まとめ:雅ちゃんがももちの胸を触るセクハラ

294嗣永桃子誕生日祭2018/03/20(火) 02:09:53.480

罪な女の番外です。知らない方に3行で前置きすると
とある事件に巻き込まれたOLみやびちゃんと過去を持つ警官ももち
いろいろあったけど事件は解決して2人はおとももちになりました(2行で終わった)

『罪な女 0306』

好きで残業してるんじゃないっつーの。
油断すると言葉になって出てしまいそうで、雅は思わず口許に手をやった。
地下鉄の中だった。
窓に映りこむ自分の顔の険しさに居心地の悪い気分になって、雅はぎこちなく視線を逸らした。
『みやのせいじゃないよ。正解なんてないんだからさ』
佐紀の言葉を思い出し、細くため息をつく。
自分ひとりでカタをつけられるならどれだけ楽か。
扉が開き、人波が動く。
ホームに乗り換えの文字を見ると、考える前に雅は地下鉄を降りていた。

二丁目で飲むのは久し振りだった。
狭い階段を上がり見慣れた小さい看板を見ると、やっと雅は人心地つき、木の扉に手をかけた。
小さなことだ。ちょっとだけ飲んで、散らしてしまおう。

「なんだ、待ち合わせだったの?」
マスターは雅を見るなり、グラスを拭く手を止めて片眉を上げた。
「え?違う違う。なに」
予期せぬ言葉に笑いながら店の中を見回すと、すぐ前のカウンター、一番端で両腕に顔を埋めている女の姿が見えた。
雅はまっすぐそちらへ向かうと、すぐ隣のスツールに腰掛けた。寝息が聞こえる。

「なにこれ。どうしたの」
「さあ。仕事で何かあったんじゃないの。にしてもていが悪いにもほどがあるから端っこに片付けたんだけど」
「マズくないこれ」
「マズイに決まってんでしょ。早く連れ帰ってくれない」
「いや、あの、迎えに来たわけじゃないんだけど」

桃子はカウンターに突っ伏したままピクリとも動かなかった。
桃子の仕事にそれほど詳しいわけではなかったが、仮にも警察官が外で酔い潰れるなど、良くない事だとは雅にもわかる。
最近忙しくてあまり寝ていなかったようだとマスターは言った。
傍らのグラスは氷がほとんど溶けていた。無言でグラスを指差しながらカウンターの中へ顔を向けると、マスターはニコリともせずに言った。
「片付けると怒られんのよ」
早く連れ帰って欲しいというのはよくわかったが、あまりにも気持ち良さそうに眠っているので
雅は桃子を隠すようにスツールを寄せると、まずは一杯飲もうとマスターを呼び寄せた。

295嗣永桃子誕生日祭2018/03/20(火) 02:13:14.090

かっこいいグラスの持ち方ってどんなだろう。雅は自分の目の前に置かれたグラスを持ち上げ、傾けて軽く揺らした。
済んだ氷の音がして、透明な香りが立ち上る。
「すごい、めっちゃフルーティ」
「飲みやすいからってアンタまで潰れないでよ」
「明日仕事だし」
「どうなの。部署変わって」
「おんなじ社内とは思えないくらい、別の仕事みたい」
「雅なら大丈夫とでも言って欲しいの」
「自分ひとりじゃできないことって、どうしてもあるよねー」
「当たり前じゃない」

弾力のある液体が少しずつ喉を落ちていくと、仄かな熱が広がっていく。
右の気配が、二の腕を撫でる。雅は呼吸を止めた。
眠ってる。大丈夫。安心して、眠っておいで。

ゆっくりと心が凪いだ。不思議な気分だった。

事件後、半年の休職ののち、雅はもとの職場に戻っていた。
この会社で、まだやれてないことがある。そう思った時、背中を押してくれたのは桃子の存在だった。
いつでも誘って。そう言いながら、仕事に追われればなかなか連絡も取れず
ここで久し振りに遭遇した幸運に、雅は感謝したい気持ちになっていた。
残業も悪くない。とは言いたくないけれど。

