まとめ:雅ちゃんがももちの胸を触るセクハラ

229名無し募集中。。。2017/12/24(日) 00:43:11.140

「あなた、何か悩んでるようね」

最初に声をかけられた時はまさか自分のことだと思わず素通りしそうになった。
ちょっとちょっと、と慌てた様子で呼び止められてようやく自分に向けられたものだと理解した。
大通りの灯りからは少し離れた薄闇の中で座っている女性と目が合ったけどどう見たって怪しすぎる。
キラキラと街の光を反射する紫の布を被った女性の手元には水晶の玉。絵に描いたような風貌すぎてギャグなんじゃないかと疑いたくなったけど大真面目らしい。

「悩んでること、あるでしょう?」

何もかも分かってるのよなんて空気を匂わせながら女性は意味深に微笑んだわけだけどそもそも悩みのない人間なんているんだろうかいやいない。
私の彼女――と呼ぶにはまだかなり気恥ずかしいけどそれ以外に言いようがないので心の中でだけはそう呼んでいる――でさえこの前難しい顔をしていたので何か悩んでいたのだろう。

「……ねえ、聞いてる?」

しまった目の前にいる人のことをすっかり忘れてついつい考え事に耽ってしまった。それも私の彼女が可愛いからであっていやそんなことは今あんまり関係なかったっけ。

「えーっと……五段さん、でしょう?」
「……ぁ、はい」

全く反応する気は無かったのに女性の口から自分の名前が出てきてついつい返事をしてしまった。もしこの人が悪魔だったりしたらどうしよう名前を呼ぶことで使役するなんてお話をどこかで読んだ記憶があるけれど。

「あなた、大丈夫?」

大丈夫かと言われれば全然大丈夫じゃないしそれもこれも目の前のあんたが原因なんですが。
「まあ、大丈夫です」と答えようとした言葉は相変わらず声にならなくてピクリと唇の端が震えたのだけがわかったああいつもこうなんだ嫌になっちゃうな。
彼女は「五段は五段でええんや」なんて言うけれど本当は言葉にしてちゃんと伝えたい気持ちがたくさんある。そういえばこの前ももっちゃんに怒られたっけ。努力はしてるんだけど。

「あげるわ、どうぞ」
「……?」

女性が差し出した小さな瓶の中で白い液体が波打つ。いやいやいやこれを私にどうしろと言うんだろうかこの人は。

「飲んでみたら、良いことがあるかも?」

どこかのアイドル顔負けのウインクが一つ飛んできたけど私の彼女の方が絶対に可愛い——じゃなくて。
どこの誰とも分からない人からもらったものを不用意に口にしてはいけないなんてことは多くの物語で昔から語り継がれてきたことなのに。
「いやいらないです」と言おうとしたらすでに女性はいなかったいやいや嘘だろ。けれど手渡された例の小瓶は確かな重さで私の手の中にあったのだった。

そんなことよりも今私の頭を悩ませているのはクリスマスイブとやらの存在なわけで。それこそ付き合い始めて最初のクリスマスイブなんてちゃんとお祝いしたいに決まってるし気持ちだけはしっかりあるんだけど。
はーっと重い息を吐くとモワモワと白い綿みたいな塊が現れては消えていく。
私の彼女は正直とてもセンスが良い——それが仕事だと言われればそうなのだけれど——ものだからいつも私は頭を悩ませなければならない。
頼みの綱のもっちゃんにも今夜は自分で考えてくださいと突っぱねられてしまってそうつまり私が自分の力で勝負をしなければならないわけでして。
とりあえずディナーにでも誘おうかなんて考えていたら向こうからお誘いの連絡が来てしまった。
それなら早めに行ってプレゼントでも選ぼうかと思っていたわけだけどそろそろタイムリミットも近い。

「……ぁ」

ふと横断歩道の向こうにある花屋が目に入る。花屋なら店員さんのアドバイスももらえるし彼女も嫌いじゃないはずだし私が彼女の家まで運べば荷物にだってならない。
ちょうど信号が青に変わったのが見えて私は居ても立っても居られなくなって駆け出していた。

230名無し募集中。。。2017/12/24(日) 00:44:36.760

*  *  *

「クリスマスイブなんやなあ」

口にしたら、特別な言葉の響きがじわじわと全身に広がった。
そう、今日はクリスマスイブ。それも、去年までの寂しい独り身クリスマスイブやない、二人で迎えるクリスマスイブや。
初めてのことやし、誕生日には五段が頑張ってくれたわけやから、今日はうちがディナーのお店を予約した。
五段の口に合ったらええなあ、なんてのんびり考えとったら、遠目にちっこい黒スーツの人影。
よう目立つサングラスが、まっすぐうちに向けられる。
この距離でもお互い見つけられるもんなんやな。なんやよう分からんけど、くすぐったい感じや。
照れ隠しみたいによっと手を挙げたら、五段は軽く会釈を返してきよった。

