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kuroe_trpg 2018年08月07日(火) 21:57:27履歴
1.はじめに
本シナリオは現代日本を舞台としたシナリオである。季節はいつでも構わない。
舞台は東京だが、改変すれば大阪や福岡など他の大都市圏でもプレイは可能だろう。プレイヤーの人数は2名以上であることを想定している。
本シナリオで登場する星の智慧派やナイ牧師については、サプリメントの『クトゥルフ・カルトナウ』に詳しく記載がある。
必ずしもサプリメントを所持している必要はないが、参考として使用すれば、シナリオにより深みが出るかもしれない。
ハンドアウト
このシナリオには、2つのハンドアウト(以下HOと表記)が存在する。
HO1は依頼人である弁護士の高津賢治(たかつけんじ)からの仕事を請け負う探索者である。
この探索者は主な稼業であるか副業であるかを問わず、探偵や調査を生業としている。そうでない場合は、高津が個人的に頼りにしている人間だろう。
困難な仕事であっても完遂するというプロ意識を持ち、最低限仕事に必要となる真実以上のものを探求しようとする、好奇心旺盛な人物であることが望ましい。
HO2は歌を生業とする、あるいはアイデンティティの主要な一部としている人間である。
それは本シナリオに登場する『セラス』と同じようなアイドルかもしれないし、もっと硬派なシンガーかもしれない。
あるいはまだ表舞台には出ていない、原石のような存在であるかもしれない。
どちらにせよ、ビジュアルやパフォーマンスよりも、歌唱そのものを武器とする人間であることが望ましい。
この探索者は、〈芸術(歌唱)〉か、それに準ずる技能(以下のテキストでは便宜上、全て歌唱技能と記載する)を高い値で持っているほうがよい。
片方のHOは、もう片方のHOと兼ねても構わない。また事件にかかわる動機があれば、HOがなくても構わない。
たとえば芸能関係に鼻の利くジャーナリスト、セラスのファン、他探索者の友人や助っ人などである。
セラスに関する事前情報
セラスは様々な意味で凡庸なアイドルとは一線を画す存在であり、半ばマンネリ化したアイドル業界において『救世主系アイドル』とも呼ばれている。
いまのところ彼女の活動場所はインターネットの動画サイトであるが、曲のPV(プロモーションビデオ)は極めて完成度が高く、豪華なつくりとなっている。
その背後には所属する芸能事務所『WISDOM』と、謎の人物『プロデューサーN』『マネージャーK』の手腕があることが知られている。
しかしミステリアスさを演出するためか、公開されている情報は極端に少なく、テレビや雑誌への露出も今のところ一切ない。
これまでには愛する人を遠くから見つめる少女の気持ちを歌った『ハロー、』や、
大切な人を夢に誘う不思議な女性の心を歌った『NOWHERE』という曲が、動画サイトで異例の1000万再生を突破するなど人気を博した。
彼女の歌は『虚空の歌声』と評され、力強さと切なさが内包された奇跡の歌声として、一部のファンを強力に惹きつけてやまない。
2.シナリオの背景
1990年代後半から変容を遂げたアイドル文化は、比較的小さなライブ会場でファンとの濃密な交流をおこなう『地下アイドル』という存在を生み出した。
彼女たちは様々な理由でその道に踏み入り、決して楽ではない生活やスケジュールの中、アイドル活動に精を出す。
そしてある者はメジャーデビューを果たして表舞台に上がり、ある者はそのまま細々と地下でアイドル稼業を続け、ある者は進学や就職を期に引退してアイドル稼業から足を洗う。
本シナリオのヒロインである山田詩音(やまだしおん)も、そうした地下アイドルの一人であった。
高校一年生のころ地下アイドルという存在を知り、その道に足を踏み入れた彼女は、『虚空の歌声』と評される類まれな声質で一部のファンを強烈に惹きつけた。
その影響力に目を付けた『星の智慧派』指導者のナイ牧師は、WISDOMを通じて彼女をスカウトし、セラスという名前でメジャーデビューさせるために手を尽くす。
しかしそれは、とある計画のための手段に過ぎなかった。
その計画とは、セラスの熱狂的なファンに対して、歌を通じてその精神と人格をニャルラトテップのそれに支配させてしまおう、というものである。
計画の本番は、セラスによっておこなわれる武道館ライブである。
この計画においてナイ牧師は『プロデューサーN』という名前で糸を引き、実務は『マネージャーK』と呼ばれる女性に任せていた。
この女性こそが、導入部分でHO1の探索者に依頼を持ちかける高津賢治の元妻、小宮亮子(こみやりょうこ)である。
小宮ははじめあまり疑問を抱かずにマネージャー業をこなしていたが、あるときナイ牧師の恐るべき計画の一端を知ってしまった。
自分が目を掛けたセラスを守るため、また彼女自身の強気な性格も手伝って、小宮はナイ牧師と星の智慧派に深入りする。
しかし彼女は真実をほとんど明らかにしながらも、結局は星の智慧派に所属する暗殺者によって殺害され、その死体は自殺に見せかけられた。
元夫の高津はその死に疑問を持ち、真相究明を探索者達に託すべく、依頼を持ちかけることになる。
3.主なNPC
セラス 山田詩音(やまだしおん)
芸能事務所WISDOMに所属する女性アイドル。その整った容姿と特殊な声質によって、中学生時代に上級生から目を付けられ、いじめを体験した。
他者から否定されることに怯えていた彼女は、高校に進学するもそこを安心する居場所とはできず、
入学してすぐに知った存在である地下アイドルとして自分を表現するようになった。
その透き通った声質は切なさと力強さを内包し、ファンには『虚空の歌声』と評されている。
自分に自信が持てず、心のどこかに欠けた部分があると考えていて、それを埋めるためには(不特定多数の)他者から承認を得ることが必要だと強く感じている。
その感情に付け込まれる形でナイ牧師のスカウトに応じ、アイドルとしてメジャーデビューすることになるが、
その過分な立場と、星の智慧派が漂わせる危うい雰囲気に強い不安を抱いてもいる。
芸名である『セラス(Ceras)』はラテン語で『聖なる』を意味する(ただし正反対の『呪われた』という意味もある)『サケル(Sacer)』のアナグラム。
地下アイドル時代は『シオン』と名乗っていた。
セラス 山田詩音(18歳)、新人アイドル
STR 8 CON 13 SIZ12 INT12
POW 16 DEX 8 APP 16 EDU 9
正気度 60 耐久力 13 移動 8
ダメージ・ボーナス:+0
技能:芸術〈歌唱〉 72%、信用 70%、聞き耳 67%
心理学 65%、変装 44%、芸術〈ダンス〉 38%
小宮亮子(こみやりょうこ)
芸能事務所WISDOMでセラスのマネージャーをしていた女性。少々キツい性格で融通の利かないところはあるが、実務は有能で面倒見がいい。
以前所属していた芸能事務所で、アイドルの扱いに関して上層部と対立し、解雇された過去を持つ。
本シナリオではWISDOM上層部と星の智慧派が巡らせる陰謀の一端を知り、それに反発したことで暗殺されてしまう。
ファンからは『マネージャーK』として存在が知られていた。
小宮亮子(36歳)、死んだ芸能マネージャー
SIZ 13 APP 13
高津賢治(たかつけんじ)
都内の弁護士事務所に勤める男性。感情的な疎遠さを感じさせることはあるが、仕事は誠実をこなす真面目な職業人。
小宮亮子とは彼が31歳のころに結婚するが、生活のすれ違いと性格の不一致により、結婚後6年で離婚に至った。
とはいえ彼は一人の人間として小宮のことを尊重しており、その不可解な死の真相を明らかにしたいという動機を持っている。
高津賢治(39)、弁護士
SIZ 14 APP 13
引地拓郎(ひきちたくろう)
セラスが地下アイドルとして活動していたころからの熱心な男性ファン。
彼女がWISDOMに移籍したことをきっかけに星の智慧派と接触し、ナイ牧師をも妄信するに至る。
現在は非公式ファンサイトを運営して特殊なアーティファクトをファンに購入させたり、自宅で鑑賞会を開いてセラスの歌を広めたりしている。
もともと自分に自信のない性格であり、セラスや星の智慧派に貢献することが彼のアイデンティティとなっている。
引地拓郎(19歳)、セラスの狂信的なファン
STR 12 CON 7 SIZ 16 INT 11
POW 9 DEX 7 APP 5 EDU12
正気度 0 耐久力 12 移動 8
ダメージ・ボーナス:+1d4
技能:芸術〈オタ芸〉 70%、図書館 50%、コンピューター 50%、芸術〈歌唱〉 33%
武器:サイリウム 50%、ダメージ1d3+1d4(一回の攻撃で壊れる)
こぶし 50%、1d3+1d4
組み付き 25%、特殊
ナイ牧師
ニャルラトテップが人間の姿をとったもの。この姿をしたニャルラトテップは、星の智慧派における指導者的存在である。
肌の色は石炭のような漆黒をして、服も常に黒いものを身に着けている。
普段はわずかにジャマイカ訛りのある英語を話し、必要があれば日本語も流暢に話す。
本来はロサンゼルス教会に所属していることになっているが、現在は日本での長期滞在を繰り返し、芸能事務所WISDOMで『プロデューサーN』として暗躍している。
本シナリオにおいてはセラスを利用した大規模な魔術儀式を計画している。
彼はあらゆる攻撃を100%の成功率でおこなうことができるほか、神話生物の持つPOWの合計が100ポイントになるまで、それらを自在に召喚し、操ることができる。
しかし彼はよほどの場合でない限りは超自然的な力を見せず、カリスマ性と親切さを備えた、少なくとも表面的には普通の人間であるように見える。
耐久力がゼロになった場合、彼は地面に倒れ、なにか別の化身の姿を取って空のかなたへと去っていく(その際には当然、正気度の喪失が発生する)。
ナイ牧師、ニャルラトテップの化身
STR 11 CON 11 SIZ 11 INT 86
POW 100 DEX 11 APP 11
耐久力11 移動 8
ダメージ・ボーナス:+0
武器:あらゆる攻撃 100%
4.導入、高津賢治からの依頼
HO1の探索者が高津賢治から仕事の依頼をされるというところからシナリオは開始される。
HO1の探索者が探偵や調査業者として事務所を持っていればそこで、
そうでなく、高津の個人的な知己であった場合には、職場近隣の喫茶店などで話し合いの場を持つことになるだろう。
高津は凛々しい姿をした有能な弁護士で、探索者がどのような立場や年齢であれ、丁寧かつ誠実な態度で会話をおこなう。
HO2および他の探索者は、偶然、あるいは手伝いとしてそこにいたということでもいいし、
依頼の性質から役立つだろうと思われて、事前、あるいは途中に召集されたということでもいい。依頼の概要は次のようなものである。
依頼の概要
高津には2年前まで婚姻関係にあった女性がいた。
生活のすれ違いや性格の不一致から離婚に至ったが、特段どちらかに非があった訳ではなく、離婚の手続きもスムーズに進んだ。
高津は今でも元妻のことを人間的に尊敬している。妻の名前は小宮亮子といい、高津より3歳年下である。
彼女は大学卒業後大手芸能プロダクションに所属し、アイドルのマネージャーをしていたが、
アイドルの扱いを巡って上司との折り合いが悪くなり、高津と離婚する前後に退職した。
その後芸能事務所WISDOMという会社に転職し、最近はセラスというアイドルのマネージャーを担当していたらしいが、
一か月前に多摩山中で首つり自殺をしているのが発見された。
高津はその死を不審に思っており、原因を探索者達に調べてほしいと思っている。
確かに仕事のストレスはあったのかもしれないが、小宮は自死を選ぶような精神の持ち主ではなく、
むしろストレスの相手を社会的に抹殺しようとしたり、それができなければ差し違えたりするような性質を持っている、と高津は話す。
彼は小宮の死に何か不審なものを感じているが、事務所も警察も事件性があるとは見ておらず、
特に事務所側はアイドルの醜聞を恐れているのか真相の解明には非常に消極的である。
高津自身はいささか大胆に動いたため警察に目をつけられてしまい、また現在多くのクライアントを抱えているため調査に割ける時間にも限界がある。
頼れる人間が小宮の死について調べてくれれば、と期待している。
高津は調査の手がかりとして、WISDOMの住所、小宮の住所と部屋の鍵、そして小宮が使っていた手帳を提供してくれる。
その他彼が知っていて不自然でないものはすべて教えてくれる。場合によっては、法律的なサポートも提供してくれるかもしれない(彼の〈法律〉は75%ある)。
彼は事件の真相に深く関わる存在であるセラスのこともある程度調べているが、それについてはHO3の探索者がより詳しく知っていることだろう。
高津は経済力のある人間なので、よほど法外な値段でない限りは指定の調査料を支払う。
探索者達はまず小宮の自宅やWISDOMを訪れてもいいし、手帳を読み解くところから始めてもいいだろう。
5.小宮亮子の手帳
小宮亮子が使っていた手帳は、黒い革表紙の一般的なものである。
日記のような形式ではなく、仕事のスケジュールやこなすべきタスクなどが示されている。
最後のページには、栞代わりなのか小宮の名刺が挟まっている。
手帳のすべてを読み解いて、依頼に関係ありそうな記述を抜き出すのに特別な技能は必要ない。
一時間を掛ければ以下の記述を抜き出すことができる。
小宮亮子の手帳(抜粋)
(1年前の日付)
・ライブハウスLonely Beatsオーナー桑島さんと打ち合わせ。
山田詩音(やまだしおん)の評価、声質、ファン層について聞き取ること。
・引地拓郎(ひきちたくろう)と面談。資産家の息子? 山田詩音の熱心なファン(TO,トップオタ)だった。
・山田詩音印象:地下アイドルに多い、普通の娘。気弱だが顔立ち端正で可愛らしい。
交際経験なし、心身ともに健康。声には迫力あり。事務所所属にはしり込みするも、説得の末了承。
(10か月前の日付)
・Nの指示のよりアイドル名セラス(Ceras) に決定。ラテン語のSacre由来。
(4か月前の日付)
・WISDOM←→星の智慧派? 繋がり思った以上に強い。Nは何ものか。
・引地拓郎のセラス非公式HP『EDEN』ID:Alhambra, PW:1492
把握できていない活動多し。
(2か月前の日付)
・新曲メサイアPV制作打ち合わせ
・Nと打ち合わせ 14時から @WISDOM
・SAN48伊東咲耶(いとうさくや)との面談。内密ゆえ自宅で
(最後のページ)
ナイ牧師は何者か?
