2-9:戦闘術魂、伝承編〜前篇〜

初公開:2015/02/20

【K.N.C180年 会議所 教練所 中庭】

筍魂「『ストーン・エッジ』」

アイム「ぐえッ」

筍魂「『オーバー・ヒート』」

アイム「ぐッ!!」

筍魂「『しねしねこうせん』」

アイム「―――ッ」

途方もない回数、アイムは筍魂に戦闘を挑み、その度にアイムは地面に投げ飛ばされ傷を増やしていた。
頭から地面に突っ込み、その勢いで中庭の草木がごっそりと禿げる。禿げた部分の土が顔に当たり、ひんやりとアイムの気持ちを幾分か楽なものにする。
地面の中で暮らす生物たちが羨ましいとアイムは一瞬感じたほどだが、顔にできた擦傷や切傷が地面の冷気に呼応するように痛み出し、すぐに否応なく現実に戻される。

筍魂「はやく起きろ。時間がないと言ったはずだ」

筍魂は無表情でアイムに指図する。傍目から見ても、ボロ雑巾のようになっているアイムに純粋な戦闘力は殆ど残っていないのはわかりきっている。
しかし、アイムは戦闘力こそ残っていなかったが、純粋な“闘争心”は依然として心に燃やし続けたままだった。表情には出さずとも、筍魂は自らの眼力が正しかったことに独り愉悦した。

アイム「今にテメエの吠え面を欠かせてやるからな…」

筍魂「…言ってろ」

筍魂が自らの身体を沈み込ませ、深い姿勢を取る。まただ。アイムは心のなかで舌打ちする。アイムは筍魂の攻撃を一切追えていない。
今も、目の前で攻撃態勢を整える筍魂に一つも対処策が浮かんでこない。自らの戦闘力の強さを“思考力”で頼りきっていたアイムにとって、
目の前で起きている不測の事態は彼を必要以上に焦らせ、彼のペースを乱した。

筍魂「こちらから行くぞ」

周りの草木が呼応するようにザワザワとさざめき、筍魂の下に草木が螺旋の渦を描くように集まり、一つの輪を形成する。
アイムは、そんな光景を一歩も足を動かすことができず、ただじっと見ていた。流れるような動作、手捌き、姿勢。どれを取っても美しいとさえ感じた。

筍魂「『リーフ・ストーム』」

凶器となる大量の草木がアイムに向かって飛んでくる。眼前を緑一色に覆われ、そこでアイムは先日の時限の境界を思い出した。
楽園と言われても納得するほどの色彩豊かで生物が共存しあう野原、不釣り合いなほどに紅色を放つ千本鳥居、そして自分が見つけた、クレーターのように地面にポッカリと開いていた穴。
自らの記憶を手繰り寄せ、そして得られようとする一つの結論。しかし非情にも持ち前の思考力は筍魂の攻撃によって途切れてしまい、振り出しに戻ってしまうのだった。


【K.N.C180年 会議所 教練所】

アイム「………ハッ!!ここはッ!」

意識を取り戻したアイムは、急いで起き上がる。そこは鬼教官山本にしごかれた教練所で、ある意味で見慣れた場所だった。

筍魂「起きたか。死んだかと思って心配したわ」

アイムの額に乗せる新しい手拭いを手に取り、筍魂は部屋に戻ってきた。

アイム「て、テメエ!まだ勝負は終わっちゃいない!もう一度勝負だッ!」

筍魂「あれだけコテンパンにされたのに、俺に恐怖心を抱かないどころかなおさら対峙しようとするとは。
やっぱりお前はすげーな。そんな原石を発掘した俺のほうがすごいけどな」

しかし、俺は暫くお前とは勝負しない。そうアイムに告げ、よっこらしょういちという古臭い言葉とともに椅子に座る。アイムは若干引いた。

筍魂「俺とお前には歴然とした力の差がある。それはお前自身、よくわかっているはずだ。
そんな状態でまた戦っても、結果は目に見えているし、お前に無用な怪我が増えるだけだ」

