まとめ:雅ちゃんがももちの胸を触るセクハラ

520名無し募集中。。。2018/01/13(土) 15:08:07.120

山道を足早に行く女があった。
深い林の中、幾重にも踏みしめられた枯れ葉の上を滑るように
上へ、上へと先を急いでいるようだった。
空気は冷えきっているようで、女は手袋をした手で厚手のコートの襟をかき合わせている。
背中を見れば膨れ上がった鞄を背負っており、時々女は鬱陶しげに紐を肩にかけなおしていた。
その度に金色の髪が肩口で小さく跳ねた。

太い木と木の間、傍目にはすぐにそれとはわからぬ横道の手前で女は足を止め
一旦辺りを見回すと、すっとその細い隙間に上がった。
枝をかき分けながら、道とも知れぬ道を登っていく。
視界の先に小さな祠を認めると、ようやく女は足取りをゆるめ、ほぅっと息を吐いた。

鳥居もない色褪せた木の祠は、誰からも忘れ去られたような儚さで、そこに佇んでいた。
女は手袋をはずすと屈み、扉の格子に引っかかっている枯れ葉を細い指先で摘んで取った。
指先で砕けた枯れ葉をふっと息で飛ばすと、女は振り返り
辺りに誰もいないのを確かめてから、その姿を煙のように消した。

よく磨かれた狭い廊下を、女は大股で進んでいた。
その頭のてっぺんには、さっきまでなかった大きな大きな金色の耳がぴんと立ち
コートの裾から覗く金色の尻尾の先は、その足取りに合わせて小さく揺れている。
女は妖狐であった。名を雅という。
人里を遠く離れた山奥の祠は女の根城であり、故郷だった。
この祠の下では狐たちが長屋を伸ばし、てんでに楽しく暮らしている。
帰ってくるのは久し振りのことだった。

障子紙から明かりの漏れるひとつの部屋の前で、雅は足を止めた。扉に手をかける。
立て付けのあまり良くないその引き戸はガタガタと音ばかりが大きく、なかなか開かない。
雅の眉間に皺が寄った。
隙間に両手を突っ込み、片足を縁にかけたところで、反対側の扉がすっと開いた。
開いた扉の下の方からにょきっと顔だけを覗かせたのは
ぼさぼさの頭に真っ白い耳を立てた、これも妖狐のようである。
「うるさい」

「は?第一声がそれ?久し振りに帰ってきたのにそれ?」
「廊下寒いから早く入って」
「なんでそっち側だけ直したわけ」
「片方開けばいいじゃん」
雅が下ろした荷物を投げつけようと構えると、頭はさっと引っ込んだ。
それから小さな手だけが出てきて、ひらひらと雅を手招きした。

562名無し募集中。。。2018/01/14(日) 11:34:22.490

戸を閉めた雅が向き直ると、白くぽってりとした尻尾を引き摺りながら
並べた座布団の上に這い戻るどてらの背中が見えた。
後ろ髪をぐしゃぐしゃにさせている、その白狐の名前は桃子といった。
長火鉢の奥に並べられた座布団は、桃子がずっとそこに寝っ転がっていただろうことを雅に想像させた。
あとは小さな箪笥が一棹と柳行李が置かれただけの狭い部屋である。
雅は一枚座布団を引き寄せ、コートを脱いで小脇に置くとぺたりと座った。

火鉢に鉄瓶を乗せながら、視線も寄越さず桃子は言った。
「ちょっと見ない間に随分と耳が大きくなったんじゃない?」
「えっ」
雅は両手を自分の頭の狐耳にやった。
鏡を探し、雅が部屋を見回すと
桃子が指差す方向、箪笥の上に小さい丸い鏡が立ててあった。
立ち上がり、鏡面に鼻を寄せると上目遣いに頭の上を覗き込む。
雅はみっしりと金色の毛に覆われた厚みのある狐耳を指で摘んで寄せてみた。
「そんな、変わってなくない?」
返事がないので振り返ると、桃子が雅の持ってきた鞄を引き寄せ、勝手に口を開けている。
目が合うと、何が悪いのと言わんばかりに下から睨め付けてきたので
応えるように雅は目を細めた。
「ももの方こそちょっと見ない間に太ったんじゃない?」
「えっ」
桃子は鞄から手を引き抜き、両手で首を覆った。
「太った?そう?」
「むちむちしてる」
そう言いながら、雅は膝をつくと、まずは鞄を自分の手元に引き寄せた。
桃子はこころなしか頬を赤く染め、雅がさらに近づくと
座ったまま座布団の上をずりずりと後ずさった。

