まとめ:雅ちゃんがももちの胸を触るセクハラ

829名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/08/07(月) 10:20:01.220

手帳を開くと、自分で書き込んだ予定が目に入った。
その文字をゆっくりとなぞると、雅の胸は自然と弾んだ。

「みやちゃん、どうしたんですか?」
「え?」
「や、なんか、ちょっとニコニコしてたんで」

有加の声の温度が、まだ仕事中であることを思い出させた。
慌てて雅が表情を戻すと、有加がぷっと吹き出したのが聞こえた。

「最近いいことでもあったんですかぁ?」
「な、ないって。別に」
「でもみやちゃん、この前もなんか楽しそうでした」

唐突に別方向から飛んでくる攻撃に、雅の体はわずかに緊張する。
言われてみれば、ひかるにも少し前に「楽しそうですね」と言われたばかり。

「ひかる、それ本当?」
「うん。だって——」
「はいはいはーい、仕事中」

口を開きかけたひかるを遮ると、有加から不満の声が上がった。
なおも食い下がろうとする有加に対し、しつこいよ、と釘を刺す。
おとなしくなると思いきや、最後の隙を突くように挟み込まれる有加の言葉。

「じゃあ、今度飲みに行きません? 美味しい店見つけたんで」
「……考えとく」

約束ですよ!と有加の瞳がきらめいて、どうやら逃げられなさそうだと予感した。

831名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/08/07(月) 10:22:02.310


土曜日空いてない?と桃子が尋ねてきたのは、奈々美を送り届けた後の車内だった。
空いてるけど、と何気なく返した後で、今度はどこに連れて行かれるのだろう、とじわりとした不安がよぎる。
それを見透かしたかのように、今度はスーパーじゃないよ、と桃子がいうのを聞いた。

「知沙希ちゃんのダンスコンクールがあるの。見に来ない?」
「えっと。なんで、うち?」

知沙希の顔は浮かんだものの、自分が誘われる理由が全くピンとこない。
戸惑いはそのまま声に乗って、桃子にも届いたはずだった。

「いやさ、家族枠っていうの? チケット捌けさせなきゃいけないの」
「あぁ……そう」

だったら、誰を誘っても同じではないか。
そう思った途端、少しだけ心が曇った気がしたのはなぜだろう。
重くなった感情に引っ張られて、口から出た声も自然と重くなる。

「ごめんごめん、それだけじゃないって」
「じゃあ、何?」
「単純に、知沙希ちゃんが見に来て欲しいって言ってたから」
「……え?」

桃子はあっさりと言ったようだったが、雅にとっては至極大事なことに思えた。
一度しか会ったことがないのに、そんな風に思ってもらえていたとは。

「私も行くし、どう?」
「や、いい、けど」

じゃ、決まりね。
桃子の一言がやけに楽しげに聞こえたのは、きっと気のせいではなかった。

832名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/08/07(月) 10:24:06.900


そんなわけで、土曜日はまた桃子に会えることが決まっている。
そう思っただけで、今週を乗り切れそうな気がしてくるから不思議だった。
ただ、ここ数日、雅が気になっていることが一つ。
通い慣れたコンビニの自動ドアをくぐった先に、見慣れた姿は今日も見当たらなかった。
昼から夜のシフトに移動したのだろうかと、仕事終わりに寄ってもみたが結果は同じ。
店長に確認したわけではないが、雅の知る限りではここ数日間桃子は現れていない。
仕方なくいつもと同じものを購入して、いつもと同じようにコンビニを後にする。
いつもと違ったのは、そこからだった。

「わっ」

いきなり目の前に現れた人影に、雅は咄嗟に身を引いた。
だが、ほんの僅かに間に合わず、肩に受けた衝撃に雅はよろける。
その反動でぶつかった相手もぐらついたのを感じた時には、両腕で相手を受け止めていた。

「ごご、ごめんなさいっ」

ぱっと目に入った顔に、記憶の片隅をチリリと刺激される。
それは相手も同じだったらしく、あ、という声が漏れたのを聞いた。

「……オンジンさん、ですか?」
「間違ってないけどちょっと違うかな。みやだよ。夏焼雅」

夏焼さん、とくり返す少女を眺めながら、雅は確かめるように名前を呼んだ。

「舞ちゃん、だよね?」
「はい」
「怪我とかしてない?」
「大丈夫ですっ!」

よかった、じゃあ。
そう言って会話を終わらせようとした雅を、あのう、と舞が引き止めた。

「えっと、めいくん見ませんでした?」
「めいくん?」
「ちょっと黒っぽい子なんですけど」

そう言われても、舞のほかに誰か見かけた記憶はない。
さあ、と肩をすくめると、困ったなあと舞は頭を掻いた。

「この辺で待ち合わせしてたはずなのに」

唇を尖らせる舞の視線がゆるりと動いて、やがてぴたりと止まる。

「ああーっ! いた!」
「へ?」

つられて振り返るが、雅の見る限り人影は見当たらなかった。
だが、駆け出す舞の足取りは迷いがない。
そのまま舞を目で追うと、やがて舞はコンビニの駐車場の隅にしゃがみこんだ。

