まとめ:雅ちゃんがももちの胸を触るセクハラ

933名無し募集中。。。2017/12/10(日) 21:39:20.880

指先に引っ掛けたオーナメント。ボールに描かれた模様を見ながら
気付けば鼻歌を歌っていた。ジングルベル。
ちょっと前からもう街中はうきうきするような音楽と、光と色に彩られていたけれど
みやは今日になってようやく、物置からツリーを引っ張り出してきて居間に立てた。

年々ツリーは賑やかになる。自分で買ったり、プレゼントされたオーナメントはどれも大切で
その時々に思いを馳せていると、どうしても飾り付けはゆっくりになった。

ももは朝から熱心にクリスマスカードを書いていた。
そんなの書くんだとびっくりしたが、色ペンを広げて、やけに楽しそうだった。
イブに庭に出してくれたら魔界へのゲートを開いて放り込みたいのだと言う。
描いたツリーをピンク色に塗りたくっているもものつむじを見ながら、みやは言った。

「クリスマスにそんな盛り上がると思わなかった」
「ん?いけない?」
「そういうわけじゃないけど、聖なる夜は悪魔もおとなしくしてるのかなーって思ってた」
ももはペンを動かす手を止めると顔を上げた。
「えぇ〜?みや知らないのぉー?」

「……さて、と」
無視して飾り付けに戻ったみやの様子などお構いなしに、ももは言葉を続けた。

「クリスマスっていうのはニムロドのお誕生日なの。知ってる?ニムロド。
最初に神に逆らって悪魔を崇拝したと伝えられる王様なんだけど」
「そうなんだー。そんなの聞いたことないし」
「キリストが生まれたのは12月25日じゃないってのは知ってると思うけど
ニムロドのお誕生日は間違いなくクリスマスだから。ツリーには復活したニムロドの邪悪な魂が宿るんだよね。
悪魔がクリスマスに怯える理由なんてどこにもないんで、大丈夫。ご心配なく」
「いや別に心配とかそういうんじゃないんで」

みやはちょっと考えてから、一番良く見える枝に、サンタの大きなオーナメントをぶら下げた。
「そーそー。サンタさんっていうのは、おっきい袋に悪い子を詰め込んでさらっていくんだよね。
トナカイさん可愛いーとか言うけどさ、ツノのついた獣と言ったら悪魔の化身と相場は決まってる。
サンタがサタンのアナグラムだなんて与太話はまあいいとしてもだよ」

「はいはいわかったからもう黙っていいからねー」
お気に入りのスノードームのオーナメントはLEDで光るやつ。イブに点灯しよう。

938名無し募集中。。。2017/12/10(日) 21:42:31.700

「大体さぁ聖なる日?そんなん、みやも思ってないくせに。
ニンゲンが最も欲にまみれる時がクリスマスって言っても過言ではないよね。
悪魔にとっちゃおいしさMAX、みーんな物欲性欲で頭の中ぱんっぱんにしちゃってさ。
ほんっとニンゲンってばやーらーしーーー。
そのくせ聖夜とか言い放てる神経にももちゃんびっくりーーーー」

みやはツリーに巻こうと両手にしていたリボンを持ったままももの座るソファに近づくと
慌てて逃げようとする体を押さえつけ、その口を塞ぐようにぐるぐると巻きつけた。
暴れるももの両手首を掴み、よいしょっと馬乗りになる。
うん。みやにはわかる。睨み上げてくるももの目が「ヘンタイ!」と言っていた。

顔を寄せ鼻先に噛み付くと、ももはギュッと目を瞑り
フーとかウーとか言いながらみやの背中を膝蹴りしてきた。
「余計なおしゃべりばっかしてるからでしょ」
ももが首を左右に振る。
耳にふーーーっと息を吹きかけてやると、ももの肩がビクビクっと震えた。
「ツリーの飾り付けくらい手伝ったらどう。大体うち来る前、最初にもも何て言った?家事するって言ったよね」
耳元で言って、チラと横目で見ると、ももがすっごい目で訴えてくる。
「なに。掃除はしてるって?よろしい。この年末は大掃除担当でヨロシク」

「ぐうぅーーーーーっ」
変な唸り声を上げ、ももがすごい力で腰を捻ったので、みやは思わずバランスを崩し右肘を付いた。
掴んでいた手首をももが勢いで振りほどき、飛んできた片手がこめかみにヒットする。
ビクッとなり片目を瞑ると、ももがはっと目を丸くした。
「いっ……たくないし」
すぐに逃げ回る手を再び掴むと、伸し掛かるようにしてももの全身を組み敷く。
体を全部乗っけて体重をかけ、そのままじっと息を詰めた。

……何がしたかったんだっけ。
秒針の音がかちん、かちんと部屋に響いていた。
そうだ、静かにさせたかったんだった。そうだそうだ。
体の上でふーっとため息が出る。
「んうーーぅ」と、ももが言った。
「重いって?うるさいわ」

