まとめ:雅ちゃんがももちの胸を触るセクハラ

826名無し募集中。。。2017/12/30(土) 11:54:23.220

一階の一番奥、家主の部屋に、みやは立っていた。
床に積み上げられた本、ぽっかり空いた本棚の向こう側に小さな窓枠があるのを見てから
その意味を理解するまで、少し時間がかかった。

こんなところに窓があるなんて、知らなかった。
手つかずの窓。
なんだ、ここからなら、ももは出ていけるんじゃん。

ももはいつ気付いたんだろう。
キッチンの棚を片付けながらこの部屋の話になったとき
ももがちょっとヘンな顔をしていたのを思い出す。
前から、知ってたんだ。前からずっと。

みやは屈んで、床の本に手を伸ばした。
片付けなきゃ。頭の中だけでそう思って、だけど伸ばした手は固まったように動かなかった。

どうして、知らないフリなんかしてたの。
みやが、出て行って欲しくないって思ってるから、だから気を使って気付かないフリしてたの。
……バカにしてる。

みやは床にへたり込んでいた。
ももは出ていけない。みやがそう言う度に、ももは心の中で笑っていたのかもしれない。
間抜けなみやを、バカにして。
そして、みやがいないとなれば
こうやって簡単に出て行ってしまうんだ。

ももは、もういない。
やっぱり、そういう関係でしかなかった。

結界って何だったの?
みやの自己満足。みやの言い訳。
みや自身を縛りつけていたもの。
仕掛けなんていらない、最初から、気持ちだけでももにぶつかっていれば良かった。

こんな関係にしたのは、みやなんだ。

両手で顔を覆うと、床まで頭を屈めた。
全身が震えて止まらなかった。

大丈夫。
大丈夫だよ、みや。
ももに出会う前に戻った。そう考えればいい。
そう思い込めばいい。

827名無し募集中。。。2017/12/30(土) 11:59:15.760

目を開けて、みやは飛び起きた。
「何時」
陽が出る前に、ベッドに入ったと思う。
眠れないかとも思ったけれど、身も心も疲れきっていた。なにか考える間もなかったと思う。
恐る恐るカーテンをめくると、夕闇に包まれていた。
イブの夜がはじまる。

時間をかけて、スープを飲んだ。
それだけでお腹はいっぱいになった。

ももと2人で過ごすと思っていて、何の予定も入れていなかった。
誰かに連絡するのも恥ずかしいけど。
スマホをずっと放っていたことを思い出し、入れっぱなしにしていたバッグを手にした。
何かが頭を掠める。
そう、みやはここに、熊井からの招待状をしまっていた筈。

バッグをひっくり返して、中身を全部出した。
どれだけ探しても、あの真っ黒い封筒は出てこなかった。
やっぱり、ももはクリパに行ったんだ。
そっか。……熊井は喜んだだろう。あんなに会いたがっていたんだから。

自分でも驚くくらい、心は静かだった。
「さて、どうしよっかな」
みやは独り言ちた。

街へ出ればきっと賑やかだろう。
駅前のバルは道端にテーブルを出して、楽しい音楽を流しているだろう。
喧噪に囲まれて、軽く立ち飲みしてもいい。
きっとみんな浮かれ、騒いでいる。

『悪魔がクリスマスに怯える理由なんてどこにもないんで、大丈夫。ご心配なく』

マフラーを巻いていた手が止まった。
そうか。隙だらけのみんなの心に
今、つけこんでいる、つけこもうとしている悪魔がたくさん、いるのかもしれない。

イブは悪魔バスターにとって、放っておけない日なんじゃないの?

「……スタビちゃん、いっきまーす」
みやは、玄関の鏡に向かって笑みをつくった。

829名無し募集中。。。2017/12/30(土) 12:03:47.450

意識を研ぎすませば、街の中はみやが呆れるほど
悪魔の気配に満ちていた。

煌びやかなジュエリーショップのウィンドウの前にずっと立っていた女性。
黒い影が、その背中に貼り付いていた。
今まさに、なにか囁きかけているように。
みやはそっと近づき、斜めに構えた聖剣を女性の背中すれすれに落とす。
ハッと振り返った女性は怪訝そうに顔を歪め、みやの全身を一瞥すると足早にその場を離れていった。

あのカップル、男の人の方は悪魔憑きじゃないか。
周りが目に入らないくらい浮かれて腕を組んでいるけれど。
ぴたりと体を寄せている女の子の肩に手をかけると
びっくりしたように振り返った2人はみやを睨みつけてきた。

悪魔を追い出した後、邪魔をされたと腹立ち紛れにみやに手を伸ばしてきた彼氏の顔。
怯えながら見上げてきた彼女の顔。
違うの。
みんな、なんにも、わかってない!

お願い。幸せを手にするのに、悪魔の力を借りたりしないで。
そんなものがなくても、みんな幸せになれるんだよ。
みやが邪魔してるんじゃない。

クリスマスの絵柄が描かれた紙袋を下げていた女の子は
取り憑いていた悪魔をみやが祓うと、泣き出した。
悪魔に唆されて、その小さなプレゼントを手にするために、何をしたの。
みやが屈むと、女の子はみやの体を突き飛ばし、逃げて行った。

浮かれるような恋心も、美しいものに憧れる気持ち、欲しいと思う気持ちだって
きらきら輝いているはずなのに。
心の中に、人の欲望がいくつも黒い染みのように広がっていく。
振り切るようにみやは息を吐く。
路地に潜んでいた黒い影のような悪魔を一振りで薙ぎ払った。
これまでにない感覚を覚える。あちこちに悪魔の気配を感じられた。

830名無し募集中。。。2017/12/30(土) 12:08:25.400

「そいつに着いていっちゃだめ!」
みやの言葉に振り返ったカップル。女の方が悪魔だ。
「何なのお前」男が凄んだ。
「その女から離れて」
右手の聖剣に気付いた女が後退りし、予想外の方向に駆け出した。
追いかけて細い路地に入ると、羽を広げ飛び立とうとしている悪魔の頭上めがけ、飛び込むように聖剣を突き出す。
悲鳴を上げて倒れ込んだ悪魔がみやに向かって毒づいた。
「こんなことされる憶えないんだけど。あの男が寂しいっていうから、付き合ってあげようとしただけなのに」
「ウルサイ」
柄を握り直すと、喉元に当てた剣先は手応えもなく吸い込まれ、一瞬で女の姿は霧散した。
消える寸前、みやを見上げた悪魔の目、その仄暗い燐光だけがみやの網膜に残る。

もとの道に戻ると、同じ場所で男は蹲っていた。
「せっかく楽しいクリスマスになりそうだったのに。何なんだよ。お前のせいで台無しだ」
「酔っぱらいは早く帰んなー」
顔も見ずに言い放つと、みやはその前を通り過ぎた。

速足のつもりが、駆け足になり、走り出していた。
どうして?
どうしてみんな、みやを傷つけるの。

悪魔の方が優しい。ずっと優しい。
『どうしてももは』そう言った熊井の寂しげな色を
『助けます』そう言ったときの梨沙の真っ直ぐな目を
抱きかかえてくれたまいちゃんの力強い腕を
憎むことなんてできない。
なんなの。悪魔の方が

人間なんかより、ずっと。

背中にすぅっと冷たさが降りた。この気配は。みやは顔を上げる。
街から離れ、いつの間にか高校の前まで戻ってきていた。
禍々しい気が、校舎の屋上から湧き上がっているのを、みやは目視した。

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