グッ、とアイムは反論しようと言いかけた言葉を飲み込んだ。筍魂の言うとおり、アイムには目の前の“師”に対抗するだけの術はないのである。

アイム「アンタが言っている【戦闘術魂】を修得しているかいないか。その差が俺とアンタの力の差に直結している。そう言いたいんだろ?」

筍魂「話の飲み込みが早くて助かるよ。そのために、俺はお前を弟子に欲しがったし、お前は俺を欲した」

アイム「だったらさっさと稽古でもなんでもつけてくれ。時間がないんだろ?オレの身体ならもう大丈夫だ」

筍魂「アイムはせっかち。落ち着け、お前に稽古をつけるのは俺じゃない」

アイム「は?じゃあ、誰なんだよ」

筍魂「それは――」


【K.N.C180年 会議所 大戦年表編纂室】

オニロ「よろしくねアイム!」

アイム「…」

筍魂「じゃあそういうわけで3日後にまた来るから。それまで逃げるんじゃあないぞ」

二人の足首に嵌められた足輪を満足気に眺めながら、筍魂は愛弟子の肩を軽くぽんと叩いた。
ゲンナリとしながらアイムは先程の筍魂との会話を思い出す。目の前の師は、確かこう言っていた。

━━
━━━━

筍魂『お前に稽古を付けるのは俺ではない。オニロだ』

『少し荒療治だが、これから3日間、お前は編纂室でオニロと始終行動をともにしてもらう』

『なにもただ3日間一緒に過ごせと言うわけでない。一つ課題を出す。それを定められた期間内で探しだせ』


         【無秩序の全は一に帰し、“生命力の流れ”は即ち“世界の理”と同化する】

この言葉の意味を、お前は3日間のうちに理解しなくてはいけない。これが俺からの課題だ。』

『いやあ〜正直、自分で鍛錬つけようと思ってたのめんどくさかったからオニロ君がいてちょうどよかっ…あっ、なんでもないっす』

━━━━
━━


アイム「どうしてこいつとなんだよ…」

筍魂「嫌よ嫌よも好きのうちって言うし、まあ多少はね?」

オニロ「そうそう!」

筍魂「じゃあそういうわけでバイビー。あ、シューさん。すいません、ご迷惑おかけします」

集計班「大丈夫ですよ。どうせ私はそこらへんで寝転がってますから、修行の邪魔にはならないと思います」

筍魂「サンキューシューさん。はたらけシューさん」

じゃあ頑張れよ。そう言い残して、驚くほどあっさりとした態度で筍魂は編纂室から出て行った。
彼が再び編纂室を訪れるのは3日後。それまでに、アイムは筍魂から出された『課題』の答えを見つけ出さないといけないのだ。

オニロ「頑張ろうねアイム!」

横で嬉しそうに舞い上がるパートナーを見て、アイムはただ溜息を付くばかりだった。


【K.N.C180年 会議所 大戦年表編纂室 一日目】

オニロ「いやあ、筍魂さんの鍛錬?とやらには驚かされるねアイム!でも、ボクはまたこうしてアイムとお話することができて嬉しいよ!」

アイム「わかったから声のボリュームをもう少し下げてくれ…横でキンキン騒がれたらたまらん」

オニロ「あっ、ごめん。面と向かって人と話すのも久しぶりだから、つい嬉しくなっちゃって」

アイムの師である筍魂が命じた訓練とは『オニロと3日間、行動を共にすること』だった。
二人の足首には足輪が紐を介して互いに繋がれ、彼らは寝食まで行動を共にしなければならなかった。

鍛錬自体に不可思議さは残るものの、アイムは概ね訓練内容に不満はない。元よりどれだけ理不尽な鍛錬でもアイムは耐えるつもりでいた。
ただ。ただ、なぜパートナーがよりにもよってオニロなのか。会議所連中のなかでも特に忌み嫌い、一番顔を会わせたくない存在であるオニロとどうして3日間も同一行動を取らなければいけないのか。
アイムにとっては苦痛以外の何物でもなかった。

