昨日行われたゲガール・ムサシVS京太郎についての観戦記および技術論です。
まず勘案しなければならないのはムサシは97キロしかなく、そしてK-1ルールの準備をしてきたのが2週間だけであったことです。
体格的な不利もさることながら、たった2週間しか準備してこなかった別競技の選手に、K-1の現王者が負けたということは恥であるということを認識しなければなりません。
誤解を恐れて弁明しておきますが、「負けた京太郎が恥」ではなく、京太郎がムサシに負けてしまうほどに「K-1自体の技術革新が一向になされないことが恥」であるということです。
「K-1はキックボクシングとは全くの別競技」とよく言われますが、そもそもK-1とキックボクシングを同一系列に置こうとすること自体が間違いです。
キックボクシングとボクシングを誰もが別系列に見るように、K-1とキックボクシングも全く異なる競技体系で見ようとしなければ、正しくK-1の全体像を捉えることができません。
K-1ファイターである京太郎が負けた理由は、むしろムサシの方がよりK-1らしい戦い方をできたことにあります。
それは未だK-1をキックボクシングの同一系列上に見られていたことが原因に感じます。
ムサシのパンチは既存のK-1ファイターと比べると、インから繰り出され、そしてキレがあります。
それはパンチの基本スキルに秀でているからです。
具体的には、パンチ一連の回転運動が非常に優れています。
一見するとムサシのパンチは滑らかに体が水平回転していないように感じられます。
しかし体の円滑な水平回転は、斜めのパンチ軌道を生み出し、ブレーキ作用がないため唐竿効果をもたらしません。
例えばジャブを打つ際、右半身をロックしたまま左半身を回転させることで、左肩が真っ直ぐ繰り出され、さらに唐竿効果により運動量が増幅され、スピードと威力が増します。
あくまでインから繰りだそうとするのではなく、またスピードを出そうとするのではなく、適切な回転運動という基本スキルが高水準で備わっているために、既存のK-1にはない脅威的なパンチという外観が残ります。
京太郎は序盤インローでムサシを崩そうとしましたが、ムサシは総合格闘技の間合いである「ステップインの余地」を残して戦っていたために攻撃をスカされます。
さらにローキックを放ったところに、インから繰り出されるパンチを被弾しますが、これは既存のK-1選手のパンチならば決してカウンターを喰らうことはなかったでしょう。
ムサシのディフェンスワークは相手の攻撃をフルで受けないよう、柔軟に対処していたのが印象的です。
ミドルレンジでは腕を伸ばして肩で受け止め、ショートレンジでは頭を抱えるようにブロックすることで硬直時間を短くします。
攻撃後には小刻みにダッキングやウィービングを交えることで相手に的を絞らせません。
ラッシュが来ても、頭を振って京太郎のパンチをことごとく空転させていました。
キックボクシングにおいてウィービングは厳禁だとも言われています。
K-1でもチェ・ヨンスが魔裟斗のミドルキックをウィービングした際に顔面に被弾しています。(2007年Dynamite)
しかし首相撲が完全禁止となった現K-1ルールでは、特にショートレンジにおいてボクシングの要素をより多く取り入れることが求められます。
K-1 WGP 2010開幕戦のオープニングファイトで行われたセルゲイハリトーノフVS佐藤匠では、「ショートレンジから相手をKOするテクニック」というニッチな分野が開拓されました。
そして蹴りの脅威を防げるのならば、ウィービングやダッキングも十分に有効であることを今回ムサシは証明しました。
攻防が分離しがちなK-1の新たな可能性を提示した2名が、奇しくもアマチュアボクシングをバックボーンに持つ総合格闘家であることは、既存のK-1ファイターが未だ「K-1」を体現出来ていないことを示しています。
パンチを主体に闘いながらも、蹴りよりも遠い間合いで戦える距離感。
ウィービングやダッキングを多用しつつ、相手の攻撃を柔軟にいなすディフェンスワーク。
精度の高い回転運動による、インから繰り出されるキレのあるパンチ。
ムサシはK-1の新たな可能性を提示してくれました。
それは2年前に武蔵を圧倒した時よりも遥かに明確なヒントです。
K-1ファイターがこれからもK-1の新たな可能性を見出せないのならば、この試合は単なるK-1の恥として終わってしまいます。
別競技でありながらも、日本格闘技においてはいくらか交わりを持つ総合格闘技の脅威的な進化を横目で見過ごすのではなく、いかにして総合格闘技が進化しているのかを研究するべき時はとうに訪れています。
まず勘案しなければならないのはムサシは97キロしかなく、そしてK-1ルールの準備をしてきたのが2週間だけであったことです。
体格的な不利もさることながら、たった2週間しか準備してこなかった別競技の選手に、K-1の現王者が負けたということは恥であるということを認識しなければなりません。
誤解を恐れて弁明しておきますが、「負けた京太郎が恥」ではなく、京太郎がムサシに負けてしまうほどに「K-1自体の技術革新が一向になされないことが恥」であるということです。
「K-1はキックボクシングとは全くの別競技」とよく言われますが、そもそもK-1とキックボクシングを同一系列に置こうとすること自体が間違いです。
キックボクシングとボクシングを誰もが別系列に見るように、K-1とキックボクシングも全く異なる競技体系で見ようとしなければ、正しくK-1の全体像を捉えることができません。
K-1ファイターである京太郎が負けた理由は、むしろムサシの方がよりK-1らしい戦い方をできたことにあります。
それは未だK-1をキックボクシングの同一系列上に見られていたことが原因に感じます。
ムサシのパンチは既存のK-1ファイターと比べると、インから繰り出され、そしてキレがあります。