6.小宮亮子の部屋
この場所には初めから訪れることができる。小宮の自宅は中野にあるマンションの一室である。
彼女はアイドルマネージャーとしてそれなりの収入を得ていたので、住居のグレードもそれなりに高い。
イベント1、セラスとの接触
探索者たちが部屋を訪れたタイミングで、このイベントが発生する。
探索者たちが部屋の前まで行くと、そこで佇む若い女性の姿を見つける。彼女は大きなマスクを身に着けているため、一見してその人相は判別し辛い。
しかしセラスの熱心なファンであるか、直前にでもセラスの動画を見ていれば、彼女がセラス本人であるということが分かる。
探索者達が名乗らなかったり、威圧したりすれば、彼女は逃げようとするだろう。
もし探索者達が小宮に関する調査をしている人間だと名乗れば、セラスは幾分警戒を解き、自らの身分も明らかにするだろう。
〈値切り〉〈人類学〉に成功すれば、彼女はどこにでもいる普通の女性で、身に着けているアイテムも、そのセンスも、年相応のものだということが分かる。
しかし一つだけ、セラスは変わったキーホルダーを身に着けている。『梅ッティ』という緑色をした球状のゆるキャラである(詳細な設定は後述)。
これについて尋ねられると、セラスは「二か月ほど前、マネージャーに貰った」と答える。
小宮はセラスのマネージャーであったので、セラスは当然、小宮の死を知っている。
彼女が最後に小宮と会ったのはおよそ6週間前のことだ。
このときの打ち合わせはシナリオ開始時から3日後におこなわれる武道館でのシークレットライブに関するものである。
ライブの存在は当然のごとく一般には秘密で、セラスも〈信用〉〈説得〉〈言いくるめ〉に成功しなければ存在を明かしてはくれない。
別途〈心理学〉に成功すれば、彼女が小宮の死に対して酷く心を痛め、神経質になっていることが分かるだろう。
もし探索者たちが望むならば、セラスは自分が高校に入学してからアイドル活動を始めたこと、
そこでナイ牧師と名乗るプロデューサーにスカウトされたこと、色々なイベントや話が急速に進み、嬉しい反面非常に困惑していること、などを語る。
ナイ牧師について聞かれると、非常に謎めいていて、決して怒ったりはしない穏やかな人物だが、どこか底知れない感じがする、と答える。
小宮の印象を聞かれれば、少し怖いところもあるけれど、ハキハキしていて面倒見の良い親切な人だった、と答える。
それとは別に、セラスは小宮が彼女にぽろりと話した、印象的なエピソードを語る。キーパーは下記の内容を、簡潔にでもセラスの言葉で語らせるとよい。
小宮のエピソード
小宮亮子は2年ほど前まで大手芸能プロダクションで中堅アイドルグループのマネージャーをしていた。
グループのアイドルたちはいずれも十代半ばから後半で、歌と踊りを除けばごく普通の少女だった。
しかし利益至上主義の経営方針のもと、彼女たちは過酷な営業活動を強いられ、ときには性的な接待まがいのことをさせられていた。
小宮はこの搾取に怒りを感じ、たびたび上司に抗議していたが、方針が変えられることはなかった。
あるときメンバーの一人が過労とストレスで精神的な不調に陥ったとき、プロダクションはそれを無理やり美談に作り上げた。
それに嫌気が指した小宮は事実を週刊誌に告発し、自らはプロダクションを退職した。
キーパーが適切と思ったタイミングで、ナイ牧師からセラスに携帯で呼び出しがかかる。
セラスはこっそりと小宮の部屋を訪れているので、慌ててその場を離れ、WISDOMに戻っていってしまう。
セラスはおそらく、小宮の死について何か知っていそうな探索者達に興味を持つだろう。
探索者達が望むならば、また会う機会が得られるかもしれない。
小宮の部屋は1LDKの単身用である。冷蔵庫やゴミ箱は、高津によって最低限片付けられているため、ものが腐敗したりはしていない。
とはいえ洗濯物や机上に置かれたままの芸能雑誌など、どこか不意の失踪を予感させるような室内となっている。目ぼしい調査個所とそれによって得られる物品・情報を以下に列挙する。
パソコン
リビングの隅にあるデスクに置いてあるデスクトップパソコン。
パスワードを突破するには〈コンピューター〉*4に成功する必要がある。
ブラウザの履歴を見ると、『EDEN』というサイトにアクセスすることができる。
手帳に記載されているIDとパスワードを入力するか、〈コンピューター〉に成功すると、サイトの内部を閲覧することができる。
EDENのコンテンツについては、後述の7.インターネット、SNSでの調査を参照すること。
もう一つ、フォルダの中に入ったWISDOMの経理データが手に入る。
意味するところを解読するためには1時間かけて〈経理〉に成功する必要がある。
これはWISDOMと星の智慧派の間にある不正な取引に関するものであり、身の危険を感じた小宮が保険のために保持していたものである(が、結局役にはたたなかったようだ)。
引き出し
デスクに付属している引き出し。鍵はかかっていない。中にはスクラップブックと三枚(あるいは、探索者の人数分)のチケットがある。
スクラップブックにはセラスについて書かれた媒体の記事(やそれをプリントアウトしたもの)が整理されており、小宮の几帳面な性格がうかがえる。
チケットはシナリオ開始から3日後におこなわれるシークレットライブのものであり、開催場所が武道館であること、開催時間が17時からであることが分かる。
ぬいぐるみ
梅ッティのぬいぐるみ。梅ッティは東京都青梅市の非公式ゆるキャラである。
焦点の合わない目で虚空を見つめる緑の球形をしたキャラクターであり、甲高い声で毒舌を発揮するため、一時期メディアでもてはやされた。
これを手にした探索者が〈アイデア〉に成功した場合、微妙な重心の変化から、中に何か入っているのではないかと気づくことができる。
たとえ成功しなくても、背後にジッパーがあるので、それを開いて手を突っ込めば、『小さな鍵』が見つかる。これはWISDOMのオフィス内にある事務机の鍵である。
7.インターネット、SNSでの調査
セラスはインターネット動画で人気を博したということもあり、インターネット上にも彼女に関する手がかりが存在している。
その一つが引地拓郎によって作られた非公式ファンサイト(と、銘打ってはいるが引地が星の智慧派に所属しているため、実質公認のようなものである)、EDENである。
サイトは一般に公開されているものではないので、簡単に見つかることはない。
小宮の手帳をもとに、EDEN、セラスなどのキーワードで検索したうえで、〈図書館〉の半分、あるいは〈コンピューター〉に成功すると、このサイトに辿り着くことができる。
あるいは前項に記載したように、小宮のパソコンを使用して履歴を辿ってもいい。
サイトは赤、黒、白を基調としたデザインとなっている。ログインにはIDとパスワードが必要である。
管理人である引地拓郎は『ひっきぃ』というハンドルネームを使用しており、サイト下部には連絡先としてのメールアドレスが示されている。
サイトのコンテンツは、下記に示すイベントを含め、大まかに三つある。
イベント2. 新曲プロモーションビデオ
シナリオ開始とほぼ時を同じくして、セラスの新曲『メサイア』のPVが公開されており、サイトのリンクを辿ることでこれを閲覧できる。
メサイアのPV自体はインターネット上に公開されているので、このサイトを経由しなくとも、〈幸運〉などで発見できるかもしれない。
メサイアのPVは以前に公開された曲のものと同様、CGがふんだんに使用された豪華なものである。
セラスが星の海を渡ったり、半透明のエーテルとなって虚空を飛び回ったりする映像とともに歌が流れる。
歌を聞いた人間はその音や声が脳に染み込むような不思議な感覚を覚え、0/1d2の正気度を喪失する。
このときに抱く印象は人によって異なるが、おそらくポジティブな性向を持つ探索者にとってはいささか気持ちの悪いものに感じられるだろうし、
ネガティブな性向を持つ探索者にとっては心地よい、なにか安らぎや救いをもたらすようなものとして感じられるだろう。
〈歌唱〉に成功した探索者は、この曲にほんの少しだけ欠落する部分があるように感じる。
この時点ではそれが作曲者の技術的な限界なのか、意図したものなのかまでは判別できないが、
実際のところはコントロール不可能な形で魔術的な力が拡散しないようにするための、意図した欠落である。
真に魔術的な力を持つ『真・メサイア』はナイ牧師が管理し、ライブ本番に演奏される予定である。
掲示板
サイトの利用者がPVや曲に対する感想を語り合うために設置された掲示板である。
書き込みでは強制的にIDが表示されるため、掲示板を荒らしたり、攻撃的な書き込みをしたりする者はいない。
それどころか批判的な意見も一切なく、どこか異様な雰囲気が感じられる。
もし探索者がそのような書き込みをした場合は、警告の上でアカウントが停止されてしまうかもしれない。
掲示板に書き込まれる感想は、「自分にはどうしようもなく辛い時期があったが、セラスの曲によって救われた」とか、
「彼女の歌だけが自分を肯定してくれる」といったものである。全体としてセラスを神聖視したり、救済という言葉を用いたりする書き込みが多い。
1時間かけて掲示板のログを読み込むことで、以下の情報が得られる。
セラスはかつて東京で地下アイドルとして活動していた経歴があるらしい。
そこから『SAN48』という聖歌隊を陰ながらプロデュースしたという『プロデューサーN』に見初められ、現在メジャーデビューを画策中であるとのこと。
彼女の特に熱心なファンは『羊』と呼ばれ、互いを識別するための隠語のようになっている。
羊たちの間では、ご神体とか、懺悔玉とか、原罪ボールと呼ばれるアイテムが話題に上っている。
どうやら正式名称はセラスの瞳というらしく、サイト内のリンクから購入ページに飛ぶことができる。
このアイテムについて、掲示板には「見守られている感じがする」「覗き込むと宇宙が見える気がする」「毎日祈りをささげている」などの感想が書き込まれている。
この場所、あるいはサイトに示されたアドレスで、ひっきぃと連絡を取ることができる。
彼は定期的に羊達を自宅に招き、セラスの楽曲を鑑賞する個人的な会を開いている。
もし探索者達がそれに参加してみたい旨を伝えれば、彼と顔を合わせるのは容易だろう。
セラスの瞳
サイト内のリンクから、WISDOMの通販ショップに移動できる。しかしこのページはなぜか、WISDOMのトップページからは辿り着くことができない。
販売されている品は、セラスの瞳のみである。画像にはモザイクが掛けられているが、どうやら黒い球状のアイテムらしい。価格は7,600円(税込み)となっている。
注文すると、翌日には指定された住所に届く。セラスの瞳は黒曜石に似た未知の物質でできており、だいたい男性のこぶしぐらいの大きさである。
〈物理学〉や〈地質学〉に成功しても、その正体は分からない。
表面は漆黒で、ところどころひび割れたようになっていて、そこから赤黒い光が拍動しているように見える。
とはいえ実際にひび割れているわけではなく、瞳自体は完全な球形である。
このアーティファクトの性質は、輝くトラペゾヘドロンに近い。
トラペゾヘドロンそのものには遠く及ばないものの、このアーティファクトを見た者、あるいは近くにいる者に対して、ニャルラトテップの影響を受けやすくなる、という効果がある。
初めてこれを見た探索者たちは、〈POW*5〉のロールをおこなう。失敗した者はこの像に惹きつけられ、手元に置いておきたいという感情を体験するかもしれない。
このアーティファクトを初めて目にした探索者は、上記ロールの成否に関わらず0/1d2の正気度を喪失する。
8.引地拓郎との接触
引地は東京都江東区にある2LDKのタワーマンションで一人暮らしをしている。彼の実家は経済的に富裕であり、引地もまた金銭に不自由しない立場である。
彼の部屋はいい意味で独居の男性らしくなく、よく片付けられていて清潔、広々としている。おそらくは頻繁に人を招いて鑑賞会をしているのだろう、と推測することができる。
彼自慢のコレクションルーム兼鑑賞ルームに招かれた探索者は、そこで十数個あるセラスの瞳を目にする。
それは探索者達に、全方位から見つめられているような不快な感覚をもたらし、0/1d3の正気度を喪失させる。
四方の壁と天井には黒い布が張られているが、これは星の智慧派教会の礼拝堂を模したものである。
引地は探索者たちに対して、部屋中央の寝椅子に座るよう勧め、部屋の電気を消し、暗闇の中でメサイアを聞くように促す。
探索者達はこれを試してみてもいいし、断ってもいい。断った場合、引地の態度はかなり冷めたものになるだろう。
もし暗闇の中、瞳に見つめられながらメサイアを聞いた場合、1d3ポイントの正気度を喪失し、1%のクトゥルフ神話技能を獲得する。
