雅ちゃんがももちの胸を触るセクハラ - 今五パロ 4
796 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2016/12/17(土) 02:14:55.59 0

「みんなのあほ」

雑踏の中で小さくつぶやいて、ちょっと乱暴にスマホを鞄につっこむ。
久しぶりに同期で集まって、イルミネーションでも見に行こうやって盛り上がったんが一ヶ月ほど前のこと。
せやけど、昨日から今日にかけて全員からドタキャンの連絡が来よった。
ほんま、みんなで示し合わせたんやろうかって疑いたくもなる。
うち、そんな嫌われとったっけ。
視界が滲みそうになって、ぐっと上を向くと灰色の雲に覆われた空があった。
耳に入ってくるんは陽気なクリスマスソング。
せやけど、今はそないな風に浮かれる気分にはなれんわ。
今年一番の寒さになる言うとった天気予報通り、肌に当たる外気はホンマに針のように刺してくる。

ええもん、ええもん。
衣装のインスピレーションにもなるやろうし、どうせ独りでも行くつもりやったし。
……せやけど、なあ。
何が悲しゅうて、30手前の女が一人でイルミネーションを見なあかんの。

「はぁ……」

マリアナ海溝よりも深ーい息をつくと、白い靄が溶けて消える。
ため息ついたところで、誰もうちの事情なんて知りもせんと過ぎていくわけやけど。
さっさと見て帰ろ、そう思って半分くらいやけになりながら歩くのを速めようとして……変な抵抗があって後ろに引っ張られた。
鞄に何か引っかかったんやろうか。

「ごめんなさ——」

言いながら振り返った先には、見覚えのあるシルエット。

「あれ、あんた……」

797 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2016/12/17(土) 02:15:30.73 0

うちより小っさい身長。
ちょっと大きめの黒いサングラスに一つ結びで編み込みされた黒髪で……ってここまではええんや。
ここまでは見覚えがある。
せやけど、その体を包んどるんは淡い桃色のコートで。
そのアンバランスさに、は?と声が漏れた。

「ご、だん?」

顔は確かに五段や、うちの知っとる五段なんや。
せやけど、明らかに着とるもんが違う。
仕事場でのあいつは上から下までかっちりと真っ黒やのに、目の前の五段はといえば……薄桃色や。つまりはピンクや。
なんか意外すぎて、さっきまでの冴えん気持ちはすっかりどっかへ消えとった。

「な、え、こんなところで何してるん?」

うちに声をかけられて、五段はようやく我に返ったようやった。
急に何かのスイッチが入ったように、手をわたわたさせるんが見える。
五段のあまりの慌てように、思わず吹き出しそうになるんを何とか堪えた。

「何や、帰り?」

一回でええのに、何度も縦に頭を振る五段。
そんなに狼狽えんでもええのになあ。
せやけど、そしたらこのコート、五段の私服ってことなんやろうか。
そっと聞いてみたら、五段の頬が面白いほど真っ赤になった。
その反応見とったら、何となーくピンときてしもた。

「あれか、ももちの色やから?」

なんで分かるんやって言われたような気がした。
サングラスのせいで見えとるんは口元と頬くらいやのに、手に取るようにそれが分かる。
五段、あんたホンマ素直に反応しすぎやで。

「ええ色やん」

そない恥ずかしがらんでもええのに、って手をひらひらさせてみたけど、あいつは拗ねたようにそっぽ向いてしもた。
よっぽど知られたくなかったんやろうか。
せやけど、それ着て通勤しとるんやろ、あんた。

「サングラスぐらい外しぃ。ほんまは着とるもんもちょっと変えた方がええと思うけど?」

放っておいてくれと言いたげに膨らむ頬。尖る唇。
せやけどうち、ハイパースタイリングアドバイザーやから。
気になるもんは気になるんや。

「ね、五段。この後時間ある?」

なんで?とこっちを伺う五段の手を、構わず引っ張った。
最初は戸惑っとったらしい五段やったけど、着るもん見繕ったるわって言うたらやけに大人しゅうなって。
浮かれた街の中へと歩き出した時には、うちもえらい浮かれとったかもしれん。

798 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2016/12/17(土) 02:16:55.70 0


まっすぐ目指したんはお気に入りのアパレルショップ。
こんなとこ入ったことないって尻込みする五段やったけど、近くのソファに座らせたらちょっと静かになった。
うちと一緒やねんから、そない緊張せんでもええのになあ。
まあ、今はそんなことよりも、五段に似合いそうなもんを選ぶことの方が今は優先や。

