最終更新:ID:CZpxRTnkOw 2017年07月16日(日) 11:45:59履歴
576 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/07/11(火) 00:43:34.38 0
−−−−
冷静に今日あった出来事を振り返ってみると、自らの意気地のなさにただただ打ちひしがれそうになった。
もしバラエティ番組だったとしたら紛れもなくあそこがボケるとこであり、そこで何も発言できなかった私は朝まで叱られること間違いなしである。
しかし、ピンチはチャンスという言葉もあるように、これはそんな臆病な自分を変える良い機会ではないだろうか。
本人に背中を押してもらったのに、ここで前に進まないのは女がすたる。
立ち上がって拳を突き上げたくなるほどの情熱を持ってそう決意をしたら、今度は今すぐにでも伝えたくて仕方なくなった。
叫びたいくらいの衝動に駆られながらも、頭の中はそれだけというわけにはいかず、同時にわだかまりも覚えていた。
ももに気持ちを伝える前に、やらないといけないことがある。
578 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/07/11(火) 00:45:09.14 0
−−−−
「今日、行ってもいい?」
ラジオの収録が終わり、談笑している後ろ姿を捕まえる。私がこう言うと、いつもなら嬉しそうに笑うのに。
訪問の目的に気付いているのか、にへは口を一文字に結んで、頷いた。
歩き慣れた道を二人で歩く。家に着くまでの時間が、いつもよりもずっと短く感じた。
もうここに来るのは最後となるのか。そう思うと、なんとも言えない気持ちになる。
私を部屋へ通すと、にへは台所へ向かい、コーヒーを用意してくれた。
部屋に満ちる香りに心を落ち着かせる。まるで別れ話をするような気持ちになりながら、床に腰を下ろした。
「はい、どーぞ」
「ありがと」
カップを受け取る。にへが向かい側に座るのを見届けてから、コーヒーに口をつけた。
悔しいけど美味しくて。砂糖の数も、ミルクの量も言わなくても分かる。そんな事実に、確かに過ごした時間を思った。
「……もう、こういうの、終わりにしよう」
自分で言っておきながら、ドラマのセリフみたいだななんて思う。そんな風に笑い飛ばしてくれるわけもなく、にへは黙ってカップの中を見つめていた。
「……終わるも何も、最初から何もなかったでしょう」
「……え?」
579 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/07/11(火) 00:45:58.00 0
「私たちには体の関係しかなかったわけですから。何も始まってないんですよ」
にへは視線を上げ、笑顔でそう言った。声に滲む悲しさには気付かないふりをして、視線を逸らした。目を見つめてしまったら、戻れないような気がしたから。
ただただ体の関係だけだったら、こんなに胸は痛まない。でも、言葉にしてしまうと、それ以外の表現が浮かばなくて。
辛い時そばにいてくれたのも、涙を拭ってくれたのも、ご飯を作ってくれたのも、一緒に笑い合った事実も全て、私たちの関係を表す言葉には含まれない。
「……嗣永さんと、付き合うんですか?」
「ううん、これから気持ちを伝えようと思ってる」
「もしだめだったら慰めてあげますよ」
マグカップ越しににやにやと笑う瞳と目が合う。ああ、いつものにへだ。そう安心したら私も自然と笑っていた。
にへには、笑っていてほしい。そう、伝えることはできないから、心の中で願った。
「もうにへには頼らないから」
「あら残念」
にへはそう言いながら立ち上がり、空になったカップを流しに持って行った。
食器を洗う水音と、カチャカチャという物音を聞くでもなく聞いていると、ほどなくして部屋へ戻ってきた。
私の側に近づいてきたかと思うと、ゆっくりと抱きしめられる。思わず腕を背中に回しそうになったが、すんでのところで止まった。行き場のなくなった指先が空気を掴んだ瞬間。
「……最後に、一回だけ」
