今は亡き耳かきコリッの避難所

BL小説の耳かき該当部のみサルベージ

元(閲覧注意)

あらすじ:和服姿の美青年が耳掃除をしてくれる

曇りガラスで外の日差しが和らぐのだろうか、店内は薄暗く、それでいて陰気な感じでもなく、静かで涼しかった。
 一メートル四方ほどの三和土、小上がりの縁にスリッパ。そして板の間。
 外の路地のごちゃごちゃ感から、一気に和みの空間に連れてこられたような、昭和の浪漫を肌で感じたような、そんな気持ちにさせられる店である。
 板張りの間の奥には、ぽやーんとした感じの青年が、和服姿で座っている。サラリとした髪を品の良い形に切り揃えていて、撫で肩柳腰。
 卵形の白い貌に、長い睫毛が陰を落とし……木椅子の上で文庫本を読みながら、ウツラウツラしている。脂気のない、植物系男子。年は二十代半ばほどだろうか。
「あ……いらっしゃいませ」
 矢七の気配に気付いたのか、和服青年は文庫本を傍らに置くと、ゆっくりと立ち上がった。
 その身ごなしも優雅で、ついさっきまで勝ち気で強情な下町の地主と戦っていた矢七は、うっとりと見とれてしまった。
「あんたが耳掃除すんのか」
「はい。一人で細々とやっているもので」
 声も小さく、おっとりとした口調である。何かを主張したり、他人に押しつけたりする感じが全くない。
「そうか。そんで、ここでやるのか?」
「いえ。奥の間にいらしてください」
 障子を開けるとそこは小綺麗に片づけられた六畳間だった。
「お座布団を敷きますね……はい、こちらに横になってください」
「え、寝るの? 座ったままじゃなくて?」
「それだとお客様の首が疲れてしまいます。さあ、遠慮なさらず、私の膝に頭を載せてください」
 椅子に腰掛けるか、座布団に座るかして掃除するものかと思っていたが、なんと膝枕。座布団を数枚並べて敷き、そこに矢七は横になる。
 男の膝枕なんて――と思ってはみたものの、耳掃除師の膝の高さと弾力はなんとも丁度よく心地よい。頭の左側を下にし、右耳から施術してもらう。
「おや……だいぶ溜まってますね」
 そんなことを言いながら、耳掃除師は矢七の耳を覗き込んでくる。そして何本か用意してある耳かきの中から、一本選び、耳の中に差し込んできた。
「あ……そこ。もっとゴリゴリやってくれ」
「耳の中はデリケートですから、傷をつけないようにしないと……ああ、痒いですよね。剥がれかけた皮が貼り付いている」
 耳掃除師は矢七の言葉に優しく答えながら、絶妙な耳かき使いで、痒いポイントを探ってくる。
 丁寧に耳を覗き込まれ、痛くないように垢を取ってもらえる幸せ。それを矢七は噛みしめていた。耳たぶや軟骨部分に触れる指の優しさに、ウットリとする。
 こんなに気持ちいいなら、女に膝枕とかせがんでおきゃよかったか。
 見た目に不自由がない矢七は、数限りなく恋人を取り替えてきたが、それを少し後悔する気持ちになる。かつての彼女たちとは乱暴に身体を重ねてはそのうち口論になり別れる、というような展開を繰り返してきたのだ。
 一通り滓を取り終えたのか、耳掃除師は耳かきを綿棒に持ち替えた。
「綺麗に拭って、スッキリしましょうね」
「はい」
 思わず敬語で答えてしまい、矢七は苦笑した。この穏やかな耳掃除師の口調につられてしまっている、と。
「消毒するのか?」
「殺菌効果のある化粧水があるんです。それで拭いますから」
 ローションを染みこませた綿棒で、ぐるりと耳穴の中を撫でられる。
「奥の方……痛くないですか?」
「うん、もうちょっとなら平気」
 矢七は耳掃除師の膝に頭を預け、痒いところに手が届く快楽に溺れる。頬に触れる着物地の感触もサラリとして心地よい。
 そしてなにより、生地を通じて伝わってくる耳掃除師の体温は、荒んだ矢七の気持ちを柔らかくほぐす。
 左耳を掻いてもらうため頭を載せ替える時、身体を横に反転させると、耳掃除師は少し身じろぎをした。
「お座布団を敷き換えますけど……」
「平気だ。足の位置を変えるのだりいし」
 右耳の時は耳掃除師の身体に後頭部を向けていたのだが、今度は顔と耳掃除師の下腹部が向かい合う。
 また後頭部を向けるべく、身体を動かしてもよかったのだが……至福の耳かきで矢七の身体はくったりとしてしまい、移動が本当に面倒になってしまった。
「じゃ、このまま始めますね」