「行こうか、五段」

五段の薄い唇に、きゅっと力がこもったんが見えた。
相変わらずスーツやけど、生地を見る限りいつもよりええもん着とるんはすぐに分かった。
丈もちょうどええし、ちゃんと測って作ってもらったんやろな。
うちに言ってくれたらええのにっていうのは、思うだけにしといたる。
五段なりにカッコつけてくれた結果なんやもんな。

うちらが通されたんは、ギリギリで予約したわりに窓際で見晴らしのええ席やった。
その代わり、ちょっと肌寒いんが難点なんやとか。けど、うちらには関係ないもんな。

「あの、今月さん」

232名無し募集中。。。2017/12/24(日) 00:45:49.080

まずは飲み物からやな。
今日は席だけの予約(ケーキだけは頼んだけど)やから、好きなもん食べようと思う。

「すいません、あの」

ついでに五段の好みなんかも聞けたらええなあって思って、メニューをひっくり返した、んやけど。

「…………ん?」

今、何か聞こえたか? 空耳にしてはしっかりしすぎとるような。

「……今月さん」
「……は?」

自分の喉から漏れたんは、やけに間抜けな声やった。
人ってもんは、予想外すぎることに出くわすと何も言葉が出てこんもんなんやな。

「は?って……ひどいですよ」
「ホ、ホンマに……ホンマに五段?」
「それ以外に誰がいるんですか」
「いや、なんやろ、ドッキリか何か?」
「そんなわけないじゃないですか」

前髪の向こう側で、五段の眉がハの字に下がる。五段のこんな呆れた声、初めて聞いた。

「……ど、どしたん?」
「別に……特に、どうもしてないです」
「そう、なん」
「料理と飲み物、頼みますか?」
「そ、そうやね」

面食らううちの前で、五段は当たり前のようにメニューへと目を落とした。

233名無し募集中。。。2017/12/24(日) 00:46:30.660


五段とうちの好みは、どうやらよう似とるらしい。
何を頼むかで口にした名前が一緒だったりして、全部の時間が幸せすぎてずっと顔がにやけとったんちゃうか。
料理を食べながらも、五段はいつもより饒舌に話をしてくれた。
もっちゃんにヘルプを求めたことまで話してしまうんは、詰めが甘い五段らしいところ。

「今日は、えらいよう喋るねえ」
「……嫌、ですか」
「ううん、嬉しい」

嬉しいのは本当やけど、ちょっと不安なのも本当。
五段に無理させとるんやないか、とか。考えすぎかな。

「せやけど、うちは喋らん五段も好きよ」
「なん……何なんですか……」

前にも言ったことあったんやけど、五段は忘れとるかもしれんからもう一回だけ言ってあげる。

「どんな五段でも、ええの」

言ってから、かあっと頬が熱くなるんを感じた。ほんま、今日だけやからな。もう二度と言わへんからね。
これあかん、五段の顔見られへん。そう思っとったら、五段の喉から絞り出すような声が聞こえた。

「あ、あなたは……天使か何かなんですか」

天使。天使て。
危ない危ない、飲みかけのワインを吹き出すところやった。

「笑うところじゃないですよ!」
「ごめんって、そういう意味やなくて」

「天使」なんて言葉が、五段の頭にあるんが面白かっただけ。
この年になって天使なんて言われるとは思わんやろ?

「はあ……分からんもんやなあ」
「何がですか?」
「こんなにしっくりくるなんて、思わんかったってこと」

五段と、うちと。Buono!の裏方で会うことはあったけど、まさか付き合うなんて思わんかったよね。
お互いに歳も歳やし、将来のことを見据えたお付き合いを始める年代な訳で。
そんな中で五段に出会ってしまって、気づけば彼女になっとって。
でも、全然、変な感じせえへんの。

「うちら、酔った勢いで始まったようなもんやのに」
「私は酔ってなかったですけどね」
「……は?」
「酔ってなかったです、私。あの、初めての、日」

五段の言葉を一つずつ噛み締めて、意味が頭まで届くまでに数秒はかかった気がした。

「五段、……それって」
「これ以上は、ここでは」

もしかして、うちはとんだクリスマスプレゼントをもらったんやろうか。
固く唇を結んだ五段が、荷物入れに置かれた紙袋に手を伸ばすんが見えた。

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