オニロ「じゃあ早速、毎日の日課になってる部屋の掃除を…」

アイム「は?ふざけんな。オレは書庫のほうに行くぞ」

オニロ「え。でも部屋がグチャグチャになってるから綺麗にしたほうがいいよ…主にシューさんのせいだけど」

アイム「ゴミの山に沈めておけよ。そのうち苦しくなって出てくるって」

二人がそれぞれ反対の方向に歩き出そうとするので、紐で繋がれた足輪は互いの足をキツく締め合う。ちなみに足輪は大魔法使い791お手製のもので、そう易易とは外れない仕組みになっている。

アイム「オレには時間がないんだよ!書庫のほうに行かせろってんだッ!」

オニロ「ム。日々の生活習慣が大事なんだよッ!それに、部屋を掃除したら後で書庫の棚の整理に行くからそれまで待ってればいいじゃないかッ!」

アイム「掃除、整理って…お前は家政婦か何かか!そんなんだからお前はアマちゃんなんだよッ!」

オニロ「アマちゃんって…この間大戦で戦った時はボクがアイムに勝利したじゃないかッ!」

集計班「…あのー。煩くて眠れません。もっと声のボリュームを下げてください」


【K.N.C180年 会議所 大戦年表編纂室 二日目】

何も進展がないまま、二日目の夜が過ぎようとしていた。アイムには焦りしかない。しかし、行動をともにするオニロとの関係は悪化の一途を辿るばかり。
始めの方はアイムに同情して色々と話しを振ったりしてコミュニケーションを図ったオニロだが、アイムのあまりのツッケンドンな態度に流石の温厚なオニロも業を煮やし、次第にオニロの態度も硬化し始めた。
二日目の朝からはお互いに一言も喋らず、オニロが黙々と書庫整理をする中、アイムは書物で筍魂からの課題について調べる。
しかし、普段録に本に読んでいないことが災いしてか、碌な手がかりを得られず今に至る。

アイムはこの期に及んでも気がつかない。横で寝ているそりが合わないパートナーと協力をすることが、筍魂の課題を解決する一番の近道であり唯一の解決法であるということを。
ただ、自分さえ良ければいいという独りよがりの考えは、自らの首を締めるだけのものだと。しかし、アイムはオニロに頼れない。
それは勿論オニロが気に食わないということも理由の一端としてはあるが、一番の理由は他人への頼り方を知らないアイムの内面自体にあった。
人に頼ることを知らずに、自らの幸福を第一に追求して来た彼は、周りと協力する方法を知らない。スタンドプレイでは異色の力を発揮してきた彼だが、ことチームプレイになると赤子も同然なのだ。

アイム「…」

灯りも落とされ、本棚の裏手にあるベッドにアイムとオニロは横たわっている。最近は、歴史改変による時空震も少なくなり睡眠を妨げられることは少なくなったというが、ベッドで安らかに眠るオニロの目には深いクマができている。
こいつはこいつで苦労しているんだな、とその時になってアイムは初めてパートナーの顔をまじまじと見つめる。
しかしすぐに顔を目の前の書物の山に向ける。ベッドの脇に置かれている微かな灯篭の光を頼りに、アイムは必死に筍魂からの課題を解こうと躍起になっていた。

―― 【“生命力の流れ”は“世界の理”と同一のものである】
     この言葉の意味を、お前は3日間のうちに理解しなくてはいけない。

生命力の流れ、とは何を指すのか。そもそも生命力自身が世界とどう関係してくるのか。

焦りからか、本のページを捲る手が震える。明日の朝には筍魂が来る。その時に、どう答えればいいのか。答えを今から自分なりに捻り出すか、しかし筍魂の前では通用するはずがない。
オレに向いてない鍛錬ではなかったんじゃないのか。仮にそうだとしても、あの時点で引き受けたオレに非があるのは明白だ。
そもそも、どんな理不尽な内容でも立ち向かうと決めたのはオレ自身じゃないか。オレはオレ自身に嘘をつかなくちゃいけないということなのか。そんなことは許されない…

