まとめ:雅ちゃんがももちの胸を触るセクハラ

741名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/09/11(月) 20:28:08.720

自動改札を抜けた時、モモは足下がぐんにゃりと沈み込むような感覚に一瞬狼狽えた。
例えるならば踏み固められていない土を踏んだような。よろけ、体勢を立て直す。
振り返ってみたが、何もない。何かを踏んだわけでもない。
何もないところでコケそうになったのか。ちょっと恥ずかしい。モモは早足でコンコースを抜ける。

冬の寒さも少し緩んできているように思えた。
今日は一人だった。雅に頼まれて、モモは渋谷までおつかいに来ていた。

「みやが行けるときに行ったらいいじゃん」
「だってずっと楽しみにしてたオーダーのネックレスなんだしすぐ欲しいじゃん、すぐ行くって言っちゃった」
「すぐ行けば」
「仕事だし」
「じゃあ、もう一回電話して仕事のない時に取りに行きますって」
「もも暇だよね」

暖房の効いた室内、モモはTシャツ短パン姿でソファに寝転がり、小説を読んでいるところだった。
お話は佳境でいいところだった。
「ううん暇じゃない」
本に目を落とすと背後から殺気を感じた。咄嗟に体を捻るとソファの座面に雅の肘が深く入っていた。
「はずしたか」
「エルボーは反則だっていつも言ってんじゃん!」
ソファの背凭れに体を貼り付けたまま、モモは叫んだ。
「反則したくなるくらい、みやは一刻も早く出来上がったネックレスを見たいってことだよね」
「何言ってんのか全然わかんないんだけど」
「わかった。じゃああと10ページは読んでもいいってことにする。そしたら出かける支度して」

モモはページを繰った。いち、にー、さん……8ページ後に次の章に入るようだった。
「その、アクセサリーのお店に行けばいいわけ」
「受け取ったらみやのお店まで届けに来て」
「なんで今日そんなに上からなのさ」
「え、上からだった?ごめんそんなつもり全然ないんだけど」
モモが顔を見ると、雅は少し恥ずかしそうな顔をしていた。そんなにすぐ欲しいんだ。可愛い。

「前に言ってたやつだよね」
「そうっ。すごいかわいいから。ももにも見て欲しい」
「うんうんわかった」
モモは本を閉じると起き上がった。いいところは帰ってから読もう。
着替えに行こうとすると、雅に片手を取られた。両手でぎゅっと握られて振り返る。
「ももありがとう」
「い、いいよそんな」

と、いうわけで久し振りの渋谷。
モモは雅に渡されていたショップカードを取り出して、方角を確認した。
ふと、ビルの上の看板が目に入った。どっかのアイドルグループか。黒バックに黒い衣装、六人女の子が並んでいた。
可愛いね。ポニーテールの子なんか、私に似てる。
うん。……ん?
それから、モモは息をするのも忘れて看板に目を凝らした。
似てるどころじゃない。違う。頭の中をピリっと何かが走り抜けた。……あれは私だ。

あれは、誰?
下に『カントリー・ガールズ 5th SINGLE GOOD BOY BAD GIRL』と、あった。

742名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/09/11(月) 20:32:41.490

どういうこと?
一歩後ずさると人にぶつかった。もつれる足で歩道の端に避ける。
不意に改札を抜けたときの感覚を思い出す。
ここは……どこだ。
意識を集中して、ネットワークにアクセスする。繋がらない。どこにも繋げられない。
モモは祈るような思いで、スマホを取り出し雅にコールする。
『現在使われておりません』とアナウンスが流れた。

これは、もしかしてまた、何かの気まぐれで別の世界に飛ばされてしまったんだろうか。

もう一度、看板を見上げた。
スマホでブラウザを開いた。繋がる。モモは『カントリー・ガールズ』で検索してみた。
そして、そこに紛う事なき、自分の名前を発見した。
なるほど……ここは、私がカントリー・ガールズとやらのメンバーになっている世界なのかな?
あ、そう。とモモは思った。

さっきまで居た、みーやんと暮らしている世界をAとして、私がもといた世界をBとして、
BからAに飛ばされた時、そこに〈私〉はいなかった筈。Aには私の戸籍がない。私がいなかった世界。
今いるこの世界をCとするなら、なぜ、ここには〈私〉がいるの?

