まとめ:雅ちゃんがももちの胸を触るセクハラ

327名無し募集中。。。2018/02/21(水) 01:02:14.220

二人がそこを訪れたのは、夕方というよりも夜に近い時間帯だった。
ビルの背後に押しやられた桃色が、徐々に深くなる紫色とせめぎ合っている。
西日の余韻に照らされ、タワーはより一層赤く輝いていた。
ちらりと目をやった桃子の横顔は落ち着いていて、やけに大人びて映る。
上りたい、と先に思ったのはどちらだったか。
「のぼる?」と口にしたのは確かに桃子だけれど、雅も確かに同じ気持ちだった。

チケットを1枚ずつ握りしめて、エレベーターに乗り込むと、展望台まではあっという間。
エレベーターのガラス窓に射す陽光は徐々に弱くなり、代わりにタワーのライトアップが辺りを包んだ。
ぐんぐんと地上が離れていくにつれ、このまま浮かび上がってどこまでも行けそうな気がしてくる。
ふと、密かに袖が引かれたのを感じた。

「もも?」

雅の呼びかけに、小刻みな頷きが返ってくる。
窓の外を凝視したまま、きゅっと結ばれる唇がわずかに震えるのを見た。

「そろそろ着くね」

階数が表示されているモニターを指差し、桃子の視線を導いてやる。

「そうだね」

袖を引く力が緩んだ。
少々古びたスピーカーからは、女性の声でアナウンスが流れ続けていた。

328名無し募集中。。。2018/02/21(水) 01:03:09.060

たどり着いた展望台はそこそこに混んでいたが、自由に歩き回れないほどではない。
夜景を楽しむためか、場内の証明は控えめに絞られていた。
ここまで暗ければ、きっと変に目立つこともない。

「久しぶりだね」
「ほんと。何年ぶり?」
「さあ……みや、そういうの苦手」

それより景色見ようよ、と何歩か進んで、桃子の足音が消えたことに気がついた。
振り返ると、さっきまで雅がいた場所で停止したままの桃子がいる。
前もこんなことあったなあ、なんてのんびりとした気分に浸りながら声をかけた。

「早く行こ」
「あのさ、もも思い出したんだけど」
「何?」
「前来た時。みやいきなり押してきた」
「は? いつの話」
「だから、前来た時」
「覚えてないってば、そんな前のこと」

うそぉ、と声を尖らせる桃子は間違っていない。
雅の脳内には、あの日のことがしっかりと記憶されている。
雅から誘って、初めて二人でここに来た日のことだ。

「手、つなぐ?」
「なっ」
「ほら、ちょっと混んできたし。はぐれないようにさ」

少しだけ声のボリュームを上げて、桃子のために言い訳を作ってやる。
躊躇うように遊んでいた指先を取って引くと、桃子はすんなりとついてきた。

329名無し募集中。。。2018/02/21(水) 01:03:47.310

地上から約150m。
タワーの真ん中辺りからであっても、足下に広がる街は十分小さく見えた。
遠くまで光の粒が敷き詰められて、きらめく街は星空のようにも見える。

「キレーだね」
「そう、だね」

聞こえる声は強張っていた。
窓際まで連れてきたは良いが、今の桃子は両手でがっちりと手すりを掴んでいた。
そろそろ慣れても良いのにな、と雅は思った。
たしか、前に来たときも同じことを考えたのだ。

「わっ」
「ぅぎゃっ!!??」

不意打ちで背中を押すと、桃子は尻尾を踏まれた猫のような声で飛び上がった。

「もーっ! やめてって言ったじゃんか!」
「しー。声おっきいよ、もも」
「誰のせいっ!」

頬を膨らませた怒りアピールはどこかコミカルで、"ぷりぷり"という擬音語がぴったりと言いたくなる。
なぜか穏やかな気持ちになって、ぷりぷりと怒る桃子を見つめた。
髪型が変わっても、活動する場所が変わっても、怒り方は変わらない。

「もも変な顔ー」
「変じゃない。怒ってんの」

ツンとした態度はただのポーズだと知っている。
雅はスマホを取り出してレンズを桃子へと向けた。
パシャリ、と軽い音が響く。

「……ねえ話聞いてた?」
「うん」
「なんでそうなるの」

怒っていた顔が、呆れた色へと変わっていく。
それを眺めながら、もう一度、と雅はシャッターボタンを押した。

330名無し募集中。。。2018/02/21(水) 01:04:35.590

「思い出した。ここで写真撮ったよね」
「覚えてるよ。みや携帯持ってなーいとか言ってさ」

そうだ。
雅は携帯を持たないまま出かけたせいで、桃子の携帯に頼りきりだったのだった。
撮りたかった桃子の表情がいくつもあった。
不意にそんなことがよぎる。

「ガラス張りのとこ行こ?」
「や・だ!」

一つ一つ区切られた音が、ぽこぽこと鼓膜にぶつかった。

「みやと一緒だよ?」
「みやが何かしてきそうで怖い」
「あ、ひどーい」
「自業自得!」

きゃんきゃんと鳴く様はまるで子犬のよう。
どうやら本気の抵抗らしいと雅は素直にひくことにした。
その代わり、と別の窓のそばへ移動する。
眼下の街は相変わらず星空のようだったが、色のちりばめられ方が異なる。

「ねえ、ももはなんで『のぼる?』なんて聞いたの?」
「みやが登りたいかなーって思ったから」
「ももは?」
「……さあ?」

いじわるされた仕返しとでもいうように、桃子の鼻があちらを向いた。
即座に否定も肯定も返ってこないところを見るに、きっと桃子も同じ気持ちだったのだろう。
一方的な解釈だが、間違っていないという気がした。

「ツーショット、撮る?」

桃子がちらりと視線をよこす気配があった。
雅は、返事を待たずにシャッターを切った。

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