まとめ:雅ちゃんがももちの胸を触るセクハラ

526 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/06/27(火) 22:49:29.40 0

ハウスキーパー雅ちゃん〈15〉

モモを〈魔法使い〉にしてしまった存在。地球外の知的存在が一個の侵略者ではなく、一枚岩でもないと教えてくれたその存在を、須藤は〈Mad Able Naughty Organism〉と名付けた。
という話を初めて聞かされたとき、思わずモモは「なにそれ」と言っていた。
「まあ、なんていうの、有能な変態、みたいなさ」須藤はうっとりと中空を見つめた。
「どういうつもりで私を〈魔法使い〉にしたんだろう」
「地球に寄与する者としか考えられない。仮説でしかないけど、今回、目を付けられてしまった一個の惑星に、その侵略から身を守れと手を差し伸べてくれたんだと思ってる。その欠片がももの中に確かにあるんだよ」
モモは自分のお腹を撫でた「これがなきゃ、普通の女の子に戻れるのに」
「いやお腹の中に入ってるわけじゃないから。あたしは大脳辺縁系のどっかに欠片が埋め込まれたんじゃないかと考えてるんだけどね。どういう形かわかんないけどさ」
「おかげさまで自由に交信可能だよ。おかげさまであれみたいだよ。宇宙からの攻撃を受け続けていると政治家にメール送るような人」
「……スレスレだね。ていうか、それ、この話のなけなしの設定を一瞬で無に帰す力があるね」
モモはニヤニヤしながら言った。「大脳辺縁系に宇宙の電波が」
「やめてよ!そういう風に聞こえるじゃない!」

〈対象〉をぶっ潰すと高らかに宣言した須藤は、しかしその方法についてモモに丸投げした。
「なんで私が考えなきゃならないわけ……」
「仕方ない、対象を感知できるのはももだけなんだから、行動原理も対策も弱点も、ももにしかわかんないんだから」
それは須藤の言う通りで、モモは頭を悩ませることになった。
「ビクビクしながら干渉に備えるよりこっちから仕掛けられるとなれば、ももにとっても悪い話じゃないでしょ」
「それで、すべてが終わるんならね」
「そうなれば、この島も解体。ももだって、自由になれる」
「……軽々しく言ってくれる。ねえ、聞きたいんだけど。まあさ、当然調べはついてるよね」
「なに」
「この世界に、私の戸籍は、あるの?」
須藤は一瞬の間の後、信じられない、といった目でモモを見てから立ち上がり、慌てて部屋を出ていった。記憶の部屋を確認しに行ったに違いなかった。

この、違う世界線の記憶も〈Mad Able Naughty Organism〉の仕業だというなら、須藤にだってどうすることもできないだろう。
自由になっても帰る場所はない。突きつけられているのはそれだけだ。
戻ってきた須藤は「写真剥がして持っていったね」と言った。
「私が聞いたのは、戸籍があるのかないのかってことなんだけど」
「……ないよ」
「それじゃフランスに行けないじゃん」
「パスポートくらい用意してあげるよ。すべてが終わったらね」須藤はため息をついた。
「……まあさ」
「なに」
「私を見つけてくれてありがとう」

モモは立ち上がった。部屋を出ようとドアを開けたとき、須藤は言った。
「あの子は無傷で返してあげなきゃいけないよ。他所様のお嬢さんを預かっているだけなんだから」
「わかってるよ」モモは振り返らずに部屋を出た。

534 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/06/27(火) 22:55:26.43 0

カーテンの隙間から月明かりが差している。モモは寝ている雅の手を握り直した。「おやすみ」と手を繋いで、並んで眠ってくれる人。
こんな風に解け合えるなんて、良いのかな。モモは目を閉じる。甘い甘い幸せを握りしめている。
無傷で。とまあさは言ってたけど、もう随分傷つけてしまったかもしれない。モモはそう思いながら、繋いでいない方の手で横に寝ている雅の髪を撫でた。

「あー今日もいいお天気だなぁ」ランドリーで雅は一人、伸びをした。
今日を含めて、雅が居られるのはあと三日だった。須藤が戻ってきてから、雅とモモは毎晩手を繋いで一緒に眠っている。一人の夜に胸塞がれることがない、それだけで雅は随分満たされていた。
何か考えることがあるとすれば、それはこの島を出る時だ。雅はそう決めていた。

雅が洗濯機を回していると、モモがランドリーに入ってきて言った。
「みーやん、お洗濯終わったらさ、半日ばかり付き合って欲しいんだけど」
「は、半日?」
「そう。まあさには内緒で」
「……内緒って無理じゃね」
「大丈夫。今日は出資者からのクレーム対応にかかりっきりで部屋から出てこないよ」
「よくわかんないけど、そんな長い時間、どうするの」
「だからさ、みーやんにお弁当をつくって欲しいんだよね」
「お弁当?」
「彩り良くお願いね」
「え、裏山でピクニックとか?」
「それは行ってのお楽しみだよ」