833名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/08/07(月) 10:25:35.100

「めいくん! もう、こんなとこにいたらわかんないでしょ?」

彼女の目には何が映っているのだろう、と雅の背筋に冷たいものが伝う。

「ま、舞ちゃん?」
「紹介します! めいくんです」

一体、何が現れるのだろう。
身構えた雅の前に差し出されたのは、黒に近い灰色のモコモコとした塊。
雅に向けられるくりくりとした瞳に、尖った耳。

「ね、こ?」
「はいっ! 」

猫と、待ち合わせ?
雅の頭で、はてなマークがぐるぐると飛び交った。

「舞、実は動物とお話ができるんです」
「えーっと……」
「本当ですよ?」
「そ、そっか」
「あー、信じてないですよね?」

咎めるような目をされても、信じろと言う方が無理な話。
だが、舞はお構いなしに腕の中の猫に話しかける。

「ね、めいくん。今日は何してたの?」

ニャア、と返事をするように"めいくん"が声をあげる。
そう、と相槌を打つ舞に呼応するように、ミャオ、ミャオ、と鳴き声が続いた。

「りゅうくんが学校行くの見送って、お風呂入ってお散歩してたそうです」
「が、学校?」
「りゅうくんは学校通ってるんですよ! で、なになに——」

なおもニャオ、と続く鳴き声に耳を傾けながら、舞はこくこくと頷きを返す。
雅の目の前にいるのは、確かに猫と会話をする少女だった。

「え、さっきもも姉に会ったの?」

呆然としていた雅の意識は、桃子の名前にぴくりと反応した。

「えー、挨拶したら逃げられちゃったの? もう、もも姉ってば」
「に、逃げた?」
「もも姉、動物苦手なんです」
「へえ、そうなんだ」

猫に怯えて逃げる桃子を想像すると、なんだか可笑しかった。
この前、"りゅうくん"を見かけた時にはそんな素振りは全く見せなかったくせに。
そんな雅をよそに、舞はまた何やら"めいくん"と言葉を交わしていた。

「え、何? もも姉のところ連れてってくれるの?」

肯定するように鳴いて、"めいくん"がするりと舞の腕を抜け出す。
地面に華麗に着地すると、ついてこいと言うように"めいくん"が振り返った。
行きましょ、と舞に手を取られ、雅も"めいくん"の後を追いかけた。

835名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/08/07(月) 10:28:10.930

少し狭くなった路地を抜けると、大通りにたどり着いた。
前を行く"めいくん"は、そこから更に少し進むと小さく鳴いて立ち止まった。

「ここ?」

一体どこに桃子が、と視線を巡らせている雅の横で、舞があそこ、と指をさす。
その先にあるのは、2階建てのカフェだった。
ガラス張りになった2階席の端の方に、座っている人影が目に留まる。
遠目ではあるが、確かに桃子だ、と思った。
コンビニの店員としてでもなければ、子どもたちの保護者としてでもない桃子の姿。

「あのさ。ももって何やってんの?」
「えっと……アルバイト?」
「や、それは知ってるんだけど」

それ以外で、と促すと、舞は唇に手を当てて少しだけ考え込んでからポンと手を打った。

「あと、学校です」
「ガッコウ?」
「そうなんです。もも姉、今マスターらしいです」
「ま、マスター……?」

学校まではまだ分かるが、マスターとはこれいかに。
雅の頭の中で、幼い頃流行ったアニメのオープニングが流れ始めた。
たとえ火の中水の中土の中森の中。
いやいや、そんなものを目指しているわけではないだろうし。

「なんか、研究とかしてます」
「ケンキュウ……」

脳内の桃子が、キャップを被ったまま白衣を羽織る。
ますます分からなくなって、雅はそれ以上考えることをやめた。
ひとまず、桃子が学生らしいということと、何かしらの研究をしていることは理解できた。
しばらく桃子を眺めていると、不意に"めいくん"がニャアオ、と鳴いたのが聞こえた。
舞がバイバイと手を振ったところを見るに、じゃあねとでも言ったのだろうか。
気まぐれに尻尾を揺らしながら、"めいくん"は行ってしまった。

