九話のメインは二人目の金鰲十天君である孫天君とのゲーム対決であるが、この話の展開は第一話のエア宮廷音楽家シーンに匹敵するほど支離滅裂で悲惨極まりない。
- すすんで罠にハマる太公望
- 孫天君の「ゲーム」は敵の攻撃なのである。敵の陣地に誘い込まれて敵の思い通りに行動していれば負けるに決まっているのだが、なぜか覇穹の太公望は相手が十天君と名乗っているのに碌な理由も示さず安易に敵の策に乗ってしまう。避けられそうな戦いなら一刻も早く逃げるべきである。
- 脅しにもならない爆発
- 部屋中のオモチャを破壊しようとする玉鼎真人に孫天君がオモチャを自爆させることも可能だと見せると、それだけで太公望はゲーム対決を了承してしまう。これではなぜ対決を強要できたのか全く筋が通らない。
- 仮に、空間もろとも大爆破して孫天君だけが平気という技だったならまだしも、玉鼎の足元で爆発しようが彼に何のダメージも与えられない威力では全く太公望たちの行動を制限できる要素になっていない。ならばそのまま玉鼎に任せて何もかも切り刻んでもらえばアッサリ勝利できたはずだ。こんな貧弱な自爆攻撃で脅迫するなら人質作戦と併せなければ意味が無い。
- 速攻で素性をバラす孫天君
- 覇穹の孫天君はゲームの罠にかけるために相手を油断させるどころか、逆に対面した直後から堂々と自らを十天君だと名乗り、無闇に警戒心を煽っている。実に立派な騎士道精神あふれるイカサマ師である。敵も味方もバカなのか?
- 太公望の無理強い
- やむなく覇穹オリジナルの会話でこのガバガバ展開の隙間を埋めることになったが、これも質が低い。
太公望にゲーム参加を命じられた四不象は、
「ええー!罠かも知れないッスよ!それに早く楊戩さん見つけないと!」
という非常に合理的な反論をするも、
「ここを出るにはヤツを倒すしか無い!」
と太公望に断言されゲームを強いられる。孫天君は「ボクちゃんのおもちゃコレクションになってもらうよ」とは言ったが、まだ具体的にゲームに負ければ何をされるか分かったもんじゃない、いきなり殺され封神もあり得るかもしれない状況でこの命令、「
死んでこい」と言っているも同然だろう。
しかも太公望が何かを観察して「孫天君を倒せば脱出できる」という根拠を得た描写は無い。「十絶陣とは何か」を理解するのも今回孫天君に神経衰弱で敗れてからのことなのに何を知ったかぶっているのか。スープーの言動の方がよほど論理的で頭脳派に見える。
原作では蝉玉の友人として人質にされた彼女を救うよう説かれるスープーだったが、覇穹の彼は本人の意志が無く裏付けにも欠ける命令で時間稼ぎの捨て駒扱いをされる。これでは太公望がただのパワハラ上司ではないか。
視聴者の中には「結局少年マンガなのだし会ったヤツと勝負して勝てば問題が解決するなら自然な流れでは」と筋肉理論やメタ視点で理解した者もいるかも知れないが、それが正しいと信じられるのは張天君が十絶陣とは何かを説明し、楊戩が力づくで陣を破ったシーンを我々だけ先に神の視点で見知っているからであろう。
人質をとられていない覇穹では、はじめに化血陣に捕まったスープーを連れてそのまま脱出できれば孫天君とは闘う必要が無かったことになる。よってそうは出来ないようにする、もっと明確な理由を新たに脚本上で作るべきであった。
この破綻を繕うなら、例えばうっかりゲームに付き合って人質にされる役をスープーに変更するか、それとも孫天君を無視して化血陣から強引に脱出を試みるが失敗し閉じ込められたことが判明、すると孫天君が陣からの解放を条件にゲーム勝負を持ちかけて来たので太公望たちは渋々応じる…等のオリジナル展開を挟めば、まだこの流れも理解できるものになったろう。
原作のまっとうな流れ
- 罠を警戒する太公望
- 原作の太公望は本項の題名にもした「敵と遊べるかダアホ!」という至極もっともな主張でゲームを拒否した。太公望たちが危険を冒して少人数で敵地に潜入している目的はあくまで楊戩の捜索であって、十天君と戦うことではない。
- 名乗りは後から、狡猾な孫天君
- 可愛いカピバラの姿で蝉玉を誘い、うかつにもクイズゲームに応じてしまった蝉玉を人形にする。こうして駆け引きの準備が整ってから、謎のカピバラは自らを十天君の一名・孫天君だと明かすのだ。いくらお調子者の蝉玉でも出会った直後から相手に十天君だと名乗られては警戒してゲームを始めるはずもなかっただろう。
- 蝉玉を人質にされたからこそゲーム勝負を受け入れる
- 孫天君は玩具の爆発を見せ、遊んでくれないなら蝉玉人形を自爆させると脅迫する。よって仕方なく太公望たちはゲームを開始した。
- 死ぬことは無いと分かったのでスープーを送り出せる
- まんまと蝉玉を仕留めて人形に変えてから、孫天君はこの化血陣のルール「負けるとオモチャにされる」を後出しで明かす。自分が勝ってから勝負のルールを明かすという、蝉玉の軽率さを差し引いてもなお卑劣さが目立つ孫天君だが、太公望はこれで安心してスープーを捨てゴマ扱い出来るようになった。人質にされるなら、いきなり殺されるようなことは無いと確信したからである。
最後に、
また言い忘れたけど、ボクちゃんは自爆も出来るんだ。
などと言い出す孫天君だが、
太公望たちと相対してから彼は一度たりとも「言い忘れ」も「申し遅れ」もしていない。「また」って一体何のことだ?
この矛盾はこの台詞の前置きとなる、原作で蝉玉がクイズゲームに負けてから「負けるとどうなるか」を教える台詞「
言い忘れたけどボクちゃんにゲームで負けたら罰としてオモチャになっちゃうからね!」をいい加減に削って手直しを怠ったためである。
もはやここまでどこもかしこもズタズタな状況では実に些細な問題であるが。