この陽光の中、ピクニックなら悪くない。そんな時間をつくってくれたモモに感謝した。思い出づくりかと思えば胸が少し痛んだが、雅は意識的にそれを払い落とした。

モモが階段を地下に降り、電話の部屋の壁を蹴り倒した時、雅はあまりの驚きに悲鳴を上げた。
「あ……ごめん。いいんだよここは隠し扉だからこうやって開けるの」
そこからさらに地下へ続く階段を覗き見て、雅はこれが楽しいピクニックなどではないことに気付く。
「ど、どこに行くの」
「今日はね、みーやんにこの島の機密の全部を教えてあげる」
振り返ったモモは清々しい顔でそう言った。

538 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/06/27(火) 22:59:48.86 0

階段をさらに降り、重い鉄の扉をモモが両手で開けた瞬間、唸るような音と、拭き上げてくる風が雅を襲った。
それは深く中がくり抜かれた何かの工場のようだった。縦横に組まれた鉄筋、ぽっかりと中空の空いた空間に沿って螺旋状に階段が降り、その周囲、びっしりと詰め込まれた機器のランプが無数に点滅していた。
「見てよ、まあさが掻き集めたサーバのコレクションだよ。ここをまあさはたった半年でつくったの。凄いでしょう」
一段下の踊り場に降り立ったモモは、雅に向かって手を伸ばした。
「ここを……降りるってこと?」
「そう。時間かかるからね、途中でみーやんのつくってくれたお弁当食べよう」

「……だから、まあ、千奈美が言ってたことは、だいたい合ってる」
「ごめん、まだよく、飲み込めないんだけど」
「そうだね、聞き流してくれてありがとう」
「ももが、戦うってこと?」
「戦うとかいうのは、全然本意じゃないんだけどさ」
「でも、そうしないと地球全体が持っていかれちゃうってことなんでしょ」
言いながら、雅は言葉が口の中で浮き上がっているのを感じる。まるで現実味のない話。これが機密と言われたところで、誰に話しても一蹴されるだろう。そこまで考えて、雅は思い至る。
だから、知られたところで構わないということか。
「今ね、他にも何か平和的な方法ないか、必死に考えてんの」

降りても降りても底が見えない感覚に、雅は目眩む。一番下まで行くつもりなんだろうか。
「あの、これ降りるのはまだいいけど、もしかしてまた、登るのかな」
モモは立ち止まった。苦渋に満ちた表情から目を閉じる。
「残念なお知らせなんだけど」
そりゃ半日みるわ。と雅は思った。
「エレベーターもあるんだけど、さすがにそこにはカメラが」
「なるほど」
「でもね、そろそろかな、ほら見て」
モモが指差した先には、少し広めの踊り場。場違いに簡素な長テーブルが設置され、その上にタンクが置かれているのが見えた。
「え、なに……あれって、ウォーターサーバー?」
「そう。給水ポイントだよ」 ※みんなで上がった仙台rensa
千奈美がメンテしているから安心というモモの説明を雅は上の空で聞いた。
途中で雅のつくったお弁当を二人で食べた。膝の上にランチクロスを広げ、くっついて座った。明太子入りの卵焼きと、根菜の肉巻き。冷凍野菜のボイルにドレッシング。小さいおにぎりにしたゆかりご飯。
「みーやんのご飯好きだったな」モモがぽつりと言った。
「明日も明後日もつくってあげる」そう雅が言うと、モモは目を伏せて微笑んだ。

541 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/06/27(火) 23:04:08.76 0

底が見えてきてからずっと、その場所にあるピンク色の四角について、何だろうと雅は考えていた。その全容が見えてきたとき、雅は軽いめまいに襲われた。
「なんで……一番下にあるのが、天蓋付きのベッドなの」
「まあさの趣味だよ」

「要はさ、このベッドの上が私にとって最っ強の通信環境になるわけ」
モモはベッドに上がると、隣をぽんぽんっと叩いて雅を呼んだ。二人で並んで横になる。自然に手を繋いでいた。こうして、手が繋がっている状態こそが、本来の姿のような。もうそれくらい手のひらが、指が、馴染んでいた。
雅は口を開いた。
「私ね、ここずっと降りてくる間、一番下まで来たらさ、自分が降りてきた長い階段と、このたくさんのコンピュータのライトがチカチカ光って高く高く抜けている空間を見上げるの、楽しみにしてたんだ」
「うん」
「ベッドの天井で何も見えないんだけど」
「文句はまあさに言ってくれる」

モモが呟くように何か歌を歌っていた。聞いた事のない歌。この歌声を、ずっと覚えていたい。

「本当は、ちょっとだけ、考えちゃったんだ」
そうモモが言い出して、天蓋を見上げていた雅は首を曲げ、モモの横顔を見た。
「帰りは、二人でエレベーターに乗ってさ、まあさに見つかって、そしたらまあさが『知られたなら帰すわけにはいかないね』なぁんて言って、みーやんは帰れなくなって、ずっとここにいて……なんて」
雅は黙ったまま、繋いでいた手を握りしめる。
「だけど、そんなの駄目だよね」モモは雅の方を向いた。
「みーやんは、ちゃんと、おうちに帰るんだよ」

「……うん。わかった」
正直……なんでもいいからエレベーターで上がりたいという思いが雅の脳裏をかすめたが、とても口にすることはできなかった。
モモの気持ちを思ったら、口を開けなかった。

「ちょっとお昼寝してから、戻ろう」
モモはそう言って目を閉じた。

〈最終回〉に続く

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