最終更新:ID:sb0Q8ePqmg 2017年02月01日(水) 10:11:47履歴
486 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/01/31(火) 01:23:45.01 0
「——ぃり、ねえ、あいり」
ぐらぐらと揺さぶられる体に合わせて、脳みそが直接揺さぶられたみたいだった。
まってまって、酔うからまって。
そう思うのに、あたしを揺する力は弱まらない——どころか、もっと強くなった。
「うー……もう、なに……?」
「なにじゃないよう、愛理、みやが死んじゃうよう」
「ああ、そう……みやがね……はあっ?!」
耳に飛びこんできた単語を遅れて理解した頭が、さっと覚醒する。
がばっと起き上がったら、ももが半泣きな状態でそこにいた。
「だから、そう言って——」
ももの語尾を待たず、急いで部屋を飛び出す。
「みやっ!」
慌てて離れの障子を開けたら、畳の上にべったりとうつ伏せるみやの姿。
なんだろう、何かの干物みたい……って、そうじゃなくて。
「だ、大丈夫っ?」
駆け寄ると、みやの口が微かに形を変えたみたいだった。
でも、何を言ってるかは聞き取れなくて。
ああもう、どうしよう。
非常事態すぎて頭が回らない。
救急車? 吸血鬼に? あまり意味がなさそう。
ていうか、まず……なんで倒れてるの?
「おなか、空いたんだってさ」
「……は?」
追いついてきたらしいももの言葉に、緊張感がなさすぎて思わず耳を疑った。
今なんて?
そう聞き返そうとしたところで、ぐいっと手首を掴まれる。
え?と思う間もなく、手首に濡れたものが押し当てられた。
ふと見れば、みやがあたしの手首にかぶりついている。
その様子はこの世のものではないようで、みやも妖怪と呼ばれる類の生き物なんだと不意に思った……なんちゃって。
とにかく、これは四の五の言う前に、お腹を満たしてやらないといけないっぽい。
仕方なくされるがままになっていると、血液が吸い出される不思議な感覚の後、ぺろりと噛み跡を舐められる。
487 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/01/31(火) 01:24:06.05 0
「あー、飢え死にするかと思った」
ようやく落ち着いたらしいみやが、満足げに息をついた。
そこまで?って正直思ったけれど、さっきの干物を見てたら笑い飛ばすこともできない。
ていうか、なんでそんな状態になったの?って聞いたら、愛理がいつもの時間に来ないから、ってももが苦い表情。
「あれ、今って」
「深夜3時」
「いつもみやにご飯あげてるのは」
「夜の10時」
なるほど、吸血鬼というものは5時間で干物になるらしい。
勉強になりました。
「何してたの?」
「寝てた」
「へ?」
大事な役目を放って寝てた?
信じられない、と言いたげなみやとももの視線が痛い。
だってだって、仕方ないじゃん。
「おこたに入っちゃったら、つい……」
「おこた? おこた出したの?」
「そう、昨日ね」
「えー! いいなーっ!」
「……オコタ?」
おこた入りたーい、と駄々っ子みたいにじたばたするもも。
対して、そんな言葉は初めて聞いたって顔できょとんとするみや。
「えーっと、こたつ?」
「コタツ……」
「えー、みや、こたつ知らないの?」
傍から、ももがずいっと割り込んだ。
悪い?とそれをうざったそうに避けながら、みやが顔を背ける。
でも、ももは構わず、もったいなーいと追い討ちをかける。
ちょっとみやには可哀想だけど、もったいないっていうのは同意。
こたつを知らないなんて、人生の半分くらい損してるよ、みや。
ももと顔を見合わせて、二人でみやの手を取った。
どうせ家の中はみんな寝てるだろうし、今夜くらいは内緒の夜更かし、してもいいよね?