「もしかして久し振りだからって照れてんの?」
「なっ、なんでそう思う訳?」
雅が手を伸ばすと、ひゅっと首を縮めた桃子は激しく瞬き、頭の上、白い狐耳の根元がせわしなく動いた。
その様子に躊躇い、丸まった雅の指先を桃子が凝視する。
次の瞬間下からその手に噛み付かれ、咄嗟のことに雅は悲鳴を上げた。
一瞬視線が絡む。すぐに咥えた手を放し、桃子はお腹を抱えるように座布団に転がった。

雅はその笑い声を久し振りに聞いた。
白い尻尾がぱたぱたと畳を叩いていた。

564名無し募集中。。。2018/01/14(日) 11:40:43.390

雅が鞄からみかんを取り出して火鉢の台の上に置くと、桃子は起き上がった。
取っていいのかと目線できいてくるので雅が頷いてやると手を伸ばした。
みかんの皮を剥く桃子の小さい指の動きを、雅はしばらく眺めていた。
「子どもみたい」と雅が言うと「そう?なにが?」と潜めた声が返ってきた。

「ううん、ごめん、もともとこんなだったか」
「なにがよ」
「なんか、人里にいた頃はもうちょっと」
「大人っぽかった?」桃子はクスと笑った。
台の上に剥いたみかんの皮を置き、その上に一房ずつ割っては積み上げている。
「もう、上がらないつもりなの」
「そう言ったよね」
「言ったけど。別に、いつ出てきたっていいし」
雅もみかんをひとつ手に取った。そのまま手の中で転がす。
甘酸っぱい香りが微かに立ち上った。
「また、誰かを幸せにしてあげたっていいじゃん」
「みやびちゃんこそ、戻ってこないの?」

桃子の言葉に雅が顔を上げると、目が合った。
「まだ、まだやりたいこといっぱいある」
「そうなんだ」
そこまで言って、桃子の手の動きが止まった。
はっとしたように目を見開いてから、身を乗り出してきたので何事かと雅は少し体を引いた。
「もしかして、嫁入りの予定があるとか」
「ないよ!」
「ほんとにー?」
雅の目の端で、桃子の尻尾の先がぱたん、ぱたんと動いている。

「ほんとに。そういうのは全然」
「いや、あの、別にいいよ」
「だから、何もないって」
「あのさ、いいじゃん。嫁入りして子ども産んでさ、そしたら離婚されて戻っておいでよ」
「……二人で育てるの?」
「そうだよ」

雅の顔を見て、桃子は笑い、みかんを一房摘むと差し出してきた。
雅はみかんごと桃子の指先を食べた。
慌てて手を引っ込めようとする桃子の手首を両手で掴む。
鉄瓶の口からしゅんしゅんと細い湯気が上がっていた。

135名無し募集中。。。2018/01/16(火) 00:45:30.590

「お茶……いれようか」
そう桃子が言ってから、雅は慌てて手を離した。
大きな狐耳が一瞬ぴくと震えてしまい、桃子がそれを見ているのに気が付くと、雅は慌てて
「や、ちょっとやっぱ手首むちむちしたんじゃない?」
と、言った。
桃子は唇を尖らせ「だって動いてないもんよ」などと言いながら小さい湯呑みを出した。
「でも、ももが元気そうで安心した」
「みやも元気そうで安心したよ?」
桃子は鉄瓶の取っ手に手拭いをかけると重そうに持ち上げ
雅の前に置いた湯呑みに湯気の立つお茶を注いだ。
「なに、これ」
「何って、麦茶だけど」
雅は湯呑みを手に取ると、鼻に近づけて嗅いだ。
「これ、激甘だったり激苦だったり」
「するわけないじゃん!」
桃子は自分の前の湯呑みにも麦茶を注いだ。「あのさあ……急に来るから仕込む暇もないよ」
「来るってわかってたら仕込むんだ」
「さあ?」
雅は湯呑みに口をつけた。麦茶はざらざらして素朴な味がした。

