作者:社長
初出:http://kinotakehinan4.exout.net/test/read.cgi/pray...



ここは何処かの山のふもとの村。

雲りなき、満月の夜。

あたしは、この世に誕生した。


もし、あたしが普通であれば、変わったのかもしれない。

あたしは、普通の赤子として、生まれなかった。

あたしの耳は、尖っている。

あたしの犬歯は、獣のような鋭さだ。

あたしの頭には、小さな角二つ。

生まれたあたしは、すでに乳児の大きさではなく。


生まれたあたしは、鬼の子と呼ばれ。

あたしは、山の中、奥深くに、棄てられた。


幼い身体であろうとも、呪われた身体と罵られ、身体を砕かれ。


それでも、命は残っていたから、這いずり、地に塗れながら、生きていった。

壱の年を経る。
弐の年を経る。
年月を重ね重ねて、拾の年。


あたしは、生まれて拾年、ずっと孤独に生きている。


鬼子として棄てられ、そして、山の中を生きている。

――ある日。

山に吹き荒れる大嵐。
木々を大きく揺らす風、視界を覆う強い雨。

あたしは、住処の洞穴で、ただ吹き荒れる大嵐を見つめていた。

住処の洞穴からは、海を見渡す崖に近い。

この嵐は、いつになったら止むのだろうか。

「あ……」

あたしは、止まない嵐に辛抱できずに、様子を見ようと外に出てしまった。


吹き荒れる強い風は、あたしの身体も吹き飛ばす。

息苦しい。前が見えない。意識が、自然に遠のいていく。

意識が、嵐の中に飲み込まれた。

―――――――――暗闇。





真っ暗な中に、沈んでいる。

「おい」
……何か、声が、聞こえるような……

暗闇の中で、あたしは考える。

「おいっ!」
あたしは、頬を叩かれた。

「ん……っ?」
あたしは、目を開ける。

暗闇から突如差し込む光に驚いて、声を漏らした。


「やっと目が覚めたか、お前さんは」
声の主は、呆れた声であたしに呼びかける。

「え?」


「あー、わしの声が、聞こえる…みたいじゃな」


「え?え?」


あたしは、困惑する。
嵐に呑まれてしまったと思っていたのに、何故、肌や声の感触を感じるのだろう。

「…あたしは、死んでしまったんじゃあ……?」

「……寝ぼけておるのか?」


あたしは、呆れた目で見つめられた。

そのひとは、月光のような色の髪。

耳には、狐のような耳が付いている。

腰には、太刀を二本携えている。

服は、神の使いのような、陰陽師のような服。


あたしと同じ、鬼の子なのだろうか。
それとも、神のような存在なのだろうか。

「…その、ここは、あなたは、いったい?」


「混乱…してるみたいじゃなあ。申し訳ないことをしたのう
 ここは、空の上、雲の中、その狭間にある【天の国】という…

 わしはこの世界の……一応、主であり、長じゃ
 もっとも…わしの作った世界じゃし、わし以外の、誰もおらぬけれどもな」

女性は、かっかっと笑う。

「えっ、…天の、国?
 …あの世じゃ、ないの?」
あたしは、何が何だか分からない。


「あの世は、命果てた者の来る世界じゃ」
「あたしは、その…」

「おぬし、死んだと思っておるのか
 わしが、海の中へと沈み逝きそうなそなたを引き上げたんじゃぞ」

「えっ?」


「そなた、海の藻屑になるところじゃったぞ?」
脅すように、はたまたからかうように、女性はあたしに語った。

「まだ、名を名乗っていなかったの
 わしの名前じゃが、フウと云う」


「…フウ…」

「そう、フウじゃ。
 おぬしは、何と申す?」


「……い」

「?」



「その、あたしには、名前が……」
涙が、ひとすじ。
一筋の涙は、すこしずつ溢れてくる。

「なま…えは…」


あたしは、生まれてすぐに捨てられた。
そう言おうとしたけれど、言葉にならない。

「…その、なま…うぐっ、なまえ…は…」


あたしは、目の前がぼやけて見える。
目頭が、燃えるように熱い。

そのひとは、察したのか、あたしを抱きしめた。
「……すまない、のう。…聞いては、まずいものじゃったか」


「んぐっ…うっ…あなたは悪くな………」
あたしは、そのひとに包まれる感覚が、とても嬉しく感じた。

そして、あたしの涙をぬぐいながら、そのひとは少し考えて。


「そなたは、これから行くあては、あるのか?

 ……よければ、わしと、一緒に過ごさぬか…
 ただ、わしと一緒にいてくれるだけでいい」

「え…?」


「わしは、おぬしと、一緒にいたい…
 引き上げたとき、何故だか、そういう気持ちがして、のう」

そのひとは、あたしを抱く腕を、強くする。
あたしを、離したくないように。

そのひとは、あたしを抱きしめたまま、あたしに顔を近づけて。



「………」
あたしは、そのひとを見つめる。



「………」
そのひとは、あたしを見つめる。



あたしにとって、そのひとは、ひとりの、おねえさん。


そのひとにとって、あたしは、ひとりの、しょうじょ。



「あたしなんかと、一緒に、いても、いいの?」


そのひとは、表情を悟られないように、すこし顔を背けて。

「ああ」
でも、その声はどこか嬉しそうで。



「いっしょに、すごしても、いいよ」

「……ありがとう
 なら…おぬしに、名前をつけないとな」



少し、考えて。


「…そなたと出会う切欠の、今日の海の荒れ、大地を奮わせる嵐はもう過ぎた…
 天の国からでも分かる、新月の日……
 …引き上げたときに舞った海の水が、月をも流したのじゃろうか
 ………じゃから、朔海…サクミ
 でどうじゃろうか…な」

「サク、ミ……サクミ…
 ありがとう、あたしに、名前をくれて…
 フウ、さん」




周りの静けさは、あたしたちの邪魔をしないようで。
その静けさが、あたしの体温を感じさせる。
その静けさが、そのひとの体温を感じさせる。




「サクミ、では、契りの儀式を執り行うぞ」

「うん…」

フウさんは、あたしの唇に、唇を合わせた。
一瞬のうちに、体温も鼓動も、上がってゆく。



「そ、その…」
フウさんは、少し顔を赤らめながら、あたしを抱いた腕を放して。

「接吻することが、…その、わしの契りじゃからのう
 ふふ、サクミよ、そんなに緊張したのか?
 かわいい反応じゃな」

からかい気味に言ったあと、そしてまた、あたしに抱きついた。
「ちょ、ちょっとっ」


「わしは、千の年月を越えても、ずっと一人だったから、誰かに触れる…のは初めてなんじゃ
 もう少し、抱いていてもかまわない……かの」

「あ……」
フウは、きっと、あたしと同じ心なのだろう。
千の年を越して―――
この世界とは違う、天の国の住まい人で、天の国の長で。


あたしと出生も、暮らしも、種族が違っても、心は、気持ちは同じ。


だから、あたしも抱き返した。

触れ合う肌の暖かさも、心の臓の鼓動も、寄せ合おう。


この天の国で、あたしとフウと、ずっといっしょに―――




鬼乃子と長乃狐 完


サクミ 10歳
鬼子として生まれ、山の中に棄てられた。
それなのに人の言葉が普通に分かっていたり、いろいろ知識があるのは、
母親の腹の中で外界から聞こえてきたことからすでに学んでいたからである。

フウ 推定1000歳。
人の姿を持ちながら、狐である。
異常な存在とみなされ、山奥に追放された。
霊力などの呪力を操り、幾年も生き永らえ、いつしか神と呼ばれる存在となる。

2014/05/29 公開

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