ごそ、と動く音がした。
見ると、桃子が唸りながら頭を持ち上げている。雅の方へ首を向けると、眩しそうにその目を開けた。
雅はふと笑みを零した。
驚くでもなく、トロリと潤んだ目で、桃子は雅を見上げている。
雅が小首を傾げると、瞬きした桃子は再び顔を腕の中に隠し
「べつに、寝ていたわけではないんだけど」
と、呂律の回らぬ口調で言った。

それからすぐだった。体を起こした桃子は「あーなんかわかんないけどスッキリした」などと言いながら
雅と目も合わせず、てきぱきと会計を済ませ、出て行こうとする。
呆然と見送りそうになった雅は、マスターから「悪いけどみてやってくんない」と言われ
慌ててスツールを滑り降りた。

296嗣永桃子誕生日祭2018/03/20(火) 02:18:04.570

「もも!」
後ろから声をかけると、速足で前を行く桃子は立ち止まった。
雅が駆け寄ると「いいのに。飲んでおいでよ」と言い、唇を尖らせた。
「せっかく久し振りに会えたのに?」
「そう、そうだったね」
「どんだけ飲んだらあんななるの」
「ちーがう。ちょっと疲れてただけ」
「口まわってないし」
そう言って笑うと、桃子は黙った。
雅はその背中を軽く叩いた。
「いいの。私明日仕事だから一杯だけのつもりだったし」
「明日休みなんだよね」
「いいなぁ」
「良くないよ!どれだけ忙しかったと思ってんの」
「え、それはこっちの台詞なんだけど」
「じゃあ早く帰んなよ」
「もも送ってってからね」
強引に腕を取ると、桃子が苦笑いしてから肩で体を押してきて、雅は可笑しくなった。

「あそこにコンビニ見えるじゃん」
「うん。見える」
「ももと再会したコンビニ」
「そうだね」
「何でも好きなの買ってあげる」
「なにそれ」
「もうすぐ日付変わって誕生日でしょ?」
桃子は足を止め、目を丸くして雅を見上げた。
「いや、別に覚えてたとかいうわけじゃなくて。マスターが言ってた」
「……そこは、覚えてたってことにしてよ」
「むり」
雅が笑うと、桃子は髪を掻き上げた。「なんだ。嬉しいなぁ」
「今日じゃないけど、お祝いしよ。ちゃんと時間つくってさ。ほんとに」
返事の代わりに、桃子は頬を緩めた。

コンビニを出ると、駅までの道をゆっくり歩いた。
寒そうにしている桃子に、雅は自分のストールを巻きつける。
「あぁ、ありがと。あったかいね」
「風邪ひいたら休みが台無しになるからね」
ふふ、と桃子は笑い、少し躊躇いながら口を開いた。
「そういやさ、あれきり、話してなかったけどさ、あの」
その表情で、何を言っているのかを悟る。
雅は黙って続く言葉を待った。
「結局私、許す事にしたんだよね、石川のこと」
顔を上げた桃子は、雅に少し照れたようなはにかみを向け「ありがと」と早口で付け加えた。

298嗣永桃子誕生日祭2018/03/20(火) 02:23:09.440

「……自分のことは?」
「え?」
雅は、自分の顔が少し険を帯びている事に気付く。追いつめるつもりなんてないのに。
けれど、一番大事なことだと思った。ここで言えなければもうずっと言えない。
「自分のことは、許せたの?」
雅が立ち止まると、桃子は少し困ったように指先を胸元に当てた。

こちらを向いた桃子の目が、どこを見ているのかわからなかった。
「許せたんじゃ、ないかな」
唇だけが、そう動くのを見た。
「わかった」
「……う、うん。何が?」
「自分ひとりじゃできないことって、どうしてもあるよね」

