覇穹封神演義検証wiki - 一話 封神の書
脚本 高橋ナツコ 絵コンテ 演出 相澤伽月

紀元前11世紀、殷の時代ーー。
悪しき仙女・妲己によって、殷の皇帝・紂王は傀儡と化していた。
人間界の混乱を収めるため、崑崙山の教主・元始天尊は、一人の道士を呼び出す。彼の名は太公望。そして、彼に命じられた任こそが”封神計画”。
「封神の書に記された悪しき仙人たちを、封神台に封じ込めよ」
武器は類まれなる頭脳と、宝貝・打神鞭、そして霊獣・四不象。
打倒・妲己の命を受け、道士・太公望が人間界に降り立つ!
(アニメ公式サイトから引用)

唐突に始まる聞仲戦

仙界大戦の終盤が冒頭で流れる。よくある手法だがこれ以後、毎回意味のない冒頭ネタバレが繰り返される。

原作と微妙に異なる打神鞭

スースとは何なのか


このアニメでは多くの造語や尊称や地名などが存在するが、特に字幕がでることもなく説明もない。
師叔とは主人公の身分の説明や尊称。初見には厳しいアニメとなった。

ちなみに師叔とは

太公望が話を聞いていない

─妲己一人を倒して済む問題ではない。中略 混乱を避けるため、人間界で新たな王者を作る必要がある。そのためには西伯候姫昌がいいであろうな

人間界が混乱するから新しいリーダーを立てよ、と命令されてるにも関わらずこれを無視していきなりラスボスを倒しに行く太公望。
これでは太公望が人間界などどうでもいいようなキャラに見えてしまう。人間界の混乱の所は原作の違う場面の台詞を無理に持ってきてくっつけたために生まれた問題点である。
ちなみに原作3巻から引用された台詞であり、原作の流れや意図は以下を参照されたし。

原作との差

早口すぎるキャラクターと展開


詰め込みすぎな構成のためか声優の演技にも余裕がなく早口でメリハリがない。太公望の両親が眠る王族の墓参りも一瞬で終わる。

陳桐戦カット


原作第2回で描かれていた、妲己の部下である妖怪仙人・陳桐との戦いがカットされた。
陳桐戦では複数の重要な劇中設定の紹介がされ、いわゆるチュートリアルの役目を果たしており、アニメになっていれば視聴者には多くの情報が与えられたはずであった。
にも関わらずこれを乱暴にカットしてその辻褄合わせも放棄されてしまったため、各話の進行に様々な弊害が生じている。

陳桐戦があれば描写されたであろう情報を以下にまとめる。

  1. 太公望のキャラクター描写
    1. 太公望は知略で戦う頭脳派キャラクターであり、必要とあらば味方をも騙すズル賢さが魅力
  2. 妖怪仙人の情報
    1. この世界では人間以外も仙人になることが可能だが、そういった出身が人間でない者は妖怪仙人と呼ばれ差別される
  3. 妲己の部下
    1. 敵である妲己の手下には陳桐のような妖怪仙人が多く、平気で人間狩りのような悪事を働く連中である
  4. 妖怪仙人の生態
    1. 妖怪仙人は半妖態という半分人間・半分妖怪の戦闘形態をとることができる
      1. 妖怪仙人が力を消耗すると、陳桐なら正体のカマキリに変わるように、元の姿に戻ってしまう
  5. 封神の基礎情報
    1. 陳桐の敗北により倒れた者の魂は、光となって仙人界の崑崙山脈にある封神台に飛んで行き、その中に封印されるという封神の現象が起こる
  6. 太公望のスペック
    1. 陳桐は妲己の手下の中ではかなり強い方という評判の持ち主だったが、難なく勝利してしまう太公望の実力

これらが明快に描かれていたはずであった。

更に、ここでのカットが今後の展開に及ぼす影響を以下に記す。

今後の展開への影響


妲己のテンプテーションに無策で挑む太公望


禁城城門前で太公望はテンプテーションのことに言及している。
何故太公望が妲己の術を知ってるか不明でもあり、テンプテーションのことを知ってれば無策で挑むわけがなく早くもキャラクターが崩壊してしまった。

