まとめ:雅ちゃんがももちの胸を触るセクハラ

884名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/08/12(土) 22:07:25.220

「罪な女 5」

「今夜も、うちに来ない?みやが良ければだけど、一人より安心でしょ」
桃子がそんなことを言い、雅は瞬きした。
「ももは、明日も仕事じゃないの」
「そう。朝出ちゃうけどさ。それ言ったら、あの日は二人とも朝から仕事だったじゃん」
「そうだけど」
「帰りたい?」
部屋に一人戻っても、塞ぐばかりだろうと思った。
「茉麻って今どこにいるの」
「実家に帰ってるよ」
「もしかして、ももも一人が寂しいの?」
桃子は目を見開いた。
「……そうか、うん。そういうことにしても、いいよ」そう言って、俯くと笑った。
「強がんなくてもいいのに」
「あのさ、子供じゃないんだからさ」

子供じゃなくても、寂しい夜はある。ううん、大人になってからの方が、ずっと寂しい。

お風呂から上がると、桃子の貸してくれたパジャマに着替えた。
「ごめんね、茉麻のこと、全然話してなくて」
桃子は雅の布団を設えながらそう言った。
「いつからここで一緒に暮らしてるの」
「そんな長いことじゃないよ、5ヶ月前……くらいから」
「え、そんなもんなんだ。何がきっかけなの」
「押され負けだよ。茉麻がしつこくてさぁ」
それは照れ隠しにも見えた。
「中学の時から、ももの事好きだったって言ってた」
「なにそれ、茉麻が?」
「そう。今日、ちょっとだけ話したときに」
「そんな事、言ってたんだ」
「ももだって、今茉麻の事、好きなんでしょ」
「うん」
「前の旦那さんよりも?」
雅が聞くと、桃子は少し黙った。
「石川より、ずっと好きだよ」

もう二人とも事件の話は一切しなかった。今、この瞬間にでも犯人が捕まっていたらいいのに。雅はそう思った。

翌朝、雅が買ったピーチティーを出すと、桃子は喜んだ。
香りのいい、熱い紅茶は気持ちをすっと立たせてくれた。頑張らなきゃ。そう思う。
トーストとサラダだけの、軽い朝食だった。
桃子の出社に合わせて、雅は帰ることにした。一緒にエレベーターを下りる。

マンションのエントランスに、刑事二人が待ち構えていた。

885名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/08/12(土) 22:10:06.540

「なるべく所在ははっきりさせておいて欲しいと、言いませんでしたかね」と若い刑事が言った。
「朝からなに?」
前に出ようとした桃子を雅は制止した。大丈夫だから。
一歩前に出て、刑事二人と向き合った。
「鹿賀島氏は、片手にイヤリングを片方握り込んだまま、死亡していました」
桃子には構わず、刑事は雅の顔を見据えていた。雅は考えた。
「……何の話か全然わかんないんですけど」

「金の細かい房のついたイヤリングで、残念ながらそこからは指紋の検出は困難でした。
しかし恐らく、犯人のもので、鹿賀島氏と関係のあった女性のものに間違いない。
氏の通っていたクラブホステスなども当たりましたが、該当のイヤリングを知る者も、見た者もいなかった。
奥さんにも、見覚えのないものでした。
だもんで昨晩、改めてそちらの仕事場を再捜索させてもらったら、見つけましたよ。もう片方。
いずれ処分でもするつもりでしたか。
もう片方のイヤリングが入っていたケースはビロードで、そちらからも指紋は出ませんでしたが
そのケースの外箱から、あなたの指紋が検出されました」

さすがに血の気が引いた。
「嘘です……!そんなもの、まったく、覚えがないし……私のじゃない。違います」
「ね、話が長くなりそうでしょう。署の方でゆっくりお伺いしますから」
桃子が口を挟んだ。
「ちょっと待った。まさかと思うけど、たったそれだけで引っ張るつもりじゃないでしょうね」
「係長がGOを出してくれてまして」
「なんだ?それ」桃子は一瞬考え込むように黙り、再び口を開いた。「いや、ありえない」
「もちろんそれだけではないですよ。動機もある」
雅は一瞬、言葉の意味がわからなくなった。