『誰が許してくれても私が、私自身が、あの日の私を許してくれない。』
誰が許してくれても。あの日桃子はそう言ったけれど。

「みやが、許してあげる」
そう言ってしまうと、雅は思わず微笑んでいた。私にはできる。私にしかできない。
桃子の全てを思った。
泣きそうなくらい、優しい優しい気持ちでいっぱいになる。
あの日のもものことなら、みやが全部許してあげる。

雅の目の前で、桃子の体がぐらりと揺れた。

雅は手を伸ばしたが間に合わず、桃子は崩れるようにその場にしゃがみこむ。
その小さな手が口許を覆ったのを見て、雅は慌てて屈み込み、背中を撫でた。
「だいじょぶ?気持ち悪い?」
「ん……」
「吐きそう?移動する?立てる?」
往来を避けて、シャッターの閉まった店の前に座らせる。
背中をさすりながら、雅はあてもなく辺りを見回した。
「ゴメン、ちょっとだけ、このまま」
「いいよ、いいよ大丈夫」
そう言うと、桃子の片手が、屈み込んだ雅の膝に置かれた。

外国人の集団が、大声を上げながらすぐ前を通り過ぎて行く。
庇うように背中を抱えると、か細い声が聞こえた。
「ん?」
「……みやが、許してくれるんだね」
膝に置かれた手から、熱が伝わってくる。雅は目を閉じた。
「だって、私にしかできないと思った」
きっと同じ、自分自身を許せない過去を、抱えこもうとした私たちだから。
「うん。……そうかもしれない」

300嗣永桃子誕生日祭2018/03/20(火) 02:27:03.270

「誕生日に生まれ変わるのって、アリじゃん?」
「そーか」
桃子が喉だけでククと笑った。
「……私のことは、もうとっくにももが許してくれたから」
言葉にしてから気付く。そう、お互い罪な女だと、笑ってくれた時に。
「そ?なら、良かったな」
そう言うと、桃子は体を凭せかけてきた。

街灯が照らす、目の前の歩道を人の足が行き交う。
顔を上げれば、雅の視界にはいつも通りに変わらない街があった。
「幸せになろ」
滲む街灯を見上げながら雅はそう言い、桃子の肩に手を回して軽く叩いた。
覗き込んでやると、桃子はやけに殊勝に、コクリと小さく頷いた。

「ここでいいよ」と言い続ける桃子をなだめながら、マンションの前まで送っていった。
「電車まだあるし」
「ごめん、明日仕事なのに」
「特別。今日だけ」

のろのろと、ようやくマンションに辿り着くと、エントランスの灯を受けて桃子の背筋が少し伸びた気がした。
「はい。じゃあ、今日いちにち、良い誕生日を」
「ありがとう。遅いしホント気をつけて帰って」
「駅から近いから」
早く入れと手で追いやると、二三歩行ってから桃子が振り返った。

「あのさ、目あけたら、みやがいたからびっくりした。ほんとびっくりしたよ。そいで」
そこまで言って、桃子は目を伏せ、息を吐くように笑った。
「ん?それで、なに?」
雅の問いには答えず、桃子はぱっと顔を上げて「おやすみなさい。今日はありがとう」と言い
踵を返してエントランスに入っていった。その足取りを見送る。

唐突に雅の胸が高鳴った。後ろ姿に向かって「誕生日おめでとー!」と声をかけると
桃子はギョッとしたように立ち竦んで振り返り、ガラス扉の向こうから笑顔で手を振った。
もも。
姿が見えなくなるまで見送ると、雅はバッグを持ち直し、エントランスの前の階段を速足で下りた。
そのまま、駅に向かって雅は駆け出していた。
私たち、もっと幸せになろ。
地面を蹴る足音が軽やかに響いた。幸せになろう。歌うように、何度も心の中で繰り返していた。

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