雅ちゃんがももちの胸を触るセクハラ - ピーナッツバタージェリーラブ
404 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/07/18(火) 22:30:51.07 0

小さい頃。
大きくなったら女の子はみんな、白馬に乗った王子様が迎えに来てくれて。
愛の言葉とともにキラキラした綺麗な指輪をはめてもらう。
そんな風に思っていた。

少し大きくなって。
「そんなのは幻想だ」って誰かが言った。
「そんなことない」って否定する声は、大きな声にだんだんかき消されて。
いつの間にか聞こえなくなった。

多勢に流されるのは楽で、ただ流れに身を任せていればいいだけだ。
それに気付いた時、小さい頃の夢は「幻想」に変わっていった。


――いいじゃん、それ。


遠くで、声がした。
優しくて、力強くて、耳に心地よく響く声。


――その夢、大事にしなよ。


声とともにふわりと優しく笑う顔。
だけど、その顔がだんだん歪んで見えなくなっていく。
声も遠くなって、ガヤガヤと煩い雑踏の音に紛れていって。
「行かないで」って伸ばした腕はどこも掴んでくれなくて、そのまま宙を切って彷徨った。

406 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/07/18(火) 22:33:02.84 0

決まった時間に設定してあるアラームが、耳の横でうるさいくらいに鳴っている。
うぅー、と呻き声をあげながら体をひねって掴んだスマホを見て、とりあえずアラームを解除。
もう一度枕に沈んで一息ついて、桃子は画面に表示されていた時間をゆっくりと思い出す。

「…ええええっ!?」

その時間を頭がしっかり認識した瞬間、まどろんでいた意識が一気に覚醒する。
ガバッと勢いよく飛び起きてベッドから降りると同時に、ぐらりと体が傾いた。続いてガンガン響いてくる頭痛と吐き気に襲われる。

「最悪…」

不快極まりないこの症状は誰がどう考えても二日酔いだった。
そこでぼんやりと思い出されるのは昨晩のこと。

「社員同士の親睦を深める」と表向きは立派な文言で開催された社内の飲み会。
あいにく社員同士の親睦にはまるで興味がなかったが、飲み会に参加しないわけにもいかなかった。
入社して以来、ニコニコと誰にでも愛想よく振る舞って、仕事もそつなくこなしてきた。
上司の言うことは素直に聞くし、同僚の仕事を手伝ったり、後輩のミスをカバーしたり。
「嗣永さんって仕事できるし、かわいくて美人だよね」なんて社内で囁かれているのも知っていた。

今さらそんなイメージを崩すわけにもいかなくて、「飲み会くるよね?」なんて笑顔で聞いてくる同期の言葉に「もちろん」と反射的に返したのは一週間前のこと。
気の合う友人と少人数で飲むのはともかく、大勢でガヤガヤするのが苦手な桃子は、当日が近づくにつれ気が重くなっていたのを思い出す。

「…うう…頭われそう…」

いつもは翌日のことを考えて控えめに飲むのだが、絡んでくる上司や同僚をかわしきれず、どんどんグラスが空になっていった。
律儀に二次会まで付き合って、もう一軒行こう!なんて言い出した上司の言葉を聞いて、引き止められないようにかるく挨拶をしながらその場から逃げるように帰ってきた。
足元はふらつくし何度も吐き気を催しながらも無事に自分のマンションまでたどり着けたのは奇跡に近い。

顔を洗って、バタバタと準備をする。
服どうしよう、と考えていると、クローゼットのドア前にハンガーで吊るされた一式が目に入る。
ああ、そうか、帰ってきてシャワー浴びてぐだぐだになりながら明日の準備だけはしてたんだっけ。
昨夜の自分をめちゃくちゃ褒めてあげたいけど残念ながらそんな時間はない。
服を外したハンガーをベッドに放り投げて手早く着替えを済ませると、買い置きしていた菓子パンを掴んで家を飛び出した。

408 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/07/18(火) 22:36:41.15 0

自分でも信じられないぐらいの速さで走って飛び込んだ電車は、いつもより2本程遅い電車だった。
これなら遅刻せずにすみそう。
つり革につかまってスマホを見る。
そう言えば昨日の夜からろくにチェックしてなかったな、なんて思いながらロックを解除すると、最近合コンで知り合って付き合いだした彼から着信と、メールが届いていた。

最初に着信、そのあとに届いたらしいメール。
でもその時間を確認すると飲み会の真っ最中だった時間。
うん、これは気付かない。
心の中で言い訳して、なんだろう、と思いながらメールを開く。

『別れよう』

シンプルな4文字。
桃子はふぅ、と一つため息を吐いて、意外と冷静な自分に少しだけ驚いていた。
こういう時、どうすればいいんだろう。
すぐに電話して「いやだよ」とか「なんで?」とか「こんなに好きなのに」って泣き喚くの?
…わからない。

電車のドアが開いて、乗り換えの駅に着いたことに気付く。
慌てて降りながら、桃子はスマホに文字を打ち込んで、少しだけ迷って送信ボタンを押した。

『わかった』

メールを送ってすぐに「送信しました」のメッセージ。
同じ乗り換えの電車を目指す人たちの波に飲まれながら、その文字をぼんやりと見つめていた。

409 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/07/18(火) 22:39:39.77 0

会社に着くと、どことなく社内の雰囲気はグロッキーだった。
二次会のあとも上司に付き合っていたらしい同期が生気を失ったような顔で声をかけてくる。
それに対していつもの笑顔で対応した…つもり。
容赦なくガンガン響く頭痛に顔をしかめてなければだけど。

どんなに二日酔いでも仕事は仕事。
パンっとかるく頬を叩いて気合を入れる。
いつもどおり朝礼が始まる。
何回かあくびを噛み殺しながら必要なことをメモに取っていく。
ダラダラと続く文字列がぼんやりする。
隣で船を漕いでいる同期を肘でつついて起こしていると、上司がゴホン、と一つ咳払いをした。

「えー、実は今日からこの部署に新しく一人入ることになった」

途端、ざわざわとするオフィス。
今日から?新しく入ってくる?そんな話は初耳だった。
「入りなさい」と声をかけられた新人さんが、ガチャリとドアを開く音がした。
一斉に集まる視線。
転校初日に紹介される転校生みたいだな、とか考えながら桃子も視線を向けて、

「……え」

思わず漏れた声が、周りに聞こえたかも、なんてことを考える余裕はなかった。
ドクドクと脈打つ心臓の音がうるさい。
上司の隣に並んで、自己紹介を促されて、ゆっくりと口を開いたその人から聞こえてきたその声は、

「今日から新しく入りました。夏焼雅です。よろしくお願いします」

優しくて、力強くて、耳に心地よく響いて。

くらり、と目眩がした。
自分が今どこにいるのかわからなくなってくる。

握っていたペンは、いつの間にか机の上に落ちていて。
「どうしたの?」って隣からかけられる声に、反応することはできなかった。