「無能が」

桃子の声だった。雅を射抜いていた刑事の目が一斉に、後ろに立っている桃子の方を向く。
「無能ってのは、友人が人殺しに出かけるのにも気付かず寝こけてたアンタみたいなのを言うんじゃないですかね」
顔を歪めたまま、若い刑事が言った。

急に耳鳴りがして、雅は倒れ込みそうだった。
一体誰が、こんな罠にかけたというのだろう。
想像もつかない。言葉が出ない。
若い刑事の肩に手を置き、もう一人が笑いながら桃子に向かって言った。
「そろそろ警察なんて辞めて、堅気の再婚相手でも見つけたらどうです?石川さんの方は再婚して幸せそうだ。これは心から、あんたの為に言ってますよ」
「夏焼さん、あくまで任意です。断る事もできますが」

「みや」
雅は震えながら、後ろにいる桃子を振り返った。
「安心して、行っておいで」
囁くように言った桃子の顔は、微かに微笑んでいるように見えた。

888名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/08/12(土) 22:14:08.930

「鹿賀島氏の妻は、夫に興信所をつけていた。先月になって何か胸騒ぎがして調べさせたと言ってましたね。
20日の夜、あなたは仕事帰りに鹿賀島氏と食事に行っている。間違いないですか」
「付き合っていたとか、そういうわけではありません。関係は」
「そんなことは訊いていない。食事に行ったかと訊いている」
「……行きました」
「あなたは隠し事が多い」刑事が大げさに溜め息を吐いて
雅は顔が歪んでしまうのを止められなかった。

「ただ、男女の関係があったかどうかまではわからない。その食事の後、鹿賀島氏はあなたと別れて
そのまま自宅に戻っている。実際のところ、どうなんですか」
「食事もその一回きりです。関係はありません」
「では、しつこく口説かれていた」横に立つ若い刑事が口を挟んだ。
「鹿賀島氏はあなたに気があったらしい。それは知っていましたね」
「誰にでも……そういう人でしたし」
「亡くなった被害者を悪く言うのもあれだが、相当評判は悪い男だったようだね。
パワハラ、セクハラは日常茶飯事だったと」
雅は黙ったまま頷いた。
「ところで、28日のことですが、あなたは仕事でミスをしたそうですね」
「え」
思わぬ刑事の言葉に雅は顔を上げた。
正確には発覚したのが28日だった。取引先への一斉メールで、Bccに入れたつもりがCcで送信してしまい
そのうちの一社から、競合先に取引内容と担当者のアドレスが割れたと強いクレームが入った。
「鹿賀島氏と長い付き合いのあった会社だそうですね。
彼は、その尻拭いの代償を求めたのではないですか」
確かにその後、鹿賀島に言われた。『僕に任せておいてくれればいいよ』
だがそれきりだ。
雅は首を左右に振った。

「3日の午前4時、鹿賀島氏が自身の社員証で会社のセキュリティーを解除した記録が残っている。
表玄関のセキュリティが解除されれば、社員証なしでも出入りは可能だ。
あなたは明け方に会社に呼び出されていた。何故、そんな時間だったかは、これからゆっくり伺いますが」
「そんな時間に呼び出されても、絶対に行きません」雅の声は震えた。
「あなたのミスがもとで、取引停止になると脅されても?」
「そんな話になってるなんて聞いてないです」
「古い付き合いの上に、大口の取引相手だそうですね。自分のせいで、会社が傾くかもしれない
それを恐れたあなたは要求に応じた」
「パワハラ、セクハラの常習者だ。あなたは自分の身に起こるだろうことを想像した。
いっそ、殺してしまおうと思った」
「言ってることが……滅茶苦茶です」
「2日の夜、あなたは退社後、一人で新宿二丁目の行きつけのバーへ行った。
その帰りに偶然、同じ中学だった嗣永巡査に会い、部屋に招かれた」
「別々の部屋に寝ていたそうですね。嗣永巡査は自室、あなたは玄関に通じるリビングで寝ていた。
いや、自分がこれからすることを考えたら、一睡もしていなかったでしょうが。
あなたは用意していたレインコートを着て、部屋を抜け出した。鍵は玄関先に置きっぱなしだったそうだね。
タクシーで会社へ向かった。給湯室からナイフを持ち出し、それを隠し持って鹿賀島氏と会った」