もう1曲分聞けば、同じような正気度の消失と神話技能の獲得が起こる。3曲目に入ると、探索者は強制的に発狂(一時的狂気)し、3%の神話技能を得る。
この効果は、探索者がメサイアを歌い、〈歌唱〉に成功すれば打ち消すことができる。
しかしその場合、引地は「曲を静かに聞くべきだ」とかなり強い態度で探索者を注意し、マナーがなっていない、と機嫌を損ねた様子で鑑賞会を中止するだろう。
9. Lonely Beats
『Lonely Beats』は東京都千代田区にあるライブハウスである。
ビルの地下部分にあり、かつてはインディーズバンドなどがライブを催すことが多かったが、最近は地下アイドルがよく活動する場となっている。
オーナーは桑島という五十代の男性で、特別親切という訳ではないが、セラス(以前はシオンという名前で活動していた)のことはよく覚えている。
探索者達が彼女を心配するような態度を取るならば、彼もまた色々なことを教えてくれるだろう。
桑島佳一郎(くわしまけいいちろう)
30代半ばまでをコピーバンドのボーカルとして活動。引退後は東京の四ツ谷でライブハウス『Lonely Beats』を開いた。
十数年に渡って様々なバンドやアイドルのライブを目にしており、彼らの才能を見抜く技術は高い。神奈川県茅ケ崎市出身。
桑島佳一郎(51歳)、Lonely Beatsのオーナー
APP11 SIZ13
セラスの地下アイドル時代
桑島の話によれば、現在セラスと名乗る山田詩音は、この場所で地下アイドルとしてデビューした。
当時の彼女は自信のなさそうな普通の少女で、おっかなびっくりステージに上り、メジャーアイドルの歌をカバーしてライブをおこなっていた。
技術的には歌もダンスもパフォーマンスもぱっとしなかったが、その声は人を強く惹きつけるなにかがあり、
ファンも(地下アイドルにありがちな)直接の交流というよりは、歌声を聞きに来ているようだった。
1年ほど活動すると、WISDOMのマネージャーを名乗る小宮がやってきて、彼女をメジャーデビューさせたいと訪れたのだという。
桑島自身は、シオンの歌声があまりに商業的な形で使われるのをよく思わなかったが、その考えを押し付ける気はなかったので、特別に反対はしなかった。
「ほとんどの人間が、救いたいんじゃなくて、救われたいがために歌うんだ」
「歌うこと自体で救われるのか、承認を得ることで救われた気になるのか」
「あるいは悲鳴の代わりに歌うのか、誰かを呼んでるのか、それは人によって違うと思うけどね」
WISDOMについて聞かれれば、彼は業界人としてやや詳しく話してくれる。
芸能事務所としては新興であること、星の智慧派という宗教団体がバックについていること、
その団体の指導者であるナイ牧師という人間は、かつてSAN48という聖歌隊をアイドルのように売り出して、一定の商業的成功を収めたこと、
そのナイ牧師が、セラスをプロデュースしている『プロデューサーN』と同一人物であること、などである。
しかしナイ牧師の個人的な素性について、桑島はまったく知らない。
「彼女からシークレットライブのチケットが送られてきたけど、ちょっとスケジュールが合わなくて行けないんだ。せっかくだから一枚あげるよ」
そう言って、桑島はシークレットライブのチケットを一枚くれる。
10.芸能事務所WISDOM
WISDOMの事務所は、東京都渋谷区表参道の裏通りにある。同じ住所には、ビルの二階に星の智慧派東京教会の事務所があるほか、地下は教会のホールとなっている。
一階は自然派食品のテナントである(当然教会の息はかかっている)。そしてWISDOMはビルの三階に居を構えている。
星の智慧派はWISDOMの背後にある重要な存在であり、クトゥルフ・カルトナウに記載されているように、ここでは様々な儀式めいた礼拝がおこなわれている。
星の智慧派教会
本シナリオをクリアするにあたっては、教会はあまり深入りする必要のない場所ではあるが、
それはそれとしてカルトの本拠地に潜入するというのは、プレイヤーたちにとって魅力的な選択肢であることだろう。
キーパーはタイミングを見計らってナイ牧師を登場させ、謎めいた態度で探索者たちを煙に巻いたり、プレッシャーを与えたりするとよい。
これによって星の智慧派というカルトの存在感が増し、また終盤に登場するナイ牧師の顔見せも済ませられる。
事務所には東京教会の責任者である磯毛や、暗殺を担う岡本などがいるが、ここに入るのは難しい。
しかし見学を申し出れば、ナイ牧師が親切に地下の礼拝堂へと案内してくれる。
そこは四方の壁と天井に黒い布が張られた広いホールとなっていて、中央には説教台が据えられている。
礼拝の際には、ここでアザトースやヨグ=ソトースなどが人類を想像し、知恵を与えたというような説教がおこなわれるのだ。
ナイ牧師は滅多なことで超自然的な力を見せることはないが、キーパーが効果的だと考えるならばそうしても構わない。
WISDOMのオフィス
WISDOMの事務所内部は、意外なほどさっぱりとしている。
WISDOMは営利目的の企業ではなく、あくまでも星の智慧派の教えや影響力を世に広めるための組織なので、さほど営業活動や売込みに力を入れる必要はないのだ。
所属しているアイドルはSAN48の各メンバーとセラスのみ。SAN48にはチーフマネージャー含む5名のマネージャーがついている。
その他にいるのは事務の人間が数名、というところである。事務所のトップは、もちろんプロデューサーNことナイ牧師である。
時間帯によるが、事務所内にはせいぜいスタッフが数人いる程度だが、探索者達の立ち入りを歓迎しない。
依頼人であり弁護士である高津の存在を示した上で、〈信用〉〈言いくるめ〉〈説得〉〈法律〉などに成功すれば、スタッフは立ち入りを許してくれる。
あるいは探索者達がセラスと良好な関係を築いていれば、彼女が何らかの便宜を図ってくれるかもしれない。
探索者達が小宮についての話題を出せば、事務所のスタッフは片隅にある小さな段ボール箱を指して、それが小宮の私物である、と言う。
探索者達はそれをその場で調べてもいいし、丸ごと持って帰ってもいい。
ただしあまり派手に事務所内を捜索することは、スタッフが許さないだろうし、小宮に関する聞き込みも、話せることは警察に話したし、スタッフやアイドルを動揺させるから、と歓迎されない。
イベント3. 伊東咲耶との接触
事務所内には大抵SAN48の伊東咲耶(いとうさくや)が滞在していて、彼女はワイヤーのような細い紐をもてあそびながら、探索者達にちょっかいをかけてくる。
彼女は暗殺者特有の鋭敏さで探索者達に探りを入れてきているのである。
とはいえよほど下手なことを言わなければ、少なくともこの場では、伊東が積極的に探索者達の妨害をすることはない。
しかし今後探索者達がWISDOMや星の智慧派を嗅ぎまわるようであれば、彼女が警告に現れたり脅威として立ちふさがったりするかもしれない。
〈知識〉に成功すれば、彼女がテレビにも露出したことのあるSAN48のリーダーだということが分かる。
〈人類学〉と〈心理学〉に成功すれば、彼女にはアイドルとしてではない何か別の冷酷な心性が存在する、ということが分かる。
また〈マーシャルアーツ〉と〈アイデア〉、あるいは〈武道〉と〈アイデア〉に成功すれば、彼女はなんらかの実戦的な戦闘術を身に着けている、ということが分かるだろう。
伊東咲耶(いとうさくや)
星の智慧派に所属する聖歌隊SAN48のリーダーであり、暗殺者。
孤児であった彼女は星の智慧派に所属する狂信者によって育てられ、ナイ牧師の熱心な信奉者として、また教会の敵になる人間を排除する暗殺者として成長した。
彼女が使用するナイフは殺傷力を特別に高める加工が施されている。
絞殺に使用するのは通常細いワイヤ―だが、自殺に見せかける場合は市販のナイロンロープや麻縄を使うこともある。
本シナリオでは、星の智慧派に接近した探索者たちを脅かすための役割を果たす。
本気で探索者たちの命を狙うというよりも、可憐な少女さえ暗殺者に仕立て上げてしまう、星の智慧派というカルトの恐ろしさを演出するために立ち回らせるのがいいだろう。
伊東咲耶(16歳)、星の智慧派の暗殺者
STR 13 CON 14 SIZ 9 INT 15
POW 14 DEX14 APP 15 EDU 13
正気度 0 耐久力 12 移動 8
ダメージ・ボーナス:+0
技能:跳躍 45%、回避 40%、忍び歩き 40%、隠れる40%
コンピューター 30%、変装 25%、鍵開け 20%
武器:飛び出しナイフ 82%、1d8
絞殺ひも 75% 特殊
小宮が使っていた事務机にはいくつか引き出しがある。ほとんどが空になっているが、一つだけ鍵がかかって開かないものがある。
これは探索者達が小宮の部屋で手に入れた『小さな鍵』で開く。
この引き出しの取っ手近くには梅ッティのシールが貼ってあり、鋭敏な探索者ならば小宮が残したそのヒントに気付くことだろう。
引き出しの中には市販品のUSBメモリが一つだけ入っている。
11. 小宮が遺したもの
探索者たちがWISDOMの事務所で手に入れるUSBメモリには、二つのファイルが入っている。
一つが『真・メサイア』と題された音楽ファイル。二つ目が『これを読むあなたへ』と題されたテキストファイルである。
真・メサイア
このファイルを開くとメサイアのより完璧に編曲されたバージョンを聞くことができる(声は当然セラスのものである)。
この歌を習得するためには〈POW*5〉と〈歌唱〉の組み合わせロールに成功したうえで、三時間の練習を要する。
習得の過程で真・メサイアを聞き続けた探索者は、1d3ポイントの正気度を喪失し、2%のクトゥルフ神話技能を獲得する。
この歌を習得した探索者は、「真・メサイアが流される場で同じ歌を歌えば、効果を中和することができる」ことを理解する。
この歌を行使し、十分な効果を発揮させるためには、同じ技能の成功と、1Rあたり1ポイントのMPを消費する必要がある。
これを読むあなたへ
このテキストファイルは星の智慧派に深入りし、身の危険を感じるようになった小宮が残したものである。
音楽ファイルに関する説明、それを手に入れた経緯、そしてその使い方について簡素に説明されている。内容は以下の通りである。
この文章はセラスか、その協力者に宛てて書いています。おそらく今、私は何らかの事情で不自由な状況にあるか、もしかすると殺されているかもしれません。
というのも、近ごろ私の動向が何者かに監視されているような気がするからです。ただの思い過ごしであればいいのですが。
この文章を読んでいるあなたがどれくらいの事情を知っているかは分かりませんが、私が調べたところによると、
WISDOMのナイ牧師が計画している武道館ライブは、星の智慧派による集団催眠の場として使われる恐れがあることが分かりました。
儀式の詳細と、私が抱いている危機感を言葉で説明することは、残念ながら難しいです。
これは個人的な経験から来る感傷かもしれませんが、自分たちの利益のために、年端のいかないアイドルを利用し、搾取するというのは、私にとって許しがたい行為です。
それが金銭のためであれ、思想のためであれ、同じことです。
カルトの儀式にセラスの素晴らしい楽曲であるメサイアが使われるのを、私は看過できません。
調査するうち、私はナイ牧師の管理する音楽データ(ファイル名:真・メサイア)を入手しました。
PR用に収録したものとは違って奇妙な効果を持っているようですが、私にはそれがなにかは分かりませんでした。
これを読む貴方がそれを明らかにし、ナイ牧師の陰謀に対して何らかの解決策を実行してくれるよう望みます。
それから、もし私の夫と会うことがあれば、この件には深入りするなと伝えておいてください。
12.クライマックスに向けて
ある程度まで調査を進めた探索者たちは、星の智慧派とWISDOM、そしてもちろんナイ牧師が、小宮の死に関与していることを確信するだろう。
しかし星の智慧派の犯罪行為について告発することが、(探索者達のもともとの目的ではあっても)このシナリオの主目的ではない。
キーパーはシナリオの流れを、探索者達が武道館ライブで実行されるナイ牧師の計画を阻止する、という方向に持っていけるよう工夫して欲しい。
動機となりうるものの一つとしては、ナイ牧師の哀れな操り人形であるセラスを、その呪縛から解き放ってやる、というものである。
プレイヤー達がセラスに愛着を持ち、是非とも助けてやりたい、という気持ちを持っているのが望ましいが、キーパーはそれを強要すべきではない。
その場合に用意する動機として、依頼人である高津に、小宮のしようとしたことを見届けさせる、というものがある。
どちらにせよ探索者達は手に入れたチケットを使って武道館ライブに潜り込み、真・メサイアを使って呪文をうち破る必要がある。
イベント4. 戸惑いと葛藤
