雅ちゃんがももちの胸を触るセクハラ - ふたりごはん(朝ごはんの巻)
485 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/07/19(水) 15:19:12.11 0

小鳥のさえずりに揺さぶられ、そうっと目を開けると穏やかな日差しが揺れていた。
桃子はむくりと体を起こすと、枕元の時計を見やった。
ただいま、朝の6:30。
桃子が普段起きる時間を考えれば、随分と早起きだった。
けれど、何もかもが爽やかで申し分ない朝だった。
隣にはまだぐっすりと寝ている雅がいて、かすかに開いた唇が桃子を少しだけドキドキさせる。
だが、それも一瞬のこと。
昨夜の記憶がむくむくと蘇ってきて、爽やかな気分は一瞬にして消え去った。


雅が桃子の家を訪ねてきたのは、日付が変わったあたりだった。
桃子は完全に夢の世界にいたが、鳴り響いたインターフォンにはさすがに目を覚まさざるを得ない。
不審者かも、と警戒しながらつけたモニターには、見慣れた人物——夏焼雅が映っていた。
どうやってここまでたどり着いたのかは知らないが、雅がそこにいる事実に変わりはない。
慌ててドアを開けると、外の空気と共にアルコールの匂いが押し寄せた。
酔っているのか、と納得したのも束の間、雅はくたりと玄関の壁にしなだれかかる。
酔っ払いどころではない、泥酔といっても過言ではない。
面倒なことになった、と桃子は眉を顰めたが、関わりあってしまったのが運の尽き。
このまま、玄関先に放置するわけにもいかないだろう。
ベッドへと誘えば、何がおかしいのか酔っ払いはケラケラと笑い出した。
夜だというのにご機嫌に歌を歌い出すし、止めたら止めたでシュンとする。
他にもいろいろと乗り越えて、雅をベッドに押し込んだ頃には30分以上が経過していた。

486 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/07/19(水) 15:20:46.59 0


そんなことがあって、現在。
桃子は、水の一杯でも飲ませればよかったと後悔していた。
酒にはあまり強くない雅が、あれほど酔っていたのだ。
二日酔いになっていたとしてもおかしくない。

「もう……ももの気も知らないで」

雅の前髪を人差し指ですくうと、雅はくすぐったそうに瞼を震わせる。
化粧だけはどうにか落とさせたから、今の雅は普段より幼く見えた。
くう、と小さく鳴いたお腹の音は、果たしてどっちのものだったのか。
今日だけだからね、などと寝ている雅の耳に囁きかけた。

雅とおそろいで買ったエプロンを身につけ、手を洗えば準備は完了。
やはり二日酔いなら――でなかったとしても――消化に良いものが良いだろう。
卵が二つに、あと少しだけ残っている明太子。これらは使い切ってしまいたいな、と手に取った。
あとはお決まりの味噌汁かな、と桃子は冷蔵庫の中身と相談する。
かつて雅に調味料くらいそろえろと言われて買った味噌のパック。
とりあえず味噌とだしで煮れば美味しくなると気づいて以来、思ったよりも重宝していた。
あとは定番のお豆腐と、ベランダの茄子やネギも食べごろだろうか。
案外ちゃんとした朝食になりそうで、やればできるじゃん、と桃子は一人で頬を緩ませた。

489 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/07/19(水) 15:28:41.84 0

イチョウの形の茄子は、顆粒だしと共に鍋の中へ。
さいの目に切った豆腐は、出番が来るまでお皿に退避。
味噌汁とご飯でも良い気がしたけれど、今日は特別にひと手間かけて卵焼きも作ろうと決めていた。
順調に進んでいく行程に、桃子は上機嫌でお気に入りの歌を口ずさむ。
爽やかな朝にもってこいのEarly bird。
きめ細かな溶き卵ができたところで、桃子はフライパンの取っ手を握った。

「よし……」

静かに気合を入れて、溶き卵の入った椀を手にする。
丸いフライパンで卵焼きを作るのは、桃子にとって実は初めてのことだった。
雅がやっているのを見たことはあるけれど、あれでも何度か失敗した上であれだけ上達したのだ。
少しの緊張と共に熱々の鉄板へと卵液を注ぐと、じゅわあ、と音を立てて広がっていく黄色。
ここからまとめていくのだが、はてさてどうしたものか。