これはまずいんじゃないかな。これはとてもとてもマズイ。
この世界にまあさがいて、また私を見つけてくれるならいいけど
もしこのままAに戻れないとなれば、考えたくもないけど私はここで生きていかなきゃならないってこと?
天涯孤独なんだけど。
そこまで想像して、モモはぶるっと震えた。

さっき違和感のあった改札まで戻った。改札内に戻ればもしかして、そう考えたが
期待はあっさりと裏切られた。ネットワークは遮断されたままだ。モモは立ち尽くす。
Aの世界に帰る方法など、まるで思いつかなかった。
このままもし帰れなかったら、みーやんは心配するだろうな。そう思うと胸が酷く痛む。
モモはショップカードを見た。試しに電話してみたが、繋がらなかった。

何かの拍子にまた、帰れる。そう信じて
とりあえず今このCの世界でどうすべきか、考えなければならない。

頼れるものは……頼るとするなら。
うん。あの看板にいたCのももちかな。と、モモは思った。
どう説得したものか悩むけど、他ならぬ私だし、必死にお願いすればきっとなんとか
「……ものすごい怖がられて逃げられそう」
モモは口の中で苦々しく呟いていた。

743名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/09/11(月) 20:38:58.620

再び調べてみると、Cのももちはイベントで札幌にいるようだった。札幌?いやいや。
留守中にしれっとおうちに帰って乗っ取ってやろうか。そんな邪な考えが一瞬モモの脳裏をよぎったが
どう考えてもうまくいきそうになかった。
やはりひっそりとももち単体にアクセスして、私がAの世界に帰れるまでの時間、一緒に暮らす道を考えてもらおう。
無茶苦茶な気もするがどうしようもない。同じ姿のよしみでどうにか検討してもらうほかない。
お財布の中身を考えたら、早晩野宿の運命。この寒空の下生き残れる気がしなかった。

今夜はどこかホテルに泊まって、明日から始動しよう。
さすがにおうちの前はうろちょろできない。
会社が私の知っているあの場所にあるのなら、そこで待ち伏せしよう。そう思った。
モモは手近なショップに入ると、待ち伏せの際の変装用に帽子とサングラスとヘアゴムを買った。

ももちに会えるまで、草の根を食べてでも生き残ってやる。

バッテリーが切れるまで安いホテルを探しまくり、直接フロントに乗り込んだ。
狭い部屋だったがそれでも人心地ついて、モモはベッドに寝転がる。
100均が近くにあってよかった。とりあえずお泊まりセット一式を最安で入手できた。モモは少しの間、満足感に浸った。

じっと天井を眺める。
本当なら、とっくにお使いを済ませてみーやんのお店にネックレスを届け、喜ぶ顔を見て
帰宅したら小説の続きを読み、帰りを待って遅い晩ご飯を一緒に食べている頃だろう。
「神様っているの」
いや、いる。絶対にいる。今日までどれだけの困難を乗り越えてきたと思ってるんだ。

絶対に絶対に、みーやんの所に帰るんだからね!

目が覚めたら夢でありますように。そう願いながらモモは眠りについたが、神は非情だった。
翌朝、意を決して瞼を開けば昨晩と同じ天井に、モモは唇を噛んだ。

会社最寄りの駅。見慣れた懐かしい景色があったことにひとまずホッとした。
ここに来ることになるとは。モモは小さく苦笑した。
髪をまとめてキャスケットの中に押し込み、サングラスをかける。
マスクまですると怪しさ満点になりそうだった。モモはマフラーで口許を軽く覆った。

