まとめ:雅ちゃんがももちの胸を触るセクハラ

181 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/04/22(土) 03:49:34.16 0

おもしろい子。
きっと、一番に浮かんだのはそんな印象だった。

きゃいきゃいと甲高い声が飛び交うレッスン室で、一際高い声が部屋に響く。

「おにごっこする人ー!」

普通は人差し指が差し出されるところで、ピンと伸ばされる小指。
それに小さい子らが群がる様子を、雅はぼんやりと眺めていた。

「もー、またやってる」

この前も先生に怒られたじゃん、と雅の隣でふてくされた顔をしているのは清水佐紀。

「まだ時間あるよ?」
「だって、絶対ギリギリまで遊ぶじゃん」

みんなが怒られるのに、と佐紀はツンと唇を尖らせた。
クラスに1人はいる、学級委員長タイプ。それが、佐紀への第一印象だった。
オーディションに受かった中では一番年上で、身長こそ低いものの言動は最もしっかりしている。

「イインチョーはタイヘンだねぇ」

ふざけて最近つけたあだ名で呼ぶと、佐紀の眉がハの字になった。

「だって……先生、マジこわかったじゃん」
「たしかに」

キラキラしたイメージに憧れ、オーディションで勝ち取った世界。
ふわっとした気持ちのまま飛びこんだ場所は、想像以上に怖い大人たちがたくさんいた。
アイドルって、もっと気楽なものだと思っていたのに。
ここ最近、1日に1回はレッスン室に先生の雷が轟いていた。

「ていうか、桃子ちゃんは一番年上なのにさー、いっしょに遊んでるし」

みんながみやみたいに大人だったら良いのに、と佐紀のつぶやきが耳に届く。
佐紀に大人だと評価されたことが少しくすぐったくて、雅の頬は勝手に緩んだ。

「もうちょっとしたら、声かけたら?」
「そーする」

うちばっかり、みたいな空気を漂わせつつ、いつも佐紀はそういう役所を進んで引き受けてくれる。
そんな佐紀が、やっぱり誰より大人だと雅は思った。

182 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/04/22(土) 03:50:45.54 0

「うち、ちょっとジュースかってくるね」
「わかった。時間までにはかえってきてね?」
「おっけ」

レッスン室から一歩踏み出すと、ひんやりとした空気が肌を撫でた。
あと数十分もすれば、今日のダンスレッスンが始まる。
またあのこわーい先生が、鬼のような形相で怒るのだろうか。
想像しただけで背筋が冷えた気がして、雅はぶんぶんと頭を振ってそれを振り払う。
遅刻したらあとが怖い。さっさと用事を済ませて戻ろう。
足を速めようとして、自分のものでない足音の残響に気がついた。

「……あれ、桃子ちゃん?」
「んー? なぁに?」

さっきまで鬼ごっこに興じていたはずの桃子が、なぜ自分の背後にいるのだろう。
内心きょとんと首を傾げつつ、雅は桃子を待ってから並んで歩き出す。

「おにごっこは?」
「んー、つかれちゃった」
「えっ、自分が言い出したのに?」
「でも、千聖ちゃんや舞ちゃんにはぬけるねって言ってきたよ?」

そういう問題なのだろうか。
まあ、千聖や舞が納得したのならそれで良いのかもしれないけれど。

「ていうか、今からレッスンじゃん。つかれちゃったらダメじゃない?」
「あっ! わすれてた」

てへへ、と頭を掻く桃子の様子はどこかコミカルで、雅は思わず笑みをもらした。

「そしたらやっぱり、甘いものは補給しないと!」
「ホキュウ?」
「そう! レッスン前に、エネルギーをためるの」

どのジュース買おうかな、などと鼻歌まじりに隣から聞こえてくる。
そのご機嫌な鼻歌から、どうやら桃子も同じ目的地を目指しているらしいと知った。
思えば、桃子と二人きりなんて初めてかもしれない。
普段から、桃子が年下の子たちと共に遊んでいるのはよく見かけていた。
だが、ちゃんと話をした記憶はほとんどない。