原作との差


圧倒的な描写不足

楽器を持たない宮廷音楽家


王貴人戦カットによる弊害で、太公望は彼女との対決を経て入手するはずだった石琵琶(妖怪仙人・王貴人の正体)を持っていない。
原作1巻の太公望は妲己の妹そのものであるこの石琵琶を持ち歩き、紂王と妲己に謁見して石琵琶を見せつけることで妲己の動きを牽制し、王宮内で生活しながら隙を窺うのだが、そういう駆け引きも無くなっている。
そもそも太公望が紂王に宮廷音楽家としての登用を志願した理由も、常に楽器を携帯していても不自然にならない肩書になると計算したからだが、琵琶を持たずにこんなことを言い出す覇穹の太公望の言動はあまりに狂っている。

これらの様子が「ストーリー進行のためなら、流れやイベントアイテムを平気で無視して進めるRTA」を連想させ、放映直後から「封神演義RTA」などと呼ばれるようになった。
(RTA=Real Time Attack 主にコンピューターゲームでの早解き競技のこと。「ストーリー進行の経緯は一切問わない」ルールもあれば、「ストーリーを壊すような行動を禁じる」ルールもある。本事例では前者の意味で、蔑称的に使っている。)

カットされた妲己のボスとしてのスペック

妲己の目の前で紂王を誘拐しようとする太公望


禁城に入城した太公望は謁見の場ですぐさま紂王を誘拐しようとする。
妲己や警備がいる中であまりにも軽率な行為だった。
原作では策士の印象が強い太公望だがアニメでは敵に操られている国王を、操っている張本人の目の前で連れ出そうとして失敗し、そのまま無策で捕えられてしまうというかなり間抜けな主人公に改変されてしまった。

原作との差

無能武成王


本アニメで一二を争うほど原作漫画での魅力が損なわれているのが武成王・黄飛虎である。1話での武成王の問題点を以下にまとめる。
  1. 役職の不明
    1. 原作1巻の登場シーンに吹き出しで説明されていた武成王という役職が何なのかが覇穹では説明されず、どれくらい偉い人なのかが不明。平たく言えば「大将軍」であり、聞仲の「大師」に比肩するほどの高位の役職なのだが。
  2. 強さの不明
    1. 同じく漫画の吹き出しで説明されていた戦闘能力は並の仙人以上という設定もアニメでは明確になっていない。
  3. 石琵琶なしの太公望を通す
    1. 上述の通り覇穹の太公望は石琵琶を持っていないのに、なぜか易易と太公望の実力を認めてしまう理解不能の行動を見せる。
  4. 警備責任者としての職務
    1. 石琵琶を巡っての数日に渡る妲己との駆け引きがカットされて太公望がいきなり紂王の誘拐を実行するため、黄飛虎も国王誘拐を企む不審者をすぐに謁見させた無能の警備責任者または共犯者という格好になっている。お咎めなしなようで禁城の警備体勢に疑問が残る。

蠆盆シーンで笑う太公望


太公望とともに羌族の奴隷が巻き添えを食らい蠆盆へ落とされようとしていた。そのうちの一人が抵抗のために殷の兵士を蠆盆へ突き落とすが、その直後に太公望が笑う。


原作に太公望が笑うシーンはなく、動揺と絶望の描写があるのみ。
羌族は太公望の同胞であり、それが逃げるための活路を見出したから笑ったと推測はできるのだが、
本アニメでは真に悪い意味でのん気でかつ愚鈍な印象に拍車をかけ、原作における策を弄しながら味方はもちろんのこと立場上敵であろうと犠牲者を最小限に抑えようと尽力する主人公像を「ほんの数秒で」完全に破壊してしまっている。

唐突に入る普賢との釣り


脈絡もなく釣りシーンが入る。本来は原作16巻にあるシーンだが、この回想場面を利用して、普賢真人の口から「争いごとが嫌いな性分」という主人公・太公望のキャラクターを第一話らしく説明したいらしい。
だが「傷つき色々なものを失った太公望の気が弱り、平和に過ごしていた頃を懐かしんで自分の信念が揺らぐ」という演出を目指したにしても、ここで劇中初登場となるキャラにそういう役目を任せるのは少々唐突である。せめて普賢がこの回の前半部分でちらっとでも登場して、親友の彼と共にいる時間が太公望の安らぎの象徴であると描かれてからこの場面を迎えていれば違った印象を与えただろう。

それとも「太公望」が現代でも使われる釣り師の代名詞的表現の由来らしくなるよう、早速一話から釣りをさせなければとでも思ったのか。

原作におけるこのシーンの意味