雅ちゃんがももちの胸を触るセクハラ - 山木さん、大いに惑う
870 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2016/11/17(木) 23:52:35.64 0

みなさん、こんにちは。
私、山木梨沙っていいます。
東京都出身で——って、今はそんなことはどーだっていいの、です。
現在、私は非常に困った状況に置かれているわけで。
みなさんに分かりやすく説明するなら、楽屋の前で壁に貼り付いてる状態とでも言うんでしょうか。
メンバーにさよならを言って帰路についたのが1時間ほど前のこと。
でも、今日は楽屋に忘れ物をしてしまったんですよ。
大学で使うの教科書なんかはさすがに明日ってわけにもいかないので、泣く泣く戻ってきたというわけです。

節電だかで電気の落とされた薄暗い廊下。
そこに伸びる一筋の光で、楽屋にまだ人が残っているのだと分かりました。
そこまではいいんです。
たしか、ももち先輩はもう少し書き物が残ってるからって楽屋に残ったんですから。
でも、私が中に入ることを躊躇ったのは別の理由。

「……さ、……で」

ももち先輩しかいないはずの楽屋から、なぜか話し声が聞こえてくるんです。
いや、声自体はももち先輩なんですよ、だから最初は電話でもしてるのかと思いました。
でも、明らかに物音が二人分で、それはつまり、楽屋にはももち先輩と別の誰かがいるってことになりますよね。
頑張って耳を澄ましてみたんですが、話の内容は全く分かりません。
たまにテンションが高くなったももち先輩の声が高めに上ずって耳に入ってきますが、それ以外の手がかりはつかめないまま。
そんな状況で「ハァイ!」とか言いながら突っ込んでいける人なんていませんよ。
あ、やなみんとかだったらあるいは、と思わないでもないですが、残念ながらここにはいないのです。
つまり、帰宅するには部屋に入って忘れ物をゲットする必要があるわけですが、この山木があの空間に入っていかなければならないわけで……。

「もぅっ! ……てっ!」

おっと?! 意を決して握ろうとしていたドアノブから、ついつい手を離してしまいました。
さっきの声、ももち先輩ですよね?
なんというか……やたらと甘い声じゃないですか?
メディア向けの高めに作られた声を聞いたことはありますけど、それとはちょっと違うような感じ。上手く言えないですけど。
うーん、これは、少し悪いことをしている気にもなりますが、ちょっと覗かせてもらってもいいですよね?
ももち先輩の相手が誰かってことだけ分かれば、部屋にも入って行きやすくなりますし、ね?
誰に言い訳してるのか分からなくなってきましたが、ドアの僅かな隙間からチラッと覗いてみることにしましょう。

隙間から得られる視野は狭くて、確認できたのは楽屋のソファの一部のみ。
そこに座ってるのがももち先輩だということは見えたんですが、肝心のお相手が見えません。
うーん、困りました。
ももち先輩の視線は完全に私からは見えない場所へと注がれていて、そこに話し相手がいるってことは分かるんですが。
そんな中で、私の耳に飛び込んでくるパイプ椅子が軋む音。
やばいという焦りと、もしかしたらという期待。
天秤にかけたらどっちが勝つかなんて分かりきってますよね。

「……っ?!」

私とももち先輩の間に割り込んでくる人影は、私と同じくらいの背丈で、モッズコートを羽織っていて、栗色のショートカットで、男の、人……?
隠れる寸前、その人を見上げるももち先輩は今までにないくらいふやけた顔で、さすがの私でもその後何が起こるのかを予感しました。
ももち先輩の前で立ったまま、その人は少し身を屈めて。
遮られた先の想像がいやに生々しくて、かっと全身の体温が上がるのが分かりました。
この山木、最も見てはならないものを目撃してしまったのではないでしょうか。
これは、忘れ物とか言ってる場合じゃないです。
無理! 入れるわけがない!
ドクドクと脈打つ全身を引きずって、それでも何とか家には帰りましたけど。
ああ、夢だったら良いのに……そんなことを思いながら、気づけば眠りに落ちていたのでした。

872 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2016/11/17(木) 23:53:08.58 0


次の日、目を覚ますと教科書たちは確かに部屋にはなくて、昨日見た光景は確かに現実でした。
その日は大学があったわけですが、驚くほど身が入らなかったわけです。
なのでまあ、教科書があってもなくても結果は同じだったと言いますか。
それ以上に、ももち先輩の——その、キ、キスシーン(仮)のショックが、大きすぎたんですよ。
その後も、仕事で一緒になることはあったんですが、どうにも目が合わせられなくて。
いつもは楽屋でも、ももち先輩の隣が定位置になりつつあったんですが、今日はどうしても座れませんでした。
鏡の前で頬杖をついて、グルグルと思考が巡って。
そりゃ、自然とため息も漏れるってもんです。