オニロ「…ねえ、アイム」

アイムが自らの思考の迷路に入り込んでいた時、横からそっと声がかけられる。
アイムが無言でオニロに顔を向けると、半身起き上がったオニロと目が合う。灯篭の光に当てられ、オニロの薄白い肌が際立った。
互いに会話をするのは昨日の夜に寝る前の挨拶をして以来だ、とアイムは至極どうでもいいことを考えた。

オニロ「少し、話をしない?」


【K.N.C180年 会議所 大戦年表編纂室 二日目】

パタパタと静かに部屋の上部へとはためている大戦年表を二人は眺めていた。座っている床には紙面の切れ端や紙くずが散乱している。
今朝、この付近はオニロが懸命に掃除していたはずだが、どうやら一瞬で集計班が汚して回ったらしい。オニロの苦労も耐えないな、と隣に座るパートナーに少し同情した。

オニロ「こうして喋るのも久し振りだね」

照れくさそうにポツリと声をだすオニロ。二人の視線はあくまで目の前の大戦年表を向いたまま。目を合わせようとはしない。
暫くの沈黙の後、意を決したようにオニロはアイムに話しかけた。

オニロ「アイムはさ、筍魂さんにボクと3日間この編纂室で過ごすように指示されたんだよね?」

アイム「…そうだな」

オニロ「本当にボクと一緒に過ごすだけが訓練の内容だって伝えられたの?」

アイム「…そうだ」

アイムはオニロに筍魂から出された課題については一言も伝えてはいなかったし、伝える必要もないと考えていた。

オニロ「…そうなんだ。でも、それが本当なら――」


――どうしてそんなに焦っているの?


部屋の上部から僅かにカリカリと筆記ペンの動作音が、アイムの気持ちをはやらせる。

オニロ「キミが嫌いなボクと3日間過ごすだけなら、この無味乾燥とした周りと時間の流れの違う部屋にいるキミは半ば自暴自棄気味に過ごしてもおかしくない。
それ程、キミにとっては退屈な部屋だろうからね」

――でも、キミはこの部屋で何かに抗おうとしている。

オニロ「怠けもせず書庫で必死に本でナニカを探そうとしているアイムを見て、
『アイムはボクと3日間過ごすことだけが目的じゃない。何か別の目的があるんだな』って思ったよ」

さすがのボクも何かおかしいなて気がつくよ。そう呟き、オニロはアイムに向き直る。

オニロ「アイム、キミが抱えている真の訓練の内容をボクに教えて欲しいんだ。アイムの力になりたいんだ」

アイム「…逆にオレから一つ聞いてもいいか」

オニロ「勿論いいよ」

アイム「どうして、オレにそこまで構うんだ」

オニロ「アイムがボクのことを嫌っているのは知ってるよ。ボクも昨日から今日にかけて、アイムにはほとほと愛想が尽きたと思ったよ。でも。でもさ、――」


――ボクらは仲間じゃないか。


オニロ「仲間は助けあうもの、そうじゃない?」

それに、嫌々ながらボクの掃除に付き合ってくれるアイムが悪い人だとは到底思えないよ。そう語り、オニロはアイムに笑いかけた。

アイムはオニロの言葉を理解するように暫くの間、頭のなかで反芻した。
いつか、筍魂がアイムに言っていた。『オニロとアイムとの差はチームプレイかスタンドプレイにある』という言葉を思い出す。
昔なら一蹴していたが、今なら師の言葉もすんなりを受け入れられる気がする。長い時間、たっぷりとかけアイムは考え、考えぬいた末の結論を出す。
不思議と清々しい気分になる。目の前の漆黒の室内も、灯篭に照らされたように明るく見える。
息を一回深く吸い、深く吐く。心の準備はできた。

アイム「筍魂の野郎に、課題を出されたんだ――」

たどたどしくはあるが、アイムはオニロに語り始める。ポツリ、ポツリと語りながら、支離滅裂に話している内容にも、
懸命に相槌をうつオニロが印象的だと、アイムは感じた。

その日、アイムは初めて“仲間に頼る”術を知った。


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