836名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/08/07(月) 10:29:44.830

「てかさ、本当に話せるんだね」
「信じてもらえました?」
「うん。ごめん、ちょっと疑ってた」
「えへへ、良いです。あ、でもこれ内緒ですよ?」

小指を差し出す様子は茶目っ気たっぷり。
雅がそこに自分の小指を絡めると、舞はますますご機嫌な様子でころころと笑った。
動物と言葉が交わせるなんて、とっても素敵なことだ。
実家にいた頃、飼っていた愛犬のピースと話してみたいと思っていたことが蘇る。
そう考えると、ドキドキと胸が逸るのが分かった。

「もしかして、犬とも喋れる?」
「喋れます!」
「じゃ、じゃあ、今度うちのピースと、」

お話してみて、と雅が言ったのと、賑やかな着信音が鳴り響いたのは同時だった。
取り出した携帯電話の液晶には、二瓶有加の文字。
慌てて通話ボタンを押すと、有加の声が耳に飛び込んだ。

「みやちゃん、明後日のプレゼンのことで相談があるんですけど」

ちょっと早めに戻れますか?と有加に問われて、はっと腕時計に目をやる。

「……あ」
「どうしました?」
「ううん、なんでもない。すぐ戻る」

今からならば、昼休憩が終わる10分前には戻れるはずだ。
電話を切ると、聞いていた内容から察したのか、お仕事ですか?という問いに雅は頷いた。

「ごめんね、そろそろ戻らないと」
「はい! お仕事、頑張ってください!」

元来た道を戻りかけて、あっ!と雅の背中に声がぶつかる。
少しだけ足を止めて振り返ると、両手をブンブンと振る舞が目に入った。

「夏焼さんとお話できて、とっても、楽しかったです!」

眩しいほどに白い歯を覗かせて、舞がニコッと笑う
うちも、と雅が返すと、舞の笑顔はますます輝いた。

169名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/08/09(水) 07:09:20.350

デスクに戻ってみると、情けなく肩を下げた有加がすみませんと謝ってきた。
仕事のうちだからと雅は言ったが、休憩時間を削らせてしまったことを気にしているらしい。
本当に真面目だよね、と雅が言えば、やめてください、と有加は頬を赤らめた。

「資料、作ってみたんですけど」

照れ隠しのように、数枚の紙が差し出される。
ぱらりとめくってみると、プレゼンで用いるスライド資料のプリントアウトであることが分かった。
クライアント向けの新商品のパッケージデザイン。
有加をリーダーに、ひかると雅の三人で担当している案件だった。
コンセプトまでは三人で詰めたが、それ以降は有加がメインの担当だったはず、なのだが。

「えっ……と」

渡された資料に目を通す途中、ちらりと目をやった有加はしゅんとしたように体を縮めていた。

「この赤ペンは?」
「さっき、チーフが来て」

作成した資料を見せたところ、かなり大量の赤入れを食らったらしい。
指摘されている点はどれも最もなものばかりだが、量も多く考える時間も必要そうだった。
もう少しこまめに進捗を尋ねておけば、と思っても今更遅い。

「結構、時間かかりそうだね」
「すみません」
「ううん。それより、間に合わせること考えよ」

まだ1日、猶予は残されている。
今からならば、本番までにチーフの確認を受けてもう一度修正するくらいの余裕はある。

「ひかる、手伝える?」
「いいですよ」

ちょうど通りかかったひかるも交え、3人で作戦会議。
お互いのやることを確認し終えると、雅はすぐさま作業に取りかかった。

171名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/08/09(水) 07:12:54.560

*  *  *

社内の放送が定時を知らせてから、1時間。
おおよその目処を立てて雅が席を立った時、有加はまだ自分のデスクにかじりついていた。
無理しないようにね、と声をかけると、大丈夫ですと返ってくる。
こういう時の大丈夫ほど、信じられないものもないけれど。
有加の背中があまりに必死だったものだから、雅は何も言わずオフィスを後にした。
すっかり日課になったコンビニまでの道をたどり、特に目的もなく自動ドアをくぐる。
そこで、ふと陳列された栄養ドリンクが目に飛び込んだ。
同時に浮かぶのは有加の真剣な横顔で、雅を自然とそれを手に取っていた。