このイベントはイベント1のあと、シナリオの中盤から後半にかけてであればいつ発生させても構わない。
シナリオの流れやセラスとの関係によっては、発生させなくてもよい。
このイベントにおいて、探索者達は偶然セラスと出会う。もしかするとそれはカフェや公園などの公共スペースかもしれないし、Lonely BeatsやWISDOMの近辺かもしれない。
探索者達がセラスと連絡先を交換していれば、彼女から連絡が来るかもしれない。
セラスは探索者達と会話する中で、自分がごく平凡な人間で、今の境遇を過分なものと考えていること、ライブに向けて非常に不安な気持ちを持っていること、
しかしそのような中でもカリスマを持ったナイ牧師に従えば、自信のない自分でも誰かを救えるような特別な存在に変われるのではないかと期待していること、などを語る。
探索者達はセラスに対して、ありのままの彼女を肯定したり、小宮の存在を引き合いに出してナイ牧師への幻想を捨てるよう促したりすることができる。
〈説得〉や〈信用〉のロールに成功すれば、後述する武道館ライブでセラスを止める際有利になる。
13. 武道館ライブ
ナイ牧師が立てた計画の本番である武道館ライブは、シナリオ開始からおよそ一週間後に開催される。
その間特にすべきことがなければ、一気に当日までシーンを飛ばしてしまって構わない。ライブは午後五時から開催される。
会場は大規模なもので、およそ6000人が観客として詰めかける。探索者達(と高津)がチケットを持っているならば、問題なく会場に入り込むことができる。
ナイフや警棒、細工したサイリウムなどの武器を隠し持って入ることは可能だが、木刀や和弓などの、隠し持つことが難しい武器は、警備員によって没収されてしまうだろう。
ライブはまずセラスの挨拶から始まる。そして第一曲目から、新曲のメサイアが披露される。
ステージ上に立つセラス。その背後にはオーケストラのような豪華なバックバンド。キーボードを担当するのはナイ牧師である。曲の前奏は、以下のような描写文で示される。
パイプオルガンを模した音色が鳴り響く。
一つ一つは電子によって造られた音だが、それらは精緻に組み合わさり、有機的で奇妙に生々しい諧調を構成した。
会場に満ち満ちた緊張と期待は、それ自体が魔術的な力場を帯びる。
今まさに秘蹟に似た何かが、この空間にもたらされようとしていた。
真・メサイアを習得した探索者は、このタイミングで歌を始めることができる。
しかしそれと同時に、ステージ上にも一つの異変が起きる。
セラスの背後にいるバックバンドの正体が露わになるのである。
それは人間ではなく、ニャルラトテップによって投映された外なる神の従者たちである。その様子を、キーパーは以下のように描写する。
セラスの背後で音楽を奏でていた人影が、照明の中で歪に膨満する。
シルエットからは触手が伸び、奇形の両生類か頭足類のそれへと変化していく。
やがて顕現した異形の存在は、外宇宙の真理に仕える従者であり、虚ろな狂気を響かせる奏者である。
神を讃え、そして冒涜する楽団の演奏は、セラスの歌と混ざり合い、その力を一層強めた。
この混沌の従者たちを目撃した探索者達は、1/1d10の正気度を喪失する。
これによって狂気に陥った探索者がどうなるか、またこの後の処理がどうなるかについては、次項で述べる。
14. 卓上の救済者
前項までの処理が済んだあと、真・メサイアを歌っている探索者(以下歌い手と表記)が狂気に陥った場合、通常とは異なる狂気が発現する。
メサイアへの対抗は可能だが、狂気状態にある間、歌い手は真・メサイアを使用する際に支払う1Rあたり1ポイントのMPに加え、1d2の正気度を喪失する。
狂気に陥らなかった場合、追加の正気度喪失はない。また歌い手でない探索者達の狂気は、通常通りに扱う。
もし探索者達が高津を連れてきていた場合は、彼に対しても狂気のロールをおこなう。
そのまま行動不能になったとしてもいいし、なんとか正気を保ち、その後の展開で探索者達の手助けをしてくれる、ということにしてもいい。
狂気の処理が終わったあと、戦闘処理に移る。探索者達が目的とすべきは、セラスの歌を妨害し、彼女を正気に戻すことである。
戦闘開始時、探索者達は会場の後方におり、魔術に影響され忘我の状態にある観客をかき分けて、ステージに到達しなければならない。
まず、探索者たちがセラスのもとに辿り着くまで、3Rの間、観客の間を駆け抜けなければならない。
中にはほとんど無意識に探索者達を妨害してくる者もいる。ラウンドのはじめ、1d3人の観客が探索者たちに攻撃し、それぞれ50%の確率で命中し、1d3ポイントのダメージを与える。
探索者達はこれを受け流したり、回避したりすることができる。
また受け流しの代わりに、催涙スプレーやスタンガン、フラッシュライトなど、相手を怯ませられるようなアイテムを使って攻撃を凌いでもいいだろう。
観客たちはセラスが歌うメサイアの影響下にあるので、歌い手の真・メサイアで中和することによって、攻撃の手を緩められる。
具体的には、ラウンドの初め、手番とは別に歌い手が〈歌唱〉に成功すれば、探索者達は攻撃を受けずに済む。
探索者達がピンチに陥りそうなとき、あるいはキーパーがドラマチックな演出をしたいとき、
キーパーは歌い手になんらかの代償(正気度やPOW)を支払わせることで、ロールなしに技能を成功させた、ということにしてもいい。
それは歌い手が魂の絶唱とも呼ぶべき神秘的な力を発揮した、ということかもしれない。
その間、ナイ牧師は絶えず探索者達を挑発するように語り掛ける。
それはまるで探索者達を操るプレイヤーたちに語り掛けているようでもあり(シナリオの意図としては、実際に語り掛けている)、
ニャルラトテップの底知れなさを演出するためのセリフとなっている。
「ここにいる誰もが、君たちの存在を望んではいない」
「なのになぜ挑もうとするのか。なぜ抗おうとするのか。私には不思議でならない」
「もしかすると君たちは、一段高いところから弱者を見下ろし」
「それを表面的に救済することで、優越感を得ているだけなのではないだろうか?」
「出来事が終わったあと、君たちは子羊のことを永く覚えておくだろうか?」
「それとも、速やかに忘れ去れてしまうのだろうか?」
「君たちに快楽をもたらすという役目を終えたあとに、彼女はなにか、君たちに意味をもたらすだろうか?」
「なんにせよ、もし主張したいことがあるならば」
「ここまで上がってくるがいい。混沌の膝元へ。不確定性の舞台へ」
「事象のキューブを変転させ、フォルトゥナの目を引き寄せ」
「愉快な歌劇を見せてくれたまえ……卓上の救済者諸君よ!」
探索者たちが3Rを耐え抜くと、また次なる敵が現れる。それは観客の最前列にいた引地である。
彼は完全に我を忘れているわけではないが、セラスの舞台を妨害しようとする探索者達に明白な敵意を向けて来る。
彼は極度に熱狂しているため、〈説得〉や〈言いくるめ〉は意味を成さない。
また歌い手の技能が成功しても行動できる。なんとかして無力化しなければ、舞台の上までも追ってくるだろう。
この戦闘中も、観客の攻撃は探索者達に向けられる。舞台の下には警備員たちもいるが、彼らもメサイアの影響下で忘我の状態にあるため、探索者達の障害にはならない。
引地を無力化して舞台に上がれば、探索者達を邪魔するものは何もない。
外なる神の従者たちは完全に物理的な存在としては顕現しておらず、ナイ牧師はあえて手を出さないでいる。
探索者たちがセラスを突き飛ばしたり、肩をゆすったり、マイクを引きはがしたりすれば、セラスははっとしたような表情で我に返る。
そして客席の様子を見て、自分のしたことがなにか名状しがたい儀式めいたものであったことに気付いて、激しく困惑する。
そのタイミングを見計らって、ナイ牧師がセラスと探索者達に声を掛ける。
「実に面白いものを見せてもらった。今回は君たちに勝ちを譲ろう」
「しかしこのライブにはもっと改良の余地があるな。……セラス。こちらに来なさい」
セラスが再びナイ牧師の手に落ちるか、その呪縛を断ち切ることができるかは、探索者達の手に委ねられる。
探索者たちはこのタイミングで、〈説得〉〈言いくるめ〉に挑戦できる。
ロールに際し、小宮が持っていたセラスに対する思いに言及した場合、イベント4において探索者達が〈説得〉〈信用〉に成功していた場合、
ロールに挑戦する探索者がセラスのファンであった場合、それぞれ+10%のボーナスが加算される。
ロールに成功すれば、セラスはナイ牧師に決別の言葉をかけ(その内容は探索者たちとの関係や説得の言葉によるだろう)、探索者達のもとへと歩み寄る。
それを見るとナイ牧師はわずかに眉根を寄せ、その場から掻き消えるようにいなくなる。
外なる神の従者たちも同様である。もし技能に失敗してしまった場合、セラスは探索者達に悲しげな視線を送りながら、ナイ牧師の方に手を伸ばし、その場から消えてしまうだろう。
15. ライブのあとに
歌が静まり、ナイ牧師が消えれば、観客たちは魔術の影響から脱するが、完全に冷静に戻るわけではない。
特に収拾する必要もないものなので、探索者達はセラス(と高津)を連れて、早々に会場を離れるのがいいだろう。
セラスはいまだ混乱しており、また舞台が台無しになってしまったことについて酷く消沈するが、
探索者達に慰められれば、彼女はその言葉や、先ほど探索者達がしたことについて深く感謝するだろう。
彼女がこれからどうするか、つまりアイドルとして活動を続けるのか、そうでない平凡な生活に戻るのかは、探索者達の態度とキーパーの判断に任されている。
高津からの依頼をどうするかも、探索者達の自由である。星の智慧派を調査してもいいし、一旦区切りがついたとして、判明した事実のみを報告し、終わりとしてもいい。
どのような結果に終わったにせよ、高津は探索者たちに丁寧な礼をし、既定の報酬を支払うだろう。
ナイ牧師の魔手からセラスを救済し、恐るべき計画を阻止した探索者達は、2d6ポイントの正気度を獲得する。
シナリオにおいて歌い手を勤めた探索者は、それに加えて1d3ポイントの正気度を獲得する。
また小宮のパソコン内に入っていたWISDOMの不正経理データをなんらかの形で流出させた(税務署に告発した、高津に譲渡したなど)場合は、
カルト組織に多少なりとも打撃を与えたということで、1d3ポイントの正気度を獲得する。
付録 歌詞
暗い海に浮かぶ小舟は あなたを乗せてゆらりゆらり
私は哀しみに溺れながら あなたのために祈るだけ
散らばりそうになる真心を 寄せて集めて貼り合わせ
差し出すことさえできたなら 夜に溶けても構わない
☆墜ちて堕ちて無力なメサイア 輪もなく羽もなく愛もなく
ただ私の欠片だけが あなたの救いとなりますように
不確かな宙(そら)をたゆたうあなたは 流れ行く星を眺めてる
深みに至る引力が あなたを導きますように
果てしない銀河の愛だけを すくって包んで胸に抱き
差し出すことさえできたなら 灼かれ消えても構わない
(☆繰り返し)
どうかひとりぼっちの 恵まれざるものために
ただ少しだけの慈悲を 天よ降らせたまえ
焦がれ傷ついてメサイア 還ることもできないまま
あなたの在り方それだけが 私にとっての真実
どうかひとひらの愛を……
本シナリオは現代日本を舞台としたシナリオである。季節はいつでも構わない。
舞台は東京だが、改変すれば大阪や福岡など他の大都市圏でもプレイは可能だろう。プレイヤーの人数は2名以上であることを想定している。
本シナリオで登場する星の智慧派やナイ牧師については、サプリメントの『クトゥルフ・カルトナウ』に詳しく記載がある。
必ずしもサプリメントを所持している必要はないが、参考として使用すれば、シナリオにより深みが出るかもしれない。
ハンドアウト
このシナリオには、2つのハンドアウト(以下HOと表記)が存在する。
HO1は依頼人である弁護士の高津賢治(たかつけんじ)からの仕事を請け負う探索者である。
この探索者は主な稼業であるか副業であるかを問わず、探偵や調査を生業としている。そうでない場合は、高津が個人的に頼りにしている人間だろう。
困難な仕事であっても完遂するというプロ意識を持ち、最低限仕事に必要となる真実以上のものを探求しようとする、好奇心旺盛な人物であることが望ましい。
HO2は歌を生業とする、あるいはアイデンティティの主要な一部としている人間である。
それは本シナリオに登場する『セラス』と同じようなアイドルかもしれないし、もっと硬派なシンガーかもしれない。
あるいはまだ表舞台には出ていない、原石のような存在であるかもしれない。
どちらにせよ、ビジュアルやパフォーマンスよりも、歌唱そのものを武器とする人間であることが望ましい。
この探索者は、〈芸術(歌唱)〉か、それに準ずる技能(以下のテキストでは便宜上、全て歌唱技能と記載する)を高い値で持っているほうがよい。
