最終更新: centaurus20041122 2014年05月29日(木) 12:39:13履歴
貴樹と花苗が明里とともに○○出版を訪れたのは2日後の土曜日だった。
「今回、私の都合のために、格別のご配慮を妻にしていただきありがとうございます」
貴樹が深く頭を下げる。
『Girls,Bravo』の田村編集長、『Onshore』の四宮編集長、そして島田社長。
貴樹も一度、『Vivo』の誌面に登場しているし、結婚式には島田社長や四宮も招待していたので、ここにいる六人はすべて面識があった。
「四宮さん、カメラマンは佐野さんに。私の姉もよく知ってる人だし、南九州のスポットはよく知ってるから、明里さんの仕事にはとても重宝すると思います」
パイプライン女王の助言だ。四宮は黙ってうなづく。
「そのかわりと言ってはなんだけど、オファーされていたコラムと毎号のグラビア、お受けします」
花苗がそういうと、四宮は満面の笑みを浮かべて「ありがとう、ありがとう」と繰り返した。
「これで、1万部は積み上がったわよ」
「グラビア……?」
明里が不思議な顔で聞く。
「うちの雑誌も、いろいろ新機軸を考えててね。明里さんも登場してくれるし、澄田さんにもファッションモデルのような感じで毎号グラビアページ作らせてほしいってオファーしてたの。綺麗どころを登場させて、男性読者を増やさなきゃ」
四宮がそう言って、「この人、案外、策士だな」と内心思う貴樹。
「花苗さん、かわいいから、きちんとコーディネートすればさらに磨きがかかるかも」
明里が言うと、「やめてくださいよ、勘違いしますよ?」と花苗もまんざらでもなさそうだ。
「我が社としても澄田さんとのサポート契約をするというのはどうかしら。欧米メーカーのような額にはいかないけれど……」島田社長が提案する。
「それはもう喜んで。ただ、窓口はB社の堤さんになっているので、そちらに通してもらえますか。私のほうからもお受けするよう、伝えておきますので」
花苗が受諾する。
「それにしても、明里ちゃんと遠野君の物語は壮大だよねえ」
感慨深げに田村が言う。
「遠野くんの種子島Daysをよく知ってる人がここにいますよ」と花苗が手を挙げる。
「そうだ……明里ちゃん、『Girls Bravo!』でもコラムというか……小説でもいいや、連載書かない?」
「え、小説?」
英米文学科専攻の明里だったから、そんな夢を持ったことはある。だけど、あくまで夢物語だった。
「二人は小学生のときに出会い、中学で離ればなれになり、手紙だけでつながり続けて、大学生になって再会、そして結婚なんでしょ。読者層の心をそのまま撃ち抜けるようなラブストーリーだと思うんだよね。これまで書いてたコラムだって、人気あったし」
田村がけしかけて、明里はいつか貴樹が言った「俺たちのストーリーはそのままドラマになる」という言葉を思いだした。
「ちょっと書いてみます。一回当たり何字で書けばいいですか?」
そういう言葉で明里も受けた。
もともと、文章を綴るのは好きなのだ。
「私も二人の馴れ初めとか知りたいなあ。連載前に読みたい!」
花苗が言って、「じゃあ、特別に脱稿したばかりのをメールしますよ……書きたてほやほやのを」
明里が笑って、和やかに会談は終了した。
花苗は校長室にいた。
「新学期早々の申し出で申し訳ありませんが、これまでの活動を保証していただけないと感じましたので、退職することにしました」
花苗の言葉は強い。悔しさと意地が転換されて強い意志となっている。
すでに欧米の複数のメーカーと、日本企業からのスポンサードを報じた記事のコピーを提示している。その額は年額4000万円にも達していた。教育委員会にも事の顛末を報告済だ。
「澄田先生、……私としては生徒たちに良好な環境を与える義務があるのだよ……」
校長は苦虫をかみつぶしたような顔をしている。
パイプライン女王の価値を正しく判断できなかった、この初老の教師は、文科省の意向を受けた教育委員会から激しく叱責を受けていた。
「わかっています。校長先生と私とでは、課せられている義務の種類が違います。私自身には日本のマリンスポーツ界のビジネスやそのほかすべてがかかっています。だから、私はハワイへ行くことに決めました。私が早く決意していれば、校長先生にもご迷惑をかけずに済んだのにと思うと申し訳ない気持ちでいっぱいです」
そう花苗は告げて、一度も教師として立たなかったグラウンドを横断して、勤務校を去った。