「まーた不健康そうなことしてるね」
「わっ」

唐突な背後からの声に、雅の心臓は飛び上がった。

「も、もも? なんで? え、いつから?」
「んーと、ちょっと前から?」

みやが店に入って来たあたりから、と桃子はあっさり言うが、雅は信じられなかった。
桃子の気配なんて、声をかけられるまで微塵も感じていなかったのに。

「最近全然いなかったじゃん」
「ちょっと学校の方が忙しくてさ。お休みもらってたの」

来週から復帰するよ、と付け足された情報はしっかりと頭にメモを取る。
昼休憩の楽しみが増えた、と考えた途端。

「もー、みやってば。そんなにももに会いたかった?」
「なっ、なんで?」
「店長が毎日のように来るって言ってたから」

そこまで知られていては、誤魔化しようがなかった。
鬼の首を取ったように勝ち誇る桃子が憎らしい。

「そりゃ、ちょっとは。心配だったっていうか」
「気にしてくれてたんだ?」
「そう言ってんじゃん」

気恥ずかしさが増してきて、雅はもういい?と会話を終わらせようとする。
それを察したのか、桃子の空気がすっと引いたのが分かった。

172名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/08/09(水) 07:16:31.900


結局、栄養ドリンクと共に、有加と自分の分の夜食(バランスが悪いからとサラダも勝手に追加された)も購入した。

「そういえばさ、舞ちゃんに会ったの?」
「あーうん、お昼に」

コンビニを出ると、生温い夕方の空気が二人を包む。
空はもう、ほとんど群青に染まりかけているところだった。

「猫とお話できるんだーとかって言われなかった?」
「言われたけど」
「ごめんね、あの子ちょっと変わってるから」

さらっと聞こえてきた言葉に耳を疑って、雅は思わず桃子へと顔を向けた。
耳の奥の方に、さっきの言葉がチクチクと突き刺さった気がした。

「いいじゃん、変わってても」
「……へえ?」

雅の視界の中で、桃子は一瞬だけ瞳を震わせたようだった。
言葉の端に滲む煽るような色に触発されて、雅の声もついついトゲトゲしいものになる。

「ももは信じてないの?」
「さあ……タイミングよく鳴くくらいは猫でもできそうじゃない?」
「でもあれは本当に話してたって」
「あはは、そっか。みやがそう思うんなら、そうかもね」

何その言い方。
せっかくの楽しかった思い出に、ケチをつけられたような感覚。
他でもない桃子からの言葉であることも相まって、雅は苛立った。

「ごめんごめん。みやがびっくりしなかったかなって思っただけだから」

だから、桃子がそんな風に会話を締めた時も、納得なんていっていなかった。
だが、これ以上何か言えそうなこともなく、雅は静かに口を結んだ。

「みやは今から帰り?」
「帰ろうと思ってたけど気が変わったとこ」

カチャリと音を立てて、桃子の手の中で車のキーが光る。
帰ると言ったら乗せてくれるつもりだったのだろうが、今は言い訳があってよかったと雅は思った。

「ふーん、そっか。みやも大概お人好しだよね」
「なんで?」
「うーん、なんとなく」

奥歯に物が詰まったような言い方をする桃子に、収まりかけていた熱が蘇る。
かろうじてバイバイと言うと、またね、と桃子の声が追いかけてきた。
それはやけに穏やかで、雅は少しだけ桃子のことが分からなくなった。

173名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/08/09(水) 07:18:45.990


外から見上げると、いくつか明かりの漏れている窓を数えることができた。
その中には雅たちのオフィスも含まれていて、予想通りだったかと雅は苦笑した。
時間外通用口を抜け、有加が残っているであろう一室を目指す。
雅がオフィスのドアを開けると、向こう側には目を丸くした有加がいた。

「みやちゃん、なんで……?」
「後輩が頑張ってんのに帰れないでしょ?」

有加の表情が、みるみるうちにくしゃりと歪む。

「だって、これ、私の責に――」
「もー! たまには先輩を頼れっ」

なおも意地っ張りなことを言おうとする有加の体をぐっと引き寄せると、その頭をぐりぐり撫でる。
いきなりのことに、有加が間抜けな声を上げた。
ともすれば誰よりも努力家で、けれどそんな一面をあまり見せたがらない有加だが、最年少で甘えん坊なのもまた事実。

「もっと、甘えていいんだよ?」

おどけた中に混ぜ込んだ本音が、有加に伝わっていると良いと思った。
有加が小さく「はい」と答えたあたりで、入り口のドアがガチャリと音を立てた。

「あ、やっぱりいたぁ」
「ひかるぅ……」
「えへへ、差し入れも持ってきました」

ふわふわの声と共に、煎餅と思しき袋とペットボトルが掲げられる。
その姿をとらえた有加が、小さく鼻をすすったのが聞こえた。

コメントをかく


「http://」を含む投稿は禁止されています。

利用規約をご確認のうえご記入下さい

どなたでも編集できます