片方のHOは、もう片方のHOと兼ねても構わない。また事件にかかわる動機があれば、HOがなくても構わない。
たとえば芸能関係に鼻の利くジャーナリスト、セラスのファン、他探索者の友人や助っ人などである。
セラスに関する事前情報
セラスは様々な意味で凡庸なアイドルとは一線を画す存在であり、半ばマンネリ化したアイドル業界において『救世主系アイドル』とも呼ばれている。
いまのところ彼女の活動場所はインターネットの動画サイトであるが、曲のPV(プロモーションビデオ)は極めて完成度が高く、豪華なつくりとなっている。
その背後には所属する芸能事務所『WISDOM』と、謎の人物『プロデューサーN』『マネージャーK』の手腕があることが知られている。
しかしミステリアスさを演出するためか、公開されている情報は極端に少なく、テレビや雑誌への露出も今のところ一切ない。
これまでには愛する人を遠くから見つめる少女の気持ちを歌った『ハロー、』や、
大切な人を夢に誘う不思議な女性の心を歌った『NOWHERE』という曲が、動画サイトで異例の1000万再生を突破するなど人気を博した。
彼女の歌は『虚空の歌声』と評され、力強さと切なさが内包された奇跡の歌声として、一部のファンを強力に惹きつけてやまない。
2.シナリオの背景
1990年代後半から変容を遂げたアイドル文化は、比較的小さなライブ会場でファンとの濃密な交流をおこなう『地下アイドル』という存在を生み出した。
彼女たちは様々な理由でその道に踏み入り、決して楽ではない生活やスケジュールの中、アイドル活動に精を出す。
そしてある者はメジャーデビューを果たして表舞台に上がり、ある者はそのまま細々と地下でアイドル稼業を続け、ある者は進学や就職を期に引退してアイドル稼業から足を洗う。
本シナリオのヒロインである山田詩音(やまだしおん)も、そうした地下アイドルの一人であった。
高校一年生のころ地下アイドルという存在を知り、その道に足を踏み入れた彼女は、『虚空の歌声』と評される類まれな声質で一部のファンを強烈に惹きつけた。
その影響力に目を付けた『星の智慧派』指導者のナイ牧師は、WISDOMを通じて彼女をスカウトし、セラスという名前でメジャーデビューさせるために手を尽くす。
しかしそれは、とある計画のための手段に過ぎなかった。
その計画とは、セラスの熱狂的なファンに対して、歌を通じてその精神と人格をニャルラトテップのそれに支配させてしまおう、というものである。
計画の本番は、セラスによっておこなわれる武道館ライブである。
この計画においてナイ牧師は『プロデューサーN』という名前で糸を引き、実務は『マネージャーK』と呼ばれる女性に任せていた。
この女性こそが、導入部分でHO1の探索者に依頼を持ちかける高津賢治の元妻、小宮亮子(こみやりょうこ)である。
小宮ははじめあまり疑問を抱かずにマネージャー業をこなしていたが、あるときナイ牧師の恐るべき計画の一端を知ってしまった。
自分が目を掛けたセラスを守るため、また彼女自身の強気な性格も手伝って、小宮はナイ牧師と星の智慧派に深入りする。
しかし彼女は真実をほとんど明らかにしながらも、結局は星の智慧派に所属する暗殺者によって殺害され、その死体は自殺に見せかけられた。
元夫の高津はその死に疑問を持ち、真相究明を探索者達に託すべく、依頼を持ちかけることになる。
3.主なNPC
セラス 山田詩音(やまだしおん)
芸能事務所WISDOMに所属する女性アイドル。その整った容姿と特殊な声質によって、中学生時代に上級生から目を付けられ、いじめを体験した。
他者から否定されることに怯えていた彼女は、高校に進学するもそこを安心する居場所とはできず、
入学してすぐに知った存在である地下アイドルとして自分を表現するようになった。
その透き通った声質は切なさと力強さを内包し、ファンには『虚空の歌声』と評されている。
自分に自信が持てず、心のどこかに欠けた部分があると考えていて、それを埋めるためには(不特定多数の)他者から承認を得ることが必要だと強く感じている。
その感情に付け込まれる形でナイ牧師のスカウトに応じ、アイドルとしてメジャーデビューすることになるが、
その過分な立場と、星の智慧派が漂わせる危うい雰囲気に強い不安を抱いてもいる。
芸名である『セラス(Ceras)』はラテン語で『聖なる』を意味する(ただし正反対の『呪われた』という意味もある)『サケル(Sacer)』のアナグラム。
地下アイドル時代は『シオン』と名乗っていた。
セラス 山田詩音(18歳)、新人アイドル
STR 8 CON 13 SIZ12 INT12
POW 16 DEX 8 APP 16 EDU 9
正気度 60 耐久力 13 移動 8
ダメージ・ボーナス:+0
技能:芸術〈歌唱〉 72%、信用 70%、聞き耳 67%
心理学 65%、変装 44%、芸術〈ダンス〉 38%
小宮亮子(こみやりょうこ)
芸能事務所WISDOMでセラスのマネージャーをしていた女性。少々キツい性格で融通の利かないところはあるが、実務は有能で面倒見がいい。
以前所属していた芸能事務所で、アイドルの扱いに関して上層部と対立し、解雇された過去を持つ。
本シナリオではWISDOM上層部と星の智慧派が巡らせる陰謀の一端を知り、それに反発したことで暗殺されてしまう。
ファンからは『マネージャーK』として存在が知られていた。
小宮亮子(36歳)、死んだ芸能マネージャー
SIZ 13 APP 13
高津賢治(たかつけんじ)
都内の弁護士事務所に勤める男性。感情的な疎遠さを感じさせることはあるが、仕事は誠実をこなす真面目な職業人。
小宮亮子とは彼が31歳のころに結婚するが、生活のすれ違いと性格の不一致により、結婚後6年で離婚に至った。
とはいえ彼は一人の人間として小宮のことを尊重しており、その不可解な死の真相を明らかにしたいという動機を持っている。
高津賢治(39)、弁護士
SIZ 14 APP 13
引地拓郎(ひきちたくろう)
セラスが地下アイドルとして活動していたころからの熱心な男性ファン。
彼女がWISDOMに移籍したことをきっかけに星の智慧派と接触し、ナイ牧師をも妄信するに至る。
現在は非公式ファンサイトを運営して特殊なアーティファクトをファンに購入させたり、自宅で鑑賞会を開いてセラスの歌を広めたりしている。
もともと自分に自信のない性格であり、セラスや星の智慧派に貢献することが彼のアイデンティティとなっている。
引地拓郎(19歳)、セラスの狂信的なファン
STR 12 CON 7 SIZ 16 INT 11
POW 9 DEX 7 APP 5 EDU12
正気度 0 耐久力 12 移動 8
ダメージ・ボーナス:+1d4
技能:芸術〈オタ芸〉 70%、図書館 50%、コンピューター 50%、芸術〈歌唱〉 33%
武器:サイリウム 50%、ダメージ1d3+1d4(一回の攻撃で壊れる)
こぶし 50%、1d3+1d4
組み付き 25%、特殊
ナイ牧師
ニャルラトテップが人間の姿をとったもの。この姿をしたニャルラトテップは、星の智慧派における指導者的存在である。
肌の色は石炭のような漆黒をして、服も常に黒いものを身に着けている。
普段はわずかにジャマイカ訛りのある英語を話し、必要があれば日本語も流暢に話す。
本来はロサンゼルス教会に所属していることになっているが、現在は日本での長期滞在を繰り返し、芸能事務所WISDOMで『プロデューサーN』として暗躍している。
本シナリオにおいてはセラスを利用した大規模な魔術儀式を計画している。
彼はあらゆる攻撃を100%の成功率でおこなうことができるほか、神話生物の持つPOWの合計が100ポイントになるまで、それらを自在に召喚し、操ることができる。
しかし彼はよほどの場合でない限りは超自然的な力を見せず、カリスマ性と親切さを備えた、少なくとも表面的には普通の人間であるように見える。
耐久力がゼロになった場合、彼は地面に倒れ、なにか別の化身の姿を取って空のかなたへと去っていく(その際には当然、正気度の喪失が発生する)。
ナイ牧師、ニャルラトテップの化身
STR 11 CON 11 SIZ 11 INT 86
POW 100 DEX 11 APP 11
耐久力11 移動 8
ダメージ・ボーナス:+0
武器:あらゆる攻撃 100%
4.導入、高津賢治からの依頼
HO1の探索者が高津賢治から仕事の依頼をされるというところからシナリオは開始される。
HO1の探索者が探偵や調査業者として事務所を持っていればそこで、
そうでなく、高津の個人的な知己であった場合には、職場近隣の喫茶店などで話し合いの場を持つことになるだろう。
高津は凛々しい姿をした有能な弁護士で、探索者がどのような立場や年齢であれ、丁寧かつ誠実な態度で会話をおこなう。
HO2および他の探索者は、偶然、あるいは手伝いとしてそこにいたということでもいいし、
依頼の性質から役立つだろうと思われて、事前、あるいは途中に召集されたということでもいい。依頼の概要は次のようなものである。
依頼の概要
高津には2年前まで婚姻関係にあった女性がいた。
生活のすれ違いや性格の不一致から離婚に至ったが、特段どちらかに非があった訳ではなく、離婚の手続きもスムーズに進んだ。
高津は今でも元妻のことを人間的に尊敬している。妻の名前は小宮亮子といい、高津より3歳年下である。
彼女は大学卒業後大手芸能プロダクションに所属し、アイドルのマネージャーをしていたが、
アイドルの扱いを巡って上司との折り合いが悪くなり、高津と離婚する前後に退職した。
その後芸能事務所WISDOMという会社に転職し、最近はセラスというアイドルのマネージャーを担当していたらしいが、
一か月前に多摩山中で首つり自殺をしているのが発見された。
高津はその死を不審に思っており、原因を探索者達に調べてほしいと思っている。
確かに仕事のストレスはあったのかもしれないが、小宮は自死を選ぶような精神の持ち主ではなく、
むしろストレスの相手を社会的に抹殺しようとしたり、それができなければ差し違えたりするような性質を持っている、と高津は話す。
彼は小宮の死に何か不審なものを感じているが、事務所も警察も事件性があるとは見ておらず、
特に事務所側はアイドルの醜聞を恐れているのか真相の解明には非常に消極的である。
高津自身はいささか大胆に動いたため警察に目をつけられてしまい、また現在多くのクライアントを抱えているため調査に割ける時間にも限界がある。
頼れる人間が小宮の死について調べてくれれば、と期待している。
高津は調査の手がかりとして、WISDOMの住所、小宮の住所と部屋の鍵、そして小宮が使っていた手帳を提供してくれる。
その他彼が知っていて不自然でないものはすべて教えてくれる。場合によっては、法律的なサポートも提供してくれるかもしれない(彼の〈法律〉は75%ある)。
彼は事件の真相に深く関わる存在であるセラスのこともある程度調べているが、それについてはHO3の探索者がより詳しく知っていることだろう。
高津は経済力のある人間なので、よほど法外な値段でない限りは指定の調査料を支払う。
探索者達はまず小宮の自宅やWISDOMを訪れてもいいし、手帳を読み解くところから始めてもいいだろう。
5.小宮亮子の手帳
小宮亮子が使っていた手帳は、黒い革表紙の一般的なものである。
日記のような形式ではなく、仕事のスケジュールやこなすべきタスクなどが示されている。
最後のページには、栞代わりなのか小宮の名刺が挟まっている。
手帳のすべてを読み解いて、依頼に関係ありそうな記述を抜き出すのに特別な技能は必要ない。
一時間を掛ければ以下の記述を抜き出すことができる。
小宮亮子の手帳(抜粋)
(1年前の日付)
・ライブハウスLonely Beatsオーナー桑島さんと打ち合わせ。
山田詩音(やまだしおん)の評価、声質、ファン層について聞き取ること。
・引地拓郎(ひきちたくろう)と面談。資産家の息子? 山田詩音の熱心なファン(TO,トップオタ)だった。
・山田詩音印象:地下アイドルに多い、普通の娘。気弱だが顔立ち端正で可愛らしい。
交際経験なし、心身ともに健康。声には迫力あり。事務所所属にはしり込みするも、説得の末了承。
(10か月前の日付)
・Nの指示のよりアイドル名セラス(Ceras) に決定。ラテン語のSacre由来。
(4か月前の日付)
・WISDOM←→星の智慧派? 繋がり思った以上に強い。Nは何ものか。
・引地拓郎のセラス非公式HP『EDEN』ID:Alhambra, PW:1492
把握できていない活動多し。
(2か月前の日付)
・新曲メサイアPV制作打ち合わせ
・Nと打ち合わせ 14時から @WISDOM
・SAN48伊東咲耶(いとうさくや)との面談。内密ゆえ自宅で
(最後のページ)
ナイ牧師は何者か?
