新海誠監督のアニメーション「秒速5センチメートル」の二次創作についてのサイトです。

明里からの手紙は週に一度から、半月に一度へ、そしてこの一年は月に一度、という頻度だったけれど、確実に続いていた。
一度だけ電話で話したことがあったけれど、声を聞いてしまうとどうしようもなく気持ちが高ぶってしまい、そのあと、明里の不在を感じて逆に落ち込んだ。
だから、それ以降は電話はしなかった。長距離電話をそう、たびたびするわけにはいかない、という理由もあったけれど。

明里は高校に上がってもバスケを続けていた。
親友ともいうべき存在、……理子ちゃんだっけか……も中学から引き続き一緒にいて、楽しく過ごしているようだ。
一度、二人で写ったプリクラが送られてきたことがある。
いかにも頭の良さそうな、きりりとしたメガネ女子だった。
しかし、共学の高校だから、僕はいつも心配していた。

僕が明里のことを好きだから言うわけでもないけれど、明里はとても綺麗な女の子になっていた。これほど綺麗なコを周りの男がほおっておくわけがない。
だけど、正面からそんなことは聞けない。

僕は強い存在になって、明里を守らないといけないんだ。
だから、そんなことを気にするような器の小さな男ではダメなんだ。

手紙には自分の弱音は書かないことにしていた。

どうしたら強くなれるか、そんなことはわからなかったけれど、少なくとも自分の弱いところを明里に見せることは避けていた。
幻滅されることを恐れていたのかもしれない。


澄田は高校に入って、ボディボードからサーフィンへ転向したという。
彼女の姉は福岡の大学に通っていた時サーフィン部に入っていて、その影響だという。
その姉は教育学部を卒業して、母校、つまり僕が通う高校に赴任してきていた。

本来、身内が通っている学校への赴任というのは珍しいことなのだが、へき地希望の若い教師は少ない。そんなことを澄田は言っていた。


朝、弓道場で的を射る。
誰もいないから、どんな方法だっていいのだけれど、僕はきちんと所作を守っていた。
そういう行為すべてに意味があると思っていた。そうしているうちに心が静まっていく。

澄田は部活はとくに入っていないが、朝はサーフィンの練習をしていた。
そのあと、弓道場を通って登校してくる。週に3度は朝から顔を合わせ、やはり週に3度は一緒にカブを連ねて帰る。

なるほど、周りからみたら「彼女」に見えるんだろうな。

僕と澄田の関係は、少し親密なクラスメート、ただそれだけだった。
彼女も今のところはそこから踏み出そうとは思っていないようだ。

よく、「友達以上、恋人未満」なんて表現があるけれど、そこまでも届いていない。
それでも、その、ある種の宙ぶらりんな状態が、僕にはちょうどよかったのだ。

(つづく)

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