耳元に降りかかる切実な声を、振り払うことは出来なくて。何も始まってない私たちにとっての、最後の口づけを受け止めた。
−−−−
冷静に今日あった出来事を振り返ってみると、自らの意気地のなさにただただ打ちひしがれそうになった。
もしバラエティ番組だったとしたら紛れもなくあそこがボケるとこであり、そこで何も発言できなかった私は朝まで叱られること間違いなしである。
しかし、ピンチはチャンスという言葉もあるように、これはそんな臆病な自分を変える良い機会ではないだろうか。
本人に背中を押してもらったのに、ここで前に進まないのは女がすたる。
立ち上がって拳を突き上げたくなるほどの情熱を持ってそう決意をしたら、今度は今すぐにでも伝えたくて仕方なくなった。
叫びたいくらいの衝動に駆られながらも、頭の中はそれだけというわけにはいかず、同時にわだかまりも覚えていた。
ももに気持ちを伝える前に、やらないといけないことがある。
578 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/07/11(火) 00:45:09.14 0
−−−−
「今日、行ってもいい?」
ラジオの収録が終わり、談笑している後ろ姿を捕まえる。私がこう言うと、いつもなら嬉しそうに笑うのに。
訪問の目的に気付いているのか、にへは口を一文字に結んで、頷いた。
歩き慣れた道を二人で歩く。家に着くまでの時間が、いつもよりもずっと短く感じた。
もうここに来るのは最後となるのか。そう思うと、なんとも言えない気持ちになる。
私を部屋へ通すと、にへは台所へ向かい、コーヒーを用意してくれた。
部屋に満ちる香りに心を落ち着かせる。まるで別れ話をするような気持ちになりながら、床に腰を下ろした。
「はい、どーぞ」
「ありがと」
カップを受け取る。にへが向かい側に座るのを見届けてから、コーヒーに口をつけた。
悔しいけど美味しくて。砂糖の数も、ミルクの量も言わなくても分かる。そんな事実に、確かに過ごした時間を思った。
「……もう、こういうの、終わりにしよう」
自分で言っておきながら、ドラマのセリフみたいだななんて思う。そんな風に笑い飛ばしてくれるわけもなく、にへは黙ってカップの中を見つめていた。
「……終わるも何も、最初から何もなかったでしょう」
「……え?」
579 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/07/11(火) 00:45:58.00 0
「私たちには体の関係しかなかったわけですから。何も始まってないんですよ」
にへは視線を上げ、笑顔でそう言った。声に滲む悲しさには気付かないふりをして、視線を逸らした。目を見つめてしまったら、戻れないような気がしたから。
ただただ体の関係だけだったら、こんなに胸は痛まない。でも、言葉にしてしまうと、それ以外の表現が浮かばなくて。
辛い時そばにいてくれたのも、涙を拭ってくれたのも、ご飯を作ってくれたのも、一緒に笑い合った事実も全て、私たちの関係を表す言葉には含まれない。
「……嗣永さんと、付き合うんですか?」
「ううん、これから気持ちを伝えようと思ってる」
「もしだめだったら慰めてあげますよ」
マグカップ越しににやにやと笑う瞳と目が合う。ああ、いつものにへだ。そう安心したら私も自然と笑っていた。
にへには、笑っていてほしい。そう、伝えることはできないから、心の中で願った。
「もうにへには頼らないから」
「あら残念」
にへはそう言いながら立ち上がり、空になったカップを流しに持って行った。
食器を洗う水音と、カチャカチャという物音を聞くでもなく聞いていると、ほどなくして部屋へ戻ってきた。
私の側に近づいてきたかと思うと、ゆっくりと抱きしめられる。思わず腕を背中に回しそうになったが、すんでのところで止まった。行き場のなくなった指先が空気を掴んだ瞬間。
「……最後に、一回だけ」
耳元に降りかかる切実な声を、振り払うことは出来なくて。何も始まってない私たちにとっての、最後の口づけを受け止めた。
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