6.小宮亮子の部屋
この場所には初めから訪れることができる。小宮の自宅は中野にあるマンションの一室である。
彼女はアイドルマネージャーとしてそれなりの収入を得ていたので、住居のグレードもそれなりに高い。
イベント1、セラスとの接触
探索者たちが部屋を訪れたタイミングで、このイベントが発生する。
探索者たちが部屋の前まで行くと、そこで佇む若い女性の姿を見つける。彼女は大きなマスクを身に着けているため、一見してその人相は判別し辛い。
しかしセラスの熱心なファンであるか、直前にでもセラスの動画を見ていれば、彼女がセラス本人であるということが分かる。
探索者達が名乗らなかったり、威圧したりすれば、彼女は逃げようとするだろう。
もし探索者達が小宮に関する調査をしている人間だと名乗れば、セラスは幾分警戒を解き、自らの身分も明らかにするだろう。
〈値切り〉〈人類学〉に成功すれば、彼女はどこにでもいる普通の女性で、身に着けているアイテムも、そのセンスも、年相応のものだということが分かる。
しかし一つだけ、セラスは変わったキーホルダーを身に着けている。『梅ッティ』という緑色をした球状のゆるキャラである(詳細な設定は後述)。
これについて尋ねられると、セラスは「二か月ほど前、マネージャーに貰った」と答える。
小宮はセラスのマネージャーであったので、セラスは当然、小宮の死を知っている。
彼女が最後に小宮と会ったのはおよそ6週間前のことだ。
このときの打ち合わせはシナリオ開始時から3日後におこなわれる武道館でのシークレットライブに関するものである。
ライブの存在は当然のごとく一般には秘密で、セラスも〈信用〉〈説得〉〈言いくるめ〉に成功しなければ存在を明かしてはくれない。
別途〈心理学〉に成功すれば、彼女が小宮の死に対して酷く心を痛め、神経質になっていることが分かるだろう。
もし探索者たちが望むならば、セラスは自分が高校に入学してからアイドル活動を始めたこと、
そこでナイ牧師と名乗るプロデューサーにスカウトされたこと、色々なイベントや話が急速に進み、嬉しい反面非常に困惑していること、などを語る。
ナイ牧師について聞かれると、非常に謎めいていて、決して怒ったりはしない穏やかな人物だが、どこか底知れない感じがする、と答える。
小宮の印象を聞かれれば、少し怖いところもあるけれど、ハキハキしていて面倒見の良い親切な人だった、と答える。
それとは別に、セラスは小宮が彼女にぽろりと話した、印象的なエピソードを語る。キーパーは下記の内容を、簡潔にでもセラスの言葉で語らせるとよい。
小宮のエピソード
小宮亮子は2年ほど前まで大手芸能プロダクションで中堅アイドルグループのマネージャーをしていた。
グループのアイドルたちはいずれも十代半ばから後半で、歌と踊りを除けばごく普通の少女だった。
しかし利益至上主義の経営方針のもと、彼女たちは過酷な営業活動を強いられ、ときには性的な接待まがいのことをさせられていた。
小宮はこの搾取に怒りを感じ、たびたび上司に抗議していたが、方針が変えられることはなかった。
あるときメンバーの一人が過労とストレスで精神的な不調に陥ったとき、プロダクションはそれを無理やり美談に作り上げた。
それに嫌気が指した小宮は事実を週刊誌に告発し、自らはプロダクションを退職した。
キーパーが適切と思ったタイミングで、ナイ牧師からセラスに携帯で呼び出しがかかる。
セラスはこっそりと小宮の部屋を訪れているので、慌ててその場を離れ、WISDOMに戻っていってしまう。
セラスはおそらく、小宮の死について何か知っていそうな探索者達に興味を持つだろう。
探索者達が望むならば、また会う機会が得られるかもしれない。
小宮の部屋は1LDKの単身用である。冷蔵庫やゴミ箱は、高津によって最低限片付けられているため、ものが腐敗したりはしていない。
とはいえ洗濯物や机上に置かれたままの芸能雑誌など、どこか不意の失踪を予感させるような室内となっている。目ぼしい調査個所とそれによって得られる物品・情報を以下に列挙する。
パソコン
リビングの隅にあるデスクに置いてあるデスクトップパソコン。
パスワードを突破するには〈コンピューター〉*4に成功する必要がある。
ブラウザの履歴を見ると、『EDEN』というサイトにアクセスすることができる。
手帳に記載されているIDとパスワードを入力するか、〈コンピューター〉に成功すると、サイトの内部を閲覧することができる。
EDENのコンテンツについては、後述の7.インターネット、SNSでの調査を参照すること。
もう一つ、フォルダの中に入ったWISDOMの経理データが手に入る。
意味するところを解読するためには1時間かけて〈経理〉に成功する必要がある。
これはWISDOMと星の智慧派の間にある不正な取引に関するものであり、身の危険を感じた小宮が保険のために保持していたものである(が、結局役にはたたなかったようだ)。
引き出し
デスクに付属している引き出し。鍵はかかっていない。中にはスクラップブックと三枚(あるいは、探索者の人数分)のチケットがある。
スクラップブックにはセラスについて書かれた媒体の記事(やそれをプリントアウトしたもの)が整理されており、小宮の几帳面な性格がうかがえる。
チケットはシナリオ開始から3日後におこなわれるシークレットライブのものであり、開催場所が武道館であること、開催時間が17時からであることが分かる。
ぬいぐるみ
梅ッティのぬいぐるみ。梅ッティは東京都青梅市の非公式ゆるキャラである。
焦点の合わない目で虚空を見つめる緑の球形をしたキャラクターであり、甲高い声で毒舌を発揮するため、一時期メディアでもてはやされた。
これを手にした探索者が〈アイデア〉に成功した場合、微妙な重心の変化から、中に何か入っているのではないかと気づくことができる。
たとえ成功しなくても、背後にジッパーがあるので、それを開いて手を突っ込めば、『小さな鍵』が見つかる。これはWISDOMのオフィス内にある事務机の鍵である。
7.インターネット、SNSでの調査
セラスはインターネット動画で人気を博したということもあり、インターネット上にも彼女に関する手がかりが存在している。
その一つが引地拓郎によって作られた非公式ファンサイト(と、銘打ってはいるが引地が星の智慧派に所属しているため、実質公認のようなものである)、EDENである。
サイトは一般に公開されているものではないので、簡単に見つかることはない。
小宮の手帳をもとに、EDEN、セラスなどのキーワードで検索したうえで、〈図書館〉の半分、あるいは〈コンピューター〉に成功すると、このサイトに辿り着くことができる。
あるいは前項に記載したように、小宮のパソコンを使用して履歴を辿ってもいい。
サイトは赤、黒、白を基調としたデザインとなっている。ログインにはIDとパスワードが必要である。
管理人である引地拓郎は『ひっきぃ』というハンドルネームを使用しており、サイト下部には連絡先としてのメールアドレスが示されている。
サイトのコンテンツは、下記に示すイベントを含め、大まかに三つある。
イベント2. 新曲プロモーションビデオ
シナリオ開始とほぼ時を同じくして、セラスの新曲『メサイア』のPVが公開されており、サイトのリンクを辿ることでこれを閲覧できる。
メサイアのPV自体はインターネット上に公開されているので、このサイトを経由しなくとも、〈幸運〉などで発見できるかもしれない。
メサイアのPVは以前に公開された曲のものと同様、CGがふんだんに使用された豪華なものである。
セラスが星の海を渡ったり、半透明のエーテルとなって虚空を飛び回ったりする映像とともに歌が流れる。
歌を聞いた人間はその音や声が脳に染み込むような不思議な感覚を覚え、0/1d2の正気度を喪失する。
このときに抱く印象は人によって異なるが、おそらくポジティブな性向を持つ探索者にとってはいささか気持ちの悪いものに感じられるだろうし、
ネガティブな性向を持つ探索者にとっては心地よい、なにか安らぎや救いをもたらすようなものとして感じられるだろう。
〈歌唱〉に成功した探索者は、この曲にほんの少しだけ欠落する部分があるように感じる。
この時点ではそれが作曲者の技術的な限界なのか、意図したものなのかまでは判別できないが、
実際のところはコントロール不可能な形で魔術的な力が拡散しないようにするための、意図した欠落である。
真に魔術的な力を持つ『真・メサイア』はナイ牧師が管理し、ライブ本番に演奏される予定である。
掲示板
サイトの利用者がPVや曲に対する感想を語り合うために設置された掲示板である。
書き込みでは強制的にIDが表示されるため、掲示板を荒らしたり、攻撃的な書き込みをしたりする者はいない。
それどころか批判的な意見も一切なく、どこか異様な雰囲気が感じられる。
もし探索者がそのような書き込みをした場合は、警告の上でアカウントが停止されてしまうかもしれない。
掲示板に書き込まれる感想は、「自分にはどうしようもなく辛い時期があったが、セラスの曲によって救われた」とか、
「彼女の歌だけが自分を肯定してくれる」といったものである。全体としてセラスを神聖視したり、救済という言葉を用いたりする書き込みが多い。
1時間かけて掲示板のログを読み込むことで、以下の情報が得られる。
セラスはかつて東京で地下アイドルとして活動していた経歴があるらしい。
そこから『SAN48』という聖歌隊を陰ながらプロデュースしたという『プロデューサーN』に見初められ、現在メジャーデビューを画策中であるとのこと。
彼女の特に熱心なファンは『羊』と呼ばれ、互いを識別するための隠語のようになっている。
羊たちの間では、ご神体とか、懺悔玉とか、原罪ボールと呼ばれるアイテムが話題に上っている。
どうやら正式名称はセラスの瞳というらしく、サイト内のリンクから購入ページに飛ぶことができる。
このアイテムについて、掲示板には「見守られている感じがする」「覗き込むと宇宙が見える気がする」「毎日祈りをささげている」などの感想が書き込まれている。
この場所、あるいはサイトに示されたアドレスで、ひっきぃと連絡を取ることができる。
彼は定期的に羊達を自宅に招き、セラスの楽曲を鑑賞する個人的な会を開いている。
もし探索者達がそれに参加してみたい旨を伝えれば、彼と顔を合わせるのは容易だろう。
セラスの瞳
サイト内のリンクから、WISDOMの通販ショップに移動できる。しかしこのページはなぜか、WISDOMのトップページからは辿り着くことができない。
販売されている品は、セラスの瞳のみである。画像にはモザイクが掛けられているが、どうやら黒い球状のアイテムらしい。価格は7,600円(税込み)となっている。
注文すると、翌日には指定された住所に届く。セラスの瞳は黒曜石に似た未知の物質でできており、だいたい男性のこぶしぐらいの大きさである。
〈物理学〉や〈地質学〉に成功しても、その正体は分からない。
表面は漆黒で、ところどころひび割れたようになっていて、そこから赤黒い光が拍動しているように見える。
とはいえ実際にひび割れているわけではなく、瞳自体は完全な球形である。
このアーティファクトの性質は、輝くトラペゾヘドロンに近い。
トラペゾヘドロンそのものには遠く及ばないものの、このアーティファクトを見た者、あるいは近くにいる者に対して、ニャルラトテップの影響を受けやすくなる、という効果がある。
初めてこれを見た探索者たちは、〈POW*5〉のロールをおこなう。失敗した者はこの像に惹きつけられ、手元に置いておきたいという感情を体験するかもしれない。
このアーティファクトを初めて目にした探索者は、上記ロールの成否に関わらず0/1d2の正気度を喪失する。
8.引地拓郎との接触
引地は東京都江東区にある2LDKのタワーマンションで一人暮らしをしている。彼の実家は経済的に富裕であり、引地もまた金銭に不自由しない立場である。
彼の部屋はいい意味で独居の男性らしくなく、よく片付けられていて清潔、広々としている。おそらくは頻繁に人を招いて鑑賞会をしているのだろう、と推測することができる。
彼自慢のコレクションルーム兼鑑賞ルームに招かれた探索者は、そこで十数個あるセラスの瞳を目にする。
それは探索者達に、全方位から見つめられているような不快な感覚をもたらし、0/1d3の正気度を喪失させる。