「タクシーの乗車記録は、見つかったんですか」圧し殺した声で雅は言った。
「入れ知恵ですか。まったく嗣永巡査にも困ったもんだな。捜査の邪魔だ」
年配の刑事が鷹揚に笑い、雅はゾッとした。

890名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/08/12(土) 22:17:51.390

「東麻布の工事現場から、レインコートが見つかった。
嗣永巡査の住むマンションの防犯カメラに映っていた女が着ていたレインコートと同じ、グレーでしてね。
洗い流されていたが血液反応が出た。指紋は出ていないがね。
毛髪らしきものが付着していたが、これはウィッグでメーカーは確認中だ。翌日の出社前に捨てたのかな」
「……私じゃありません」雅は繰り返した。

私じゃない。私が、それを着ていたとでも言うんだろうか。
1階の商品倉庫で、ナイフを持っている自分を想像した。
目の前で、営業部長が怯えている。殺すの?雅。
雅はぎゅっと閉じていた目を開いた。
あまりにもどうでもいい。殺すなんて、そんなエネルギーを使うような感情、一切ない。
たとえ時間が巻き戻って、何かボタンを掛け違えたとしても
雅は自分が営業部長を殺すことなんてあり得ないと思えた。
何もかもが、言いがかりだ。

「刺し傷は4カ所。現場には揉み合った後もあった。その際に、鹿賀島氏はあなたのイヤリングを毟り取った。
自分がプレゼントしたイヤリングです。着けて来いとでも言われていましたか」
「そんなものを、もらった覚えはありません」
「いい加減にしろ、箱から指紋が出てるんだよ!」若い刑事が怒鳴り、雅は一瞬ビクッと体を引いたが
不思議と、怖くはなかった。

桃子が笑ってくれたからかもしれない。着いていてくれる。
雅は両手を握りしめた。

「鹿賀島氏がそのイヤリングを購入したのは21日。買った店もわかっている。カードの支払い記録もあった。
会社のあなたのフロアから見つかった、その外箱とケースの間にメモが挟まっていた。
“夏焼さんへ 先日の食事のお礼です”
そう書かれている。筆跡は鹿賀島氏本人のものだ。
ケースが会社にあったということは、あなたは会社に入ってから
置きっぱなしにしていたイヤリングを言いつけ通りに着けたのでしょう」

「そのイヤリングが片方なくなっていることに、あなたは後から気付いた。
殺害したときは気付かなかったんでしょうね。
騒ぎになってから慌てて捨てて足が付くことを恐れたか、タイミングを失ったあなたは
とりあえず、ケースに残ったイヤリングを仕舞い、すぐには見つからないように
自身のデスク、袖机の下に、貼付けた」

その時、取調室の扉が開いた。立っていた若い刑事は
入ってきた一人に耳打ちされるうちに、顔を引き攣らせた。
「どうした」年配の刑事が眉を潜めた。
「……指紋がついていた外箱は、鹿賀島氏が買ったイヤリングの外箱とは
違うものである可能性が出てきました」
「どういうことだ」
「あなたは会社で、小箱をコレクションしていた」
雅は頷いた。可愛い箱、きれいな箱を集めてことは同僚達にも知れ渡っていて
中身のない箱だけの貰い物も多く、雅はそれらを引き出しに仕舞っていた。

「イヤリングはミニョンというアクセサリーブランドのもの
外箱は花柄で真ん中に店の頭文字のMの箔押しがしてある。
あなたが数ヶ月前にその外箱だけを同僚から貰い、気に入って
しばらくデスクに飾っていたと、証言がありました」
「そんな証言、誰が引っ張ってきた」年配の刑事の声は小さかった。
若い刑事は溜め息を吐きながら言った。
「石川警部補ですよ」

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