Cのももちが私なら、動線はわかる。違ったなら、また考える。
モモは計画を反芻した。いや、計画も何もあったもんじゃない。見つけたら捕まえる。それだけのこと。

問題は、今日会社に立ち寄るかどうか、だとしたら何時頃なのかということだったが
果たして、夕方を待たずに目的の人物がモモの目の前に現れたのだった。

私ってやっぱ持ってる。モモはサングラスの下で目を細めた。

745名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/09/11(月) 20:43:58.260

モモが後ろから声をかけると、ももちは意外なほど無防備に、振り返った。
間近で自分を見るというのは、思ったよりずっと
気持ち悪かった。

「えっ……と、ごめん、あのね、もうしわけないんだけどちょっと」
サングラスにマフラーで口許を隠しているこの姿、怪しまれるに決まっている。
しかしまだ、自分の顔を見せるのには躊躇いがあった。
ももちはびっくりしたように固まっている。
今しかない。ここを逃したら後はない。

モモは思わず手を伸ばして腕を掴んでいた。「お願いが」
次の瞬間、ももちは息を呑むような、声にならない悲鳴を上げてモモの手を振りほどいた。
……やば。
スローモーションのようにももちの手が舞った。剥がされたモモの手と交差する、まったく同じ手をモモは見た。
仕切り直す間も後悔する暇もなかった。
ももちは振り返ってしまったことを悔やむかのように僅かに顔を引き攣らせ
バッと風を切るように踵を返し、駆け出していた。

呆然と見送る。追えない。これを追ったら完全に通報レベル。いや、もう既に通報レベルかも。
絶望に目の前が揺らぐ。
ももちが逃げていった方から人の声がして、モモは慌ててその場を離れた。

地下鉄の階段を降りると、闇雲に通路を進んだ。心臓がばくばくいっていた。
わかるよ。怖いのはわかるけども。
けど、だってさ、どうしろっていうのさ。いきなり顔見せたらもっと驚くでしょうが。
モモは最後のももちの顔を思い出していた。露骨に嫌悪が滲んだ表情。ひどい。
絶対絶対許さない。
じゃなくって、あなたがどーにかしてくれなかったら路頭に迷うんだけど!
サングラスをはずすとモモはその場に立ち止まり、ため息を吐いた。

こうなったらおうちの前で待ち伏せか。
我ながらノープランっぷりに腹が立ったが、最早なりふり構っている場合ではなかった。
おう。顔見せで迫ろうじゃない。その時になって後悔しやがれ。
先におうちにしれっと入り込んでのっぴきならない状況に追い込むという手もありか。強硬手段もやむなし。
考え込んでいると急に後ろから肩を叩かれ、モモは飛び上がらんばかりに驚いた。

「なにその格好」
雅がモモを見ながら笑っていた。

749名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/09/11(月) 20:48:30.450

みーやん!

じゃなくって、これは、Cのみやびちゃんか。そーか。
ちょっとだけ、みーやんとは違う。纏っている空気が、違う。
モモの様子に雅は表情を少し曇らせた。
「え、マジどうした、何かあった?」
「みー……みや、今急いでる?」
「急いではないけどレッスンあった帰りで、これから……」
言いながら雅は考えているようだった。
モモは思った。考えなしに引き止めてしまった。引き止めてどうする。
状況を打ち明けたところで、この事態は雅の考えの及ぶ範疇を遥かに越えるだろう。
むしろ、ここはなかったことにして逃げた方がいいのではないだろうか。
「ごめん、みや、あの」
なんでもない、と言いかけたところで、背中を軽く叩かれた。
「どこいこっか」
モモは雅を見上げた。わかってる。この子に頼るわけにはいかないんだ。
だけどこの空気は。この懐かしい空気は。この世界でも、もしかして私たちは子どもの頃からずっと一緒にやってきたのかな。
駄目なのはわかるけど……まだ、別れたくない。

「ここから、離れたい」
モモが言うと、雅は「じゃとりあえず電車乗る?」そう軽く言って、先を歩き始めた。

電車での会話は困難を極めた。
「今って新曲発売前じゃなかったっけ」
「そっ、そう。そう……なんだけど」
モモの目は泳いだ。そして、それを見られている。じーっと横から見られている。
「ちょっとさ、ももほんと大丈夫?ボーノも決まったしこれからさらに忙しくなるとこじゃん」雅は声を潜めた。
「……ぼー、の?」
「え、待って。横アリ発表したよね」
「そ……そーだった、そっ」
「……まあ、いいや、後で話そう。やっぱももおかしいわ」
それきり、雅は黙った。

いや。ちょっと待って。ボーノって?モモは恐る恐る口にした。
「……ベリーズの頃さ」
「うん」
何の引っかかりもない、相槌が返ってきた。
モモは雅の顔を見た。
「ベリーズの頃、なに?」
「いっ、いい、後で話す」

モモはバッグの柄を握りしめた。
この世界。知らないグループに所属している〈私〉がいる、知らないCの世界かと思い込んでいた。
そうじゃなくて、この時空こそ、私がもといたBの世界なんだとしたら。
だとしたら。やっと、帰ってこれた。そういうことになるんじゃないの?

