[河原] | |
肇 「みなさん、着きましたよ、ここが私の故郷です。 遠いところまでお付き合いいただいてすみません。」 | |
巴 「……肇はこっちの出じゃったんか。 うちの実家とも割と近いのう。」 | |
肇 「ふふ、巴ちゃんは広島ですよね。 西側出身同士、仲良くしましょう。」 | |
裕美 「綺麗な川だね。 静かだし、とってものどか。 ここでのんびり過ごしたら、気持ちいいだろうなぁ。」 | |
肇 「あ、わかりますか? 実は、ここで釣りをするのがお気に入りなんです。 じゃあ、そろそろ家へ行きましょうか。」 | |
[肇の実家] *1 | |
肇 「おじいちゃーん。肇ですよー。ただいま帰りましたー。 実はですね、今回私がこうやって実家に帰ってきたのは、 感謝を伝えたい相手が、祖父だからなんです。」 | |
肇の祖父 「おう、帰ったか。 今日はまた急に……うん? そいつらは……。」 | |
P 「ご無沙汰しております。」 | |
裕美 「えっと、お邪魔します。 肇さんと同じ事務所のアイドルの、関裕美です。」 | |
巴 「村上巴じゃ。邪魔するぞ。」 | |
肇 「驚いた、おじいちゃん? 今日は番組の撮影で帰ってきたの。 だから、カメラを持っていて……。」 | |
肇の祖父 「……。 儂は見せ物じゃあない。 そういうのは好かん。」 | |
肇の祖父 「お前らも、枯れた爺を撮っても面白くないだろう。 撮りたいのならその辺で好きに撮っとれ。 ……儂はしばらく部屋におるわ。」 | |
肇 「あ!ちょっと! もう……おじいちゃんったら!」 | |
肇 「すみません。 祖父は職人気質というか、昔の人で……。 説得してくるので、すこし待っていてもらえますか?」 | |
裕美 「おじいさん、けっこう怒ってたみたい。 大丈夫かな……。」 | |
巴 「あの手の爺さんは一度へそを曲げたら大変じゃけぇのう。 こりゃ、すこし時間がかかるかもしれんな。」 | |
[数分後] | |
肇 「みなさん、お待たせしました。」 | |
裕美 「ど、どうだった?」 | |
肇 「事前に、祖父に話を通していればよかったんですけど……。 おじいちゃんったら、すっかりこもっちゃって。 本当に頑固なんだから……。」 | |
巴 「それでどうにかなったとは思えんがな。 で、どうするんじゃ? 企画は終了ってわけにはいかんじゃろ。」 | |
裕美 「そうだね。このままってわけにはいかないよ…… でも、肇さんがありがとうを伝えたいのって、 おじいさんなんでしょ?どうしよう?」 | |
巴 「直接伝えるんは、難しいかもしれんな。 こういうときは……。」 | |
肇 「こういうときは……?」 | |
巴 「物を贈るんじゃ。 喧嘩すると、親父はいつもうちに物をよこしたもんじゃ。 それに……いつだったか、裕美もうちらにくれたのう。」 | |
巴 「手作りのもんじゃったら、気持ちもこもるっちゅうもんじゃ。 肇の日常に密着するっちゅうのとも合うじゃろうしな。」 | |
【いい案だね】 | |
裕美 「うん!それ、いいと思う! じゃあ……肇さんらしく、陶芸で、何か器を作るとか。 どうかな、肇さん?」 | |
肇 「そうですね。……器に気持ちをこめる。 こめるべきものがわからず外に出た私ですけど、今回はそれもはっきりしていますから……。」 | |
肇 「やってみましょうか。 せっかくですし、みなさんも一緒に、作ってみましょう。」 | |
肇 「お待たせしました。 器が焼けましたよ。 こっちが裕美ちゃんの。こっちが巴ちゃんのです。」*2 | |
裕美 「わぁ……! 私が作ったお皿……すごい! ちゃんと器になってる……!」 | |
巴 「うちのぐい飲みも不格好じゃが…… それもまた、味がある。 ふふん。これもなかなか、粋っちゅうもんじゃな。」 | |
肇 「ふふ、ええ。ふたつともいい器です。 でも、本当にいいんですか?」 | |
裕美 「もちろん。 私たちの器も一緒に、おじいさんに渡してほしい。 私たちの気持ちごと。」 | |
巴 「一緒に組んで、歌って、肇にはよう世話になっとる。 うちらからも、礼のひとつぐらいさせろや。 うちらの気持ちも、肇の贈りもんじゃ。」 | |
肇 「……ありがとう、ふたりとも。 では、いってきます。」 | |
[河原] | |
肇 「……おじいちゃん。肇です。 私と仲間たちで、器を焼きました。 置いていくので、見てください。」 | |
肇 「アイドルになって得たものと、 いまの気持ちを、こめたつもりです。 あの頃とは……少し違う形になったと思うから。」 | |
肇の祖父 「……もう、行くのか。」 | |
肇 「うん。 また今度、ゆっくり帰ってくるから。 今回は、これで。」 | |
肇の祖父 「……身体には気をつけろよ。」 | |
肇 「おじいちゃんこそ。 あんまり無理はしないでね。もう年なんだから。……じゃあね。」 | |
肇 「……ふぅ。無事、渡してきました。 私たちが帰った後で、見てくれるでしょう。」 | |
裕美 「おかえり。 肇さんの、とってもいい器だったもの。 きっと、気持ち、伝わるよ。」 | |
【肇、感謝だな】 | |
肇 「ありがとうございます。 ふたりに。そして、プロデューサーさんに。 この機会をくれた、番組に。」 | |
[肇の感謝――] | |
肇 「……正直、今日の器の出来は、まぁまぁです。 祖父は、きっと「まだまだだ」って言うでしょう。 器には妥協できない人ですから。」 | |
肇 「でも、今回は、私ひとりの器ではありません。 巴ちゃんと裕美ちゃんの器もお揃いです。 そこから、祖父ならわかってくれると思います。」 | |
肇 「巴ちゃんも、裕美ちゃんも、 頑固者の祖父と私のわがままにつきあってくださって、 ありがとうございました。」 | |
肇 「ここまで育てて、私に表現を教えてくれたことへの感謝。 それと、外に出て私が得たもの。 アイドルとしての表現。伝わったらいいなと思います。」 | |
肇 「元陶芸家見習い、 今はアイドルの、藤原肇でした。」 |
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