「最近、何してるの?」雅は座布団の上で足を崩した。
「もうすぐ初午だからねえ」と、桃子は目を細めた。
「懐かしい!三角のお稲荷さん!」
「そう。今でもたくさん稲荷寿司のお供えがあるんだって。私も久し振り。考えてみるとすごいよねえ」
桃子は湯呑みを置き、どてらの袖を合わせると顔をほころばせた。
「いいなぁ。その時は仕事で来れないな」
「何言ってんの。お稲荷さんどころか贅沢なものいくらでも食べてるでしょ」
「違うの。あの三角のお稲荷さんがいいの」
「みやのお耳みたいなね」
桃子にそう言われて、雅はふふと笑った。
「そうなの。あれはみやのお耳なの」
「そう言って、みやがお揚げだけ食べちゃうからさあ」
桃子は顔をくしゃっとさせて雅を見た。
「「もものお耳は白いからご飯だけ」」
二人同時に言うとどちらからともなく吹き出す。
桃子は「ほんとひどい」と笑いながら長火鉢の縁を叩き、息をついた。

「あのさ、みや?きいていい?」
笑いを残した中の少し真剣な響きに、雅は狐耳をぴんと立て小首を傾げた。

136名無し募集中。。。2018/01/16(火) 00:48:28.830

桃子は一旦視線を流してから、少し躊躇いがちに口を開いた。
「どうして急に帰って来たの」
「え、なんで。来ちゃいけない?」
「い……いけなくないけど。いつでも帰ってきてくれていいの。いいんだけど」
何か言い淀むように伏せた睫毛の影が頬に落ちた。それきり桃子は黙った。

雅は両手を頬に当てた。
何か胸がざわざわとして尻尾の先が畳を擦るのを止められなかった。
「何だろ、何、別にほんとに何もないんだけど
ちょうど時間が空いたのもあって、それで、寄ってみた。……だけ」
雅は桃子の狐耳の先をじっと見つめながら、言葉を継いだ。
「いや違くて、あの、ただ最近立て続けにもものこときかれたりして
ほら、もものことだから心配ないとは思ってたんだけど
もしかして、もしかしたらみやにずっと会えなくて寂しいんじゃないかなー、なぁんて」
先端の白い毛がぴくぴくと動いているのを雅は見た。
次の瞬間、桃子はばっと顔を上げた。
「はぁ?違うでしょ。みやの方がももに会いたくて帰って来たんじゃないの」
「それは、それはない」
「じゃあ何、自分の部屋にも寄らずになんでまっすぐ私の部屋に来たわけ」
「だって、だってみやの部屋は畳にいっぱい穴が空いてるから」
「それはみやが自分で掘った穴じゃんか」
「習性なんだからしょうがないじゃん!」

「……もういい。寝る」
桃子はぷいと雅に背中を向けると踞った。
雅が何か言いかける前に、背を丸めたその姿は空気を抜いたようにみるみる縮み、どてらだけになった。

否、雅は両手をこんもり膨れたどてらの下に入れると丸まった白狐をずるずると手前に引きずり出す。
後ろ足で蹴ってくるのも構わず膝の上に乗せた。
その重みと、ふっくらとした暖かさが雅の膝に乗った。
「あの……ももの顔が見たかったかも。しれない」
そう言うと、桃子は小さくふんっと息をついた。
雅は首の白い毛を指先で掻いてやった。桃子は目を閉じたまま顎を上げ心地良さそうにしている。
小脇を持ち上げ、抱きかかえるようにして、雅はそのままごろりと座布団に横になった。

桃子の鼻先が、雅の首筋を撫でるように擦る。
応えるように頬擦りすると、雅もまたその姿を美しい金狐に戻した。
大きな耳をぺたりと寝かせると、口を開け、桃子の白い耳を噛む。
金色の長い尻尾がくるりと真白い体を抱くと
二匹の狐はぬくぬくと一時の眠りに落ちていった。

623名無し募集中。。。2018/01/20(土) 16:01:00.780

雅が目を覚ました時、傍らに居た筈の桃子の姿はなかった。
首をもたげ頭を一振りすると、雅は鼻先で周りの服を避け長い四つ足を伸ばし起き上がった。
鉄瓶は火鉢から下ろされ、湯呑みは片付けられている。
少し考えるように尻尾を振ると、雅は狭い部屋の中をぐるりと一周した。
隅っこに置いてあった柳行李を鼻で突く。少し動いたそれが気になったのか
雅は前足をかけ何度か爪をひっかけながら行李をずらして隙間に体を割り込ませた。
その下にはぺったんこに潰れた襦袢があり、端を咥えて除けると、そこには穴が開いていた。

鼻先を突っ込むと穴は深く、ひんやりした空気が流れている。雅は耳を寝かせ土の匂いを嗅いだ。
一段下にそろそろと前足を下ろす。乾いた土の感触があった。
首を下げて覗き込むと、少し先に落ちた穴はそこから上に向かって伸びているようだった。

