溶けるほど煮込むところにある。
「遠野くんのカレーは絶品だねえ。カレー屋やったら?」
「ははは、プログラムが組めなくなったらそうするよ」
カレーを食べながら、貴樹が言う。
「で、今日の集会の趣旨は?」
「ん」
理子がまず、カレーを食べて、しみじみと味わったあと。
「あの、組んでもらったプログラムさ」
「あれ、なんかやばかった? うまくいかなかった?」
身を乗り出して聞く。
「いや、完ぺきに動いてる。それを見て、M社のプロジェクトリーダーが「このプログラム組んだの誰だ」って話になって、遠野くんのこと話したら……」
ごくりと貴樹が待っている。
「組んだ人がサムド出身で、フリープログラマだって言ったら、うちにこないかって」
うち?
うちって、M社?
「そう、M社」
M社はI社と並ぶ、日本の航空宇宙産業の両雄だ。
そこから、誘われている?
「一応、形ばかりの試験と面接はあるけどね」
「受ける。やる」
貴樹が言った。
(つづく)
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