まとめ:雅ちゃんがももちの胸を触るセクハラ

103 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/07/14(金) 01:04:40.41 0

『背表紙だけが見た秘密』

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女の子は恋をすると魔法が使えるようになるらしい。
それは、好きな人がどこにいても見つけられる魔法。
教室はもちろん、体育館でも、校庭だって。どれだけ離れていても、好きな人の周りだけがキラキラして見えるのだ。
その話を聞いたとき、真っ先にあの子のことを思い出した。
当時は、あの子自身が鮮烈なオーラを纏っているのだと思っていたが、
もしかしたら、私の魔法で輝いて見えていたのだろうか。

−−−−

いらっしゃいませという歓迎の声を浴びながら落ち着いた照明の廊下を歩き、こちらですと案内された広めの個室を覗き込む。
見たところ、半数ほどは集まっているようだった。まだ会は始まっていないにも関わらず、既にざわざわと盛り上がっている。
ぐるりと視線を一周させたところで、無意識にその姿を探していたことに気付いた。
全く忘れられていないことを改めて思い知らされる。

「あー、もも!久しぶりー!」

どこに腰を落ち着けようかと思案していると、今回の会を取り仕切ってくれた幹事に声をかけられた。
手を振って迎えてくれたので、私もそれに応え、近寄る。
テーブルには、紙幣の束と、紙とペン。徴収した会費を計算しているところだったようだ。
ちらと紙に目をやると、それは名簿だったようで、参加者の名前がずらりと並んである。
その中にあの子の名前が確かにあることを認識した瞬間、どくんと心臓は大げさに拍動した。
名前を見ただけでこれじゃ、実際に会うとどうなってしまうのだろう。
期待と不安を同時に覚えながら、端の方の席に座った。

104 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/07/14(金) 01:05:33.95 0

−−−−

まだ全員揃ってはいないが、時間になったため会は始まった。
今日ここに集まったのは、かつて同じ時間を過ごした高校のクラスメイトだ。
卒業して4年あまり。少し垢抜けたくらいで、大きな変化があるほどの年月は経っておらず、
先ほどから「変わらないねー」という言葉が飛び交っている。

大学に進んだ者は、卒業し社会の荒波に身を投じたところ。
浪人もしくは留年した者は就活中。結婚し、母親になった者もいる。
それぞれが様々な道に進んでも、こうして集まると当時と変わらない感覚で話せる。
きっと、10年や20年経っても同じように、時間の隔たりを感じずに過ごせるのだろう。

まだあの子は来ていない。名簿に名前が載っていたから、来ることは確実なのだろうが、
本当に会えるのか不安になる。
久々に会う友人との会話にはあまり集中できず、何度も個室の入り口へ視線を送ってしまう。
逸る気持ちを抑えるために、冷えたグラスに口をつけた。

同窓会が始まり30分ほど経過した頃、個室の扉が開いた。

そこに立つ人物を認めた瞬間、周りの声や雑音が消え失せ、私の世界は彼女だけで構成された。
五感の全てを視覚に注いでいると言っても過言ではないほどに、彼女に釘付けになってしまう。
髪は伸びて明るくなって、大人っぽくなった。目に見える変化が、4年の時を思わせて切ない。

「え、みやじゃん」
「遅いよー」
「ごめん、仕事でさ」

喧噪が一瞬途切れ、遅れて現れた彼女への挨拶で場は持ち切りとなった。
輪の中心にいて、その場を明るく彩るのは今も変わらないのだなあとしみじみ思う。
それを遠くから見ている自分も、変わらない。

変化がないのは、それだけではない。相変わらず彼女の周りだけ眩しいくらいに輝いている。
私は今も魔法が使えるらしい。

105 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/07/14(金) 01:06:12.89 0

−−−−

本を読んでいる時間が好きだ。どんな時間よりも、好き。
そこに綴られた文字が作り出す世界だけで頭の中は満たされて、現実から容易に抜け出すことができる。
ルールとか概念とか常識とか、本の世界では関係ない。
私は世界を救うヒーローだし、過去も未来も自由に行き来できるし、目が合った全ての人を夢中にさせてしまう美人でもある。
何にでもなれるし、何でもできる。

それまでは、私にとって読書は全てで、現実の世界はおまけのようなものだった。
友達もそれなりにいたし、音楽を聴いたり、他にも楽しいことはあったけど、そのどれもが本には勝てなかった。

委員会も、本が好きという単純な理由で図書委員を選んだ。
今はまさにその委員のお仕事中。仕事内容は、担当の日の放課後、下校時刻まで図書室で貸出や返却業務をするというもの。
とはいえ、若者の本離れが叫ばれている昨今、図書室を本来の目的に使用する者はほとんどおらず、
基本的にはただ読書をして業務が終わる。

今日もきっと、そんな風に終わると思っていた。

扉が開いた音と人が入ってきた気配で、現実世界に帰ってくる。
躊躇いがちに歩を進める足音に遅れて、きょろきょろと視線を彷徨わせる人。

107 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/07/14(金) 01:07:09.52 0

「……夏焼さん?」

そこにいたのは同じクラスの夏焼さんだった。気崩された制服、派手なメイクに髪色。ごてごてと装飾されたスクールバック。
図書室にいるのがこれほど似合わない人もいないだろうと失礼なことを思いながら声をかける。

「ああ、嗣永さん」
「どうしたの?」
「しみっちゃんが今日当番だけど行けないから代わりに出てって頼まれたんだけど……」

隣のクラスの同じく図書委員の佐紀ちゃんの当番は確か明日だ。一日勘違いしてしまっていたのだろう。
夏焼さんとは高校3年目にして初めて同じクラスになったが、まだ数回しか話したことがない。
委員会を代わってあげるなんて、意外と優しいところもあるのだなあと心の中で失礼の上塗りをする。

「佐紀ちゃんは明日だったはずだよ」
「そっか。ありがと」

そこで用が済んだと帰るかと思いきや、物珍しそうに近くの本棚を眺めつつ、カウンターへ近付いてくる。

「面白い?」
「ん?」
「本」

そう言いながらカウンターの上にある読みかけの本を指さす。
私がまさに先ほどまで読んでいた本だ。同じ大学の後輩に惚れてひたすら追いかける男の人の物語。

「面白いよ。……読んでみる?」

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