「何してんのさ」
不意に声がかかり、慌てて穴の中へと潜り込もうとした雅は
しかしあっけなく尻尾を掴まれ腰を抱かれるように引き摺り出された。
「もー、ちょっと目を離した隙にこれだよ」
桃子に後ろ抱きにされ、雅は少し暴れてみたが羽交い締めは解けるばかりかますます腕に力が入った。
雅は両前足を折り曲げたまま体を縮め、おそるおそる首を上げて桃子の顔を見た。
桃子は唇を尖らせ、しかし目は笑っているようだった。

雅が体を仰け反らせながら人に姿を変えると、不意の重みに耐えかねて桃子がひっくり返る。
勢いで桃子を下敷きにしたまま「だって気になるじゃん?」と、雅は言った。
片手を畳に伸ばした桃子は、その手に触れたまま掴んだニットのワンピースを雅の体の上に放った。
「その前になんか着てよ」
雅は片手をつき半身を起こすと仰臥したままの桃子を振り返る。
「誰が見てるわけじゃなし。あ、ももが見てるか」
顔を赤くした桃子が雅の背中を力任せにぴたん!と叩いた。

507名無し募集中。。。2018/01/27(土) 23:15:02.950

雅が急いでニットに袖を通している間、桃子は火箸で灰をつつきサクサクと音を立てていた。
襟首から顔を出し、ニットのあちこちを引っ張りながら雅は横目で桃子を見た。
「退屈してんじゃないの?」
そう言うと、桃子は少し置いてふっと笑った。
「夏、夏前か、ここに戻って来たの。そっからすぐもう忙しくてさぁ」

雅は手櫛で髪を撫でるとそのまま両手で狐耳をつまんでぴんと立てた。
「えーっと、それは、それって、巣立ちまでの」
桃子は長火鉢の端をぺしっと叩き、雅を見た。
「そうなのだす」
「です?」
「ですよ!かんわいい子狐たちをお世話するシーズンのまっ最中だったわけよ」
その時を思い出したように桃子は目を細め、表情を溶かした。
桃子の話す昨夏の子狐の様子を聞きながら、雅は注意深く炭に息を吹きかけた。炭がふわっと赤くなる。
「でもそれって秋までじゃん。その後は?」
一旦口を噤んだ桃子は目を逸らした。
「……秋冬もまあ、それなりに、いろいろすることはあるし」
「穴掘ったり?」
部屋の隅、畳に穴の開いていた場所は再び蓋され、柳行李で塞がれていた。

「ねえ、あの穴なに」
「ねー、そうだよ!なぁんで許可なく勝手に入ろうとするわけ?」
口調ほど怒っているようにも見えなかった。
「そこに穴がある、から?」
「なかったでしょ、ちゃんと隠れてたでしょ」
桃子は振り返ると柳行李を指差した。丸まっていた白い尻尾が畳を小刻みに叩いた。

509名無し募集中。。。2018/01/27(土) 23:19:32.090

「ほら、なんていうの?うちは勘がいいから」
「ほんと。ほんとビックリする」
「で、なに?あの穴」
「別に、なんでもないよ」
座ったまま火鉢の反対側へ片手を伸ばした桃子の背中を見ながら雅は言った。
「はいダメそれは通じません。わざわざ隠してたってことは絶対なんかある」

向き直った桃子の手には小さな蓋付きの菓子盆があった。
それを膝に乗せ、チラと雅を見ると桃子は「うーん……」と言いながら後ろ手をついて天井を見上げた。
雅は考えるように時折ぱちぱちと瞬く桃子の睫毛の先を見つめた。

しばらくして、桃子は膝に置いていた菓子盆の蓋を開け
中から薄荷糖の小さい包みをひとつ雅に寄越した。
包みを剥き、雅はそれを口に咥えて噛んだ。ぽくん、と小さな音がした。
ほのかな甘さが舌に染みた。ハッカの香りが鼻を抜ける。素朴な菓子だった。

「別に、覗かれて困るとかいうわけでもないんだけど」
桃子も薄荷糖をひとつ齧った。
「だったら、別に」
「みやがさ」
雅の言葉を遮り、桃子は顔を上げた。
「……みやが、ここに戻ってきたときにでも案内するよ」

雅はすぐに言葉を返せなかった。微笑みかけていた桃子は真顔になって
ほんの少しの間ができた。

515名無し募集中。。。2018/01/27(土) 23:24:41.580

「いや、あの……」
雅が口を開きかけたとき、二人は同時に狐耳をぴんっと立てた。
顔を見合わせる。
その音は、遠く、どこかから聞こえた。獣の足音のような微かな気配だった。
それは部屋の隅、あの穴の伸びた先ではないかと雅は思った。