942名無し募集中。。。2017/12/10(日) 21:45:26.670

呼び鈴が響いた。
こんな時ばっか、ももが顎で早く出ろと促す。別に居留守使ったっていいんだけど。
また鳴った。連打連打連打。カンカンカンカンうるさいっつーの。
いや、宅配だったりしたら受け取っておかないとまた面倒か。
みやは体を起こすと「はいはーい」と返事しながら、ももの上から降り、玄関に向かった。

玄関の扉を開けると、隙間からまず目に入ったのは胸元だった。
「こんにちはぁ」
頭の上から声が降ってきて、見上げると目が合った。
ちょっと見たことないくらい長身の、美女だった。ゆるく巻いた茶色い髪がマフラーに落ちている。
扉を半開きにしたまま、みやはその美女の顔を見つめた。ニコニコしていて、人懐っこそうだと思う。
視線を下ろすと高そうなウールのコートを羽織り、片手にファイルケースを持っている。セールスか何かのように思えた。

「えーと、どちらさまですか」
「あの、もも呼んでもらえます?」
「え?」
「もも……呼んでもらうの、駄目ですか?」
みやは一瞬言葉に詰まった。ここまでストレートな来客は初めてかもしれない。
いや、回りくどく来られても困るだけだからいいんだけど。

「……そんなひと、いませんけど」
「うそだぁ〜〜」
みやが扉を閉めようとすると「待った待ったぁ!」と素早く足が差し出され、ガンっと音がした。長い脚。
美女は隙間からぬっと顔を覗かせ、声を潜めた。
「悪いことは言わないんで、真面目な話、ここは話を聞いておいた方がいいですって」
みやがドアノブに貼り付けている銀のフォークを指差すと、美女は目を細めて顎を引いた。

「なんで?」
背後から声がして、みやは振り返った。
ももが廊下に出てきていた。
バカ。出てきちゃったら誤摩化せなくなるじゃん!
みやはちょっとイラっとした。
リボンで両手両足もぐるぐる巻きにしとけば良かった。

949名無し募集中。。。2017/12/10(日) 21:48:31.490

「もも!」
美女はいそいそとファイルケースから真っ黒なカードを取り出した。「じゃーん!招待状ー」
ももは目をぱちくりとさせた。「何の」
「クリパに決まってんじゃん」

「ちょっと待った」みやはノブを引く力を緩め、再び美女を見上げた。
「入る?」
「えーーっと……あのー、外に車置きっぱなんで、できれば今すぐ、一緒に行けるといいんだけどな」
「クリスマスにはまだ早いでしょ」
みやが言うと、美女は慌てたように声を上げた。
「でも早く連れて来いって」
ももの方を振り返る。
「何それ。帰ってこれるの」
ももはみやの言葉を聞くと俯き、苦笑いしてから、顔を上げた。

「せっかく来てくれて悪いけど、もも行かないよ」

胸がちくんと痛んだのは、何だろう。
あんなに楽しそうにカード書いてたんだしほんとは毎年クリパ楽しみにしてたんじゃないの。とか
断らせてるのは、みやなんじゃないの。とか
いやだって、クリパのために魔界に里帰りさせるとか、意味わかんないし。とか
ほんの短い時間に、いろんな考えが頭の中でぐるぐる渦巻いた。

ーーうちらってどういう関係だったっけ。

ももの一言で、意外にも美女はあっさりと引き下がった。
「久しぶりに、ももといっぱい喋れると思ったのに」
そう残念そうに呟き、彼女は体を退いた。
扉を閉める間際、背後のももの気配がほんの少し揺らいだような気がした。

953名無し募集中。。。2017/12/10(日) 21:51:05.670

内鍵をかけると、振り返る。何か言おうと思ったのに言葉に詰まる。
ももは、ヘンな顔をしていた。
みやの視線を受け、瞬きすると踵を返し、居間に戻っていく。

えーっと、待った。ねえ、何、今の。
追いかけて片手を掴むと、すぐに勢いよく振りほどかれた。
びっくりして見上げてくるももの顔を見る。
低い声でももは言った。
「今のなに」
それはみやの台詞。
「それ言いたいのはこっち……」
「何なの『帰ってこれるの』って、ももが帰ってこれるって言ったらみやはクリパへ送り出すわけ?」

「は?……急にクリパなんて言われても、こっちは何だかわかんないし」
「ただの内輪の乱痴気騒ぎだよ」
「……ほんとは行きたかったんじゃないの」
思わずみやがそう言うと、顔を歪めたももは「バッカじゃないの!」と言い捨て
二階へ駆け上がっていってしまった。
「意味わかんないんだけど!!」
階段を見上げ叫んでいた。上からばたん!とドアの閉まる音がした。

こうなったらしばらく降りてこないだろう。
居間に戻ると、絨毯に落ちていた色ペンを拾ってテーブルに置いた。

閉じ込めてるのは、みやだけど
外に出て欲しくない、人を襲って欲しくないって思ってるけど。
そういうんじゃないなら、遊んでおいで。なんて、普通に言える関係にだってなりたい。
とか言ったら、ヘンかな。
人間と悪魔のそんな未来を描くとか、やっぱ悪魔バスターとしてはダメなのかな。

みやはソファの上のリボンを拾い上げ、握りしめた。
「……なんでこっちがキレられなきゃなんないわけ!?」

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