853名無し募集中。。。2018/01/22(月) 23:09:01.900
「はあっ……はあっ……」
喉を通る息の熱を感じながら、雅はベッドの中で膝を抱えて丸くなった。
開け放しておいた窓から入ってきた風が、カーテンを巻き上げる。
真っ暗な部屋の中で、窓際だけがスポットライトのように照らされた。
「……ぐ、ぅあ、ああ」
自然と山なりに反った体が、悪寒がした時のようにぞわぞわと震えた。
体の中でもう一人の自分が暴れ始める。早くしろと雅をせっつく。
ぎいぎいと悲鳴を上げるベッドに四肢をぐっと押し付けて、雅はもう一度熱い息を吐いた。
「今日、調子悪いの?」
桃子の声は、春先の突風のように雅の額を吹き抜けた。
昼休みに弁当をつついていた雅は、ハッとして箸を止めた。
「……ううん、大丈夫」
朝食を摂る傍ら、「今日は満月ね」と言った母親の声がよぎった。
まるでなんでもないことのような母親の態度を、雅は恨めしく思っていた。
精でもつけろというように、茶色いおかずばかりが並ぶ弁当。
きっと帰宅したら揚げた菓子などが用意されているだろう。
母親のお節介のせいで、既に胸はいっぱいだった。
854名無し募集中。。。2018/01/22(月) 23:09:45.320
「だってみや、今日、」
「なんでもないって。本当に」
これ以上踏み込まれたら、あっさりボロが出てしまう。
直感がそう告げて、雅は別の話題を放り投げた。
4限の講義で先生の言い間違いが可笑しかった話。
5限の小テストの勉強を全くしていない話。
どうせなら、なんでもないことを桃子と共有したかった。
雅の内心を知ってか知らずか、桃子はそこへするりと乗っかってくれた。
うぅ、うぅ、と勝手に漏れ出る低い唸り声が耳に届いた。
背骨のあたりにズキズキと何度も何度も鋭い痛みが走り、雅はシーツに爪を立てながら必死で耐えた。
全身の筋肉が、ブツブツと音を立ててほつれていく。
「ああぁっ、うっ、ぐ」
体の中心で生まれた熱は、神経を導火線にして全身を燃やし尽くそうとしていた。
痛い熱い痛い熱い痛い熱い。
体中の毛穴が開いて爪先から頭の頂点まで鈍い痺れが走り抜けた。
ああ、そろそろ終わっただろうか。
目を閉じる寸前、視界に入った自分の手が瞼の裏に焼きついた。
もじゃもじゃとした硬い毛に覆われた、変わり果てた自らの手。
何度経験しても見慣れはしない。ましてや好きになどなれるはずもない。
頭の中に収まりきらなくなった感情が、喉を震わせて咆哮となった。
——夏焼雅は、狼人間である。
「はあっ……はあっ……」
喉を通る息の熱を感じながら、雅はベッドの中で膝を抱えて丸くなった。
開け放しておいた窓から入ってきた風が、カーテンを巻き上げる。
真っ暗な部屋の中で、窓際だけがスポットライトのように照らされた。
「……ぐ、ぅあ、ああ」
自然と山なりに反った体が、悪寒がした時のようにぞわぞわと震えた。
体の中でもう一人の自分が暴れ始める。早くしろと雅をせっつく。
ぎいぎいと悲鳴を上げるベッドに四肢をぐっと押し付けて、雅はもう一度熱い息を吐いた。
「今日、調子悪いの?」
桃子の声は、春先の突風のように雅の額を吹き抜けた。
昼休みに弁当をつついていた雅は、ハッとして箸を止めた。
「……ううん、大丈夫」
朝食を摂る傍ら、「今日は満月ね」と言った母親の声がよぎった。
まるでなんでもないことのような母親の態度を、雅は恨めしく思っていた。
精でもつけろというように、茶色いおかずばかりが並ぶ弁当。
きっと帰宅したら揚げた菓子などが用意されているだろう。
母親のお節介のせいで、既に胸はいっぱいだった。
854名無し募集中。。。2018/01/22(月) 23:09:45.320
「だってみや、今日、」
「なんでもないって。本当に」
これ以上踏み込まれたら、あっさりボロが出てしまう。
直感がそう告げて、雅は別の話題を放り投げた。
4限の講義で先生の言い間違いが可笑しかった話。
5限の小テストの勉強を全くしていない話。
どうせなら、なんでもないことを桃子と共有したかった。
雅の内心を知ってか知らずか、桃子はそこへするりと乗っかってくれた。
うぅ、うぅ、と勝手に漏れ出る低い唸り声が耳に届いた。
背骨のあたりにズキズキと何度も何度も鋭い痛みが走り、雅はシーツに爪を立てながら必死で耐えた。
全身の筋肉が、ブツブツと音を立ててほつれていく。
「ああぁっ、うっ、ぐ」
体の中心で生まれた熱は、神経を導火線にして全身を燃やし尽くそうとしていた。
痛い熱い痛い熱い痛い熱い。
体中の毛穴が開いて爪先から頭の頂点まで鈍い痺れが走り抜けた。
ああ、そろそろ終わっただろうか。
目を閉じる寸前、視界に入った自分の手が瞼の裏に焼きついた。
もじゃもじゃとした硬い毛に覆われた、変わり果てた自らの手。
何度経験しても見慣れはしない。ましてや好きになどなれるはずもない。
頭の中に収まりきらなくなった感情が、喉を震わせて咆哮となった。
——夏焼雅は、狼人間である。
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