まとめ:雅ちゃんがももちの胸を触るセクハラ

486 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/01/31(火) 01:23:45.01 0

「——ぃり、ねえ、あいり」

ぐらぐらと揺さぶられる体に合わせて、脳みそが直接揺さぶられたみたいだった。
まってまって、酔うからまって。
そう思うのに、あたしを揺する力は弱まらない——どころか、もっと強くなった。

「うー……もう、なに……?」
「なにじゃないよう、愛理、みやが死んじゃうよう」
「ああ、そう……みやがね……はあっ?!」

耳に飛びこんできた単語を遅れて理解した頭が、さっと覚醒する。
がばっと起き上がったら、ももが半泣きな状態でそこにいた。

「だから、そう言って——」

ももの語尾を待たず、急いで部屋を飛び出す。

「みやっ!」

慌てて離れの障子を開けたら、畳の上にべったりとうつ伏せるみやの姿。
なんだろう、何かの干物みたい……って、そうじゃなくて。

「だ、大丈夫っ?」

駆け寄ると、みやの口が微かに形を変えたみたいだった。
でも、何を言ってるかは聞き取れなくて。
ああもう、どうしよう。
非常事態すぎて頭が回らない。
救急車? 吸血鬼に? あまり意味がなさそう。
ていうか、まず……なんで倒れてるの?

「おなか、空いたんだってさ」
「……は?」

追いついてきたらしいももの言葉に、緊張感がなさすぎて思わず耳を疑った。
今なんて?
そう聞き返そうとしたところで、ぐいっと手首を掴まれる。
え?と思う間もなく、手首に濡れたものが押し当てられた。
ふと見れば、みやがあたしの手首にかぶりついている。
その様子はこの世のものではないようで、みやも妖怪と呼ばれる類の生き物なんだと不意に思った……なんちゃって。
とにかく、これは四の五の言う前に、お腹を満たしてやらないといけないっぽい。
仕方なくされるがままになっていると、血液が吸い出される不思議な感覚の後、ぺろりと噛み跡を舐められる。

487 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/01/31(火) 01:24:06.05 0

「あー、飢え死にするかと思った」

ようやく落ち着いたらしいみやが、満足げに息をついた。
そこまで?って正直思ったけれど、さっきの干物を見てたら笑い飛ばすこともできない。
ていうか、なんでそんな状態になったの?って聞いたら、愛理がいつもの時間に来ないから、ってももが苦い表情。

「あれ、今って」
「深夜3時」
「いつもみやにご飯あげてるのは」
「夜の10時」

なるほど、吸血鬼というものは5時間で干物になるらしい。
勉強になりました。

「何してたの?」
「寝てた」
「へ?」

大事な役目を放って寝てた?
信じられない、と言いたげなみやとももの視線が痛い。
だってだって、仕方ないじゃん。

「おこたに入っちゃったら、つい……」
「おこた? おこた出したの?」
「そう、昨日ね」
「えー! いいなーっ!」
「……オコタ?」

おこた入りたーい、と駄々っ子みたいにじたばたするもも。
対して、そんな言葉は初めて聞いたって顔できょとんとするみや。

「えーっと、こたつ?」
「コタツ……」
「えー、みや、こたつ知らないの?」

傍から、ももがずいっと割り込んだ。
悪い?とそれをうざったそうに避けながら、みやが顔を背ける。
でも、ももは構わず、もったいなーいと追い討ちをかける。
ちょっとみやには可哀想だけど、もったいないっていうのは同意。
こたつを知らないなんて、人生の半分くらい損してるよ、みや。
ももと顔を見合わせて、二人でみやの手を取った。
どうせ家の中はみんな寝てるだろうし、今夜くらいは内緒の夜更かし、してもいいよね?