否。モモはさっき会ったももちの姿を思い出していた。
ここには〈私〉が生きている。
私の世界だったここは、きっと一旦外に飛ばされた時点で、もう、私の世界ではなくなっていたんだ。

751名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/09/11(月) 20:52:19.690

地下鉄で数駅、表に出ると、二人は公園に入った。
広い道路の脇に並木が続く。少し奥に引っ込んだベンチに、並んで座った。
すっかり日は暮れていた。
「寒いね」
「で、どうしたの。そんな悄気てる場合じゃないよね、今一番頑張んなきゃいけない時じゃないの」
モモは黙ったまま頷いた。他に答えようもなかった。
「みや、あのね、すごい変なお願いなんだけど」
「うん」
「もうちょっと、このまま一緒にいてくんない?」

この世界のことを、思わないわけじゃなかった。
私がいなくなったあと、どうなったんだろう。折に触れ、思い出しては考えても無駄なことと打ち消していた。
続いていたんだ。
〈私〉はまたアイドルグループを始めていて、みやも、さっき聞いた話では新しいグループがある。
こうして元気にしてる。みんな、元気にしてるみたい。良かった。
本当に、良かった。モモはこみ上げてくるものを堪えるように、静かに息を吸った。

早く、みーやんのところに帰らないと。

「もっ、もも、なんか足下におっきい虫が」
雅が突然腕にしがみついてきた。
「えっえっ?!」
慌ててベンチから立ち上がる。足下を見るが、暗くてよくわからない。その場でぐるぐる回った。
「ダメ踏んじゃう!」
雅に腕をぐいと引っ張られて、モモはよろけながら地面を見る。
「どこ?」
「え、いなくなった。もも踏んでない?」
「ううん、なんか踏んだ感じなんてなかったけど」
モモは片足を交互に上げて振り返った。
「なんもついてないよね」
「ううん……なんかついてる」
「えっ」
「あ、違うごめん、虫じゃなくて、靴の裏になんかついてる」
「どっち?」
雅はモモの腕を離すと、足下に屈み込んだ。
「右足の方、丸いシールみたいなの」
「ちょ、ちょっと一回座ろう」

再びベンチに座ると、モモは右足のヒールを脱いだ。
裏を返す。
土踏まずのところに、3センチほどの丸く平たいものがくっついていた。

754名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/09/11(月) 20:55:52.470

モモは靴裏をしげしげと眺めた。雅が覗き込んでくる。
「なんか、光ってる」
初めて目にするものだったが、モモは閃くように思った。
渋谷駅の改札で踏んだのは、これだ。
ゲート。勝手に頭の中で呟いていた。恐らくこれが、時空を繋いでしまったゲートだ。
モモは大きく息をついた。

「……みや、ありがと。多分これで帰れるわ」
「なに?どういうこと?」
モモは雅の顔を見た。さて、どうしようかな。
離れ難いけど。この世界とも、みやとも。少しだけそんな風にも思った。ちょっとだけ、切なさに胸が痛んだ。

これを剥がして地面にでも置いて、踏んでみれば良い。それはなんとなくわかった。
だけど、後は知らないってこのまま帰っちゃっていいのかな。
急に不安になった。
この世界の〈私〉は今、会社にいるわけで、みやが過ごしたこの時間はまるまる偽物の時間。
後々辻褄が合うんだろうか。まあ、下手なことは何も喋っていないにせよ。
二人の間が何か変にこじれたりしたら、それはすごく嫌だ。
心配してくれたみやの気持ちをフイにするのも、嫌だ。