183 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/04/22(土) 03:51:13.04 0

「桃子ちゃんってさ」
「ん?」
「つかれちゃうのに、みんなと遊ぶの?」

雅にとっては単純な疑問。
お世辞にも桃子はダンスが上手であるとは言い難い。
できた人から抜けていく、なんて時には小学校低学年の面々に混じって残っていることだってザラだ。
それなのに、わざわざレッスン前に疲労を蓄積する必要がどこにあるというのか。

「だって、小さい子たちタイクツしちゃうじゃん?」
「そうかも」
「だったら、お姉さんのももが遊んであげよーと思って」

でも今日はつかれちゃったからおしまい、と息を吐く桃子の横顔がやけに綺麗で。
それに、見惚れそうになった自分に、ひそかにびっくりした。
そんな雅をよそに、桃子はやおら口を開く。

「雅ちゃんって、ダンスじょーずだよね」
「ま、まあ?」
「アドバイスとか、ない?」
「あどばいす?」
「こうしたらいいよー、とか」

そう言われても、何か特別なポイントがあるわけではない。
自身の記憶を掘り返しながら、雅はふむ、と口元に手をあてた。

「……うちが一番カワイイんだぞ!ってきもちでおどる?」
「へ?」
「や、だって! 先生もよくゆうじゃん、顔、ダイジだって」

呆れたような桃子の声に、ひやりとしたものが体を貫く。
だってママがそう言ったんだもん!なんて口走りそうになったのをぐっと堪えた。
そんな子どもっぽい言い訳を、桃子に晒すのは抵抗がある。
だが、じわじわと沈黙が広がっていく今の感覚も、あまり心地良いものではない。
居た堪れなくなってきょろりと視線を巡らせると、桃子がふっと笑ったのを感じた。

「なんか、わかるかも」
「……え?」
「だって雅ちゃん、たしかにすっごくカワイイもん」

184 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/04/22(土) 03:51:57.07 0

ダンスしてる時とかすっごいんだよ!と桃子が小柄な体で両手をいっぱいに広げる。
まさかそんな風に思われていたなんて。
さあっと頬に熱が上がるのを感じて、ごまかすように雅は両手を擦り合わせた。

「でもなー、ももはそんなにカワイイ方でもないし」
「そ、そんなこと!」
「えっ?」

パチン、と桃子の視線にぶつかった。
雅の瞳に映るのは、思わぬことを聞いたとでも言いたげな桃子の表情。
そして、桃子の瞳に映る自分もまた、ぽかんとした表情をしているのだろうと思った。

「……そんなこと、ないから」
「そう、なの?」
「桃子ちゃんだって、ちょーカワイイ、よ」

ま、うちには負けるけどさ、なんて心の中で付け足したのは内緒。
実際のところ、桃子の顔立ちだって魅力的だと雅は感じていた。
それに加えて、独特の仕草や話し方は他の子にはない桃子の個性のはず。

「なんかちょっと、レッスンがんばれそーかも」
「そりゃよかった」

ありがと!と言いながら、桃子の体がぴょこんと跳ねる。
そのままくるりと一回転をして、そういえば、と桃子が言葉を継ぐ。

「雅ちゃん、あのね」
「ん?」
「その、桃子ちゃんってよび方、変えてほしくて」
「え、ヤなの?」
「イヤっていうか……あんま好きじゃなくて」

ほら、ももの方が可愛いくない?
そう言いながらいたずらっぽく笑う桃子の表情に、なぜかどきりとさせられて。
焦って視線を逸らしたけれど、すでにさっきの光景は脳内にくっきり焼きついていた。

「いいよ……も、も?」
「ふふ、それがいーな」
「そっか。ね、もも」

ほんのりと頭をよぎる緊張は、ぐっと拳で握りつぶす。

「うちのことも、みやって呼んで?」

雅がそう囁くと、桃子は少しだけ目を丸くしてから、くしゃりと顔をほころばせた。


おしまい

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