488 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/01/31(火) 01:24:44.51 0


ほらほら早く、と三人でさっきの部屋——つまり、私が寝落ちていた部屋へと戻って来た。
離れから移動してくるまでの間に体はすっかり冷めてしまったし、ももと二人でいそいそとこたつに潜りこむ。
おかえりって言うように肌に触れるふんわりとした熱。
うん、これこれ。
これがいいんだよね。
ももに至っては肩のあたりまでこたつの中に埋もれていて、なんか妙に殻だけ大きいカタツムリみたい。
でも、みやは入り口で立ち止まったまま、あたし達を見つめていた。

「みやも、早くおいでよ」
「え、いや……何それ」
「え? こたつだよ?」
「こたつ……」

おまじないか何かのように反芻するみやの顔は、強張ったまま。
いいからおいでよ、と手招きしたら、硬い顔のままみやが近寄ってくる。
でも、ある程度距離を縮めたところで静止するみや。

「どうしたの、みや?」
「なんか、怖い」
「えー、どこが?」

こんな最高な暖房器具はないと思うんだけど。
日本と外国じゃ感覚が違うのかな。

「だって……こ、ここに足つっこむの?」
「そうそう」

大丈夫だってば、おいでよ。
カタツムリ状態のももが、軽い調子で手招きをする。
それが功を奏したのか、覚悟を決めたらしいみやがそろりと寄ってきた。
ももがずりずりと避けてできたスペースに、おっかなびっくりな様子でみやがゆっくりと足を差し込む。
その中で、徐々に開かれていくみやの瞼。

「あー……ったかい」
「でしょ? 気持ちよくない?」
「気持ち、いい」

しみじみとした調子で、みやがゆっくりと息を吐いた。
しばらくすると、こたつの温かさにも慣れてきたらしい。
みやの体の緊張が、良い具合に緩んでいくのが見えた。

489 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/01/31(火) 01:25:22.87 0

「なんで、これ暖かいの?」
「えっ……とねえ」

そういえば、って感じで真顔のみやに尋ねられたけど、どう答えたらいいんだろう。
あれだよ、ほら、文明の利器ってやつだよ。
ごめんなさい、中身は詳しく知りません。

「ま、魔法みたいなもん?」
「魔法……」

適当に言った単語だったけれど、みやはみやなりに納得してくれたようだった。

「こたつでみかん。これが日本の冬の醍醐味なの」
「……なるほど」

ほら、ここにちょうどみかんもあることだし。
なんて思っていたら、いち早くももの手が伸びてきてみかんを一つ攫っていく。
そんなことしなくたって、三人で分けても十分な数は用意されてるんだけどね。
みやも同じようにみかんを一つ手に取って、ももに倣って剥き始めた。
横並びでみかんを剥く、妖怪二人(もしくはに匹)。
みやは初めてなせいかちょっと不器用で、長い指を持て余しているみたい。
それを手伝うももの手。

「あとね、みかんはあーんって食べさせるのも醍醐味だよ」
「はあ? なにそれ」
「ほらぁ、ももにあーんして?」
「いや、わけわかんないし」

なんて思ってたら、そんな会話が聞こえてきた。
訂正。あれは手伝ってるんじゃなくて、ちょっかい出してるだけ。
でも、みやもみやで満更でもないって顔。
持っていた一房を仕方ないなあって言いながら、そっとももの口に放り込んであげている。
それを見てたら、背中のあたりがちょっとむず痒くなった。

なんだか、平和だなあ。
こたつの温かさも相まって心がほろほろと解けていく感覚。
もしかしたら、これが幸せってやつなのかもしれないって思ってしまった。
それはあたしの感情であって、みやとももがどう思っているかなんて分からないけれど。

でも、でもね。
ふわふわとした心地よさで体が満たされているのは本当。
みかんを一つ、口に含む。
それは、十分な甘さを含んでいた。
みやには申し訳ないけれど、もうちょっとだけこの時間が長く続けばいいのに。
そんなことを、ふと思ってしまった。


おわり

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