「なあ、それ外さんの?」

再確認のつもりで聞いてみたら、気乗りはせん、という雰囲気を感じた。
何かしらの理由があるんやろうな。まあ、ええわ。
ちょっと待っとってな、と五段を置いて店内をうろついて似合いそうなもんを探していく。
まずはスーツや。
ちっこい上にぶかぶかなスーツはあかん。ちっこい体が余計にコンパクトに見えてまう。
やっぱり黒かな。黒とピンクって相性ええし。
ちょっと短めの丈で、足は見せていく方向で。
中は灰色か白っぽい服……あんまり甘すぎるんも好みとちゃうやろか。聞いてみよ。
そういえば、五段っていつも編み込みしとるイメージや。
あ、ちゃんとパンプス履いとるんやね。
ちらちらと五段の様子を伺いながら、頭のてっぺんからつま先までをイメージしていく。
ほい、と服の入ったカゴを差し出すと、五段の視線がカゴとうちの顔とを行き来した。
なんか驚くことあった?

「ま、ちょっと着てみてや」

八割くらいうちの自己満足やけど、五段は素直に頷く。
試着室に向かう五段の後ろ姿が、ちょっとだけ生き生きしとったように見えたんが勘違いやなかったらええな、と思った。

待つこと数分、試着室のカーテンに皺が寄るんが見えて思わず立ち上がる。
ひょこ、と小さく開いた隙間から覗く五段の頭。
いやいや、焦らさんと見せてよ。
そっと促したら、おずおずと五段がカーテンの向こうから現れた。

「……おー、似合とるやん」

うちが選んだんやから、当たり前やけど。
にしても……にしてもやな、似合いすぎてびっくりしたわ。
びっくりしすぎて、一瞬言葉が出えへんかったわ。
サングラスもええアクセントになっとるんとちゃう?

「気に入らん?」

ぶんぶん、と千切れそうなくらい五段は首を横に振った。
その仕草に、うちはじんわりと満たされる。
まあ、今後の参考になればええなって思っただけやから。
そう口にしたら、五段になぜかじいっと見つめられたような気がした。

「……な、なに?」

聞いても返事がないんは知っとるんやけど、そう言わずにはおれんかった。
なんやろう、うちがそう思っとる間にも、五段はそのまま試着室を飛び出しとって。

「え? ど、どしたん?」

799 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2016/12/17(土) 02:17:27.84 0

振り返らんまま、五段は真っ直ぐに見えんようになる。
いやいや、スーツ放置なん?!
五段の思考はさっぱり分からんけど、立ち尽くすわけにもいかん。
しゃあないから、とりあえず放置されとった五段の荷物を抱えて後を追いかける。
気づいたら五段の姿はレジの前にあって、差し出しとるんは明らかに銀色のカードで。
何かしら気に入ったもんでもあったんやろうか。
そう思って見守っとったら、やり取りを終えたらしい五段は心なしか満足げにうちを振り返った。

「着替えへんの?」

小さく数回、横に振られる首。
つまり? なんや……一括購入?
呆気に取られとると、口元を緩ませたままの五段がうちに親指を突き出すんが見えた。
調子狂うわ。
そんなことを思っとったら、五段はそのままするっと店の出口へと向かっていく。

「ちょ、ちょっと! スーツ!」

振り返る五段の顔には、すっかり忘れとったと書かれとるようやった。
ほんま、しっかりしてよ。
えへへ、というように頭を掻く五段。
もっと堅物なんかと思っとったけど、ほんまは全く逆なんやないか。
こんなおもろい人が近くにおるなんて知らんかったわ。
そう思ったら、もう少しだけ五段と一緒におってみたくなった。

——なあ、この後まだ時間大丈夫?