それはパンチの基本スキルに秀でているからです。
具体的には、パンチ一連の回転運動が非常に優れています。
一見するとムサシのパンチは滑らかに体が水平回転していないように感じられます。
しかし体の円滑な水平回転は、斜めのパンチ軌道を生み出し、ブレーキ作用がないため唐竿効果をもたらしません。
例えばジャブを打つ際、右半身をロックしたまま左半身を回転させることで、左肩が真っ直ぐ繰り出され、さらに唐竿効果により運動量が増幅され、スピードと威力が増します。
あくまでインから繰りだそうとするのではなく、またスピードを出そうとするのではなく、適切な回転運動という基本スキルが高水準で備わっているために、既存のK-1にはない脅威的なパンチという外観が残ります。
京太郎は序盤インローでムサシを崩そうとしましたが、ムサシは総合格闘技の間合いである「ステップインの余地」を残して戦っていたために攻撃をスカされます。
さらにローキックを放ったところに、インから繰り出されるパンチを被弾しますが、これは既存のK-1選手のパンチならば決してカウンターを喰らうことはなかったでしょう。
ムサシのディフェンスワークは相手の攻撃をフルで受けないよう、柔軟に対処していたのが印象的です。
ミドルレンジでは腕を伸ばして肩で受け止め、ショートレンジでは頭を抱えるようにブロックすることで硬直時間を短くします。
攻撃後には小刻みにダッキングやウィービングを交えることで相手に的を絞らせません。
ラッシュが来ても、頭を振って京太郎のパンチをことごとく空転させていました。
キックボクシングにおいてウィービングは厳禁だとも言われています。
K-1でもチェ・ヨンスが魔裟斗のミドルキックをウィービングした際に顔面に被弾しています。(2007年Dynamite)
しかし首相撲が完全禁止となった現K-1ルールでは、特にショートレンジにおいてボクシングの要素をより多く取り入れることが求められます。
K-1 WGP 2010開幕戦のオープニングファイトで行われたセルゲイハリトーノフVS佐藤匠では、「ショートレンジから相手をKOするテクニック」というニッチな分野が開拓されました。
そして蹴りの脅威を防げるのならば、ウィービングやダッキングも十分に有効であることを今回ムサシは証明しました。
攻防が分離しがちなK-1の新たな可能性を提示した2名が、奇しくもアマチュアボクシングをバックボーンに持つ総合格闘家であることは、既存のK-1ファイターが未だ「K-1」を体現出来ていないことを示しています。
パンチを主体に闘いながらも、蹴りよりも遠い間合いで戦える距離感。
ウィービングやダッキングを多用しつつ、相手の攻撃を柔軟にいなすディフェンスワーク。
精度の高い回転運動による、インから繰り出されるキレのあるパンチ。
ムサシはK-1の新たな可能性を提示してくれました。
それは2年前に武蔵を圧倒した時よりも遥かに明確なヒントです。
K-1ファイターがこれからもK-1の新たな可能性を見出せないのならば、この試合は単なるK-1の恥として終わってしまいます。
別競技でありながらも、日本格闘技においてはいくらか交わりを持つ総合格闘技の脅威的な進化を横目で見過ごすのではなく、いかにして総合格闘技が進化しているのかを研究するべき時はとうに訪れています。
このページへのコメント
JfALOc Thanks-a-mundo for the blog article.Much thanks again.
>ruslanさん
>マイク・タイソンの意味を履き違えていたら申し訳ございません
「クリンチ掴み厳禁ルール下ならショートレンジを相手に強要できる突進力は風景を一変させるはず。それは十分実装可能な技術のはずで、その状況下では純粋にショートレンジの攻防に優れた選手が勝ち、クロスレンジ以遠の技術は無意味になるだろう」という短絡的な推測です。ガードを固めて相手の懐に飛び込んでからしか話が始まらないという選手が居たとして、ロングレンジ基本の総合やムエタイ系の選手が距離を維持できる手段がないと思うのです。
優位戦術の探索が好きなのは、ゲーマー上がりでゲームルールにおける抜け穴的最強とは何かという思考方法に慣れているからだと思うんですけど、そのように感じます。
>銀玉さん
明けましておめでとうございます。こちらこそ宜しくお願い致します。
>きちんとしたストレートを放つことって結構習得するのが難しい技術なのでしょうか?
伸ばしきった状態で当てる自体は難しいことではないですが、好きなようにミットを打っていると、大抵は肘を曲げた状態で当たってしまいます。(肘が完全に伸びきった状態でヒットすると、軽く当たっても脱臼するかのような痛みを感じます)
それを修正するのはミット持ちであり、普段の練習を管轄するトレーナーの役割が非常に大きくなります。
ムサシの指導者のレベルが高いことを示しているのかもしれません。
逆にチームドラゴンでは濃密な環境の中で、時間内にたくさんのパンチを打つ練習をしているようなので、基本スキルの上達が遅れてしまうのだと想像しています。
ムサシの当て方は拳の位置だけでなく、三角筋なども生かせているんですね。
詳しい解説ありがとうございました!
また更新楽しみにしています。
あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
ゲガールはショートのパンチを打ち込むテクニック、またはディフェンスもさることながら、既存のK-1ファイターと決定的に違うところは腕をしっかりと伸ばしきって右ストレートが打てるところだと感じました。
京太郎の右と比較すると、京太郎はストレートでも肘が曲がっている状態で放っていますからね。
きちんとしたストレートを放つことって結構習得するのが難しい技術なのでしょうか?