雅ちゃんがももちの胸を触るセクハラ - らん
534名無し募集中。。。2017/10/23(月) 01:01:09.040

テレビから流れてくる音声は、ひっきりなしに警報や避難情報を伝えていた。
窓ガラスに打ち付けられた雨粒が、煽られて水平に流れていく。

「こりゃあ、明日は電車動かないかなあ」

部屋の真ん中のローテーブルに肘をつき、桃子がぽつりと言った。
先ほどからずっと、桃子の視線は雨と風が入り混じるテレビの映像に注がれている。

桃子が雅の部屋にやってきたのは、今日の仕事が終わった後だった。
台風が来ていることもあるし、次の日の仕事を考えると雅の家の方が近いから、なんて誰に言うわけでもない理由を積み上げて。
メンバーと別れた後の二人きりの電車内で、泊まっていけば、と申し出たのは雅からだった。

「待機しろって連絡きた」
「いっそオフにしてくれてもいいのにね」

関東を直撃すると予想される大型の台風は、まだ中部地方をうろついている。
きたる雨風の強さを予感させるように、朝から降り続いた雨は夜になるにつれて勢いを増していた。

536名無し募集中。。。2017/10/23(月) 01:02:36.830

「オフになったって行くとこないじゃん」
「どっか行かなくてもゴロゴロできるじゃん」

延々と台風の様子しか流さないテレビに飽きたのか、桃子がリモコンの電源ボタンに押下した。
途切れた音声の代わりに、窓の外のざわめきが耳の奥まで届く。
することがなくなったのか、桃子がローテーブルに突っ伏すのが見えた。
桃子の背中がわずかに上下している。雑音にも似た雨音が部屋を満たす。
不意に、雅は体の中心がざわつくのを感じた。
ふとこの部屋だけが取り残されているような、不思議な想像に襲われた。
馬鹿げた想像だ、と首を振ったところでパッと視界が暗くなった。

「きゃあっ!」

浮き上がった部屋の残像が、じんわりと闇に馴染んでいく。
停電したのだ、と数秒後に頭が追いついた。
みーやん、と求める声を頼りにゆっくり探ると、案外近い場所で桃子に触れた。

「み、ゃ……」
「うん」

きゅっと二の腕を掴む力は強く、必死さが胸に迫る。
気がつけば、小柄な桃子を抱き寄せていた。
抱きしめた。抱きしめちゃった。
だって、桃子があまりにも頼りない声をあげるものだから。

「停電、だと思う」
「う、ん」
「大丈夫?」
「だい、じょぶ」

口ではそう言いつつも、桃子が小刻みに震えているのが雅の体にも伝わった。
かちり、と歯と歯がぶつかる音がした。
桃子の震えをどうにか止めてやりたくて、桃子の背中をくり返し撫でる。
頬に触れる桃子の頭から、ふわりと熱が上ってきた。
視覚を奪われたせいか、雨の音は更に大きくなったようだった。
もも、と何度か呼びかけると、ようやく桃子の体が少し弛緩した。

537名無し募集中。。。2017/10/23(月) 01:03:54.090

コンコン、と部屋にノックの音が落ちる。
びくりと震えたのはどちらだったろう。はたまた二人ともだったのか。
いつもの癖で鍵をかけた数時間前の自分に、感謝したのはここだけの話。
雅、と呼ぶ母親の声に「はあい」と返し、宥めるように桃子の背中をひと撫でして立ち上がる。

「停電したみたいだけど、大丈夫?」
「うん、へーき」

これ、と母親から小型のライトを手渡された。
こんなのうちにあったんだ、と場違いなほど呑気な感想が雅の頭に浮かぶ。
受け取ったライトは、ポケットの奥に押し込んだ。

「たぶんすぐつくと思うからちょっと待っててね」

桃子ちゃんもごめんね、と母親が放った言葉に、「大丈夫です」と小さく返事がある。
その語尾がわずかに震えたことは、きっと雅しか知らない。
母親の足音が遠ざかるのを聞きながら、雅はそっとドアを閉めた。
少し迷って、鍵は開けたままにしておいた。

「みーやん……?」
「いるよ」

暗さに馴れた目が、部屋の真ん中で体を縮める桃子を捉える。
先ほどと同じくらいの距離に腰をおろすと、おずおずと手が触れてきた。
都合よく解釈して握り返した手は、拒まれることはなかった。
唐突に、ポケットに入れたままだった携帯電話が、振動と共に音を立てる。
この振動パターンは、きっとマネージャーからのものだろう。
予想通りの送信者名の下に、明日の仕事は休みである旨が綴られていた。
時間的に、まだ桃子の家まで帰りつけるだろうれど、電車は動いているのだろうか。
ふとそんなことを思って、ボタンを押しかけた親指を止めた。

ぷつりと世界が切り替わったように、蛍光灯が復活する。
心から安堵したらしく、桃子が深呼吸をする音がした。
時間が動き出した、と雅は思った。
まだ重なったままだった手のひらは、慎重に引き抜いて。

「……お風呂、先入っていいよ」
「え、でも」

リラックスすると思うし、と押し切って桃子を部屋から連れ出す。
電車はきっと、動いていない。
そういうことにしておいた。