四方の壁と天井には黒い布が張られているが、これは星の智慧派教会の礼拝堂を模したものである。
引地は探索者たちに対して、部屋中央の寝椅子に座るよう勧め、部屋の電気を消し、暗闇の中でメサイアを聞くように促す。
探索者達はこれを試してみてもいいし、断ってもいい。断った場合、引地の態度はかなり冷めたものになるだろう。
もし暗闇の中、瞳に見つめられながらメサイアを聞いた場合、1d3ポイントの正気度を喪失し、1%のクトゥルフ神話技能を獲得する。
もう1曲分聞けば、同じような正気度の消失と神話技能の獲得が起こる。3曲目に入ると、探索者は強制的に発狂(一時的狂気)し、3%の神話技能を得る。
この効果は、探索者がメサイアを歌い、〈歌唱〉に成功すれば打ち消すことができる。
しかしその場合、引地は「曲を静かに聞くべきだ」とかなり強い態度で探索者を注意し、マナーがなっていない、と機嫌を損ねた様子で鑑賞会を中止するだろう。
9. Lonely Beats
『Lonely Beats』は東京都千代田区にあるライブハウスである。
ビルの地下部分にあり、かつてはインディーズバンドなどがライブを催すことが多かったが、最近は地下アイドルがよく活動する場となっている。
オーナーは桑島という五十代の男性で、特別親切という訳ではないが、セラス(以前はシオンという名前で活動していた)のことはよく覚えている。
探索者達が彼女を心配するような態度を取るならば、彼もまた色々なことを教えてくれるだろう。
桑島佳一郎(くわしまけいいちろう)
30代半ばまでをコピーバンドのボーカルとして活動。引退後は東京の四ツ谷でライブハウス『Lonely Beats』を開いた。
十数年に渡って様々なバンドやアイドルのライブを目にしており、彼らの才能を見抜く技術は高い。神奈川県茅ケ崎市出身。
桑島佳一郎(51歳)、Lonely Beatsのオーナー
APP11 SIZ13
セラスの地下アイドル時代
桑島の話によれば、現在セラスと名乗る山田詩音は、この場所で地下アイドルとしてデビューした。
当時の彼女は自信のなさそうな普通の少女で、おっかなびっくりステージに上り、メジャーアイドルの歌をカバーしてライブをおこなっていた。
技術的には歌もダンスもパフォーマンスもぱっとしなかったが、その声は人を強く惹きつけるなにかがあり、
ファンも(地下アイドルにありがちな)直接の交流というよりは、歌声を聞きに来ているようだった。
1年ほど活動すると、WISDOMのマネージャーを名乗る小宮がやってきて、彼女をメジャーデビューさせたいと訪れたのだという。
桑島自身は、シオンの歌声があまりに商業的な形で使われるのをよく思わなかったが、その考えを押し付ける気はなかったので、特別に反対はしなかった。
「ほとんどの人間が、救いたいんじゃなくて、救われたいがために歌うんだ」
「歌うこと自体で救われるのか、承認を得ることで救われた気になるのか」
「あるいは悲鳴の代わりに歌うのか、誰かを呼んでるのか、それは人によって違うと思うけどね」
WISDOMについて聞かれれば、彼は業界人としてやや詳しく話してくれる。
芸能事務所としては新興であること、星の智慧派という宗教団体がバックについていること、
その団体の指導者であるナイ牧師という人間は、かつてSAN48という聖歌隊をアイドルのように売り出して、一定の商業的成功を収めたこと、
そのナイ牧師が、セラスをプロデュースしている『プロデューサーN』と同一人物であること、などである。
しかしナイ牧師の個人的な素性について、桑島はまったく知らない。
「彼女からシークレットライブのチケットが送られてきたけど、ちょっとスケジュールが合わなくて行けないんだ。せっかくだから一枚あげるよ」
そう言って、桑島はシークレットライブのチケットを一枚くれる。
10.芸能事務所WISDOM
WISDOMの事務所は、東京都渋谷区表参道の裏通りにある。同じ住所には、ビルの二階に星の智慧派東京教会の事務所があるほか、地下は教会のホールとなっている。
一階は自然派食品のテナントである(当然教会の息はかかっている)。そしてWISDOMはビルの三階に居を構えている。
星の智慧派はWISDOMの背後にある重要な存在であり、クトゥルフ・カルトナウに記載されているように、ここでは様々な儀式めいた礼拝がおこなわれている。
星の智慧派教会
本シナリオをクリアするにあたっては、教会はあまり深入りする必要のない場所ではあるが、
それはそれとしてカルトの本拠地に潜入するというのは、プレイヤーたちにとって魅力的な選択肢であることだろう。
キーパーはタイミングを見計らってナイ牧師を登場させ、謎めいた態度で探索者たちを煙に巻いたり、プレッシャーを与えたりするとよい。
これによって星の智慧派というカルトの存在感が増し、また終盤に登場するナイ牧師の顔見せも済ませられる。
事務所には東京教会の責任者である磯毛や、暗殺を担う岡本などがいるが、ここに入るのは難しい。
しかし見学を申し出れば、ナイ牧師が親切に地下の礼拝堂へと案内してくれる。
そこは四方の壁と天井に黒い布が張られた広いホールとなっていて、中央には説教台が据えられている。
礼拝の際には、ここでアザトースやヨグ=ソトースなどが人類を想像し、知恵を与えたというような説教がおこなわれるのだ。
ナイ牧師は滅多なことで超自然的な力を見せることはないが、キーパーが効果的だと考えるならばそうしても構わない。
WISDOMのオフィス
WISDOMの事務所内部は、意外なほどさっぱりとしている。
WISDOMは営利目的の企業ではなく、あくまでも星の智慧派の教えや影響力を世に広めるための組織なので、さほど営業活動や売込みに力を入れる必要はないのだ。
所属しているアイドルはSAN48の各メンバーとセラスのみ。SAN48にはチーフマネージャー含む5名のマネージャーがついている。
その他にいるのは事務の人間が数名、というところである。事務所のトップは、もちろんプロデューサーNことナイ牧師である。
時間帯によるが、事務所内にはせいぜいスタッフが数人いる程度だが、探索者達の立ち入りを歓迎しない。
依頼人であり弁護士である高津の存在を示した上で、〈信用〉〈言いくるめ〉〈説得〉〈法律〉などに成功すれば、スタッフは立ち入りを許してくれる。
あるいは探索者達がセラスと良好な関係を築いていれば、彼女が何らかの便宜を図ってくれるかもしれない。
探索者達が小宮についての話題を出せば、事務所のスタッフは片隅にある小さな段ボール箱を指して、それが小宮の私物である、と言う。
探索者達はそれをその場で調べてもいいし、丸ごと持って帰ってもいい。
ただしあまり派手に事務所内を捜索することは、スタッフが許さないだろうし、小宮に関する聞き込みも、話せることは警察に話したし、スタッフやアイドルを動揺させるから、と歓迎されない。
イベント3. 伊東咲耶との接触
事務所内には大抵SAN48の伊東咲耶(いとうさくや)が滞在していて、彼女はワイヤーのような細い紐をもてあそびながら、探索者達にちょっかいをかけてくる。
彼女は暗殺者特有の鋭敏さで探索者達に探りを入れてきているのである。
とはいえよほど下手なことを言わなければ、少なくともこの場では、伊東が積極的に探索者達の妨害をすることはない。
しかし今後探索者達がWISDOMや星の智慧派を嗅ぎまわるようであれば、彼女が警告に現れたり脅威として立ちふさがったりするかもしれない。
〈知識〉に成功すれば、彼女がテレビにも露出したことのあるSAN48のリーダーだということが分かる。
〈人類学〉と〈心理学〉に成功すれば、彼女にはアイドルとしてではない何か別の冷酷な心性が存在する、ということが分かる。
また〈マーシャルアーツ〉と〈アイデア〉、あるいは〈武道〉と〈アイデア〉に成功すれば、彼女はなんらかの実戦的な戦闘術を身に着けている、ということが分かるだろう。
伊東咲耶(いとうさくや)
星の智慧派に所属する聖歌隊SAN48のリーダーであり、暗殺者。
孤児であった彼女は星の智慧派に所属する狂信者によって育てられ、ナイ牧師の熱心な信奉者として、また教会の敵になる人間を排除する暗殺者として成長した。
彼女が使用するナイフは殺傷力を特別に高める加工が施されている。
絞殺に使用するのは通常細いワイヤ―だが、自殺に見せかける場合は市販のナイロンロープや麻縄を使うこともある。
本シナリオでは、星の智慧派に接近した探索者たちを脅かすための役割を果たす。
本気で探索者たちの命を狙うというよりも、可憐な少女さえ暗殺者に仕立て上げてしまう、星の智慧派というカルトの恐ろしさを演出するために立ち回らせるのがいいだろう。
伊東咲耶(16歳)、星の智慧派の暗殺者
STR 13 CON 14 SIZ 9 INT 15
POW 14 DEX14 APP 15 EDU 13
正気度 0 耐久力 12 移動 8
ダメージ・ボーナス:+0
技能:跳躍 45%、回避 40%、忍び歩き 40%、隠れる40%
コンピューター 30%、変装 25%、鍵開け 20%
武器:飛び出しナイフ 82%、1d8
絞殺ひも 75% 特殊
小宮が使っていた事務机にはいくつか引き出しがある。ほとんどが空になっているが、一つだけ鍵がかかって開かないものがある。
これは探索者達が小宮の部屋で手に入れた『小さな鍵』で開く。
この引き出しの取っ手近くには梅ッティのシールが貼ってあり、鋭敏な探索者ならば小宮が残したそのヒントに気付くことだろう。
引き出しの中には市販品のUSBメモリが一つだけ入っている。
11. 小宮が遺したもの
探索者たちがWISDOMの事務所で手に入れるUSBメモリには、二つのファイルが入っている。
一つが『真・メサイア』と題された音楽ファイル。二つ目が『これを読むあなたへ』と題されたテキストファイルである。
真・メサイア
このファイルを開くとメサイアのより完璧に編曲されたバージョンを聞くことができる(声は当然セラスのものである)。
この歌を習得するためには〈POW*5〉と〈歌唱〉の組み合わせロールに成功したうえで、三時間の練習を要する。
習得の過程で真・メサイアを聞き続けた探索者は、1d3ポイントの正気度を喪失し、2%のクトゥルフ神話技能を獲得する。
この歌を習得した探索者は、「真・メサイアが流される場で同じ歌を歌えば、効果を中和することができる」ことを理解する。
この歌を行使し、十分な効果を発揮させるためには、同じ技能の成功と、1Rあたり1ポイントのMPを消費する必要がある。
これを読むあなたへ
このテキストファイルは星の智慧派に深入りし、身の危険を感じるようになった小宮が残したものである。
音楽ファイルに関する説明、それを手に入れた経緯、そしてその使い方について簡素に説明されている。内容は以下の通りである。
この文章はセラスか、その協力者に宛てて書いています。おそらく今、私は何らかの事情で不自由な状況にあるか、もしかすると殺されているかもしれません。
というのも、近ごろ私の動向が何者かに監視されているような気がするからです。ただの思い過ごしであればいいのですが。
この文章を読んでいるあなたがどれくらいの事情を知っているかは分かりませんが、私が調べたところによると、
WISDOMのナイ牧師が計画している武道館ライブは、星の智慧派による集団催眠の場として使われる恐れがあることが分かりました。
儀式の詳細と、私が抱いている危機感を言葉で説明することは、残念ながら難しいです。
これは個人的な経験から来る感傷かもしれませんが、自分たちの利益のために、年端のいかないアイドルを利用し、搾取するというのは、私にとって許しがたい行為です。
それが金銭のためであれ、思想のためであれ、同じことです。
カルトの儀式にセラスの素晴らしい楽曲であるメサイアが使われるのを、私は看過できません。
調査するうち、私はナイ牧師の管理する音楽データ(ファイル名:真・メサイア)を入手しました。
PR用に収録したものとは違って奇妙な効果を持っているようですが、私にはそれがなにかは分かりませんでした。
これを読む貴方がそれを明らかにし、ナイ牧師の陰謀に対して何らかの解決策を実行してくれるよう望みます。
それから、もし私の夫と会うことがあれば、この件には深入りするなと伝えておいてください。
12.クライマックスに向けて