「わっ、ちょっ、わっ」

どうにかこうにか形を整えようとしてみたが、現実は残酷だった。
あっさりとちぎれていく卵の膜に、ため息を一つ。こうなったら、誤魔化すしかない。
残っていた卵もすべて注ぎこんで、勢い良くかき混ぜる。

「うん、まあいいよね」

当初の予定とは異なってしまったが、炒り卵を作るつもりだったと言い張ろう。
味に変わりはないはずだ。

490 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/07/19(水) 15:31:07.29 0

冷凍しておいたご飯を解凍する間に、ネギをハサミで切り刻む。
以前は小口切りをするのが面倒で、生え放題にしてしまっていた。
けれど、ハサミで刻むことを覚えてからはネギが食卓に上る回数も増えた。
明太子は一口大にして、ついでに冷蔵庫で眠っていた海苔も手でちぎって。
本当にちゃんとした朝ご飯だ、と不意に桃子は思った。
鍋からはだしの香りが漂ってきて、くつくつと煮える音も聞こえてくる。
まだ湯気を立てている炒り卵に、朝ご飯の定番の海苔と明太子。
まさかものぐさな自分が、誰かのために早起きまでしてご飯を作る日が来るなんて思いもしなかった。
桃子がしみじみしていると、チン、とレンジからお呼びがかかった。
ホカホカになったご飯は丼へ。その上に明太子と海苔、それに刻みネギを散らして。
さて、もうひと手間かけてあげますか。

ざっくり洗ったフライパンに、今度は水とだし、それに醤油を少々。
香ばしい香りがだしの鰹の香りと混じり、それだけで唾が湧いてくるようだった。
それらを煮立たせている間に、桃子は味噌汁の仕上げに取りかかった。
味噌を料理酒で練って、熱々のお湯に溶かす。
これも雅のお気に入りのやり方だとかで、もちろん桃子にとってもお気に入りだった。
あとはそこへ豆腐を落とし、少しだけ温めて火を止めた。
フライパンで熱していただしも良い具合に煮立ってきて、あとはこれを丼に盛ったご飯にかければ終わりだ。

「……みや、まだ起きないかなあ」

桃子の独り言は、勢い良く開いた寝室のドアにかき消された。

491 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/07/19(水) 15:31:49.33 0

「おはよう?」
「お、はよ……」

桃子と目が合うなり、雅はへなりとその場にしゃがみこんだ。

「ここ、あの」
「ん? ももんちだね」
「ああ……」
「夏焼さん、昨夜の記憶はありますか」
「ぜんっぜん……ない、です」

だとしたら、さぞかし雅は混乱したことだろう。
それでさっきの慌てようになるのか、と桃子の中で合点がいった。

「昨日の0時くらいに、いきなりうちに来たんだよ? みや」
「げ、マジ……?」
「うん、本当」

雅が頭を抱えるところを見るに、本当に何も覚えていないのだろう。
その辺は追々話すとして、桃子は別のことが気になっていた。

「とりあえずさ、ご飯食べようよ」
「え、ももが作ってくれたの?」
「そうなの。だから早く」

熱々のうちが、一番美味しいでしょ?
そう笑いかけると、力強い頷きが返ってきた。

だし茶漬けに味噌汁と炒り卵。
まずは、と味噌汁をすすった雅は、しみる、と目を細めた。

「二日酔いは?」
「まあ、若干。でも味噌汁とかすっごいありがたい」

ただでさえあまり内臓の動いていない朝には、さらりと食べられるものが良い。
そんなことを考えながら、まだゆらゆらと湯気が立っているだし茶漬けに口をつける。
海を思わせる香りが、だしや醤油の香りに混ざって鼻に抜けていった。
塩加減もちょうど良く、明太子のぷちぷちと弾ける食感に、桃子は目を細める。
明太子のお茶漬けなんて贅沢すぎる、そう思いながら雅を見やれば不意に視線が交わった。

「……ありがと、もも」

すっごくおいしい、と満面の笑みで雅が言う。

「そ、そりゃね。ももが作ったからね」
「あは、それもそっか」

何より贅沢なのは、一緒に美味しいと言える人が隣にいることだ。
照れ隠しに味噌汁を口に含みながら、桃子はそんなことを考えた。