モモは目を瞑った。やはり、この世界では一切どこにもアクセスできない。
みやのこの記憶を、消してあげられればいいんだけど。

再び腕を掴まれた。
「もも、ちょっといい加減、何なの。話してくれないと何もわかんないよね」
体を揺らされて目を開ける。雅が顔を覗き込んできた。

ああ、そういやあった。直接、干渉する方法。

そのまま、雅の首に手を回した。「えっ」雅の小さい声。構わず顔を寄せて、唇を塞ぐ。
触れた瞬間、ビクっと雅の肩が揺れた。
ごめん、だってこれしか方法思いつかないんだもん。
ものすごい力で抵抗される。
「んん」
渾身の力を込めて抱き寄せた。お願い、もうちょっと。
木立のざわめく音が聞こえる。吹き上げられた枯葉がパラパラと足を叩いた。

みや。ありがとう。心配してくれて。一緒にいてくれて。
どうかこれからも

幸せでいて。

腕の中で、雅の体の力が抜けた。
モモはゆっくり唇を離した。抱えていた体をそっとベンチの背凭れに寄りかからせる。
ごめん、起きたときだけびっくりさせちゃうけど。カフェに向かってる途中でうたたねってことにしたからね。
それから、靴底に貼り付いていたゲートを剥がすと、地面に置いた。
「ボーノの未来を祈ってる」
聞こえないだろう雅にそう声をかけ、履いた靴の爪先でそれを踏む。ぐにゃりと心許ない感触。そう、これだ。この感じだった。

お別れだね。

そう思ったのも束の間だった。
モモは顔を上げて振り返る。そう、これでいい。もう、ベンチに雅の姿はなかった。
目を閉じて集中すると、たちまち張り巡らされているネットワークを捉えた。

帰って、来た。

757名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/09/11(月) 21:00:46.210

玄関を開けると、リビングに電気がついていた。
「ただいま」
中に向かって小さく声をかけると、出てきた雅のシルエットが揺れるのが見えた。
「言葉も、ないからね」
「……ごめん」
「どれだけ、心配したと思ってんの」
「うん。電話しようかなって、思ったんだけど」
「なんでしないの」
「ごめん……今日はお店は」
「休みにした」
「あの、入っていい」
「自分ちでしょ」

モモは恐る恐る廊下を進み、リビングの入り口に立っている雅の前で立ち止まる。
「あの、ちゃんと話す。渋谷駅でね」
衝撃でモモの体は仰け反った。次の瞬間、強く抱き竦められていた。
「……帰ってこないんじゃないかって思うじゃん」
あったかい。
モモは雅の肩に顔を埋めた。
「絶対、帰ってこようって、思ってたよ」
ひくっと雅がしゃくり上げるのが伝わってきた。
「ネックレス、昨日帰りに、みや自分で取りに行ってきた。見る?」
「うん」
でもまだ、もうちょっとこのまま。しばらくは動けそうになかった。

ネックレスは、小さい小さい石が台座に埋め込まれている繊細なものだった。
「ちっちゃくて可愛い。キレイだね」
「石座の細工と石の小ささが良くて。地金いいのに変えてもらった」
「この石なに?」
「フローライト。きれいでしょ。あのね、もものも作らせたから」
「え」
「え、じゃないから」
そんなのしないよ。と
言えるわけない。モモは黙ったまま、雅が箱を取り出すのを見ていた。
雅はモモの顔を見ると笑った。
「いいから手出して」
手の平に、小さな石のネックレスが乗せられた。モモは思わず口許を緩めていた。
「みーやんが紫で私のはピンクなんだね」
「こっちはスピネル。つけてあげる」

雅はモモの後ろに回ると首の前に手を通し、ネックレスを下げた。
首の後ろで引き輪を留めながら、ゆっくりと言った。

「勝手にいなくなるなんて、次あったら許さない」

肩を押され、モモはソファに倒される。上からしがみつくように伸し掛かられた。
雅の手が、頬を撫でるようにモモの顔を上向かせ、下から甘えるように口付けられる。
微かに合わせられた唇が震えながらモモの唇を擦った。

雅の腕の中で、モモは喘いだ。
「……今度はもう、一生許さないで」

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