「梨沙ちゃん?」
「え? ぉわっ」

気づけば、こちらを心配そうに覗きこむちぃの視線。
この山木、考え事に集中しすぎていたようです。

「なんか体調悪い?」
「べべ別に、何も?」
「いやいや、何もって感じじゃないじゃん」

ええ、ごもっとも。
耳の奥に残ってる自分の声は明らかに白々しくて、仮に私が逆の立場でも同じツッコミをしたことでしょう。
さすがにちぃに相談するわけにはいかないような。
でも、自分の中に留めておくには限界なような。
ね?って視線だけで促されて、それでもやっぱり躊躇う気持ちは消えないわけですよ。

「うーん……じゃあさ! お仕事終わったらご飯行こ?」

別に無理に話さなくてもいいし、との提案。
一人でいても考え込んでしまいそうだし、私はそれをありがたく受けることにしたのでした。

873 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2016/11/17(木) 23:53:52.64 0

急遽決まったご飯会、お店は任せるとのことだったので、イタリアンに。
うん、女子力高めですね。
手頃なお値段なのに味が良くて、何よりちょっとラフな雰囲気が肩肘張らなくてお気に入りなんです。
ちぃも満足してくれたようで、ちょっとほっとしました。
美味しい料理に、飲み物。
テンションも自然と上がるってもので、普段より饒舌に二人でしゃべり倒して。
帰宅時間はあっという間にやってきていたのでした。

「はあ、楽しかったあ」
「ふふ、よかった。梨沙ちゃん元気になったみたい」

ちぃの一言に、なぜこんな展開になったのかが急に蘇ってきました。
これ、切り出すにもめちゃくちゃ勇気のいる話題ですよね。
だって、あのももち先輩が楽屋で男の人と、そのー、ゴニョゴニョしてたなんてスキャンダル中のスキャンダル。
目の前のちぃに、それを共有するかどうかでもやっぱり、一人で抱えるには大きすぎるというか持て余すのが本音なわけで。

「あー、ちぃ、さん」
「えっ?」

帰り支度をして立ち上がろうとしていたちぃに、ちょいちょいと手招きをして、近寄ってきた耳元にそっと尋ねてみました。

——ももち先輩が、男の人と一緒だったらどうする?

ひゃっと妙な声が漏れて、ちぃの耳が面白いほど真っ赤に染まるのが見えました。

「おおおお、おと、男の人……?!」
「しー、声」

はっと両手で口を押さえるちぃ。やっぱりここはちょっとまずいかな。
ってことで、とりあえずお店を出ることにしましょう。

874 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2016/11/17(木) 23:54:38.96 0

二人で道を歩きながら、声のボリュームは最小に。
雑踏の中なら紛れちゃって聞こえないような気もしましたが、ここは念には念ってやつです。

「――なんで梨沙ちゃんはあんなこと聞いたの?」
「えーと……」

話題を切り出すのには成功したわけですが、ここからどうしましょう。

「この前、忘れ物して取りに帰ったんだけど、」

ももち先輩が、楽屋で男の人と一緒にいて。
明らかにスーツではなかったし、思えば怪しいところだらけで、説明をしながら自分でもドキドキしてきました。

「それで、その……」

あああ! これ以上は! これ以上は無理ですよ!
だって、そんな、私の口からキキキ、キス、なんて言えないですし!
なんて、そんな私の胸中など素知らぬ様子で、ちぃは腕を組んで何か考え込んでいるみたいです。
まあ、何も考えてない可能性もありますけど。

「……それってさあ、茶髪の人?」
「うん」
「モッズコートって、緑でふわふわしたのがついてるやつだっけ」
「ま、まあ……そうかなあ」

ふわふわってあれですよね、首元に付いてるファーのことですよね、きっと。
確認のようなちぃの口調。もしかして、心当たりがあるとか?

「あ、やー、その。梨沙ちゃんが見た人とは違うかもしれないんだけど……」

875 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2016/11/17(木) 23:55:09.50 0

心当たりなら、あるかもって。
まさかすぎて、なんて言ったらいいか分からないんですけども。
ちぃも、まさか……き、き、きっすを目撃した……?
でも、そんなことがあろうもんなら、私は絶対に気づいてますよ。

「ちぃ、それ、本当?」
「あ、うん……でも、違うかなあ」

どっちなの!
じりじりとしている私をよそに、人差し指を唇に押し当てて長考モード。
やがてちぃが口にしたことは、ある意味で全然予想外でした。

「えっとねえ、それたぶん、夏焼さんだと思うよ」
「……は」

ナツヤキサン?
……って、私は一人しか知らないんですけど。
あんなに髪、短くなかったような。
ていうかその前に。そのお方は女性じゃなかったでしたっけ。

「え、それって、あの」
「そうそう、あの」

どうも、ちぃの思っている人と、私の脳内に浮かんでいる人は同じと考えて良いようです。
そこまでは、良しとしましょう。

「いや、え? 本当に……?」
「ホントホント、今度ももち先輩に聞いてみたらいいと思う!」

ごくごく簡単なことみたいな顔であっさり言うけど、それがどういう意味か分かってる?
大丈夫だよって力強い声が聞こえるけど、それってただの無責任と表裏一体じゃないの?
けれど、ちぃが根拠のない大丈夫を繰り返すので、そんなに言うならと私もその"大丈夫"を信じてみることにしたのでした。