 右耳と同様、耳かきを使っての垢ほじり。ちゃんと矢七の耳穴に合わせたサイズのものを使い、細かい部分はヘッドが小さいもので丁寧に掻いてくれる。
「もっと……そこ掻いて。まだ痒い」
「じゃ、柔らかいラバーのでコリコリしましょう」
 竹の古風な耳かきが主のようだが、きちんと最新型の耳かきも用意されている。商売熱心なことだ……と矢七は感心した。
 しかし技術や設備の面ではともかく、儲ける気が今ひとつ感じられないのはなぜだろう。耳掃除師のふんわりとした雰囲気のせいか。それともこの店のひっそりとした佇まいのせいか。
 目の前にある耳掃除師の下腹部は、和服の生地に包まれ、平らである。若い男性らしく、贅肉の気配がない。
 しかし、その両脚の合わせ目に、多少の脹らみがある。いくぶん右寄りに。
 ――ああ、こういうほわーっとしたヤツでもチンポはついてるんだよな。
 うっとりと耳を預けながら、矢七は考えを遊ばせる。耳掃除師でもここを膨らませて、息を荒げて女にのしかかることがあるのだろうか、とか。
 おそらくないだろうな……と勝手に決め、目を閉じる。歩き疲れたところに膝枕で優しくされてしまい、眠気に襲われてしまったのだ。
 それに気付いたのかどうか、耳掃除師も話しかけてくるのをやめ……矢七が再び目覚めたのは、全てを終えて耳たぶをガーゼで拭かれた時だった。
「だいぶお疲れのようですね」
「ああ、ストレスが多い仕事でよぉ」
「耳以外もスッキリするマッサージコースがありますよ?」
 ふわっと優しい耳掃除師の声に、矢七はついそれを頼んでしまう。今度は座布団の上に座らされた。
「ラクな姿勢で、あぐらでもかいていらしてください」
 低くもなく高くもなく、耳に穏やかな耳掃除師の声に、矢七は小さく頷いた。
 矢七の背後に回った耳掃除師は、手拭いを用意し、矢七の額から後頭部にかけてあてがう。そして手拭いを両手で引き絞りながら、親指を立ててぼんのくぼや首筋を圧迫してくるのだった。
「首、痛くないですか? 力を抜いていてくださいね」
「ああ……気持ちいいぞ」
 後頭部から首筋の指圧が終わると、両方同時に耳朶をクニクニと揉みしだかれる。
「耳には全身のツボがあるんですよ」
「へえ。今日は歩き疲れたから、足に効くのやってくれ」
「かしこまりました」
 単行本を持っていた耳掃除師の白く節のない指を、矢七はぼんやりと思い出す。
 ケンカも肉体労働も縁がなさそうな、上品な指。たおやかなのに女性的な感じはなく、腱や血管がうっすら浮いている、繊細そうな指だった。今その指が自分の耳を揉んでいる……。
 そうこうしているうちに、耳がポカポカと火照ってきた。
「おい、なんだかあったまってきたぞ」
「ですね……ではそろそろ冷やしましょうか」
 右耳にふうっと息を吹きかけられた瞬間、矢七はゾクッとした快感を感じてしまった。かつて女と身体を重ねた時、ふざけてそのへんに刺激を加え、くすぐったがられたことを思い出す。
 くすぐったいだけじゃなくて……ち、力が抜ける。
 くたっと脱力した矢七の背中を、そっと耳掃除師は抱き留める。決して膂力があるようには見えない細身だが、その姿勢のまま、矢七の左耳にも細く長く吐息をかける。
「あぁ……っ」
 矢七はうっすらと目を閉じ、喘ぐ。そして他人を脅す稼業である自分が、そんな情けない声を上げてしまってことを恥じた。
「わりい。妙な声が出ちまった」
「皆さんそうですから、お気になさらず。声をこらえると、かえって身体に変な力が入ってよくありません」
 そうか……ならしょうがないか。
 素直に納得し、矢七は歯を食いしばるのをやめた。首筋に滑る指や吐息を感じながら、耳掃除師にもたれて呻く。

このページへのコメント

耳ほじりしてもらうのっていいよね、丁寧にかゆい所掻いてもらうの気持ちよさそう

0
Posted by 名無し(ID:3zOr8v3v5Q) 2021年04月22日(木) 04:25:36 返信

草食系男子どころかケダモノだな・・・
まあBLじゃよく見る光景だが

1
Posted by   2013年04月20日(土) 00:20:44 返信

矢七が受けなの?
耳の穴だけじゃなくて、後ろの穴にもこれから棒がはいるのか〜

2
Posted by 紗南屋 2012年11月20日(火) 00:27:11 返信

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