488 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/01/31(火) 01:24:44.51 0
ほらほら早く、と三人でさっきの部屋——つまり、私が寝落ちていた部屋へと戻って来た。
離れから移動してくるまでの間に体はすっかり冷めてしまったし、ももと二人でいそいそとこたつに潜りこむ。
おかえりって言うように肌に触れるふんわりとした熱。
うん、これこれ。
これがいいんだよね。
ももに至っては肩のあたりまでこたつの中に埋もれていて、なんか妙に殻だけ大きいカタツムリみたい。
でも、みやは入り口で立ち止まったまま、あたし達を見つめていた。
「みやも、早くおいでよ」
「え、いや……何それ」
「え? こたつだよ?」
「こたつ……」
おまじないか何かのように反芻するみやの顔は、強張ったまま。
いいからおいでよ、と手招きしたら、硬い顔のままみやが近寄ってくる。
でも、ある程度距離を縮めたところで静止するみや。
「どうしたの、みや?」
「なんか、怖い」
「えー、どこが?」
こんな最高な暖房器具はないと思うんだけど。
日本と外国じゃ感覚が違うのかな。
「だって……こ、ここに足つっこむの?」
「そうそう」
大丈夫だってば、おいでよ。
カタツムリ状態のももが、軽い調子で手招きをする。
それが功を奏したのか、覚悟を決めたらしいみやがそろりと寄ってきた。
ももがずりずりと避けてできたスペースに、おっかなびっくりな様子でみやがゆっくりと足を差し込む。
その中で、徐々に開かれていくみやの瞼。
「あー……ったかい」
「でしょ? 気持ちよくない?」
「気持ち、いい」
しみじみとした調子で、みやがゆっくりと息を吐いた。
しばらくすると、こたつの温かさにも慣れてきたらしい。
みやの体の緊張が、良い具合に緩んでいくのが見えた。
489 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/01/31(火) 01:25:22.87 0
「なんで、これ暖かいの?」
「えっ……とねえ」
そういえば、って感じで真顔のみやに尋ねられたけど、どう答えたらいいんだろう。
あれだよ、ほら、文明の利器ってやつだよ。
ごめんなさい、中身は詳しく知りません。
「ま、魔法みたいなもん?」
「魔法……」
適当に言った単語だったけれど、みやはみやなりに納得してくれたようだった。
「こたつでみかん。これが日本の冬の醍醐味なの」
「……なるほど」
ほら、ここにちょうどみかんもあることだし。
なんて思っていたら、いち早くももの手が伸びてきてみかんを一つ攫っていく。
そんなことしなくたって、三人で分けても十分な数は用意されてるんだけどね。
みやも同じようにみかんを一つ手に取って、ももに倣って剥き始めた。
横並びでみかんを剥く、妖怪二人(もしくはに匹)。
みやは初めてなせいかちょっと不器用で、長い指を持て余しているみたい。
それを手伝うももの手。
「あとね、みかんはあーんって食べさせるのも醍醐味だよ」
「はあ? なにそれ」
「ほらぁ、ももにあーんして?」
「いや、わけわかんないし」
なんて思ってたら、そんな会話が聞こえてきた。
訂正。あれは手伝ってるんじゃなくて、ちょっかい出してるだけ。
でも、みやもみやで満更でもないって顔。
持っていた一房を仕方ないなあって言いながら、そっとももの口に放り込んであげている。
それを見てたら、背中のあたりがちょっとむず痒くなった。
なんだか、平和だなあ。
こたつの温かさも相まって心がほろほろと解けていく感覚。
もしかしたら、これが幸せってやつなのかもしれないって思ってしまった。
それはあたしの感情であって、みやとももがどう思っているかなんて分からないけれど。
でも、でもね。
ふわふわとした心地よさで体が満たされているのは本当。
みかんを一つ、口に含む。
それは、十分な甘さを含んでいた。
みやには申し訳ないけれど、もうちょっとだけこの時間が長く続けばいいのに。
そんなことを、ふと思ってしまった。
おわり
「——ぃり、ねえ、あいり」
ぐらぐらと揺さぶられる体に合わせて、脳みそが直接揺さぶられたみたいだった。
まってまって、酔うからまって。
そう思うのに、あたしを揺する力は弱まらない——どころか、もっと強くなった。
「うー……もう、なに……?」
「なにじゃないよう、愛理、みやが死んじゃうよう」
「ああ、そう……みやがね……はあっ?!」
耳に飛びこんできた単語を遅れて理解した頭が、さっと覚醒する。
がばっと起き上がったら、ももが半泣きな状態でそこにいた。
「だから、そう言って——」
ももの語尾を待たず、急いで部屋を飛び出す。
「みやっ!」
慌てて離れの障子を開けたら、畳の上にべったりとうつ伏せるみやの姿。
なんだろう、何かの干物みたい……って、そうじゃなくて。
「だ、大丈夫っ?」
駆け寄ると、みやの口が微かに形を変えたみたいだった。
でも、何を言ってるかは聞き取れなくて。
ああもう、どうしよう。
非常事態すぎて頭が回らない。
救急車? 吸血鬼に? あまり意味がなさそう。
ていうか、まず……なんで倒れてるの?
「おなか、空いたんだってさ」
「……は?」
追いついてきたらしいももの言葉に、緊張感がなさすぎて思わず耳を疑った。
今なんて?
そう聞き返そうとしたところで、ぐいっと手首を掴まれる。
え?と思う間もなく、手首に濡れたものが押し当てられた。
ふと見れば、みやがあたしの手首にかぶりついている。
その様子はこの世のものではないようで、みやも妖怪と呼ばれる類の生き物なんだと不意に思った……なんちゃって。
とにかく、これは四の五の言う前に、お腹を満たしてやらないといけないっぽい。
仕方なくされるがままになっていると、血液が吸い出される不思議な感覚の後、ぺろりと噛み跡を舐められる。
487 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/01/31(火) 01:24:06.05 0
「あー、飢え死にするかと思った」
ようやく落ち着いたらしいみやが、満足げに息をついた。
そこまで?って正直思ったけれど、さっきの干物を見てたら笑い飛ばすこともできない。
ていうか、なんでそんな状態になったの?って聞いたら、愛理がいつもの時間に来ないから、ってももが苦い表情。
「あれ、今って」
「深夜3時」
「いつもみやにご飯あげてるのは」
「夜の10時」
なるほど、吸血鬼というものは5時間で干物になるらしい。
勉強になりました。
「何してたの?」
「寝てた」
「へ?」
大事な役目を放って寝てた?