876 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2016/11/17(木) 23:55:46.93 0


そんなことがあって、次の日。
次の日って、心の準備できてないよって思いましたが、ちぃは待ってくれません。
大丈夫だからって、もう何回聞いたことでしょうか。

「二人ともまだ帰らないのー?」
「あ、はい、えっと」

書き物はもう終えちゃっていて、やることって実はないんですよね。
大学の課題が、とか適当なことを言っちゃおうかな……少し困ってちぃと目を合わせると、その目が時計を伺うのが見えました。
そろそろ? それとも、タイムリミット?
その行動の意味を捉えあぐねていると、背後で静かに響く金属音。

「もも、おつかれ――って、あれ?」
「あ、みや。おつかれ」

ドアの向こうから、ひょいと現れたのは、果たして確かにその人だったのでした。
くりっとした瞳に、さらりと明るい栗毛色の前髪が流れて。
その髪の短さも、羽織っているコートも、記憶とぴったり一致します。やっぱりあの日、私が見たのは。

「夏焼、さん……」
「お、二人ともおつかれー。こんな時間まで残ってんのめずらしーね」

固まっている私の服をちょいちょいと引いて、ちぃの顔がほらね、と言ってくるのが見えました。
認めましょう、ちぃの言う通りだと。
ただ、私が記憶してる限りでは最近の夏焼さんってこんなじゃなかったような気がするんですが。

「あの……その、髪」
「あ、そうだった」

梨沙ちゃんは初めてだっけ、と言われるところを見ると、ちぃは知っていたみたいですね。
つまり、夏焼さんのいつもの髪型はエクステによるもので、普段の状態は今、目の前にいる夏焼さんだと。

「でも、なんでエクステなんて……」
「んー、エクステの方がいろんなアレンジできるから?」

なるほど、理由はまあ理解できました。
と、いうことは。今回の件って、単純に私が空回ってただけ——?
そのことに気づいたのと、ちぃがお二人にニヤニヤしながら告げ口をしようとしたのがほぼ同時。

「聞いてくださいよ! 梨沙ちゃんてば、夏焼さんのこと、」
「ちょっ!」
「えー? なになに?」
「ちぃ、やめ、んむぅ——?!」

ちぃの言うことをかき消そうと声を張ろうとしたところを、ももち先輩に阻止されました。
小さいくせに——失礼、可愛らしいサイズの掌に口を塞がれて、ももち先輩に促されるままに、ちぃが私の勘違いを語るのを見ていることしかできませんでした。

878 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2016/11/17(木) 23:56:20.92 0

「え、ちょっと、本当にー?」
「マジで?」

かと思えば、ももち先輩と夏焼さんが同時に吹き出して、なんでしょう、これは。
じわじわと……じわじわと恥ずかしいやつじゃないですか?!

「も、もうやめてください……」

頬が熱くて、今ほど穴があったら入りたいという言葉が適切な状況もないと思います。
それでも笑いの波は去ってくれる気配がないので、しばらく笑われるほかありませんでした。
ちぃ、恨みますよ。

「もー、梨沙ちゃんはおっちょこちょいだなぁ」

ももち先輩の手がぺしぺしと頭に当たってきて、ようやく波が引いてくれたことを感じました。
よかったと言うべきか否かは微妙ですけど、ももち先輩の言葉で空気が少しだけほどけたのは確かです。

「ま、そういうことだから」

誤解も解けてよかったね、と夏焼さんからはウインクをいただいて。

「じゃ、帰ろっか」
「うんっ」

事は済んだと言わんばかりに、くるりと踵を返す夏焼さん。
もう勘違いしないでねー、とか何とか言いながら、軽いノリのももち先輩が隣に並んで。
つかのま、お二人が視線を交わしたような気がしました。
それは、もしかして幻だったのかと思うほどには一瞬の出来事で、次の瞬間にはお疲れ様ー、という挨拶を残してお二人の姿は消えていたのでした。

「ね、大丈夫だったでしょ?」
「まあ、そう、だけど……」

なんでしょう、このモヤモヤは。あ、そういえば。

「知ってたんなら言ってよ」
「いやあ、ちょっと梨沙ちゃんの反応見てみたくって」

聞けば、ちぃはちぃでGNOの収録の後に突然現れた、ショートカットの夏焼さんに驚かされたのだとか。
さっきまで一緒に収録してた人の髪の長さがいきなり変わってたら、そりゃ驚きますよね。

「私たちも帰ろっか」

まあ、何にせよ、スキャンダルとかじゃなくて安心しました。
そりゃまあ、めちゃくちゃ恥ずかしかったですけど。
すべて私の勘違いだったわけで、つまりは、最悪の事態とかではなかったわけで、そうなると何よりも安堵の気持ちが大きいんです。
明日からはまた、ももち先輩のお隣にちゃんと座れそうで、本当よかった!


めでたし、めでたし。

881 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2016/11/18(金) 00:00:13.95 0


川∂_)∂リ.。oO(ん? あれ?)
川;∂_)∂リ.。oO(何か…大事なことを忘れているような…)