桃子は慌てたように柳行李に手をかけ、その下の襦袢をはぐった。
瞬く間にその姿を狐に変え、素早く穴に体を潜らせた。姿が消える。
雅は一瞬ためらったが、その後を追った。

身を屈め、硬い土を蹴って穴を上がっていく。桃子の白い尻尾の先が見え隠れしていた。
遠くから届いていた踏み荒らすような足音は、穴を進むにつれだんだん大きくなった。

不意に桃子の尻尾が見えなくなった。
何かが倒れる音がして、桃子の唸り声と、土を引っ掻くような音がした。
雅は慌てて追いかける足を速めた。
穴の終点はぽっかりと空いていて、雅が鼻を出した先、そこは小部屋のような空間になっていた。
いくつかの細い穴が抜けているのか、空気が流れていた。
侵入者は桃子に脅され逃げて行ったのか
正面には出来たばかりのような小さな穴があり、そこから土が零れ落ちていた。

長さもまちまちな板が敷かれたその部屋には小物が散乱していた。
雅は板の上に前脚を降ろす。
桃子は人に姿を変え、着物を羽織ってそこにぺたりと座り込んでいた。
「食べ物なんかさあ、置いてないっつーの」
ため息混じりに呟いた。
雅の足先に、写真立てが触れた。侵入者に踏まれたのか薄いガラスが割れていた。

518名無し募集中。。。2018/01/27(土) 23:28:42.870

雅も姿を変えると、手を伸ばし、倒れている衣桁に絡まっていた着物の一枚をたぐり寄せた。
人型になると夜目が効かない。
桃子は灯を点した。土の壁から張り出した木の根に、灯籠が吊り下げられていた。

雅はさっき足に触れた写真立てを手に取った。
プリントされた写真を注意深く引き出すと、桃子に手渡した。
桃子はふっと息を吹きかけ、写真についた土を飛ばした。

散乱しているそれらは、人里にいた頃の思い入れある品物に違いなかった。
それから二人はしばらく、黙ったままその一つひとつを拾い上げ、土を払い、小部屋の隅に積んだ。
「もういいよ、こんなもんで」
そう桃子が言い、雅は手を止めた。

「これ、全部、大事な思い出の」
雅が言いかけると、桃子は雅の顔を見た。
「思い出とか、過去とか、なんていうのかな、そういう終わったことじゃないんだよ」
「ももの中では、終わってないってこと?」
「……ここはずっと、今として息づいてるの」

雅は桃子の顔を見つめた。
桃子の瞳に灯籠の灯が映っていた。
揺れる光は儚いようで、けれど意思の輝きを凛と放っているようだった。

522名無し募集中。。。2018/01/27(土) 23:34:19.460

穴からもとの部屋に戻ると、桃子はすぐに出て行った。
雅が待っていると、手拭いと銅壷を持って戻ってきた。
「お疲れさまだったね。これで手足拭いて」
銅壷には徳利が入っていた。
「なに、お酒?」
「甘酒」
桃子はそれを火鉢にかけた。
「どうするの、あの部屋。なんか対策しないといけないんじゃない?」
「まあ、追々考えるけど。思わぬアクシデントでみやに見られちゃったな」
「ごめん」
雅が手拭いを握りしめていると、桃子が寄越せと手を出してきた。
「別にさ、絶対ここに戻ってこなきゃいけないなんてことないよ」

「……違う。そうじゃないの。ただ」
「いつとか決められないし、想像もつかないんでしょ」
「そう。……そんな感じ。多分」

雅が土産に持ってきた菓子や乾物を広げると桃子は喜び、大切そうに行李に仕舞った。
「そろそろ、帰んないといけない時間になってんじゃない」
桃子にそう言われ、雅は甘酒の杯を両手に包んだまま顔を上げた。
「そうなんだよね。ここ圏外だしね」
「みや」
「ん?」
「ちょっとさ、抱かせてよ」
「え?」
桃子は照れたように笑っていた。
「もふもふさせて」

雅は甘酒を置き、座っている桃子ににじり寄った。
「重い」と言いながら、桃子は金色の狐を抱え上げると、頬擦りした。
雅は耳を寝かせ、桃子が好き勝手に撫で回すに任せていた。
銅壷から上がった湯気が部屋を暖めていた。
二人の横、火鉢の中で小さくなった炭が、澄んだ音を立て転がった。

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