ある程度まで調査を進めた探索者たちは、星の智慧派とWISDOM、そしてもちろんナイ牧師が、小宮の死に関与していることを確信するだろう。
しかし星の智慧派の犯罪行為について告発することが、(探索者達のもともとの目的ではあっても)このシナリオの主目的ではない。
キーパーはシナリオの流れを、探索者達が武道館ライブで実行されるナイ牧師の計画を阻止する、という方向に持っていけるよう工夫して欲しい。
動機となりうるものの一つとしては、ナイ牧師の哀れな操り人形であるセラスを、その呪縛から解き放ってやる、というものである。
プレイヤー達がセラスに愛着を持ち、是非とも助けてやりたい、という気持ちを持っているのが望ましいが、キーパーはそれを強要すべきではない。
その場合に用意する動機として、依頼人である高津に、小宮のしようとしたことを見届けさせる、というものがある。
どちらにせよ探索者達は手に入れたチケットを使って武道館ライブに潜り込み、真・メサイアを使って呪文をうち破る必要がある。
イベント4. 戸惑いと葛藤
このイベントはイベント1のあと、シナリオの中盤から後半にかけてであればいつ発生させても構わない。
シナリオの流れやセラスとの関係によっては、発生させなくてもよい。
このイベントにおいて、探索者達は偶然セラスと出会う。もしかするとそれはカフェや公園などの公共スペースかもしれないし、Lonely BeatsやWISDOMの近辺かもしれない。
探索者達がセラスと連絡先を交換していれば、彼女から連絡が来るかもしれない。
セラスは探索者達と会話する中で、自分がごく平凡な人間で、今の境遇を過分なものと考えていること、ライブに向けて非常に不安な気持ちを持っていること、
しかしそのような中でもカリスマを持ったナイ牧師に従えば、自信のない自分でも誰かを救えるような特別な存在に変われるのではないかと期待していること、などを語る。
探索者達はセラスに対して、ありのままの彼女を肯定したり、小宮の存在を引き合いに出してナイ牧師への幻想を捨てるよう促したりすることができる。
〈説得〉や〈信用〉のロールに成功すれば、後述する武道館ライブでセラスを止める際有利になる。
13. 武道館ライブ
ナイ牧師が立てた計画の本番である武道館ライブは、シナリオ開始からおよそ一週間後に開催される。
その間特にすべきことがなければ、一気に当日までシーンを飛ばしてしまって構わない。ライブは午後五時から開催される。
会場は大規模なもので、およそ6000人が観客として詰めかける。探索者達(と高津)がチケットを持っているならば、問題なく会場に入り込むことができる。
ナイフや警棒、細工したサイリウムなどの武器を隠し持って入ることは可能だが、木刀や和弓などの、隠し持つことが難しい武器は、警備員によって没収されてしまうだろう。
ライブはまずセラスの挨拶から始まる。そして第一曲目から、新曲のメサイアが披露される。
ステージ上に立つセラス。その背後にはオーケストラのような豪華なバックバンド。キーボードを担当するのはナイ牧師である。曲の前奏は、以下のような描写文で示される。
パイプオルガンを模した音色が鳴り響く。
一つ一つは電子によって造られた音だが、それらは精緻に組み合わさり、有機的で奇妙に生々しい諧調を構成した。
会場に満ち満ちた緊張と期待は、それ自体が魔術的な力場を帯びる。
今まさに秘蹟に似た何かが、この空間にもたらされようとしていた。
真・メサイアを習得した探索者は、このタイミングで歌を始めることができる。
しかしそれと同時に、ステージ上にも一つの異変が起きる。
セラスの背後にいるバックバンドの正体が露わになるのである。
それは人間ではなく、ニャルラトテップによって投映された外なる神の従者たちである。その様子を、キーパーは以下のように描写する。
セラスの背後で音楽を奏でていた人影が、照明の中で歪に膨満する。
シルエットからは触手が伸び、奇形の両生類か頭足類のそれへと変化していく。
やがて顕現した異形の存在は、外宇宙の真理に仕える従者であり、虚ろな狂気を響かせる奏者である。
神を讃え、そして冒涜する楽団の演奏は、セラスの歌と混ざり合い、その力を一層強めた。
この混沌の従者たちを目撃した探索者達は、1/1d10の正気度を喪失する。
これによって狂気に陥った探索者がどうなるか、またこの後の処理がどうなるかについては、次項で述べる。
14. 卓上の救済者
前項までの処理が済んだあと、真・メサイアを歌っている探索者(以下歌い手と表記)が狂気に陥った場合、通常とは異なる狂気が発現する。
メサイアへの対抗は可能だが、狂気状態にある間、歌い手は真・メサイアを使用する際に支払う1Rあたり1ポイントのMPに加え、1d2の正気度を喪失する。
狂気に陥らなかった場合、追加の正気度喪失はない。また歌い手でない探索者達の狂気は、通常通りに扱う。
もし探索者達が高津を連れてきていた場合は、彼に対しても狂気のロールをおこなう。
そのまま行動不能になったとしてもいいし、なんとか正気を保ち、その後の展開で探索者達の手助けをしてくれる、ということにしてもいい。
狂気の処理が終わったあと、戦闘処理に移る。探索者達が目的とすべきは、セラスの歌を妨害し、彼女を正気に戻すことである。
戦闘開始時、探索者達は会場の後方におり、魔術に影響され忘我の状態にある観客をかき分けて、ステージに到達しなければならない。
まず、探索者たちがセラスのもとに辿り着くまで、3Rの間、観客の間を駆け抜けなければならない。
中にはほとんど無意識に探索者達を妨害してくる者もいる。ラウンドのはじめ、1d3人の観客が探索者たちに攻撃し、それぞれ50%の確率で命中し、1d3ポイントのダメージを与える。
探索者達はこれを受け流したり、回避したりすることができる。
また受け流しの代わりに、催涙スプレーやスタンガン、フラッシュライトなど、相手を怯ませられるようなアイテムを使って攻撃を凌いでもいいだろう。
観客たちはセラスが歌うメサイアの影響下にあるので、歌い手の真・メサイアで中和することによって、攻撃の手を緩められる。
具体的には、ラウンドの初め、手番とは別に歌い手が〈歌唱〉に成功すれば、探索者達は攻撃を受けずに済む。
探索者達がピンチに陥りそうなとき、あるいはキーパーがドラマチックな演出をしたいとき、
キーパーは歌い手になんらかの代償(正気度やPOW)を支払わせることで、ロールなしに技能を成功させた、ということにしてもいい。
それは歌い手が魂の絶唱とも呼ぶべき神秘的な力を発揮した、ということかもしれない。
その間、ナイ牧師は絶えず探索者達を挑発するように語り掛ける。
それはまるで探索者達を操るプレイヤーたちに語り掛けているようでもあり(シナリオの意図としては、実際に語り掛けている)、
ニャルラトテップの底知れなさを演出するためのセリフとなっている。
「ここにいる誰もが、君たちの存在を望んではいない」
「なのになぜ挑もうとするのか。なぜ抗おうとするのか。私には不思議でならない」
「もしかすると君たちは、一段高いところから弱者を見下ろし」
「それを表面的に救済することで、優越感を得ているだけなのではないだろうか?」
「出来事が終わったあと、君たちは子羊のことを永く覚えておくだろうか?」
「それとも、速やかに忘れ去れてしまうのだろうか?」
「君たちに快楽をもたらすという役目を終えたあとに、彼女はなにか、君たちに意味をもたらすだろうか?」
「なんにせよ、もし主張したいことがあるならば」
「ここまで上がってくるがいい。混沌の膝元へ。不確定性の舞台へ」
「事象のキューブを変転させ、フォルトゥナの目を引き寄せ」
「愉快な歌劇を見せてくれたまえ……卓上の救済者諸君よ!」
探索者たちが3Rを耐え抜くと、また次なる敵が現れる。それは観客の最前列にいた引地である。
彼は完全に我を忘れているわけではないが、セラスの舞台を妨害しようとする探索者達に明白な敵意を向けて来る。
彼は極度に熱狂しているため、〈説得〉や〈言いくるめ〉は意味を成さない。
また歌い手の技能が成功しても行動できる。なんとかして無力化しなければ、舞台の上までも追ってくるだろう。
この戦闘中も、観客の攻撃は探索者達に向けられる。舞台の下には警備員たちもいるが、彼らもメサイアの影響下で忘我の状態にあるため、探索者達の障害にはならない。
引地を無力化して舞台に上がれば、探索者達を邪魔するものは何もない。
外なる神の従者たちは完全に物理的な存在としては顕現しておらず、ナイ牧師はあえて手を出さないでいる。
探索者たちがセラスを突き飛ばしたり、肩をゆすったり、マイクを引きはがしたりすれば、セラスははっとしたような表情で我に返る。
そして客席の様子を見て、自分のしたことがなにか名状しがたい儀式めいたものであったことに気付いて、激しく困惑する。
そのタイミングを見計らって、ナイ牧師がセラスと探索者達に声を掛ける。
「実に面白いものを見せてもらった。今回は君たちに勝ちを譲ろう」
「しかしこのライブにはもっと改良の余地があるな。……セラス。こちらに来なさい」
セラスが再びナイ牧師の手に落ちるか、その呪縛を断ち切ることができるかは、探索者達の手に委ねられる。
探索者たちはこのタイミングで、〈説得〉〈言いくるめ〉に挑戦できる。
ロールに際し、小宮が持っていたセラスに対する思いに言及した場合、イベント4において探索者達が〈説得〉〈信用〉に成功していた場合、
ロールに挑戦する探索者がセラスのファンであった場合、それぞれ+10%のボーナスが加算される。
ロールに成功すれば、セラスはナイ牧師に決別の言葉をかけ(その内容は探索者たちとの関係や説得の言葉によるだろう)、探索者達のもとへと歩み寄る。
それを見るとナイ牧師はわずかに眉根を寄せ、その場から掻き消えるようにいなくなる。
外なる神の従者たちも同様である。もし技能に失敗してしまった場合、セラスは探索者達に悲しげな視線を送りながら、ナイ牧師の方に手を伸ばし、その場から消えてしまうだろう。
15. ライブのあとに
歌が静まり、ナイ牧師が消えれば、観客たちは魔術の影響から脱するが、完全に冷静に戻るわけではない。
特に収拾する必要もないものなので、探索者達はセラス(と高津)を連れて、早々に会場を離れるのがいいだろう。
セラスはいまだ混乱しており、また舞台が台無しになってしまったことについて酷く消沈するが、
探索者達に慰められれば、彼女はその言葉や、先ほど探索者達がしたことについて深く感謝するだろう。
彼女がこれからどうするか、つまりアイドルとして活動を続けるのか、そうでない平凡な生活に戻るのかは、探索者達の態度とキーパーの判断に任されている。
高津からの依頼をどうするかも、探索者達の自由である。星の智慧派を調査してもいいし、一旦区切りがついたとして、判明した事実のみを報告し、終わりとしてもいい。
どのような結果に終わったにせよ、高津は探索者たちに丁寧な礼をし、既定の報酬を支払うだろう。
ナイ牧師の魔手からセラスを救済し、恐るべき計画を阻止した探索者達は、2d6ポイントの正気度を獲得する。
シナリオにおいて歌い手を勤めた探索者は、それに加えて1d3ポイントの正気度を獲得する。
また小宮のパソコン内に入っていたWISDOMの不正経理データをなんらかの形で流出させた(税務署に告発した、高津に譲渡したなど)場合は、
カルト組織に多少なりとも打撃を与えたということで、1d3ポイントの正気度を獲得する。
付録 歌詞
暗い海に浮かぶ小舟は あなたを乗せてゆらりゆらり
私は哀しみに溺れながら あなたのために祈るだけ
散らばりそうになる真心を 寄せて集めて貼り合わせ
差し出すことさえできたなら 夜に溶けても構わない
☆墜ちて堕ちて無力なメサイア 輪もなく羽もなく愛もなく
ただ私の欠片だけが あなたの救いとなりますように
不確かな宙(そら)をたゆたうあなたは 流れ行く星を眺めてる
深みに至る引力が あなたを導きますように
果てしない銀河の愛だけを すくって包んで胸に抱き
差し出すことさえできたなら 灼かれ消えても構わない
(☆繰り返し)
どうかひとりぼっちの 恵まれざるものために
ただ少しだけの慈悲を 天よ降らせたまえ
焦がれ傷ついてメサイア 還ることもできないまま
あなたの在り方それだけが 私にとっての真実
どうかひとひらの愛を……

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