信じられない、と言いたげなみやとももの視線が痛い。
だってだって、仕方ないじゃん。
「おこたに入っちゃったら、つい……」
「おこた? おこた出したの?」
「そう、昨日ね」
「えー! いいなーっ!」
「……オコタ?」
おこた入りたーい、と駄々っ子みたいにじたばたするもも。
対して、そんな言葉は初めて聞いたって顔できょとんとするみや。
「えーっと、こたつ?」
「コタツ……」
「えー、みや、こたつ知らないの?」
傍から、ももがずいっと割り込んだ。
悪い?とそれをうざったそうに避けながら、みやが顔を背ける。
でも、ももは構わず、もったいなーいと追い討ちをかける。
ちょっとみやには可哀想だけど、もったいないっていうのは同意。
こたつを知らないなんて、人生の半分くらい損してるよ、みや。
ももと顔を見合わせて、二人でみやの手を取った。
どうせ家の中はみんな寝てるだろうし、今夜くらいは内緒の夜更かし、してもいいよね?
488 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/01/31(火) 01:24:44.51 0
ほらほら早く、と三人でさっきの部屋——つまり、私が寝落ちていた部屋へと戻って来た。
離れから移動してくるまでの間に体はすっかり冷めてしまったし、ももと二人でいそいそとこたつに潜りこむ。
おかえりって言うように肌に触れるふんわりとした熱。
うん、これこれ。
これがいいんだよね。
ももに至っては肩のあたりまでこたつの中に埋もれていて、なんか妙に殻だけ大きいカタツムリみたい。
でも、みやは入り口で立ち止まったまま、あたし達を見つめていた。
「みやも、早くおいでよ」
「え、いや……何それ」
「え? こたつだよ?」
「こたつ……」
おまじないか何かのように反芻するみやの顔は、強張ったまま。
いいからおいでよ、と手招きしたら、硬い顔のままみやが近寄ってくる。
でも、ある程度距離を縮めたところで静止するみや。
「どうしたの、みや?」
「なんか、怖い」
「えー、どこが?」
こんな最高な暖房器具はないと思うんだけど。
日本と外国じゃ感覚が違うのかな。
「だって……こ、ここに足つっこむの?」
「そうそう」
大丈夫だってば、おいでよ。
カタツムリ状態のももが、軽い調子で手招きをする。
それが功を奏したのか、覚悟を決めたらしいみやがそろりと寄ってきた。
ももがずりずりと避けてできたスペースに、おっかなびっくりな様子でみやがゆっくりと足を差し込む。
その中で、徐々に開かれていくみやの瞼。
「あー……ったかい」
「でしょ? 気持ちよくない?」
「気持ち、いい」
しみじみとした調子で、みやがゆっくりと息を吐いた。
しばらくすると、こたつの温かさにも慣れてきたらしい。
みやの体の緊張が、良い具合に緩んでいくのが見えた。
489 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/01/31(火) 01:25:22.87 0
「なんで、これ暖かいの?」
「えっ……とねえ」
そういえば、って感じで真顔のみやに尋ねられたけど、どう答えたらいいんだろう。
あれだよ、ほら、文明の利器ってやつだよ。
ごめんなさい、中身は詳しく知りません。
「ま、魔法みたいなもん?」
「魔法……」
適当に言った単語だったけれど、みやはみやなりに納得してくれたようだった。
「こたつでみかん。これが日本の冬の醍醐味なの」
「……なるほど」
ほら、ここにちょうどみかんもあることだし。
なんて思っていたら、いち早くももの手が伸びてきてみかんを一つ攫っていく。
そんなことしなくたって、三人で分けても十分な数は用意されてるんだけどね。
みやも同じようにみかんを一つ手に取って、ももに倣って剥き始めた。
横並びでみかんを剥く、妖怪二人(もしくはに匹)。
みやは初めてなせいかちょっと不器用で、長い指を持て余しているみたい。
それを手伝うももの手。
「あとね、みかんはあーんって食べさせるのも醍醐味だよ」
「はあ? なにそれ」
「ほらぁ、ももにあーんして?」
「いや、わけわかんないし」
なんて思ってたら、そんな会話が聞こえてきた。
訂正。あれは手伝ってるんじゃなくて、ちょっかい出してるだけ。
でも、みやもみやで満更でもないって顔。
持っていた一房を仕方ないなあって言いながら、そっとももの口に放り込んであげている。
それを見てたら、背中のあたりがちょっとむず痒くなった。
なんだか、平和だなあ。
こたつの温かさも相まって心がほろほろと解けていく感覚。
もしかしたら、これが幸せってやつなのかもしれないって思ってしまった。
それはあたしの感情であって、みやとももがどう思っているかなんて分からないけれど。
でも、でもね。
ふわふわとした心地よさで体が満たされているのは本当。
みかんを一つ、口に含む。
それは、十分な甘さを含んでいた。
みやには申し訳ないけれど、もうちょっとだけこの時間が長く続けばいいのに。
そんなことを、ふと思ってしまった。
おわり
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