(つづく)
「今回、私の都合のために、格別のご配慮を妻にしていただきありがとうございます」
貴樹が深く頭を下げる。
『Girls,Bravo』の田村編集長、『Onshore』の四宮編集長、そして島田社長。
貴樹も一度、『Vivo』の誌面に登場しているし、結婚式には島田社長や四宮も招待していたので、ここにいる六人はすべて面識があった。
「四宮さん、カメラマンは佐野さんに。私の姉もよく知ってる人だし、南九州のスポットはよく知ってるから、明里さんの仕事にはとても重宝すると思います」
パイプライン女王の助言だ。四宮は黙ってうなづく。
「そのかわりと言ってはなんだけど、オファーされていたコラムと毎号のグラビア、お受けします」
花苗がそういうと、四宮は満面の笑みを浮かべて「ありがとう、ありがとう」と繰り返した。
「これで、1万部は積み上がったわよ」
「グラビア……?」
明里が不思議な顔で聞く。
「うちの雑誌も、いろいろ新機軸を考えててね。明里さんも登場してくれるし、澄田さんにもファッションモデルのような感じで毎号グラビアページ作らせてほしいってオファーしてたの。綺麗どころを登場させて、男性読者を増やさなきゃ」
四宮がそう言って、「この人、案外、策士だな」と内心思う貴樹。
「花苗さん、かわいいから、きちんとコーディネートすればさらに磨きがかかるかも」
明里が言うと、「やめてくださいよ、勘違いしますよ?」と花苗もまんざらでもなさそうだ。
「我が社としても澄田さんとのサポート契約をするというのはどうかしら。欧米メーカーのような額にはいかないけれど……」島田社長が提案する。
「それはもう喜んで。ただ、窓口はB社の堤さんになっているので、そちらに通してもらえますか。私のほうからもお受けするよう、伝えておきますので」
花苗が受諾する。
「それにしても、明里ちゃんと遠野君の物語は壮大だよねえ」
感慨深げに田村が言う。
「遠野くんの種子島Daysをよく知ってる人がここにいますよ」と花苗が手を挙げる。
「そうだ……明里ちゃん、『Girls Bravo!』でもコラムというか……小説でもいいや、連載書かない?」
「え、小説?」
英米文学科専攻の明里だったから、そんな夢を持ったことはある。だけど、あくまで夢物語だった。
「二人は小学生のときに出会い、中学で離ればなれになり、手紙だけでつながり続けて、大学生になって再会、そして結婚なんでしょ。読者層の心をそのまま撃ち抜けるようなラブストーリーだと思うんだよね。これまで書いてたコラムだって、人気あったし」
田村がけしかけて、明里はいつか貴樹が言った「俺たちのストーリーはそのままドラマになる」という言葉を思いだした。
「ちょっと書いてみます。一回当たり何字で書けばいいですか?」
そういう言葉で明里も受けた。
もともと、文章を綴るのは好きなのだ。
「私も二人の馴れ初めとか知りたいなあ。連載前に読みたい!」
花苗が言って、「じゃあ、特別に脱稿したばかりのをメールしますよ……書きたてほやほやのを」
明里が笑って、和やかに会談は終了した。
花苗は校長室にいた。
「新学期早々の申し出で申し訳ありませんが、これまでの活動を保証していただけないと感じましたので、退職することにしました」
花苗の言葉は強い。悔しさと意地が転換されて強い意志となっている。
すでに欧米の複数のメーカーと、日本企業からのスポンサードを報じた記事のコピーを提示している。その額は年額4000万円にも達していた。教育委員会にも事の顛末を報告済だ。
「澄田先生、……私としては生徒たちに良好な環境を与える義務があるのだよ……」
校長は苦虫をかみつぶしたような顔をしている。
パイプライン女王の価値を正しく判断できなかった、この初老の教師は、文科省の意向を受けた教育委員会から激しく叱責を受けていた。
「わかっています。校長先生と私とでは、課せられている義務の種類が違います。私自身には日本のマリンスポーツ界のビジネスやそのほかすべてがかかっています。だから、私はハワイへ行くことに決めました。私が早く決意していれば、校長先生にもご迷惑をかけずに済んだのにと思うと申し訳ない気持ちでいっぱいです」
そう花苗は告げて、一度も教師として立たなかったグラウンドを横断して、勤務校を去った。
(つづく)
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