腕を掴んでそう尋ねたら、ゆるりとした首肯が返される。

「友達全員にフラれたんやけど。付き合ってくれん?」

イルミネーション、と付け足すと、五段の首がきょとんと傾げられた。
いやいや、イルミネーションやって。
ここ最近、街中どこもかしこもキラキラしとるやろ?
もう一度、イルミネーション、とゆっくり繰り返すと、五段がポンと手を打った。
なんやろ、分かっとらんかったんやろうか。

「興味なかったらええけど」

うちが言い終わらんうちに、五段が少しだけ身を乗り出す。
興味ありってことで、ええんかな。
近くやから、ええ?そう聞いたら、五段は口元をふっと緩ませたようやった。

800 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2016/12/17(土) 02:18:03.06 0


全長1kmちょっとのライトアップ。
中でも目玉なんが、真っ青に染め上げられたケヤキ並木と、薄桃色に包まれた川沿いの桜並木。
テレビなんかで見とったけど、やっぱり本物を目の前にすると全然迫力が違う。
全然別の世界に迷い込んだようで、きゅうっと頭の芯が締め付けられたようや、と思った。
そんなことを思っとったら、どす、と鈍い衝撃によろめいた。
誰かと肩がぶつかったらしい、と思ったんと、ぐらりと揺らいだ重心に、あかんと思ったんは同時。
次の瞬間、思いがけず力強い腕に支えられたんを感じた。

「五、段……」

ちっこいくせして、うちを支える腕の安定感は抜群。
当たり前か、あんた、シークレットサービスやったな。
五段の助けを借りて体勢を整えて、改めて周囲を見渡す。
やっぱりみんな、見に来よるよなあ。
ぼーっとしとったらまた誰かにぶつかりそうやし、もっと言えば五段ともはぐれてしまいそうや。
せやから、しゃあない、よな。
なんでもないことみたいに、五段の手を掬い取る。
さっきうちを支えてくれたとは思えんほど、ちっさくてふにふにと柔らかい手のひら。
はぐれんようにするためやから。それだけやから。
そう言い聞かせて、五段の手をぐっと握る。
振り解かれんかったことに、ほっとしたんが何でなんかは知らん。

801 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2016/12/17(土) 02:18:39.26 0

青一色に染まった空間を抜けてしばらく行くと、桜並木に行き着いて、橋の真ん中で二人、立ち止まる。
五段の好きなピンクや、と思うより早く繋がっとる手に力がこもったんが伝わってきた。
桜の木に張り巡らされた桃色のライト。
冬やのに、春先の満開の桜に囲まれたような錯覚に陥った。
夜の暗闇に浮かび上がる桜並木は、この世のもんやないような程綺麗で。
ドキドキして止まらん、と思った。

「キレーやね」

五段は、これを見て何を考えとるんやろうか。
脇目もふらずに目の前の風景を見つめとる様子から、すっかり心を奪われとるんが伺えた。
やっぱり誰かと見るもんやな、こういうんは。

「ありがとな、五段」

桜並木からは目を離さんと、そっと告げる感謝の言葉。
この数時間、ちょっと振り回しすぎてしもたかなって反省の意味も込めながら。
うちの言葉は、五段に届いたんやろうか。
そろりと五段の横顔を伺うと、不意に五段もこちらを向いた。
その唇が、薄く開いたんが見えた。
非現実的な空間におるせいなんやろうか。
一瞬の五段の表情は、彫刻のような美しさがあって——思わず、見惚れた。

「……き、です」
「え? わっ」

ざあ、と吹き抜ける風が、容赦なく肌に突き刺さる。
思わず体を竦めると、そっと五段が壁になってくれたんが見えた。
あんたの方がちっさいやんか。
つま先立ちをしてみたり、妙に必死な五段がおかしい。

——なあ、さっき何を言おうとしたん?

聞き返そうとしたんは、ぶるぶると存在を主張する携帯電話に遮られた。
なんやろ、と取り出すと今日一緒に来るはずやった友達の名前。
電話はさすがに無視できんかなあ。
五段に断ってから電話に出ると、ほんまごめんな、っていきなり始まる謝罪の言葉。
懸命に並べられる言葉の数々に、思わず吹き出した。
もうええよ、怒っとへんよ。
そう伝えると、また今度埋め合わせさせてな、やって。
気づいとへんかったけど、他にもメールが数件入っとった。
揃いも揃ってごめんな、というメールでほんま、ただただ今日はみんなの都合が合わんかっただけやったんやな。
まあ、そんな日もあるわ。
そう思える余裕ができたんも、全部隣におるこいつのおかげやわ。
ごめんごめん、と五段の方に向き直ると、既に五段は元の雰囲気に戻っとった。
タイミング逃したらしいってことだけは察しがついて、せやけど今はどうすることもできん。
いつか、聞かせてな。
心の中でそうつぶやいて、五段と繋がっとる手に力を込めた。

うちが五段からちゃんとした言葉を聞くんは、まだ少し先のお話。